第六十五話 戦いの前夜
1570年4月、若狭の地には激しい風が吹き荒れていた。
嵐の夜に包まれる中、足利義昭は将軍としての誇りを胸に、信長包囲網の形成を目指していた。
側近たちを前に、意を決して語りかける。
「信長殿の強引な手法に従うことは、この国の将軍としての誇りを損なう。変化を恐れず、我々は結束しなければならない。これ以上、天皇の勅旨が無視されることを許すわけにはいかない」
義昭の言葉には決意が込められていた。その言葉に応える二条晴良の表情もまた険しいものだった。
「義昭様、天皇が信長を副将軍に任命する勅旨を下されたにもかかわらず、信長からの返答が無いことに我々公家勢力は失望しています。我々の伝統と家柄を守り、信長の改革を止める必要があります。我々の立場を守るためにも、宗教勢力との連携が不可欠です」
灯りが微かに揺れ、義昭の心の揺らぎを映していた。
一方、越前の朝倉義景もまた、その歴史と矜持を守るために信長への対抗策を練っていた。家臣たちを前に義景は、揺れる心を吐露する。
「我が朝倉家は長きに渡りこの地を治めてきた。信長の改革の波に乗るべきか、歴史と矜持を守るべきか…」
義景の目には深い迷いが浮かんでいた。
風に揺れる灯火が義景の顔を照らす中、浅井長政が意志の強い目でその前に進み出た。
「義景殿、信長の改革がこの国の歴史を変えるのは間違いありません。しかし、義昭様からの、幕府の要請となれば、その権威に従うことが我々の家格を高める。下克上で興った我が家にとって、幕府の権威を借りて信長と戦うことはむしろ望ましい。信長包囲網の一員として立ち上がりましょう」
義景の瞳が次第に決意に満ち、家臣たちはその決意を共有する。炉端に座る義景と浅井長政、その周囲には緊張感が漂っていた。
「それに、顕如殿も信長包囲網に加わるのであれば、越前内で発生している一向一揆も沈静化する。彼らを利用すれば、我々には十分なメリットがある」
義景は重々しく言葉を放つ。
「朝倉家の名誉と歴史を守るため、信長を討とう。長政、共に戦おう」
その意志は、家臣たちの決意を固め、重々しい空気が室内を満たした。
その頃、義昭の文が本願寺に届き、顕如と漣が応答していた。
「顕如殿、信長の改革を止めるためには、君の力が必要だ。共に信長包囲網を築こう」
の文面に顕如は心を動かされた。
本願寺の堂内には陰影が交錯し、顕如の瞳には静かな決意が見え隠れしていた。顕如は宗教勢力の筆頭として、静かに語り始めた。
「信長の改革が進めば、我らの宗教的権利も脅かされる。我々は信長包囲網に加わり、対抗しよう」
その背景には、本願寺に身を寄せる近衛前久と漣の姿があった。漣の心には、燃え上がる憎悪と希望が交錯していた。
「信長を打倒する時だ。それが愚かな宗則への復讐となる。顕如殿と共に信長包囲網を形成しよう」
漣の言葉には冷たい怒りが込められていた。
義昭は屋敷の一室で宗則を呼び寄せ、その計画を静かに語りだした。
宗則は冷静に義昭の言葉を受け止めつつ、信長の命令が彼の心に重く影を落としていた。
「宗則、信長包囲網を形成するために、陰陽術を駆使して彼の動きを抑えてほしい」
義昭の言葉には切実な願いが込められていた。
宗則は義昭の目をしっかりと見つめ、静かに頷いた。
「義昭様、私は天下の安寧を願う者です。今はそのためにお支えすることが私の使命です」
義昭は宗則の言葉に深い感謝を感じながら、その肩に静かに手を置いた。
「ありがとう、宗則。共にこの地を守る力となってくれ」
嵐の夜、進軍準備が整い、若狭攻めが始まろうとしていた。
義昭の策略、公家勢力の結束、朝倉義景と浅井長政の決意、そして宗教勢力の一体感が一つに結びつき、信長包囲網の形成に向けた大きな一歩が踏み出された。
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