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002 依頼報告

「油断だね。戦鬼(いくさおに)ともあろう者が、この程度のバケモノ相手に三分も時間をかけ、あまつさえ、その存在に気付かないなんて」


 屋上で創瑚が監視していたニワトリの形をしたバケモノを祓った後、ソレらの残骸や、被害者の亡骸を回収する組織——烽師連盟(ほうしれんめい)が来たまではよかった。

 しかし、問題はその一団の中に、連盟の一柱である烏帽子田朱歌(えぼしだしゅか)がいた事だった。


 烏帽子田朱歌。最年少で連盟トップの末席に身を置く実力者。

 年齢二十六歳、身長百六十八センチ。顔がよく、連盟内外でファンクラブができている。


 朱歌は仕事が早く、部下からの信頼も厚い。おまけに顔がいいため、連盟職員だけでなく、祓い屋の中にも、彼女に密かな想いを向けている者たちがいる。


 但し、性格に難がある。


『彼女に弱点を見せてはならない』


 祓い屋の一部、現実を直視し、己の力量を正しく認識できている本物たちの共通認識だ。

 本物の感覚は、何物にも代えられない才能だと言える。これを理解できない、若しくは祓い屋業に夢を抱いている者は、明日明後日には、墓の下にいることが多いのだから。


「もしかして、恋煩いかい?」


 カラスを思わせる真っ黒な着物を身に纏い、紅だけの化粧をした朱歌は確かに綺麗だ。

 動きずらいであろう服装ながらに、清流のように滑らかに動くその手足。

 ただその場に立っているだけのはずなのに、舞台役者のような完成された作品の空気を感じる。

 しかし、関わるたび彼女の性格の悪さを知る事になった玲司は、恋だの愛だのと浮ついた感情を向ける相手ではないと、善き仕事仲間の烙印を押すに止まっている。いや、その道が塞がっていると言った方が適切かもしれない。

 これ以上彼女に続く道は伸びておらず、互いに決して近づけない壁が、目の前には広がっている。

 そんな光景が、玲司の脳裏には浮かび上がっていた。


「そんなわけないでしょ。それより、どれくらいの被害が出ました?」


 朱歌の軽口を雑にいなしながら、玲司は今回の依頼を思い返す。

 発端となったのは半月前。事務所に一人の会社員風の男が来た時の事だ。




「私の娘が、バケモノに攫われたんです……。どうか、どうかお助け下さい」

 

 そんな依頼は、今時珍しくない。そして、そんな依頼をしてきた者の元に、被害者が生きて帰れたためしがないのも。

 もし五体満足で被害者を家族の元に戻せたのならば、奇跡と呼んで差し支えないだろう。


「おそらく、もう生きてはいないと思います」


 言い難い事だが、事前に言っておかなければならない。後になって恨まれかねないからだ。

 玲司は経験した事の無い話なのだが、祓い屋のコミュニティには、時々そんな報告が挙げられている。


何処其処(どこそこ)の祓い屋が、依頼人に刺し殺された』

彼方(あちら)の祓魔師が、一般市民に殴り殺された』


 祓い屋の談笑のネタにはなるが、自分が経験するとなれば話は別だ。そのため玲司は、自衛のためにも依頼を受ける時には一言添えておくことにしている。

 これが今回の依頼でどれだけ通じるかは、相手の人間力にかかっているのだから、祓い屋の敵は案外多い。




「被害者の中に、この子を確認できたら連絡して下さい」

 

 玲司は、依頼人から預かっていた一枚の写真を朱歌へと手渡した。

 写真の中には、前髪に鳩を形取った髪飾りを付け、満面の笑みを浮かべピースサインをこちらに向ける一人の少女と、その少女を抱き上げ、微笑を浮かべる一人の女性が映っていた。

 おそらく、女性はこの少女の母親なのだろう。そして、写真を撮っているのは父親、つまりは依頼人の男だろうか。


「随分淡白だね。ルーキー時代はすぐ噛み付いてきたのに」


 あの頃の方が面白みがあった。と苦言をこぼす朱歌を無視して、玲司はさっさとビルの中へと戻った。


「創瑚、怪我はなかったか?」

「玲司……うん、僕は大丈夫」


 創瑚は四階にいた。

 玲司が祓ったバケモノの生首を前に、その被害者たちを見渡していた。


「この人たちの身元、分かるかな」

「烽師連中はその辺の扱いが上手い。きっと見つかるさ」


 これは、慰めでも嘘でもない。烽師の中には、被害者の生前を観測することができる者や、声を聞くことができる者。または自分の肉体を貸す事で、彼らの無念を晴らす事ができる専門家が集まっている。


