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004-2 第六祓魔隊其ノ一

「これで十八匹目。そっちはどうです?」


 刀を振り、放逐者の黒い血を払う體斗(ていと)は、踏みつけた死骸から飛び降りつつ、隊長から命じられペアを組んだ隊員、熊ヶ崎倫理(くまがさきりんり)へと視線を向けた。


「な、なんとか、祓えた、な……」


 今年で二十三を迎える隊長と同年代の男は、大きく広い肩を上下させて息を吐く。

 體斗はこっそり、ため息を吐いた。

 正直、がっかりだった。祓魔隊に入った時期は違えど、殆ど同期と言ってもいいくらいの先輩後輩の仲でありながら、どうしてこうも差が出るのかと。

 體斗は、数日先に入隊した倫理先輩の大きくて頼りない背中を、半眼で仰ぎ見た。


「倫理先輩、少し休憩します?」

「いや、俺はまだ動ける。次、行くぞ」


 明らかに無理をしている。それでも、立場的にはこの男の言う事は吞み込んでおくべきだろう。

 そう考えた體斗は倫理の前に立ち、二階フロアを先に探索する。


 このショッピングモールは、片側二車線の車道を挟んで映画館が隣接されている。二階には、その映画館とを繋ぐ連絡橋があり、そこからバケモノが外に出ていないかの確認もしなければならなかった。

 倫理と體斗は先ず最初に、同隊の祓魔師二人と連携して連絡橋を確認し、外に出ようとしてたバケモノを祓った。そして隊員たちを映画館に向かわせると、施設の中に戻り、二階の貸店舗から顔を覗かせる、コモノのバケモノを片っ端から祓って周っていた。


(暖簾を持ち上げながらこっち見るとか、どっかのおっさんかよ)


 二階の外縁を囲むように立ち並んだ飲食店を通った時の、體斗の感想である。



 右手に服屋、左手には吹き抜けの落下防止用の柵が伸びた通路を進む。

 これだけ広い通路には、しかし誰もいない。

 いたであろう形跡は見られるが、違いがタイルカーペットに染みた血痕の面積だけでは、今生きているのか死んでいるのか、その判断すらできなかった。


「先輩、さっきのでどれくらい祓ったか覚えてます?」

「七体か、八体くらいか?」


 暇潰しがてらに投げた質問だったが、思わぬ返答に體斗は立ち止まった。


(いや、あんたは三匹しか祓ってねぇよ)


 思わず振り返りそうになったのを、ぐっと堪えた自分を褒めてやりたい。と心の中でツッコミつつ、再度歩き出した體斗を前に、倫理は首を傾げた。


(胡桃の奴、大丈夫かな? ……大丈夫か。あいつは一階が捜索範囲。一階には隊長がいる)


 別々のペアを組んだ同期の無事を考え、直ぐに無事だと結論を出した體斗は、バケモノの接近を感じ取り抜き放っていた刀を強く握った。


「近づいてきてます。多分、下で隊長たちが暴れ出したっぽいんで、それに当てられたんでしょうね」

「ここからよく下の状況が分かるな」


(よく今日まで生きて来れたな。……いや、だから生きてるって言った方が正確か)


 祓魔師にとって、感覚は重要なものだ。相手の力量を測るのも、背中を預けるに足る仲間かを推し量るのにも使える。


「……先輩って、長生きしそうですよね」

「ん? なんだ突然」


 祓魔隊に所属してからもう一年。

 集団での祓滅を知り、時々思うようになった。

 血生臭い戦場では、中途半端に力を持つ者よりも、背後の大男のように、無力、無能を絵に描いたような者の方が生き残るのではないかと。


(さっさと退職してぇなぁ)


 進路が祓魔隊か祓い屋の二択しかなかった自分の人生を呪いつつ、體斗は迫るバケモノを見もせず、片手で振り上げた一刀で切り伏せた。


子御木(ねみき)抜刀術、晒雨(さらしあめ)


 右手に握る刀を振り上げた體斗に、細長い竹筒のような体のイタチ型のバケモノが飛び跳ね迫る。

 刃を返した體斗は、横薙ぎにソレを振り落とし、四方から迫る同種のバケモノの群れを五連突きで頭部を貫き、最後に切り払いで両断した。


 體斗を中心に、半径二メートルの黒花が開花した。

 真っ黒な血を流すバケモノを足場に、體斗は感覚を研ぎ澄ます。


「油断するな體斗! 次が来るぞ!」


(んな事、一々言わなくても分かってますよ先輩)


「ハハッ、人気者は大変ですね!」


 齢九つで親をバケモノに食い殺され、師匠と呼べる祓魔師に拾われた體斗は、それ以降学校にも行かず、祓魔師と祓人の中で最も使用されていると言われる抜刀術を学んだ。

 そうして今日まで生きて来た體斗は、次から次へと湧いて出てくるバケモノを刀の錆にしながら、戦闘でしか味わえない生の実感を、その身の奥深くに感じていた。

 一階で好き放題暴れる一組の殺気に当てられたのだと気づいた頃には、二階の角に建てられていたゲームセンターが、血の海となっていた。

 

 ゲームセンター内、クレーンゲームコーナーの中心で、體斗は肩で息を吐く。

 少女趣味全開の、ポップなマスコットが景品になったクレーンゲームの筐体が真っ黒な血で汚れ、ホラーゲームの演出道具へと成り果てていた。


「お前、今どんだけ祓ったか、分かるか?」


 返り血で顔と隊服が黒く染まった倫理先輩が、クレーンゲームの筐体の陰から疲労を蓄えた顔を覗かせた。

 そんな先輩に、額を流れて行く一筋の汗を手の甲で拭い取りながら、體斗は満面の笑顔で答えた。


「二十四です。さっきのと合わせて四十と二匹ですかね」


 体内で炎のように燃え上がっていた感情が消火された體斗は、年相応の青年へと戻っていた。

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