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025 先駆と後悔

 産まれて自我が芽生えて暫くの間は、本家の世話になっていた。

 もう記憶は曖昧で、日本古式の平家の邸宅に、多くの人間が一緒に住んでいたくらいしか覚えてはいないが、その場の居心地の悪さだけは、未だふとした瞬間に肌を撫でる。

 あの家には何の未練もないが、心体のどこか一部は、まだあの小部屋に閉じ込められているのかもしれない。


 何にしろ、家名に泥を塗られたと憤り、お前はあんな売女のようになるなと齢三つの子供に寝物語代わりに語り聞かせるのだから、本家の狭量さは邸宅の広大な敷地面積とはと反比例でもしていたのだろう。

 尤も、家の空気が悪い半分の原因は、売女と蔑まれた俺の母親にあり、残りのもう半分は俺が半覚者として産まれてしまったことだったのだから、俺に反口する権利はなかった。


 鏡文字を現した覚醒者同士の子供は、生まれながらに覚醒していることが多い。

 これは、遺伝子に覚醒者の記憶が強く刻まれているからだとか何とか、気難しそうな学者が出した本に書かれていた。

 かつて、本物のリュウを素手で祓えるだけの力を持っていたとされる十二柱の守人の一柱である『辰』の家系には、初代の記憶が強く刻まれていた為に生まれながら全員が覚醒者だった。

 しかし、血は薄まるものらしい。

 どこの家も例外はないと聞く。獣の名で自身を縛り、家系樹の下に獣の死骸を埋めたとて、そこから広がる種子にまで獣が追従するわけもないと。

 守人の中で最も力の強かった辰の家系も、長く生きたその樹木の枝葉の先端は腐り果て、もう枯木同然の風体をしていた。

 そんな家を守ろうと、枯れ葉同然に干からびた本家のご老体たちは、何かと手を尽くしていたらしい。が、それら全てをぶち壊した元凶が俺の母だと言うのだから、恨まれ疎まれるのは当然だとは思う。


 獣の名も持たない一般人の男を婿養子にして、その後失踪した母。そんな人の事を、半覚者として産まれた俺は何も知らない。知らないし、知りたいとも思っていない。

 正直、今更出てこられても気付くこともできないだろうから。

 しかし、かつてはそんな母を、心の底から求めた事もあった。

 子供一人、古い血に依存する枯木林に残された時は、この世の終わりかと思ったのだから。


 広い屋敷の中、幾重にも鍵をかけられた小部屋に押し込められた毎日。

 誰とも会話しない日がずっと続いた。

 どうして連れて行ってくれなかったのか。そんな事ばかりを、陽が昇る度考えていた。

 そんな孤独の赤子だった俺に師ができたのは、当の本人曰く、偶然の重ね掛けの結果だったのだとか。

 まあ、そんな事は絶対にありえないと、当時から一切信じてはいなかったのだが。


 守人が一柱、『酉』の獣姓を持つ酉牧克己(とりまきかつみ)が、辰御(たつみ)の邸宅を訪れたのは、散歩のついでの顔出しだったらしい。何でも、唐突にそうしようと思ったのだとか。

 顔見せもそこそこに帰ろうとした矢先、重厚な鎖で扉を縛られ、何重にも施錠された小部屋を見て、ふと疑問と好奇心に駆られたのもその時の気まぐれだったのだと。

 どこの誰が聞いても、それが偶然だなどとは思わないだろう。

 ただ、その時の俺にとって重要だったのは、鍵のかかった部屋から、見知らぬおじさんが引っ張り出してくれたというその事実だけだった。


 そこからはとんとん拍子に他の守人や、他の祓人と関わり、祓い屋という職業を知り、バケモノの恐ろしさを目にして生きて来た。

『寅』と『丑』の幼馴染ができたのは、当時、人との関わりを欲していた俺にとって、実はとても嬉しいものだったりする。

 当然、こんなことを言えば一人は鼻で笑い、一人は腹を抱えて大笑いすること間違いない為、決して口にはしない。






「こっちはこれで終了か。さっさと創瑚とタクの所に行かなきゃだな」


 爆破テロでも起きたかのような有様の図画工作室に、玲司の独り言がしんしんと広がった。

 等間隔に並べられていた作業机は全て退かされ、黴が生え、ささくれ立った木目を見せる床材には、熊が縄張り(テリトリー)を主張したかのような鋭利な斬撃痕を、玲司を中心に円形に広げていた。