(祓い屋や祓魔師の戦力として確約できない人材が集まってるともいえるけど)


 烽師連盟の存在意義に異を唱える者は、意外と多い。しかし、それも当然だろう。万年人手不足の祓い屋、祓魔隊にとっては、戦力にならずとも、バケモノの死骸を運搬したり、研究してくれる人材は内に抱えておきたいものだ。

 情報は、有ればあるだけ、自分の身を守る武器になる。


「さっさと帰るぞ。依頼人には、朱歌さんから報告が来てから連絡する」

「うん」



 かつて、夜の闇の中でしか生きることができなかったソレらは、長い期間、人間と生存圏を隔て共存してきた。

 しかし、時代が流れ、人類の技術が発達した事で、夜は広げていた闇の範囲を狭めざるを得なくなった。そうなれば必然的に、闇の中から溢れるモノが現れる。

 居場所を失ったソレらが見つけた新たな棲家、その一つが、誰しもが抱える心の闇だった。

 人々の心を蝕み、肉体を奪うソレらを祓うのが、祓い屋と呼ばれる職業を生業にする専門家、祓人(はらいにん)たちの仕事だ。


「創瑚、腹減った」

「はいはい。ちょっと待っててよ」


 駅から徒歩十五分程の場所にある寂れた商店街、<銀河原(ぎんがっぱら)通り商店街>の一画に建てられた雑居ビルの二階に、玲司が経営する祓い屋事務所がある。

酉牧(とりまき)祓イ処(はらいじょ)

 元々は別の祓人が経営していたのだが、八年前に起きた大厄災によって、経営者だった祓人は死亡、以降は玲司が後継として使用している。


「創瑚、今日の朝刊読んだか?」

「ん〜、玲司が興味を持ちそうな話は載ってなかったと思うけど?」


 複合商業施設での一幕から一週間が経過した。その間、朱歌からの連絡はなく、依頼人からの催促もないので、ほのぼのとした日常を、バケモノの祓滅を交えつつ謳歌していた玲司は、創瑚の作る朝餉を待つ間、暇つぶしに新聞を広げる。

 事務室兼客室の端に置かれた事務机に朝刊を広げた玲司は、腕を組んで唸る。

 相変わらず、この国の不景気を大々的に、そして嬉々として取り上げる記事はかりで、何の面白みもなかった。


「ああ、でも——」


 創瑚が何かを思い出したのと、玲司がその記事を見つけたのは、殆ど同じタイミングだった。


「また迅さんが活躍したみたいだよ」

「活躍ったって、被害者は出てるだろうが」


 朝刊の該当記事を爪で弾いた玲司は、鼻を鳴らす。

 新聞に書かれた記事によれば、知り合いの祓魔師が三日前、大型ショッピングモールで発生したバケモノを祓った事が伺えた。がしかし、その記事の内容が何処まで本当のことなのかは分からないと、玲司は新聞を折りたたんでから床に放り捨て、料理を運んできた創瑚に言った。


「だいたい本当のことだと思うけど? 『祓魔隊(ふつまたい)第六部隊大隊長貝塚迅(かいづかじん)、またしても大活躍!』確かにこのタイトルはどうかと思うけど、内容はしっかり書かれてるじゃん」


 玲司の折りたたんだ新聞を拾い上げた創瑚は、当該記事の一部を音読する。


「大型ショッピングモール内にて突如発生したバケモノの群れを、祓魔隊第六大隊が瞬く間に討滅。これを指揮したのが、二十三歳という若さで大隊長を務める期待の祓魔師、貝塚迅氏である」

「但し、死傷者は三十名以上、その内二十七名は搬送先の病院で死亡が確認された。また、ショッピングモールは祓滅時に破損されたため、一週間は休業せざるを得ない状況である。……これの何処が活躍だよ」


