異世界転生したらサイ強のサイだったので世界滅ぼします 〜サイ凶サイ悪の厄サイの物語〜
俺は斉藤才之介、31歳
サイクリングが趣味な、サラリーマンだ。
俺はある日横断歩道を歩いていたら、赤信号を無視して突っ込んできたサイに轢かれて死んだ。
とんだ災難だ。
俺は目を覚ます。そこには、何も無い空間が広がっていた。
「ここは……?」
「命を落とした生物が、最後に来る世界です」
俺は声の方を振り向くと、いかにもな女神がいた。
「こんにちは、哀れな人間よ、サイに轢かれて死ぬなんて、私が見てきた人間の中で、最も最悪な最期ですよ。全く、最近の人間は……」
女神は呆れたように俺を見てくる。
俺はその態度にイラッとする。
「俺の体はどうなったんだよ!?サイに轢かれる最期とか、最悪じゃねぇか!もう趣味のサイクリングできないとかふざけるな!!」
俺は女神に詰め寄る。
「ええぃ!サイサイサイサイうるさいんですよ!!この人間が!!
「お前だってサイサイサイサイ言ってんだろうが!!」
互いに胸ぐらを掴んで睨み合う人間と女神という中々な光景がそこには広がっていた。
「……そうだ、この際貴方が異世界でサイにに生まれ変われば万事解決じゃないですか!それが最良の答えです!!」
女神が俺の胸ぐらから手を離して、名案とばかりにポンと手を叩く。
「はぁぁぁ!?どんな裁量だよ!!」
そして女神は手を俺の方に向けると、足元体に魔法陣が出現する。
「ちょちょ!ちょ待てよ!」
俺は必死に魔法陣から逃れようとする。
「既に賽は投げられた!サイならー!」
俺が最後に見た女神の笑顔は、最高に腹が立つ顔だった。
目が覚める。
俺は自分の姿を、狭い首の可動域で確認する。
黒い皮膚に四足歩行の足、そして立派な角。どっからどう見てもサイだ。
俺は辺りを見回す。
際限なく広がる草原を見て、俺の今までいた世界とは明らかに違う事を痛感させられる。
「最悪だぁぁぁぁぁぁ!!!!」
え?は?どう言うこと!?
「急に叫んでうるサイですねー」
声のした方を向くと、マスコットサイズになった女神がいた。お前は何でいるんだよ。いや、ちょうどいいと言うか……いやないも良くないわ。
「お前のせいで叫んでるんだろうが!?本当にサイに転生させる馬鹿がどこにいるんだよ!?」
喚く俺に女神は可哀想なものを見るような目を向けてくる。
「馬鹿……?あなたは馬でも鹿でもなくサイですよ……?何言ってるんですか……?」
女神の信じられないものを見るような顔に俺の怒りは沸点に達する。
「転生させたのお前だろうが!?ぶっ飛ばすぞ!?」
今すぐぶっ飛ばしたい気分だが、多分この図体だと避けられるので断念する。
「まぁまぁ、野菜でも食べて落ち着いてください。ほらモロヘイヤ」
女神はドードーと宥めるようにした後、何も無い空間からモロヘイヤを取り出して地面に置いた。
「何で野菜で最初にモロヘイヤが出てくるんだよ……そこはこう……キャベツとかだろ」
「要らないんですか?わー!食品ロスだー!最低だー!」
女神が喚き散らす。
「うっサイわ!食べるけど」
やかましい女神に慣れてきた俺は地面に置いてあるモロヘイヤを食べる。
うーん、美味い。サイになったからなのか、元々モロヘイヤが好きだったのか分からんが。
「ご存知です?モロヘイヤは野菜の王様とも呼ばれていて非常に栄養価が高く、カルシウム含有量はキャベツの6倍を誇り、βカロテンに関してはモロヘイヤが……」
「うるサーイ」
横で謎のモロヘイヤ知識を垂れ流す女神の声に耳を塞ぎたくなるが、四足歩行ではできない。
「あーあー!いいんですかー!?私を無視して!スキルとか知りたくないんですかー!?」
「えっ!?スキル!?」
女神の聞き捨てならないセリフに、俺はバッと首を向ける。
「えぇ、スキルです!ひっじょょぉぉぉぉに!!面倒で!!不本意ですが!!サイの転生は中々不便に感じる方が多いので、その分最高で最適に生活できるように調整するという神の掟があります!」
おい、今の話の流れ、他にもサイに転生した奴がいるって事なのか?
