第四十二話 三好三人衆迫る
永禄十一年(1568年)十二月。
京の都は、冬の寒さに包まれ、白い雪が静かに降り積もっていた。
人々は、暖を取るために、身を寄せ合い、息を白くしながら、行き交っていた。
しかし、彼らの表情には、笑顔はなく、不安と緊張が、影を落としていた。
信長が美濃へ戻ってから、都には、再び、不穏な空気が漂い始めていた。
本圀寺。
信長から京の守りを任された宗則は、広間で、地図を前に、一人、考え込んでいた。
「三好三人衆、彼らは、必ずや、この都を奪還しようと、攻めてくるでしょう」
宗則は、呟いた。
彼の顔には、陰陽師としての冷静さと、都の運命を背負う重責が、刻まれていた。
「私に、本当に、京を守ることができるのだろうか?」
宗則は、自問自答した。
彼は、まだ、自らの力に、自信を持つことができなかった。
その時、襖が開き、義昭が入ってきた。
「宗則、何か良い策は考えついたか?」
義昭は、宗則に、期待を込めた眼差しを向けた。
信長が都を去った後、義昭は、不安で、夜も眠れない日々が続いていた。
宗則の知略と、陰陽師としての力だけが、彼の心の支えだった。
「はっ! 義昭様」
宗則は、義昭に、深く頭を下げた。
「それがしは、三好三人衆の動きを予測し、それに対応する策を練っております」
宗則は、地図を指さしながら、説明を始めた。
「三好三人衆は、おそらく、四国や摂津から兵を集め、京を包囲するでしょう。彼らは、数で勝り、一気に攻め込もうとするはずです」
「なるほど」
義昭は、宗則の説明に、真剣に耳を傾けた。
「そこで、それがしは、本圀寺を最終防衛拠点とし、徹底抗戦を行うことを提案いたします」
「本圀寺を拠点とするか…」
義昭は、宗則の言葉に、少し不安を感じた。
「しかし、本圀寺は、決して堅牢な城ではない」
「ご安心ください、義昭様」
宗則は、静かに言った。
彼の言葉には、揺るぎない自信が感じられた。
「それがしは、陰陽道の力を使って、本圀寺を、難攻不落の要塞に変えてみせます」
宗則は、義昭に、自らの戦略を詳しく説明した。
彼は、本圀寺を、城郭のように改造し、周囲に、堀や土塁を築き、様々な罠を仕掛ける計画を立てていた。
「さらに、わたくしは、八咫烏の導きを受け、敵の動きを予測し、先手を打つ所存にございます」
義昭は、宗則の言葉に、感銘を受けた。
彼は、宗則の知略と、陰陽師としての能力に、大きな期待を寄せていた。
「宗則、お主の知略と力は、頼もしい。わしは、お主を信じている。共に、この都を守り抜こうぞ」
義昭は、宗則の肩を叩き、力強く言った。
宗則は、義昭の言葉に、深く頭を下げた。
彼は、義昭の期待に応え、都を守るために、全力を尽くすことを決意した。
「必ずや、ご期待に応えてみせます、義昭様」
宗則は、力強く答えた。
その夜、宗則は、自室で、春蘭からの手紙を読み返していた。
「宗則様、お元気でお過ごしでしょうか?
都は、信長様の上洛によって、大きく変わろうとしています。
しかし、私は、信長の真意が分からず、不安を感じています。
蓮様は、信長様を利用しようと、暗躍を始めています。
そして、二条尹房殿の残党も、まだ、都に潜伏しているようです。
彼らは、信長様への復讐を企んでいるのかもしれません。
どうか、お気をつけください…」
春蘭の言葉が、宗則の心に、重くのしかかった。
(春蘭様…)
宗則は、春蘭の不安を、感じ取ることができた。
彼は、都へ戻りたいという衝動に駆られた。
しかし、信長様から託された使命、京の都を守るという重責が、彼を、この地に縛り付けていた。
(私は、必ず、この都を守り、そして、春蘭様を、救い出す!)
宗則は、決意を新たにした。
その時、彼の背中のあざが、熱く脈打つように感じた。
同時に、耳元で、八咫烏の声が聞こえた。
「三好三人衆、彼らは、すでに、京に迫っておる。宗則、油断するな」
宗則は、八咫烏の警告に、身が引き締まる思いがした。
(三好三人衆…!)
宗則は、すぐに、兵士たちを集め、警戒を強めるよう、指示を出した。
「皆の者、気を引き締めよ! 三好三人衆が、都に迫っている! 我々は、信長様のご意志を受け継ぎ、この都を守る! 油断せず、全力を尽くすのだ!」
兵士たちは、宗則の言葉に、奮い立った。
彼らは、宗則の指揮のもと、必死に、防衛の準備を進めた。
数日後、三好三人衆の軍勢が、京の都に迫ってきた。
「義昭を打倒し、京を手中に収めるのだ! 油断は禁物、計画通りに進めよ!」
三好長逸の声が、冬空に響き渡った。
彼の言葉は、三好軍の兵士たちの心を、奮い立たせた。
「いよいよか」
宗則は、本圀寺の門楼に立ち、遠くに見える三好軍の軍勢を、静かに見据えていた。
彼の瞳には、陰陽師としての力強さと、都を守るという揺るぎない決意が、宿っていた。
「皆、わたくしを信じよ! 敵を撃退し、京を守り抜くのだ! 全力を尽くせ!」
宗則は、兵士たちに、最後の指示を出した。
彼の声は、冷たい夜風に乗って、遠くまで響き渡った。
冷たい風が京の街を吹き抜ける夜、宗則と義昭、兵士たちの強い決意が胸に輝き、迎撃の刻が迫っていた。
彼らの運命は、間もなく訪れる試練によって決せられる。
(続く)