 新聞の記事から視線を上げた創瑚は、半眼で玲司を見る。


「そんな非難的な文、何処にも見られないけど?」

「書いてなければ事実じゃないってか?」

「そうは言わないけど……」


 創瑚の目が、新聞に戻った。


「誰だって目を背けたいものはある。だけどな、背けたってソレがいなくなってくれるわけじゃないんだ」


 一週間も経っているのに、あの時の熱が引いていない。

 玲司は、子供じみた八つ当たりをしたと、創瑚の作った炒飯(チャーハン)を口いっぱいに頬張り、創瑚との会話を切った。

 

(なんだっけ、あれ。『怪物と戦う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ』だったか。あれ? 誰の言葉だったっけ?)


 バケモノとの戦闘と、その時の醜態で浮ついた自分に言い聞かせるように、玲司は祓人の弟子時代に、師匠から読み聞かせてもらった本の内容を思い返しながら、炒飯を一匙口に入れる。

 卵と塩のみで炒められた米を噛む口の中には、師匠の朗読という古く懐かしい記憶が入り込んできていた。

 炒飯には、肉が入っていなかった。


 創瑚が作るものには全て、創瑚自身のその時の気分が付加される。

 料理で例えるならば、機嫌が良い時は、肉の入った豪華な定食料理。

 生姜焼きや、ハンバーグなど。

 通常時は手の込んだ一品料理。

 オムライスや、ラーメンなど。

 機嫌が悪い時には、肉の入っていない一品料理。まさに、今回のがこれにあたる。


 ただ、更に悪い時もある。

 創瑚の機嫌が最低ラインよりもさらに下回った場合、インスタント料理がそのまま出される。

 カップラーメンだったら最悪中でもマシな部類に入る。

 最悪中の最悪時は、缶詰一つや、パック飯だけ。

 

 今の時代、こういったインスタント食品の方が貴重だったりするのだが、創瑚は既に完成されているものに対しては何の魅力も見い出せないらしく、いつも路傍の石でも見るように缶詰を見ていた。