こいつ、何か神の裁判とかで裁いといた方がいいんじゃね?もう前後のクズ発言とか吹っ飛ぶくらいだぞ?
「何ですかその顔?嫌で嫌で仕方ないのにスキルを与えたくれた私に何かする事はないんですか?土下座して謝罪しながら咽び泣くとか……あっ!ごめんなさい!サイだから土下座出来ないですよね!私って最低☆」
「やっと気づいたのか、遅かったな」
テヘッとするマスコットサイズの神はその言葉に不満そうだったが、「私はとても寛大だから許してあげます」と言う感じの腹立つドヤ顔で言う。
「まぁいいです!はいどうぞ!スキル表です!」
女神はスキルの書かれた紙を地面に置く。
「見えねぇよ」
「さいですねー」
ニコニコ笑う女神に俺は青筋を立てる。
コイツ……人馬鹿にしねぇと気がすまねぇのか?……あ、俺今サイか……じゃなくて。
「これじゃ読めねぇ。読み上げてくれよ」
俺は目の前でニコニコ浮遊している女神に言う。
「神に物を言うには、態度ってものがあるんじゃないですか?土下座して頼み込むとか……あっ!ごめんなさい!サイだから土下座出来ないですよね!私って───」
「その流れさっきやっただろ!」
「ネタは再利用していかないと……!」
もうちょっと頑張ってくれ。
「はぁぁぁぁぁ……仕方ないないですね。読み上げてやりますよ。非常に!とても!不本意なのですが!」
「いいから読んでくれよ」
「……はぁ、まずは最凶・最強・サイコー・モード。無敵になります。足めっちゃ速くなります。後ついでに攻撃力が最強になります」
「女神様すみませんでしたぁ!!俺……いや、私は今までなんてことを!一生崇拝します!!毎日祈り捧げます!!|31回!」
何だよそれサイコーじゃねぇか!いやー、やっぱ女神様は素晴らしい。ゴミ呼ばわりした奴許せねぇ!!
俺はこの女神様を絶対に裏切らないと誓おう!ああ!土下座出来ないこの体が憎らしいぜ!
女神は俺の態度に満足したのか、ふふんと鼻を鳴らす。
「よろしい!サイという低知能な生物にふさわしい態度にようやくなれましたね!あなたがその簡単な思考に辿り着くまでに3.1分以上かかりました!!採点は……0.031点!………さてそれでは次のスキルです!次は粉砕!何でも粉砕できます!」
「じゃあお前粉砕するわ」
「ギャァァァァァ!!!」
女神が粉砕された。
今考えてみればサイの体なのコイツのせいだったわ。畜生め。
……まぁ、それはそれとして。
「やったか!?」
「ざんねーん!それフラグでーす!!」
チッ、やっぱり生きてたか。
先ほどのことなど無かったように体が再生した女神がニッコリ笑みを浮かべている。
「よくもやってくれましたね!!ぶっ飛ばしま───」
「粉砕」
「ギャァァァァァ!!」
――――――
「という事で都合よく近くにあった、最果ての町に来ました」
「全然最果てでもないんだが……」
あと都合よくって言うな。
町の市場を適当に散策していると、女神が何処からともなく財布を取り出した。
「お買い物でもします?ほら、これ、斉藤さんの財布」
「斉藤さんの財布……俺のじゃねぇか!」
手を伸ばす。くそっ、奪い取ろうにもこの四足歩行の体じゃできねぇ!
