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第四十四話 本圀寺の変・後編

雪が降りしきる京の都。

本圀寺は、三好軍の猛攻に晒されていた。

総門は破られ、敵兵が、怒涛のように境内へと流れ込んできた。



「赤門を守れ! 敵を入れるな!」



宗則は、兵士たちに叫んだ。

彼の声は、緊張感に張り詰め、鬼気迫るものがあった。



赤門前は、すでに、血の海と化していた。

織田軍の兵士たちは、必死に、三好軍の猛攻を食い止めていた。

しかし、多勢に無勢、彼らの数は、刻一刻と減っていった。



「ひぃっ…!」



若い兵士が、三好長逸の太刀に斬りつけられ、悲鳴を上げ、雪の上に崩れ落ちた。

鮮血が、白い雪を、赤く染めていく。



「太郎! くそっ…貴様らぁ…!」



彼の仲間が、怒号を上げ、敵兵に斬りかかる。

しかし、彼もまた、三好軍の兵士に囲まれ、刀を落とされ、無残に切り伏せられた。



「無駄な抵抗は、やめよ。もはや、足利の世は終わったのだ」



三好長逸は、冷酷な笑みを浮かべながら、刀についた血を、雪で拭った。

彼の言葉は、冷たく、兵士たちの心を、凍りつかせるようだった。



「貴様…!」



宗則は、長逸の言葉を聞き、怒りで、体が震えるのを感じた。

しかし、今は、怒りに任せている場合ではない。

彼は、都を守るために、冷静さを保たなければならない。



「敵の動きを封じるのじゃ!」



宗則は、兵士たちに、指示を出した。



「わたくしは、陰陽術を使い、敵を足止めする!」



宗則は、懐から護符を取り出し、呪文を唱え始めた。



「臨兵闘者皆陣列在前…破邪顕正…悪鬼退散…!」



しかし、護符の力は、三好軍の勢いを止めるには、至らなかった。

彼らは、護符の光をものともせず、赤門へと迫ってくる。



「…赤門が…危ない…!」



兵士が、叫んだ。

彼の声は、絶望に染まっていた。



その時、宗則の背中に、焼けるような痛みが走った。

同時に、耳元で、八咫烏の声が聞こえた。



(宗則…諦めるな…師が…そばに…いるぞ…)



