013-3 迅の分岐路
「迅、補充された祓い屋どもだが、どいつもこいつも屑ばっかりだったぞ」
祓い屋が派遣され、負担が減ったと安堵した数日後には、玲司がそんな事を言って来た。
それでも水面が休暇の今、派遣の祓い屋を突き返す事はできない。
玲司が負傷して発覚した事だが、三人のうち一人でも欠ければ、バケモノの脅威は一般市民に向く。それ故に、玲司は迅の選択に不満を漏らさず我慢した。
元を辿れば、自分の蒔いた種だからと。しかし、そんな玲司が一日だけ、誰のか分からない人間の赤い血を服に染み込ませて帰って来た事があった。
その日はたった一言、「明日報告する」とだけ言って、自室に引き篭もった。
ポチという居なくてはならない存在が、遠くへ渡ってしまったが為に、玲司も精神的に来ているのかと、その時の迅は思った。
しかし、そうではなかったと知ったのは、玲司が血に濡れて帰って来た日から一週間後の事だった。
派遣された祓い屋たちが、日没までにバケモノを祓えず一般市民に被害を出した。その後処理に駆り出されたのが迅だった。
迅はそこで、ようやく玲司の言っていた意味を理解した。
迅が指示を出した担当分けを、祓い屋達は誰も守ってはいなかったのだ。
朝から酒を飲み、住民を怒鳴りつけ、果てには女性を裏路地に引き込み乱暴を働いていた。
八人の増援のうち、七人がそれを行なっていた。そして残りの一人に至っては、助けるのは女だけ。助けた見返りに体を要求。おまけに家屋や住民に被害が出てもお構いなしにバケモノを祓い、住民の許可もなく家屋に踏み入り金品や食料を奪って行く。もし住民が意見を言えば、その日のうちにその家と住民がいなくなっている。
住民の不満は、迅に向けられた。同じ祓い屋なのだから、と。
「申し訳ありませんでした……」
派遣の祓い屋の代わりに頭を下げ、その日のうちにその地区のバケモノを一掃した迅は、気づけば北地区の最北端、普段から人通りのない小さな路地に一人で立っていた。
暗闇の中、左手に握ったスマートフォンから放たれる青白い光が、その場の唯一の光源だった。
疲れた。帰りたい。玲司はちゃんとバケモノを祓えただろうか。水面はあと何日休暇だったか。ポチは何時帰ってくるのだろう。
陽が沈んでかなりの時間が経った事。バケモノが今日はおとなしい事。そして、自分は今、かなり疲れている事だけは分かった。
「帰ろう……」
抜き身の刀を右手に握っていた理由も、緋山家から支給された衣服に、あの日の玲司と同じ、人間の体の中を巡っている血と同じ赤を染み込ませていた理由も、その時の迅には分からなかった。
しかし、記憶には残っている。一人立っていた路地の奥で、一人の祓い屋が首から血を流して倒れていたのを。