「じゃあこのクレジットカードで決済しますね!」
「はぁ?よりにもよって何でクレジットカードなんだよ。キャッシュレス決済がある訳……ある!?」
見覚えのあるカードリーダーに愕然としていると、女神が呆れたようにため息を吐く。
「まったく……このクレジットカードは全世界対応なんですから当たり前でしょう?」
「全世界対応ってそう言う意味なのかよ!?」
「さぁて、支払いは全部あなた持ちなのでいっぱいお買い物しますよ!」
「おい」
ダメだこいつ。本当にゴミだ。人の不幸を見る事でしか心を満たせないんだな。サイだけど。
「……お前って出来なさそうだよな」
「何がです?」
「リサイクル」
「わー!最低だー!!」
「うっサイわ!お前が一番言えたことじゃねぇだろ!見た目だけで中身ヘドロとかそう言うレベルじゃないぞ!?」
「えっ!?素晴らしい美貌の女神と言いました!?ならお賽銭してください!全財産!」
いい所だけ切り抜いてんじゃねぇ。ガワだけで中身がダメだっつってるんだよ。
「今から負債つくって押し付けてやろうか?」
借金でも十分全財産だろ。
「そんな事しなくてもここにクレカあるので負債なら増やせますよー?」
「コイツ……!」
「まぁまぁ、何でそんなに怒っているのか分かりませんが、私がここに来たのは、スキルを確認する為です!」
「……そうだったな」
10割お前のせいでキレてるんだよ。
もう女神との普通会話は不可能と悟った俺は適当に言葉を聞き流し、恩恵だけ受ける事に決めた。
「次のスキルは……サイレント・キル!」
「サイレント・キルって……何だ?隠密でもしろってのか?」
バタッ。バタッバタッ。バタバタバタバタ…………
「へ?」
町中の人々が声を上げる事もなく次々に倒れていく。
「あーあ。スキル名叫んだら発動しちゃうんですよ。さっきでわかったでしょう?」
「えぇ……」
まさかの静かにキルするんじゃなくて、静かにするスキルなのかよ。
どうしよ、町の人みんな動かなくなっちゃった。
「これ知っててやらせたのかよ?」
と言うかこれ普通にまずいのでは?……いや、これは女神のせい、これは女神のせい、俺は女神のせいでサイ……
「えぇ。特に理由はないです。この町の町長が気に食わなかったとか、そんな事はないです。それに、人間万事塞翁が馬というでしょう?」
「サイだけどな」
「女神によって差し向けられたサイに殺されるのもまだ人生……」
「マッチポンプ塞翁が馬やめろ」
本当に女神のせいだったわ。
「ま、いっか」
「あなたも大概酷いですね!まるで人ではないよう……あっ!ごめんなさい、サイでしたね!」
「粉砕」
「ギャァァァァァ!!」
「さて、どうでもいいことはさておき!突然ですが!貴方には最優先するべき使命!そう魔王の討伐があります!」
「何だよいきなり」
それに町の事をしれっとどうでもよくするな。
「魔王って、あの魔王?」
「はい、あの魔王です。貴方は勇者して戦わなくてはなりません!」
「そのルビは無理ないか?……とりあえず、魔王城までどれくらいかかるんだ……?」
「徒歩31秒ですね!」
「え?近くね」
俺は辺りを見回してみる。魔王城らしき物は何もない。まさか、地下!?
「徒歩31秒(秒速310m)ですね!」
「だったら9km先か……いやにしても近いな」
「もう少し秒速310mに興味もってくれませんか?」
「因みにルートは?」
「無視は良くないですよ!……あそこに向かって9km直進です!」
俺は女神の指さす方向を見る。
「いや、町あるじゃん」
「直進です」
「いや、町あるじゃん」
「直進です」
「いや、町あ(以下略)
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「直進でーーーす!!!!!!」
「ギャァァァァァ!!」
「イヤァァァァァ!!!」
ほぼ音速で駆け抜けていく質量兵器に、建物は薙ぎ倒され、ガラスや店の前に並ぶ看板が吹き飛び、町の人々は悲鳴を上げている。
女神の説得力(ゴリ押し)により、俺はスキル「最速直進No.31」と言うスキルで直進していた。
No.31の理由を聞いた所、「31って入ってますから!」
という安定のしょうもない理由だったが、まぁいい。
「サイコーー!!!」
街を文字通り突っ切り、直進の旅は予定通り31秒で終えた。
「これが魔王城か……」
禍々しい雰囲気を放つ城を俺は見上げる。首の可動域が狭すぎてよく見えん。