 そんな流線が幾重にも刻まれた足元で、苔に上半身が覆われた元祓人が転がる。

 右手に握った半ばで折れた扇子から飛び出た一枚の羽から、先刻源氏が名前を呼んでいた『鴻鵠』だとあたりを付けた玲司は興味を失い、その視線を少し持ち上げた。

 視界の中心に映るのは、この騒動の現況である一人の元祓人蝗守源氏で、今や心の拠り所としていた名も知らない少女を失った事で、完全に壊れてしまっていた。

 虚ろな瞳は何も写さず、ただぼうっと一点を見つめて、半開きの口からは涎が滴り落ちていた。

 依存者の末路を見下ろした玲司は、心底面倒くさそうに頭を掻くと、頭上から降る複数の視線を無視して背を向けた。


「……おぉぉい…………おいおぉい。ちょぉと、待ぁてよ」


 が、そんな玲司を呼び止める声が、足元近くから打ち上がった。

 癖のある口調に、口の端々に泡を含ませた湿り気を帯びた声が玲司の耳を打つ。

 振り返って視線を先ほどまで立っていた地点へと落とせば、ふらつきながら床に手を突いた、死にかけの羽虫の風体をした鴻鵠が映った。

 

 元はカジュアルな和服だったのだろう布切れの下から、鬱蒼と生い茂った苔を見せる男は、玲司に向けてくの字に折れた扇子を向けた。

 水色の瞳には殺意が爛々と輝き、ボロボロのその身と相まって手負いの獣を彷彿とさせた。

 

「コウコクとか呼ばれてたけど、アンタ鴻上翔だよな。まだ生きてたんだな」

「まぁあぁぁ、この通りぃ。……死ぃにかけぇだけど、なぁあ……」


 苔に体を浸蝕されたモノは、自我を失うと思っていた。

 それだけに驚きが隠せなかった玲司だったが、それ以上は口を閉ざし視線も外した。

 三階から落ちてきた翔は全身血まみれで、骨も幾つか折れているのか、赤紫に変色させて歪に盛り上げた皮膚が苔の葉の隙間からこちらを覗いていた。

 これ以上戦えば、確実に死ぬ。それだけの負傷を抱えた翔を背に、玲司は扉の無くなった出入り口に設けられた古びたレールを跨ぐ。


「おぉい、おいおぉいおい。敵にぃい……背中を、見せるんじゃあねぇよぉ」

「敵って、お前も祓い屋だろ」


 片足がまだ図画工作室に残された玲司は気だるげに振り返り、ようやく立ち上がり両膝に手をついた、風前の灯を胸に掲げる手負の祓人を見下ろした。


「だぁから、何だ。俺の敵は……俺の前ぇにいる奴、だって……決まって、んだ」

「だったら俺が相手だ。體斗先輩を殺した落とし前、付けさせてもらう」


 それまで頭上で静観を決めていた気配が一つ動くと、その姿を玲司と翔の間に差し込んだ。

 

