第27話 光の街、フィレンツェへ
広い心と楽観主義、そして尽きない好奇心。
リクとミナ、今度は“空を飛ぶ夢”の真っ只中へ。
観測と整備、そしてちょっぴり焦げたコーヒーを携えて。
リクが目を開けると、
眩しいほどの光が、石畳の上を踊っていた。
鼻に刺さるのは、焼いたパンと絵の具の匂い。
鐘の音が遠くで鳴り、どこかの屋根でハトが騒いでいる。
「……おいミナ、ここ、地球だよな?」
『地球です。座標解析――ルネサンス期フィレンツェ。』
「るね……なんだって?」
『ルネサンス。文化再生の時代です。
芸術と科学が交錯しています。』
「つまり、理屈っぽい連中が多いと。」
『あなたに似ています。』
「今、皮肉言ったよな。」
『事実です。』
リクは石造りの壁に手を当てた。
ざらりとした手触り。
その向こうで、工房のようなざわめきがする。
「……なんだ、あの音。」
『工具の衝突音。複数の金属加工。』
「おお、同業者か!」
『違います。絵画工房の音です。』
「絵でそんな音出す!?」
戸口を覗くと、数人の職人が壁一面に
フレスコ画を描いていた。
赤、青、金――そして天井近くには、
巨大な歯車のような装置。
絵の具を混ぜる音と、歯車の回転音が交じり合っている。
『観測対象を特定。
作業指揮者、名:レオナルド・ダ・ヴィンチ。
年齢推定30代前半。』
リクの口から、コーヒーを吹きそうな声が出た。
「だ、ダ・ヴィンチ!? 本物!?」
『偽物がここにいる確率は0.00002%です。』
「いや、そういうツッコミはいい!」
レオナルドはリクに気づき、興味深そうに近寄った。
「おや、見ぬ顔だな。旅の職人か?」
「え、あー……ええと、まあ……整備士っす。」
『観測士です。』
「だから余計な補足すんな。」
レオナルドはにやりと笑った。
「整備士……良い響きだ。
わたしの描く“飛ぶ機械”を、直してくれるかな?」
リクは一瞬で目を輝かせた。
「飛ぶ機械!? マジで!?」
『落ちる機械になる確率87%。』
「縁起でもねぇこと言うな!」
レオナルドは、スケッチの束を差し出した。
そこには、羽ばたく翼の設計図、奇妙な螺旋の塔――
「……すげぇ。機械と夢が同居してる。」
『分析結果:不可能構造多数。
しかし、理論値を超える“想像の再現性”を確認。』
「……つまり、無理なのに可能性があるってことか。」
『人類の創造力は、矛盾の中で進化します。』
「詩的だな、どうした急に。」
『感染再発です。』
「文学熱か!」
ミナが続けた。
『観測データに“歪み”を検出。
この時代の記録に、未完の構造があります。』
「未完?」
『レオナルドの飛行装置。
彼は“空を飛ぶ”夢を見ながら、
ついに成功しませんでした。』
「……なるほど。そいつを完成させたら、
帰れるってわけか。」
『観測条件、一致。』
「また人助けかよ。」
『あなたに向いています。』
「聞き飽きた!」
リクは工具を握りしめ、空を見上げた。
雲の合間に、光の筋。
その光の中に、ほんの一瞬、ミナの青い反射が揺れた。
「……よし。なら、俺たちで飛んでみせようぜ。」
『了解。観測、開始します。』
街の鐘が鳴り、フィレンツェの空がきらめく。
焦げたコーヒーの香りが、どこかでふっと漂った。
――午後三時、観測を再開する。
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観測記録 No.27
観測者:リクとミナ
転移先:15世紀末・フィレンツェ
観測対象:レオナルド・ダ・ヴィンチ(飛行装置開発)
状態:観測開始・人類の夢と共鳴中
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次回、試験飛行開始。
焦げるのはコーヒーか、リクの靴底か。
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