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第四十九話 陰陽五行説の基礎と風水の学び

永禄十二年(1569年)夏。

若狭国、土御門家屋敷。

蝉の声が、静寂な山里に響き渡り、夏の暑さが、一層厳しさを増していた。


有脩は、宗則を、書院へと案内した。

書院は、広く、天井は高く、重厚な雰囲気に満ちていた。

壁一面に、書棚が並んでおり、そこには、古今東西の書物が、所狭しと並べられていた。

部屋の中央には、大きな机が置かれ、その上には、筆、硯、墨、そして、幾つかの巻物が、置かれていた。

墨の香りと、古い紙の匂いが、静かに漂っていた。


「信長公より、陰陽道の修行を命じられ、義昭様より、この土御門家を勧められたと聞いております」


有脩は、宗則に、静かに言った。


「それがし、東雲宗則と申します。土御門様にお仕えできること、光栄に存じます」


宗則は、改めて、有脩に、深く頭を下げた。


「宗則殿、わしは、お主に、陰陽五行説と風水の基礎を、みっちり教え込む。覚悟は良いか?」


有脩は、厳しい口調で言った。


「はっ! 必ずや、ご期待に沿えるよう、精進いたします!」


宗則は、有脩の言葉に、身が引き締まる思いがした。


「まずは、陰陽五行説の基礎からじゃ」


有脩は、宗則に、五行の象徴が描かれた古い巻物を広げた。

巻物からは、古い紙の匂いが、かすかに漂ってきた。


「陰陽五行とは、木、火、土、金、水の五つの元素が相互に影響を及ぼす理論です。それぞれが他を生かし、他を制する。この関係性を理解し、使いこなすことが重要です」


有脩は、指を滑らせ、巻物に描かれた五行の象徴を、一つ一つ指し示しながら、説明した。


「木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生ず。これが、相生の関係じゃ。そして、木は土を剋し、土は水を剋し、水は火を剋し、火は金を剋し、金は木を剋す。これが、相剋の関係じゃ」


宗則は、有脩の説明を、真剣な表情で聞いていた。


「なるほど。五行は、互いに影響し合い、この世の万物を構成しているということですね」


宗則は、有脩の説明に、感銘を受け、思わず、自分の考えを口にした。


「その通りじゃ、宗則殿。陰陽五行説は、陰陽道の根幹をなす重要な理論じゃ。これを理解せずして、陰陽師を名乗ることはできぬ」


有脩は、厳しく言った。


「わたくしは、この陰陽五行説を、しっかりと学び、自らの力として、使いこなせるようになりたいと思っております」


宗則は、有脩の目をまっすぐに見つめ、力強く言った。


「よろしい。では、次に、庭園を見て回ろう。わしの屋敷の庭園は、風水に基づいて造られておる。実物を見ながら説明すれば、風水の原理も理解しやすいじゃろう」


有脩は、宗則を、庭園へと案内した。

庭園は、広大で、美しく、そして、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。

池には、色とりどりの鯉が泳ぎ、木々には、鳥たちが、さえずっていた。

宗則は、その美しさに、心を奪われた。

しかし、彼は、その美しさの裏に、風水という、深い知恵が隠されていることを、感じ取っていた。


「風水とは、土地の『気』を調整する方法です。この庭園の配置は、その実例のひとつです。各要素の配置とバランスが重要です」


有脩は、池の位置、石の配置、そして、木々の種類など、一つ一つ、丁寧に説明していった。


「例えば、この池は、龍脈のエネルギーを集めるために、この場所に配置されています。そして、この石は、邪気を祓い、幸運を招くために、この場所に置かれています」


「なるほど、風水は、単なる迷信ではなく、自然の法則に基づいた学問なのですね」


宗則は、有脩の説明に、熱心に耳を傾け、時折、質問を投げかけながら、風水の奥深さを学んでいった。


「風水の知識をどのように学び、領地の発展に応用できるのか、その知識を学びたいです」


宗則は、目を輝かせながら、言った。


「成る程、宗則殿は、領地の発展に風水を活かしたいと考えておられるのですね」


「はい、有脩様。わたくしは、信長様から坂本を拝領し、領主として、その地を治めることになりました」


「坂本か。それは、なかなか大変な土地ですのう」


「ええ、かつては、延暦寺の門前町として栄えたと聞いておりますが、今は、戦乱の影響で、すっかり衰退しております」


「そこで、わたくしは、風水の力を借りて、坂本を、再び、繁栄させたいと考えているのです」


「なるほど。それは、立派な志ですな、宗則殿。わしも、全力で協力いたしましょう」


有脩は、宗則の言葉に、深く頷いた。

彼は、宗則の熱意に、心を動かされたようだった。


「では、この池の配置について、説明いたしましょう」


有脩は、宗則を、池の畔へと案内した。

池の水は、澄み渡っており、底まで見通すことができた。

鯉が、優雅に泳ぎ、水面には、蓮の花が、美しく咲いていた。


「この池は、龍脈のエネルギーを集めるために、この場所に配置されております」


「龍脈…?」


宗則は、有脩の言葉に、聞き返した。


「ああ、龍脈とは、大地に流れる気の…流れ…のことじゃ…」


有脩は、宗則に、龍脈について説明した。


「龍脈は、大地のエネルギーの源であり、その流れを制御することで、土地を活性化させることができるのじゃ」


「なるほど」


宗則は、有脩の説明に、深く頷いた。

彼は、風水の奥深さを、改めて実感した。


「北の方位は水を象徴します。水の力を引き出すためには、水を溜める場所として池や噴水を設置するのが良いです。ただし、金属製のものは避け、自然石を使うことが望ましい」


宗則は池の配置を観察し、言った。


「水の気を安定させるには、自然の素材が肝要…ということか…」


「東の方位は木を象徴します。ここには樹木を植え、成長を促す場所とします。また、木製の装飾品も良いです」


宗則は樹木を見上げ、言った。


「木の力を活かすには、東に植樹するのが適しているのですね」


「南の方位は火を象徴します。ここには光を取り入れる窓や照明を配置し、火の気…を引き出します。ただし、木製のものは避けるべきです。燃えやすいためです」


宗則は、一日に日が当たる部分を確認し、言った。


「南の火の力を引き出すためには、照明や窓が重要なのですね」


「西の方位は金を象徴します。ここには金属製の置物や、鉄製の装飾品を配置します。ただし、土の気を阻害することがあるため、土を使ったものは避けるように」


宗則は西の方位に目を向け、言った。


「金属の力を引き出すためには、金属製品が重要なのですね」


「中央は土を象徴します。ここには石や土を使った像や装飾品を配置し、基盤を安定させます。ただし、木や金属のものは避ける方が良い」


宗則は中央の石の配置に目を向け、言った。


「土を基盤とした安定を図るためには、石や土が重要なのですね」


有春は優しく微笑みながら、言った。


「このように、方角ごとに適した配置を考えることが大切です。風水の理論を理解し、それを実際の土地で使いこなすことができれば、君の領地は繁栄に向かうだろう」


「…風水…奥深い…です…な…」


宗則は、心から、感嘆した。


「わたくしは、この土御門家で修行を積み、必ず風水をマスターします!」


宗則は、力強く、宣言した。


(続く)


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