「なぁんだぁ、お前ぇ?」

「午場六郎。お前を祓う、祓魔師だ」


 色鮮やかに染めた羽織を翻し、翔の真正面へと降り立ったのは、ここまで一緒に行動していた若手の祓魔師、六郎だった。


「祓う? おぉぉいおいおい。まぁさか、俺をバケモノと一緒だぁって、そぉ言いてぇえのぉか?」

「…………そうだな。こうして話すまでは、お前は言葉の通じないバケモノだと思ってた。だから言い直す。俺は、お前を殺す!」


 玲司に背を見せた六郎からは怒りの蒸気が立ち上り、殺気が玲司の入れ替えた静かな空気を冷やした。

 握り込んだ拳は爪が掌に食い込み、血の滴を滴らせて震えていた。


「隊長! こいつは俺が殺ります。隊長たちは、避難民の救助を優先して下さい」


 六郎の言葉に、玲司はふと頭上の大穴へと視線を向けた。

 目の前の図画工作室同様、かなり暴れたらしい散らかったその光景を覗かせる穴からは、二つの頭が飛び出しこちらを、正確には六郎を見下ろしていた。


「却下だ。そいつは殺すな。私たちの仕事は、バケモノを祓い、市民の平穏を守ることだ」

「……だけどさ、隊長。コイツが生きてたら、あんたの言う市民に危害を加えるかもしれないんだ」


 迅の指示を拒否して、六郎は一歩翔へと足を進ませた。

 その気配に乗った殺意は本物で、これを払う事はもちろん、止めることも難しいと玲司は思った。

 かつて、自分が抱えたモノと同じ気配だったからだ。

 ガシャドクロによって齎された混沌から、中々復帰できずにいた日本が産んだ影。それに魅入られれば、誰もが人としての道を踏み外した。

 一般市民は勿論のこと、祓い屋や祓魔隊だって、例外ではなかった。


 影に汚染された祓人を拳で穿った当時の感覚が、玲司の頭の中へ潮が満ちるように押し寄せてきた。

 胸骨が砕ける脆い感触と、皮膚を突き破って飛び出してきたヌメリ気を帯びた血の温度、そしてそれが服を濡らして貼り付く水の質感。そして、拳を開いて指先でなぞった、生物として目の前に存在している事を最も雄弁に証明する鼓動を続ける心臓。

 己の手で、目の前の生物を殺したと実感させられる、絶命を突きつける音が、何度も何度も壊れた音楽プレイヤーがループ再生するようになり続ける。

 心臓の鼓動が指先からしみ込んで来たあの時の感覚が、握りつぶした時の柔らかくて悍ましい、背筋を駆け巡った寒気が、現在の玲司を見えない鎖で縛り付けた。

 それらを抱える玲司は思う。

 六郎が今抱えている感情は、他者に止める事は難しい。しかし、誰かが止めなければいけないものなのだと。


「六郎」


 だからだろう。全身に鳥肌を立たせた玲司は、目の前の若い祓魔師の名を呼んでいた。


「勝手に人の名前呼んでんじゃねえよ。祓い屋」


 振り返らずとも、こちらに意識を向けたのを確認した玲司は、いつの間にか自分も拳を固く握りしめていることに気がついた。

 掌を開いてその中を見れば、心臓だった肉片が、滝のように流れ落ちる血に混じってボトボトと零れ落ちるあの時の微熱と水音が、玲司以外には伝わらない情報の波となって押し寄せた。

 目を見開き固まった玲司は、一瞬呼吸も忘れてソレを見た。

 たっぷり数秒、ソレを凝視した玲司は大きく息を吐き、一度瞼を固く閉ざした。

 再度瞼を持ち上げ掌を確認すれば、べったり真っ赤に染まり掌の中心に残っていた肉片は、一切の痕跡も残さずに消え、そこに残されていたのは握り込んだ事でできた内出血による四本線だけだった。

 緩く弧を描いた四本の線の一本一本を視線でなぞった玲司は、乾燥してくっ付いた唇を開き、ポツポツと語り出す。

 自分が背負った過去の業と、今尚自分の首を絞め続ける鎖の不快な感覚を。


「俺は昔、祓人を殺した」

「……だから?」

「あの頃はああするしかなかったって、今でも思う。でもな、なぜかあの時の感覚は消えなくて、それどころか殴り殺した時には感じなかったはずの何かが、ふとした瞬間に湧いて出て来るんだ。背筋を凍らせる気色悪いものだ」

「だから人を殺すのは止めましょう、ってか? こりゃ驚いた。お前ら祓い屋は、常日頃から人を殺してるから、今更罪悪感に苦しむとは思ってなかったよ!」


 振り返った六郎はカラカラと乾いた笑いを上げて、冷めた眼差しで玲司を見た。そして、それを正面から見返す玲司の目には、戦鬼に灯っているほどの光はなく、隙間風に煽られればすぐさま消えてしまいそうな、か細い灯火を携えて六郎と向き合った。


