第四十三話 本圀寺の変・前編
永禄十一年(1568年)十二月二十八日。
京の都は、深い雪に覆われ、凍てつく寒さが、人々の心を閉ざしていた。
信長が美濃へ戻ってから、わずか数ヶ月。
三好三人衆は、信長不在の隙を突き、再び京へと兵を進めてきた。
「報せ! 三好三人衆が、兵を挙げ、京に攻め込んできました!」
使者の報告に、義昭は、顔面蒼白になった。
「なんと!? 信長殿は…まだ…美濃に…?」
「はっ…信長様は…まだ…美濃に…おられます…」
使者は、震える声で、答えた。
「それでは…我々は…どうすれば…?」
義昭は、動揺を隠せない様子で、宗則に、助けを求めるように視線を向けた。
「義昭様、落ち着いてください」
宗則は、静かに言った。
彼の顔には、陰陽師としての冷静さと、都の運命を背負う重責が、刻まれていた。
「まだ、状況は絶望的ではありませぬ」
「宗則、お主は…どうするつもりじゃ…?」
義昭は、宗則の言葉に、わずかな希望を見出した。
「それがしは、本圀寺を拠点に、徹底抗戦を行うことを提案いたします」
宗則は、地図を広げ、義昭に、本圀寺の周辺の地形を説明した。
「本圀寺は、京都の東山のふもとに位置し、北東の要所で、戦略的に重要な要地です。寺壁の防御を強化し、中庭には攻撃側に不利な地形を利用して飛び道具を配置します。また、冬の寒さを利用した戦術として、冷え込む夜に敵を無力化するための罠も設けます」
「さらに、わたくしは、陰陽道の力を使って、敵の動きを封じる結界を張る。この本圀寺を、難攻不落の要塞に変えるのだ!」
義昭は、宗則の言葉に、感銘を受けた。
彼は、宗則の知略と、陰陽師としての能力に、大きな期待を寄せていた。
「宗則、お主の知略と力は、頼もしい。わしは、お主を信じている。共に、この都を守り抜こうぞ」
義昭は、宗則の肩を叩き、力強く言った。
宗則は、義昭の言葉に、深く頭を下げた。
彼は、義昭の期待に応え、都を守るために、全力を尽くすことを決意した。
「必ずや、ご期待に応えさせていただきます、義昭様」
宗則は、力強く答えた。
「宗則、頼んだぞ」
義昭は、宗則に、都の運命を託した。
宗則は、すぐに、兵士たちを集め、本圀寺の防衛体制を強化するよう、指示を出した。
兵士たちは、宗則の指揮のもと、必死に、堀を掘り、土塁を築き、門を補強した。
宗則は、陰陽道の力を使って、寺の周囲に結界を張り、敵の侵入を防いだ。
綾瀬は、宗則の指示で、本圀寺の周辺に、諜報網を張り巡らせた。
彼女は、変装したり、民家に潜入したりして、敵の動きを探っていた。
「三好三人衆は、一万の兵を率いて、京へ向かっております」
綾瀬は、宗則に、報告した。
彼女の言葉は、冷静だったが、その瞳には、緊張の色が浮かんでいた。
「彼らは、本圀寺を攻撃するつもりです」
「そうか…」
宗則は、綾瀬の報告に、表情を曇らせた。
敵の数は、味方の数倍。
しかも、三好三人衆は、いずれも、戦場で名を馳せた、歴戦の武将たちだ。
「敵は多勢だが…我々は…決して…諦めぬ…この…本圀寺…を…死守…し…信長様…が…戻る…まで…持ちこたえる…の…だ…!」
宗則は、自らの不安を押し殺し、兵士たちを前に、力強く宣言した。
「我々は、将軍義昭様をお守りする最後の砦じゃ! 皆の者、覚悟を決めよ!」
兵士たちは、宗則の言葉に、奮い立った。
彼らは、宗則の指揮のもと、決死の覚悟で、敵の襲来に備えた。
永禄十一年十二月二十八日。
三好三人衆は、斎藤龍興を先鋒に、将軍派の砦を攻撃し、陥落させた。
義昭は、本圀寺に避難することを決意する。
「皆の者、予定通り本圀寺へ移動し、態勢を立て直すのじゃ!」
義昭は、家臣たちに、指示を出した。
彼の声は、少し震えていたが、将軍としての威厳を失ってはいなかった。
「宗則、頼んだぞ」
義昭は、宗則に、都の運命を託した。
「必ずや、ご期待に応えさせていただきます、義昭様」
宗則は、深く頭を下げた。
本圀寺は、京都の東山のふもとに位置する、浄土真宗の寺院である。
広大な境内には、本堂、阿弥陀堂、鐘楼など、多くの堂塔伽藍が立ち並んでいた。
寺の周囲は、高い土塀で囲まれ、要塞のような雰囲気を醸し出していた。
宗則は、本圀寺に到着すると、すぐに、防衛の準備に取り掛かった。
「皆、この本圀寺が最終防衛拠点だ。全力で守るのだ!」
宗則は、兵士たちに、指示を飛ばした。
「まず、寺の周囲に、堀を掘り、土塁を築く。門には、鉄板を打ち付け、敵の侵入を防ぐ。弓兵と鉄砲隊は、高所に配置し、敵を迎え撃つ。そして…わたくしは…陰陽術を使い…敵を惑わす幻術を仕掛けます…この本圀寺を…難攻不落の要塞に変えるのだ…!」
兵士たちは、宗則の言葉に、奮い立った。
彼らは、宗則の指揮のもと、必死に、堀を掘り、土塁を築き、門を補強した。
宗則は、陰陽道の力を使って、寺の周囲に結界を張り、敵の侵入を防いだ。
「…宗則…よくぞ…ここまで…準備を…」
白雲斎の声が、宗則の背後から聞こえてきた。
宗則は、振り返ると、そこに、白雲斎が立っていた。
「…師匠…!」
宗則は、白雲斎の姿を見て、安堵した。
「…わしは…お前の…力に…なろうと思って…都へ…来た…」
白雲斎は、静かに言った。
彼の目は、宗則の成長を、確かめるように、優しく見つめていた。
「…師匠…!」
宗則は、白雲斎に、深く頭を下げた。
「…ありがとうございます…!」
(続く)
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