第七十話 敵味方の狭間
春の柔らかな陽光が京の街を照らす中、宗則は陰陽助としての活動に忙殺されていた。賀茂氏からの祝宴の誘いを受け、多々良や賀茂美玖とのやり取りが続いた。
「宗則殿、陰陽助としてのご活躍、おめでとうございます。賀茂家一同、心よりお祝い申し上げます」
賀茂美玖は晴れやかな笑顔を浮かべて宗則を歓迎した。宗則は微笑みを返し、深々と一礼した。
「ありがとうございます、美玖殿。この地位に恥じないよう、全力を尽くしてまいります」
その時、多々良が宗則に近づき、肩を叩いた。その顔にはまるで親しげな笑顔が浮かんでいる。
「宗則殿、これからも陰陽道の守護者として共に頑張りましょう」
宗則は瞬時に気づいた。多々良の態度の変化に、ほんのわずかだが、違和感を覚える。
その直後、宗則の胸には深い思いが広がり、ため息が漏れた。表面上の優しさの裏に潜む何かが、宗則の心を憂わせた。
祝宴の後、信長の陣中では次の戦いに向けた準備が進められていた。信長は宗則に対して期待を寄せつつも、陰謀の渦中で冷徹な指示を送っていた。
「宗則、公家たちの動きを警戒せよ。彼らは我らを利用しようとしている。慎重に動け」
宗則はその言葉に深く頷いた。
「承知致しました、信長様。この国の平和を願う者として、あらゆる役目を果たす覚悟があります」
信長は冷たい笑みを浮かべた。
「よろしい。我が軍にとっても有益な働きを期待する。お前が公家たちの思惑を掴むことが重要だ」
宗則は一礼して陰陽寮へと向かった。薄暗い廊下を進む中、彼の心には緊張と期待が入り混じっていた。陰陽寮には他の陰陽師たちが集い、宗則を見守っていた。
「宗則殿、公家たちは信長と義昭公の対立を見据え、陰謀を巡らせています。慎重に動いてください」
宗則はその言葉に背筋が寒くなったが、決意を固めて進んだ。公家たちは野心的な計画を練り、陰謀を進めていた。
宗則に対して陰陽頭の地位を提示し、その重要性を理解してもらおうと策を講じる。
鷹司輝隆は、公家の中でも野心的な人物であり、権力を求める野心家であった。彼は信長や義昭に対抗するために、宗則の力を利用しようと考えていた。
「宗則を取り込み、我々の力をさらに強めるべきだ。彼には陰陽頭の地位を提示し、その重要性を理解してもらおう」
輝隆は静かに頷き、その提案に賛同した。
「確かに、彼の力は我々にとって貴重だ。信長にも義昭にもない智謀と冷静さを持っている。天皇専属の陰陽師に任命し、彼の力を最大限に引き出すべきだ」
二条晴良は笑みを浮かべ、その策を実行する決意を固めた。
「では、そのように進めるとしよう。宗則がこの国を守る立役者であることを示すことが大切だ」
しかし、陰で渦巻く陰謀は尽きることがなかった。公家たちの企ては宗則を巻き込み、思惑が交錯していた。
「宗則を利用し、信長の力を削ぐ。また、義昭との関係も我々の手で左右することができる」
輝隆の野心が滲む言葉に、周囲の公家たちは同意の意を表した。
その夜、宗則は静かな部屋に戻り、星空を見上げながら内省に耽っていた。彼の心には、信長と義昭の対立がどのように終結するのか、その道筋が重くのしかかっていた。
「私はこの国を守るために動く。信長様と義昭様、そしてこの国の平安を第一に考えて」
宗則の心には確固たる決意が宿った。しかし、内心の揺れは消え去ってはいなかった。
その夜、宗則は再び冷静な心持ちで信長の元を訪れ、事の次第を報告した。信長は静かに彼の話に耳を傾けていた。
「御上の期待を受け、公家たちから天皇専属の陰陽師に任命されたいとの意向が示されました」
信長の眼が鋭く光る。
「慎重に動け、宗則。公家たちは我々への包囲網を形成するためにお前を利用しようとしている」
宗則の心には冷徹な決意が宿った。
「もちろんです、信長様。この国の平和を願う者として、あらゆる役目を果たす覚悟があります」
信長は冷たい笑みを浮かべた。
「よろしい。お前が公家たちの期待を一身に背負い、この国の平和を守るために動くなら、我が軍にとっても有益だ」
京の夜空には星が瞬き、義昭と信長の対立が次第に激化し、姉川の戦いが迫っていた。
激化する対立の中で、宗則の役割が一層重要となる瞬間が近づいていた。薄暗い廊下を進む宗則の姿が、不気味な影を落としていた。
その影が陰謀の渦中に吸い込まれるように、戦いの前兆が彼を包み込んでいった。
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