「お前がソイツを殺せば、お前は人じゃなくなる」

「だったら、あんたはどうなんだよ。さっき、祓人を殺したって言ったよな?」

「ああ、俺は祓人を……人を殺した。だから、もう人じゃないんだ。俺も、水面も…………迅も」

「………………は?」


 ポカンと口を半開きにした六郎は、今何を言われたのか分からないと、思考をぐるぐる回して視線をあちこちへ細かく揺らした。

 そんな二人の間を、一人の元祓人が割って入った。


「俺をぉお、忘れんじゃあねぇえよぉお……なぁあああ戦鬼(いくさおに)ぃい!」


 折れ曲がった扇子を無理矢理にこじ開け、羽を撒き散らしながら翔はそれを振ろうと腕を振り上げ、そして…………血飛沫を上げて倒れた。

 時すら凍り付かせたかのような、耳が痛くなる静寂が、空間内を支配した。

 次いで聞こえたのは、ガリッと、硬いものがこすれ合う耳障りな一つの音だった。


「一線を越えた俺たちは当然、法律に則り、行政に罰せられるはずだった。時代が時代ならばな」


 音もなく二階へと降り立っていた迅が、錆だらけの刀で翔の腕を切り飛ばしたのだと気づくのに、玲司も六郎も数秒を要した。

 ふと、これ以上血を失えば死ぬのではないかと考えた玲司は、迅の右斜め後方へと視線を向けた。が、そこには、傷がこれ以上広がないようにと、半透明な青白い手に抑えられた翔の姿があった。

 ふわりと、肉の焼けた臭いと、人の死の臭いが摘まんで来る。

 気付けば、同じように音もなく降り立った女性の祓魔師が、若い男の祓魔師を横抱きにて迅の左後方控えていた。


(あれが、六郎の言ってたテイト先輩か……)


 四肢を失ったその肉体は、火釜に放り込まれたかのように焼け焦げ炭化し、皮膚と隊服は癒着して、ギリギリ人の形を保っていると言った状態だった。

 そんな亡骸から視線を外して横に移動させれば、右手を腰に差した刀に添えていた迅が、琥珀の瞳を細めて、静かに首を横に振った。


(何も言うな、か)


 ここから先は、隊長である迅の仕事だと、玲司は一歩下がった。


「当時の日本は、バケモノに対抗できる戦力を減らしたくないと、覚醒者の犯すあらゆる悪業に目を瞑った。結果、俺たちは罰せられる事なく、人に戻る機会を失った」

「それ、本当……スか? 隊長が、祓い屋みたいな事を……」

「俺は、元々は祓い屋だ。祓人の師を得て、子御木の抜刀術を磨いた。玲司と、それからもう一人の昔馴染みの水面と三人で、大厄災後は担当地区をバケモノの脅威から守っていた」


 迅の口で直接語られた過去は、六郎にとっては衝撃だったらしく、震わせていた拳を解き、しどろもどろに両手を持ち上げ下げてを繰り返す。


「で、でも……だって、えっ? 隊長は、祓い屋で……人を殺、してるん……スか?」

「ああ、殺した。一般市民に暴力を振り、女性には体を強要するクズだったからな。しかし、クズはクズでも、人間のクズだった。殺していい理由にはならない」

「で、でも……」

「俺たちはもう、あの日から自分を人としては見られなくなった。だが、バケモノかと問われれば簡単に否を出せる。だからこそ、人でもバケモノでもない俺たちは存在証明の為、今までの事を今まで以上に行うと決めた。それ以外の道がわからなくなったんだ。こんな道を、俺は部下に歩ませるつもりはない」


 迅の言葉を幕切れに、教室内には静寂が落とされた。

 六郎は何も言えなくなり、迅はこれまでの言葉を、六郎が納得はできずとも理解できるまで待つと、静観の構えを見せた。背後に控えていた女性祓魔師は何も言わず、抱き上げた同僚の亡骸を優しく抱きしめた。