 今日はおそらく、ビル内で出た被害者の事を考え、やや下がり気味になっていると見て取れた。


 食後、玲司は創瑚が持ってきてくれた湯飲みを片手に、息を吐いた。

 中身は、殆ど常温の白湯だった。




 さらに一週間後、朱歌から連絡があった。


「いたよ。玲司君から渡された写真の女の子」



 電話してから一時間としないうちに、依頼人の男は事務所に駆け込んできた。朱歌からの連絡から三日後の事だ。

 来客用ソファに依頼人を座らせた玲司は、その対面に腰掛ける。

 間に挟んだテーブルの上に、借りていた写真と、掌に収まる大きさの小箱をそっと置く。


「それは、一体なんですか?」


 質問を投げる依頼人は、自分でも答えを薄々感じ取っていると言った面持ちで玲司を見上げた。


「娘さんは、残念ながら亡くなっていました。見つかったのは、これだけです」


 淡々と告げる玲司は、テーブルの上に置いた小箱の蓋を開け、中身がよく見えるよう依頼人の方へと押しやった。

 箱の中に入っていたのは、写真に写っている少女が身につけているものと同じ鳩の髪飾りと、赤糸で綺麗に束ねられた、一房の髪の毛だった。


「……こ、これ? ……これ、が……娘だって、そう、言うんです、か……」


 掠れて震える声で、依頼人は玲司を仰ぎ見る。

 それに対し、玲司はあくまで仕事をこなす一社会人のように、抑揚のない淡々とした声で返事をした。


「はい。それだけしか見つかりませんでした。ただ、専門機関からの報告によれば、その髪飾りには大量の血液が付着していて、他に形を留めているものはなかったそうです」


 これは正確ではない。髪飾りは、屋上で玲司が祓ったニワトリの形をしたバケモノの腹から出てきたものだと、朱歌が終始楽し気に報告してきた。

 そして、その報告には続きがあった。



「屋上のバケモノの腹から出たその髪飾りの持ち主なんだけどね、玲司君が室内で蹴り殺したバケモノの腹の中からも出てきたよ」


 聞き手に徹していた玲司は、静かに朱歌の話の続きを待つ。


「切断面が荒い事から、無理やり千切られたと見れる髪を下ろした少女の頭だよ。まあ頭といっても、頭蓋骨の頭頂部とその周りが少々と言った方が正確なんだけど」

「どう死んだかは、分かりましたか?」


 受話器を持つ手が震えるのも構わず、玲司は朱歌の返答を待つ。


「それを依頼人に伝える気かい? 君、下手すれば殺されるかもしれないよ?」

「依頼人がそれを望むのであれば、答える義務があるでしょう?」

「早死にする若手の祓人の考え方だね」


 電話越しで彼女の顔は見えないが、玲司は、今の朱歌がどんな顔をしているのか予想がついていた。

 きっと、眉間にしわを寄せ、君は少し真面目すぎるよと言いた気に、口をひん曲げているのだろう。


「情報を元に、私が推察したという前提で話すよ」

「はい」

「私の部下に、被害者の死の間際を観ることができる人材がいることは知っているだろうけど、今日は非番だったからね」

「了解しました」


 ここまで語りたがらないのも、祓い屋の経験を持つ烏帽子田朱歌らしい部分だ。

 祓人としても優秀だった彼女が、何故、烽師になったのかを詳しくは知らない。だが、祓い屋としての経験値を一定にまで貯めた今の玲司には、何となく分かる気がした。

 心が持たないのだ。

 どんな人間でも、バケモノと戦い続ければ、いずれは命を落とす。そこから目を逸らし続ける者もいるだろう。

 中には、バケモノに近づきすぎて、自らがバケモノへと転じた者もいる。

 彼らと比べれば、朱歌は英断を下せたのだと、玲司は思っていた。

 変に明るい口調も、他人を小馬鹿にした接し方も、彼女が自分の心を守る為に行っている。

 この世界に抗い、生きる為の、手段の一つなのだ。


「少女は、おそらく生きたまま、バケモノ同士の食料の奪い合いにあったんだろう。意識があったのか、無かったのかまでは、私の頭では考えられないが、一個人としては、安らかであったことを願うよ」


 普段の口調とは別の、彼女の素顔とでも呼ぶべきもう一つの顔。

 電話越しに会話する玲司は、軽く頭を下げた。


「そうですか。有難うございます」



 遺品を手に、嗚咽を漏らす依頼人を前に、玲司は朱歌からの報告を思い出していた。


(流石に、伝えなくていいか)