「さて、この魔王城は例のドームが31個分くらいですかね」
「わかんねぇよ」
「ではサイである貴方から見てこの建物はサイ何頭分でしょうか!どうぞ!」
「えー、サイ目線で言わせてもらうと……ってわかんねぇよ」
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「魔王様!魔王城に敵が来ております!」
「ほう!遂に勇者が来たか!」
魔王は膝を打って笑みを浮かべる。
「それが……」
「何だ?もったいぶるな、はっきり言え!」
言葉を濁らせる部下に魔王は続きを促す。
「来たのははサイです」
「……は?サイ?あの動物の?」
「あの動物のサイでございます」
「見間違いとかでもなく?」
「サイでございます」
「マジ?」
「ガチ」
半信半疑な魔王は、部下の言葉を猜疑的に思いつつも見れば分かるだろうと外へと羽ばたいた。
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「ハーハッハッハ!よくぞ来たな勇者……?……まぁ取り敢えずよくわからない下等生物よ!」
「ども」
俺は空から飛来した魔王ぽいのにぺこりと俺は頭を下げる。最低限の礼儀はわきまえて置かないとな。
「ほう、余裕綽々と言った様子だな。中々見所がある。この魔王様に挑むと言う勇敢な者……動物よ!」
……うーん。
「いいだろう!その勇気を讃えてこの私自らが『ちょっと待て』」
「な、何だ貴様!?俺様のセリフの「」の中に割り込んで話してく───」
台詞に割り込まれた魔王が怒りの声を上げる。
「サイって言葉使え」
「………………は?」
「サイって言葉を!!!!使えっっっっ!!!!」
───沈黙。
「……………………………………は??? どういう事だ? 再度説明を求める」
「読んで字の如くだ。上スクロールして再確認しろ」
それで分かるだろ。
「???? ………………まぁいいだろう。器の広い俺様に感謝するんだな。えー……よく来たな。貴様の名前はどこにも記載されていなかったが、よくぞ来た。私はサイコーだ!」
その台詞に呆れた俺は溜息を吐いた。
「はぁぁぁ……ヘッタクソだな。お前本当に魔王かよ。変に意識し過ぎなんだよ。もっと、最強最悪の災厄を起こしてやるぜぇぇぇ!!とかあるだろ。サイに負けてどうするんだよ」
「貴様ァァ!!下手に出れば調子に乗りおって!ぶっ飛ばす!!!!」
「粉砕」
「ギャァァァァァ!!」
怒り狂った魔王と城を粉砕した。
「……もうこれ粉砕だけでいいんじゃないかな」
「せやな」
「急に軽いな……そこはさいですねー、とかあるだろ」
さっきからずっと俺と魔王のやりとりを見守っていた…….というか巻き込まれない様に安全な所から眺めていた女神が溜息を吐く。
「はぁぁぁ……私がそのノリにいつまでも付き合うと思ってるんですか?」
「ノリ言うな」
本当に面倒な女神だ。魔王よりも邪悪だろコイツ。
「今、魔王よりも邪悪だろコイツ。とモノローグで呟きましたよね!」
「おいそれ卑怯だぞ!」
モノローグを読み上げてんじゃねぇ!
「だって神ですからね!」
じゃあ今までなんで見逃してたんだよ。
「後付け設定です」
……さいですか。
「取り敢えずちゃんと「」使ってください」
(分かったよ)
「それじゃないです」
「分かったよ」
……もうそろそろコイツとの会話も疲れてきたと言うか慣れてきた。ぶっ飛ばしたいのは変わらないが。まぁ、それはそれとして……。
「そろそろタイトル回収の為に世界滅ぼすか……」
「世界を,再創造ですね!」
そこから何やかんやのうんたらかんたらあって、世界が滅亡の危機に瀕した。
「サイバーダイジェストォォォォォォォ!!」
「サイバー関係ないですね!?」
世界中の建物を粉砕していった俺たちは最後の西国に位置するサイクロプスの生息する犀島に来ていた。
一人の老人が背後にある街を、人々を背に、忌々しげに声を上げる。
「この世界に厄災のサイ……厄サイめ……!本当に存在していたか……」
そこ略していいのか……?
「ふざけるなー!」
「俺たちの故郷を返せー!」
「神である私をもっと敬えー!」
おい、女神。何でお前そっち側にいるんだよ。
「いいじゃないですか別にー!」
ああ、コイツモノローグ聞けるんだったわ。
……でもまぁ、粉砕しまくったわけだし、流石にまずいよな。よし、これで最後なんだ。最大限の誠意を込めて謝らなくてはな。
\ごめんなサイ/