「…………隊長」


 六郎が沈黙を破り口を開いのは、それから数分後の事だったのか、それともほんの数十秒だったのかは定かではない。


「すみませんっした! 體斗先輩殺された瞬間、頭ん中ゴチャついて。俺、何も考えられなくて。でも、助けられたんじゃって、何かできたんじゃないかって思って。そしたら俺、俺にできる事はって……」


 鼻の詰まった湿った言葉が、洪水のように出る六郎を、迅はその言葉が吐き出され尽くすまで静かに見ていた。





「それで、残りはどうする?」


 目尻を赤く腫れさせた六郎と向き合う迅へと、玲司は廃校内に残った二体のバケモノの気配を探りつつ訊いた。

 渡り廊下にいた一体は以前動きはなく、何をしているのかその場で棒立ちし、そしてもう一体は創瑚と対峙していた。


「創瑚が戦っている。師匠としては、行くべきじゃないのか?」

「そうしたいんだけどな……どう見る?」

「あの一体、東京のアレに似ているな」


 玲司が感じ取ったのと同じように、迅もまた渡り廊下に居座るナニかの気配の悍ましさを感じ取っていた。

 かつて東京を瘴気に沈めた元凶、原典型のバケモノ『ガシャドクロ』に似た気配を纏ったソレは、人間よりもやや背の高い程度の体躯に、異形らしい複数の腕と角を生やしている事だけは空気の流れから捉えることができた。


「その、隊長」


 そんな中、背後に控えていた女性祓魔師が声を上げた。


「どうした無美」

「あの、恐らく、お二人が言っているのは<カイガク>だと、思います」

「何?」

「カイガク? なんだそれ?」


 二者それぞれの反応を返され、声を発した祓魔師はあわあわと口を震わせるばかりで、何も言えなくなっていた。


「何者かによる創作物から産まれた名憑きのバケモノだ」

「おいおい、マジかよ……委員会は何やってんだ。国家権力にすり寄ったくせに、まともな仕事は何一つしてないじゃんかよ」

「それは協会も同じ事だろ。拘留していた犯罪者に依頼を出す組織など他にはない」


 互いににらみ合い、牙を剥く上司と旧知の仲らしき祓人を見る六郎の目には、先刻まで燃え滾っていた復讐の黒い炎は種火も残さず消え去り、繰り広げられる互いの組織に対する愚痴を言い合う、犬同士の喚き合いの様相を前に冷ややかなものへと移り変わっていた。


「あの、隊長……カイガクって危険なバケモノっスよね? そんで、まだ保護すべき市民がいるんじゃなかったっスか?」


 恐る恐る危険物に触れるかの如く喚き合いの間に入り込んだ六郎は、この場の誰よりも持ち合わせた常識人の行動力によって、話し合いを強制的に押し進めさせた。


「……カイガクの祓滅は、私とコレが当たる」

「コレだぁ?」

「無美はそのまま體斗を連れて野暮さんと合流してくれ。そして、六郎。お前は創瑚の援護と避難者の救助だ。こちらが終わり次第、私たちもそちらに合流する」

「了解っス!」

「了解しました」


 今後の目的を即座に下した迅の指示に、六郎も無美も了を唱え動き出した。


「俺、お前の部下になった覚えないんだけど?」


 ただ一人、迅の決定に異を唱える祓人が一人、この場にいた。

 六郎も無美も即行動に移したというのに、玲司はその場から動かず、依然として迅を正面から見据えていた。


「今は時間が無いんだろ。お前も協力しろと言っているんだ」

「時間がない? 馬鹿かお前。時間も戦力もどっちも無いんだよ」

「だったら尚の事、協力しろって言ってんだろ、この馬鹿」


 互いににらみ合う事五秒。玲司が先に動いた。


「言ってなかったんだな。昔の事」

「大っぴらに話す事でもないからな」

「……そうだな」


 それだけ交わして、玲司と迅は、廃坑の中に潜む原点型に程近い禍々しい災禍の源へと向かった。

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