 極稀に、詳細を聞きたがる依頼人がいる。しかしその大半が、話を聞いた数日後には自ら命を絶ってしまう。

 依頼人と祓い屋という立場から、話せと言われれば話さざるを得ないわけだが、それで自殺するのならば、いっそ聞かないでほしいと思わなくもない。

 結果、相手から聞かれないよう立ち回るのが一番無難だと考えた。




「あの人、大丈夫かな……」


 依頼人が遺品を受け取り帰ったその後、給湯室兼キッチンに身を潜めていた創瑚は、湯呑みを一つお盆に乗せて現れた。


「さあな。これからどうするかを決めるのはあの人自身だ。俺たちがどうこうできる問題じゃない」

「それは、そうだけど……」


 創瑚の言い分には、勿論、玲司だって賛成だ。

 これからあの依頼人が前を向いて生きて行けるようにする術があるのならば、喜んで実行するだろう。

 しかし、そんなものは存在しない。

 これからあの依頼人は、一人の娘が死んだ事実を抱えて生きて行くのだ。

 できる事があるとするならば、彼が背負うそれが、いつか彼を押し潰さないよう願うことぐらいだろう。


「それに、その辺はお前の方が詳しいだろ」


 創瑚には、特殊な力がある。


「それはまあ、そうなんだけど……」

「見えたのか?」

「……あの人、もう時期、取り込まれると思う」


 創瑚は、これから先の未来に、その身の闇から出て来たバケモノに喰らわれる人を見分ける事ができる。

 この特異な能力があるから、創瑚は学校にも行かず、ここで祓人の弟子をしていると言ってもいい。

 勿論、他にも理由はあるが、この特殊な能力が理由の一つであることは確かだ。


「どんなバケモノだった?」

「形は、はっきりとは見えなかった。でも、黄銅色の目が、玲司を見てた」


 創瑚のこの力に難点があるとすれば、それはバケモノが何時襲って来るか分からない事だろう。

 時期が分かれば対策のしようがあるが、わからなければ、四六時中見張る以外の選択が取れない。もし見張れば、他で被害が出てしまう。どちらをとっても、被害は免れない。


「じゃあそのうち、俺を殺しに来るかもな」

「冗談になってないよ」


 創瑚のこの特殊能力は、生まれつきのものだと考えられる。だからこそ、十五年生きてきた今の創瑚は、他人との交流を嫌っている。


 この力を自覚する前なら、友達との話のネタにできた事だろう。

 予言めいたことを言って、友達を笑わせることができたと思う。しかし、もしそれが、全て的中してしまったとしたら。

 いつか誰かがこう言うだろう。『あいつに見られたらバケモノに殺される』

 そして、創瑚のそばから人が離れるたび、創瑚は自分を呪うだろう。『自分さえ見なければ』と。『自分さえいなければ』と。


「あの人、死んじゃうかな」

「死ぬだろ。でもそれは、お前のせいじゃない。前に教えたろ? まさか忘れたのか?」

「覚えてるよ。そこかしこで自然発生するコモノのバケモノ<放逐者>を除いて、バケモノには大きく分けて四つの分類がある。でしょ?」


『蔓延型』

 人々の共通認識から自然発生するバケモノ。

 生まれたばかりはとても弱く、自分の実体を維持することすらままならない。そのため、生まれてすぐに行うのは、近くの人間たちに、自分の存在を刷り込むこと。

 刷り込まれた存在は、その人間の口を通して噂として拡散される。

 そうして共通認識を強め、体の維持を可能にすると人々を襲うようになる。

 情報の拡散に時間のかかった昔はそこまでの脅威にはならなかったらしいが、ネットが普及した現代では、少々厄介な存在になっている。

 蔓延型の情報がネットに流れ出れば、共通認識は即座に固まり、バケモノは実体を得る。そこから人を襲えば、情報の拡散、認識の定着はより強固になる。

 蔓延型の尤も厄介な部分は、無限に成長、強化され続ける事と言える。


 これは、情報化社会故の弱点でもある。が、同時に、共通認識さえ途切れさせてしまえば、この型のバケモノは存在を維持し続けることができなくなるため、偽の情報を拡散するといった対抗手段を用いることができる。



『捕食型』

 個人の抱える闇の中から産まれるバケモノ。

 人間の抱える闇の中に潜み、宿主の恐怖を食らい自身の力を蓄え終えると、宿主の体を引き裂き、この世へと飛び出して来る。

 この型のバケモノが産まれ出た現場は、大量の血痕がまき散らされている為、出現の確定は容易だが、確定で被害者が出る為に祓魔隊に嫌われている。

 唯一の救いがあるとすれば、捕食型のバケモノは蔓延型と異なり、一切成長しない事だろう。

 逆を言えば、産まれ出た瞬間から存在が固定化されていて、自然消滅も情報戦もできないことだろう。



『原典型』

 このバケモノの詳細は、殆ど不明とされている。

 分かっている事は、その容姿は、かつて誰かに思い描かれた異形の姿をしているという事。

 捕食型のように誰かの体を突き破って出てくるわけでも、共通認識で存在を繋ぎとめている訳でもない事。

 そして、いつもどこからともなく現れ、人々を恐怖の渦に突き落とす事ぐらいだろうか。


 八年前、東京に突如出現したバケモノもこの原点型だった。

 『ガシャドクロ』と名付けられたそのバケモノは、かつて一枚の浮世絵から生まれ、幾人かの創造者によって、当時の人間たちの記憶に根強く残されたそうだ。


「最後は『特異型』これは——」


 助手である前に弟子である創瑚に、玲司は師匠としての教えを授ける。そんな日常を謳歌していた二人の耳にチャイムが届いた。

 事務所の出入り口に設置してある、依頼人用のチャイムだ。


「創瑚、茶を淹れてくれ」


 飲み終えた湯飲みを創瑚に突き返した玲司は、事務所の正面扉に視線を送った。

 今の時代、茶葉は中々手に入らない。

 依頼人が来た時くらいしか、お茶を飲むことはできない。

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