宗則は、驚いて振り返った。

そこに、白雲斎が立っていた。

白雲斎は、静かに微笑み、宗則に、歩み寄った。



「師匠…!」



宗則は、白雲斎の姿を見て、安堵の涙を流した。



「わしは、お前の力になろうと思って…都へ来た…」



白雲斎は、静かに言った。

彼の目は、宗則の成長を、確かめるように、優しく見つめていた。



「…しかし…師匠…敵は…多勢…で…」



宗則は、不安そうに言った。



「心配するな、宗則」



白雲斎は、宗則の言葉を遮り、静かに言った。



「わしに任せろ」



白雲斎は、懐から護符を取り出し、呪文を唱え始めた。



「臨兵闘者皆陣列在前…不動明王…降臨…!」



白雲斎の背後から、巨大な不動明王の姿が浮かび上がり、力強い炎を纏って、赤門に迫る三好軍に襲いかかった。



「な、なんだ…あれは…!? 」



「鬼…か…!? 」



三好軍の兵士たちは、不動明王の姿に、恐怖に慄き、後退りする。



「怯むな! それは、ただの幻術じゃ!」



岩成友通が、兵士たちを鼓舞した。

彼は、冷静に状況を分析し、白雲斎の術を見破った。



「弓矢を射かけろ!」



三好軍の兵士たちは、矢を放つが、不動明王の炎の壁に阻まれ、届かない。

しかし、友通は、諦めなかった。

彼は、兵士たちに、次々と指示を出し、不動明王の力を弱めようと試みた。



「…宗則…今だ…反撃に転じるのじゃ…!」



白雲斎は、宗則に、叫んだ。



「はっ!」



宗則は、刀を抜き、叫んだ。



「織田軍の意地を見せてやる!」



織田軍の兵士たちは、宗則の言葉に、奮い立った。

彼らは、新たな力と希望を得て、敵に立ち向かった。



その時、赤門が、轟音と共に、崩れ落ちた。

三好康長が、赤門の扉に、体当たりを繰り返し、ついに、扉を打ち破ったのだ。

康長は、血まみれの顔で、高笑いしながら、赤門をくぐり抜けた。



「ひゃっはっは! 敵は、もはや、風前の灯火! 京は、我らのものだ!」



「赤門が突破された…!」



兵士が、叫んだ。

彼の声は、絶望に染まっていた。



「冠木門へ退却するのだ!」



宗則は、兵士たちに、指示を出した。



織田軍は、赤門を放棄し、最後の防衛線である冠木門へと退却した。

冠木門は、本圀寺の最後の砦だった。

この門を突破されれば、義昭は、敵の手に落ちてしまう。



「冠木門を死守しろ! この門を破らせるな!」



宗則は、最後の力を振り絞り、叫んだ。

兵士たちは冠木門の前で最後の防衛線を張り、必死に戦った。

雪が視界を奪い、凍てつく風が容赦なく彼らを打った。

しかし、彼らは、一歩も引かなかった。

この門を突破されれば、義昭は、敵の手に落ちてしまう。

都の運命は、風前の灯火だった。



「我らは、織田軍じゃ!」



「信長様の御名のもとに…戦う!」



兵士たちは、互いに励まし合いながら、敵に立ち向かった。



三好軍の先鋒部隊が、冠木門に迫る。

その先頭には、斎藤龍興の姿があった。

彼は、信長への復讐に燃え、鬼気迫る形相で、刀を振り上げていた。



「信長め! 貴様への恨み、思い知れ!」



龍興は、叫びながら、冠木門に斬りかかった。

しかし、宗則が、すかさず、護符を投げつけた。



「臨兵闘者皆陣列在前…水神…氷結…!」



護符から放たれた光が、龍興の足元を凍りつかせる。

龍興は、バランスを崩し、転倒した。



「ぐぬぬ…!」



龍興は、悔しそうに、歯ぎしりした。



その時、白雲斎が、宗則の隣に立った。



「宗則、よく見ておけ。これが、戦の現実じゃ」



白雲斎は、静かに言った。

彼の声は、冷たく、宗則の心を凍りつかせるようだった。



「人の命は、儚い。そして、戦は、常に、犠牲を伴う」



「…師匠…」



宗則は、白雲斎の言葉に、言葉を失った。



「わしも、かつて、多くの命を奪ってきた。そして、その罪の重さに、今も苦しんでおる」



白雲斎は、遠くを見つめるような目で、言った。



「宗則、お前は、わしのような過ちを、繰り返してはならぬ。お前の力は、人々を救うためにある。それを、決して、忘れるな」



白雲斎の言葉は、重く、宗則の心に響いた。



その時、遠くから、鬨の声が聞こえてきた。



「援軍だ…!」



兵士が、叫んだ。



「細川藤孝様…そして…池田…伊丹…の…軍勢…が…到着…した…!」



「さらに…近江…から…柴田隼人殿…も…!」



宗則は、安堵の息を吐いた。

ついに、援軍が到着したのだ。



「我らも加勢するぞ!」



細川藤孝が、先頭に立って、三好軍に斬り込んだ。

彼の後を、三好義継、池田勝正、伊丹親興、そして、柴田隼人が、それぞれの軍勢を率いて、続いていく。



隼人は、愛馬に鞭を入れ、三好軍の真っ只中へと、突撃した。

彼の槍は、稲妻のように輝き、敵兵を、次々と、なぎ倒していく。



「宗則殿! 無事でござるか!」



隼人は、宗則を見つけると、駆け寄ってきた。



「隼人殿!」



宗則は、隼人の姿を見て、安堵した。



「よくぞ…無事で…」



「宗則殿こそ、ご無事で何よりです!」



隼人は、宗則の肩を叩き、力強く言った。



三好軍は、織田軍と、援軍の挟み撃ちに遭い、混乱に陥った。



「こ、これは…!? 」



「退却するのだ!」



三好長逸は、形勢不利と判断し、撤退を命じた。

三好軍は、雪の降る中、敗走していった。



宗則は、刀を鞘に納め、深呼吸をした。

彼の身体は、疲れ果てていたが、心は、勝利の喜びと、安堵感で満たされていた。



「京は守られた!」



宗則は、力強く宣言した。

兵士たちは、歓喜の声を上げた。

彼らの顔には、疲労の色が残っていたが、勝利の喜びと、安堵感で、満ち溢れていた。



「…宗則…よく…やった…」



白雲斎は、宗則に、静かに言った。

彼の顔には、安堵の表情と、同時に、深い悲しみが浮かんでいた。



「…しかし…戦…は…まだ…終わらぬ…これから…が…本当の…戦い…じゃ…」



白雲斎の言葉は、重く、宗則の心に響いた。

(続く)



数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


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