第八十六話 不穏な星影
京に戻った宗則は、白雲斎の墓前に報告を終えると、すぐにいつものように天文観測を始めた。日々の星の動きは、常に変化に富みながらも、一定の法則に従っている。それはまるで、天が地上の人々に何かを伝えようとしているかのようだった。
「星々が…いつもより騒がしい…」
宗則は、夜空に浮かぶ星々を見上げながら、かすかな不安を覚えた。特に、比叡山の方角を照らす星々が、不吉な赤い色を帯びているのが気になった。それは、まるで、血で染まった炎を連想させるような、不気味な輝きだった。
「比叡山…まさか…」
宗則の脳裏に、覚恕の顔が浮かんだ。覚恕は、比叡山延暦寺の僧侶の中でも、特に信長に対して批判的な立場をとっていた。もしも、信長が比叡山に攻撃を仕掛けるようなことがあれば、覚恕は危険な状況に置かれることになる。
「落ち着け、宗則。まだ何も起こったわけではない。」
宗則は、深呼吸をして心を落ち着かせようとした。しかし、胸騒ぎは消えなかった。彼は、春蘭と賀茂美玖に相談することにした。
「比叡山と信長様の間には、以前から緊張が走っておりました。」
春蘭は、宗則の話を聞いて、深刻な表情で答えた。
「信長様は、天下統一のためには、比叡山といえども容赦しないと公言しています。一方、比叡山も、その強大な勢力を背景に、信長様に抵抗する姿勢を見せています。」
「覚恕様は、その渦中にいらっしゃる…」
宗則は、不安そうに呟いた。
「何か、私にできることはないだろうか…」
「まずは、情報収集です。」
賀茂美玖が、冷静に言った。
「比叡山と信長様の関係が、今、どのような状況にあるのか、詳しく調べなければなりません。」
宗則は、春蘭と賀茂美玖の言葉に頷いた。彼は、一刻も早く、覚恕の安否を確認しなければならないと感じていた。
「私は、比叡山へ向かいます。」
宗則は、決意を込めて言った。
「覚恕様に、直接、お話を伺いたい。」
春蘭と賀茂美玖は、宗則の決意を止めることはできなかった。彼らは、宗則に、くれぐれも気をつけるようにと、念を押した。
宗則は、八咫烏の導きを頼りに、比叡山へと続く山道を急いだ。彼の胸には、愛する者を守るため、そして、自らの運命に立ち向かうため、熱い決意が燃えていた。
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