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第三十九話 陰陽頭の試練

明けましておめでとうございます。

今年も頑張って物語を紡いで行きたいと思いますので、

皆様も是非ご覧頂けると嬉しいです。

永禄十一年(1568年)十一月。

京の都は、冬の寒さに包まれ、静寂に満ちていた。

しかし、その静寂は、嵐の前の静けさ。

信長の上洛によって、都の権力構造は大きく揺らぎ、新たな時代の波が、押し寄せようとしていた。



陰陽寮の広間もまた、張り詰めた空気に支配されていた。

宗則は、信長から任命された陰陽師として、陰陽寮の重役たちの前に立っていた。

今日、彼は、陰陽師としての能力を試す試験を受けることになっていた。



「宗則殿、今こそ陰陽道の知識と実力を示す時。試験を行う」



陰陽寮頭である多々良昌隆は、鋭い視線で宗則を見据えながら、厳かに宣言した。

彼の声は、冷たく、宗則の心を凍りつかせるようだった。



「最初の試験は、天文じゃ。星々の動きを読み取り、不穏な兆しを示せ」



昌隆は、宗則に、最初の課題を出した。



宗則は、広間の外に出て、夜空を見上げた。

澄み切った夜空には、無数の星々が輝いていた。

宗則は、深呼吸をし、心を落ち着かせた。

そして、彼は、白雲斎から教わった天文の知識を、総動員して、星の動きを読み解いていった。



しばらくの間、静寂が流れた。

陰陽寮の重役たちは、宗則の答えを、固唾を飲んで待っていた。



「北東の空に、不吉な星が輝いております。それは、『天狼星』。戦乱の前兆とされております」



宗則は、静かに、しかし、確信を持って答えた。



「ほう…それで…?」



昌隆は、宗則の答えに、納得した様子を見せなかった。

彼は、宗則を認めたくないという気持ちが、強く、彼の言葉に、わざと難癖をつけようとしていた。



「天狼星の輝きは、尋常ではありません。近いうちに、この都に、大きな戦が起こるやもしれませぬ」



宗則は、さらに続けた。



「具体的に、どこの誰が戦を起こすというのじゃ?」



昌隆は、宗則を、挑発するような口調で言った。



「それは、まだ分かりませぬ。しかし、星の動きは嘘をつきませぬ。近いうちに、必ず…」



その時、宗則は、背中のあざが、熱く脈打つように感じた。

同時に、彼の脳裏に、不吉な映像が浮かんだ。

それは、燃え盛る炎に包まれた都と、血まみれになった人々の姿だった。



(これは…!?)



宗則は、驚きと恐怖を感じた。

彼が見たのは、未来の光景だった。



「宗則殿、どうされましたか?」



賀茂美玖が、心配そうに、宗則に声をかけてきた。

彼女は、若くして陰陽寮で頭角を現した、才能あふれる陰陽師だった。

美玖は、宗則の能力を認め、彼を尊敬していた。



「いえ、何でもありませぬ」



宗則は、慌てて答えた。

彼は、自分が見た未来の光景を、誰にも話すことはできなかった。



「宗則殿の言う通りです」



美玖は、昌隆に、静かに言った。



「わたくしも、天狼星の輝きに、異常を感じております。宗則殿の分析は、正しいと思います」



「ふん」



昌隆は、鼻を鳴らした。

彼は、美玖の言葉にも、納得した様子を見せなかった。



「次の試験に移ろう」



昌隆は、宗則に、鋭い視線を向けた。



「宗則殿、そなたの式神召喚の腕前を見せてみよ」



宗則は、深呼吸をし、心を落ち着かせた。

彼は、白雲斎から教わった式神召喚の呪文を、心の中で唱え始めた。

彼の背中のあざが、熱を帯び始め、周囲の空気が、かすかに震え始めた。



「臨兵闘者皆陣列在前…来れ、我が守護者…!」



宗則の呪文が、広間に響き渡る。

しかし、何も起こらない。

宗則は、焦りを感じた。

彼の背中のあざは、熱く脈打っているが、式神は、現れない。



(なぜ…?)



宗則は、額から冷や汗を流し始めた。

多々良昌隆は、その様子を見て、冷笑した。



「どうした、宗則殿? これが、信長様の陰陽師の実力か?」



昌隆の言葉が、宗則の心を、さらに焦燥感で満たす。

その時、宗則は、心の中で、八咫烏の声を聞いた。



(落ち着け、宗則。お前の心が乱れている。心を静め、澄ませ、そして、力を一つに…!)



宗則は、深呼吸をし、心を落ち着かせようとした。

彼は、白雲斎の教えを思い出した。



(陰陽の力、それは、己の心を映し出す鏡。心を静め、澄ませ、そして、力を一つに…!)



宗則は、再び、呪文を唱え始めた。

今度は、彼の声に、迷いはなかった。



「臨兵闘者皆陣列在前…来れ、我が守護者…!」



宗則の背中のあざが、眩い光を放ち、広間の中央に、巨大な式神が現れた。

式神は、漆黒の翼を持ち、鋭い爪と牙を備えた、恐ろしい姿をしていた。

しかし、その目は、宗則に、忠誠を誓う、従順な光を宿していた。



昌隆は、宗則の力に驚き、言葉を失った。

他の重役たちもまた、宗則の式神を見て、驚愕していた。



「こ、これは…!」



「まさか、あれは…!」



「宗則殿の式神は、一体…?」



宗則は、式神召喚の試験に合格した。

彼は、安堵の息を吐いた。



「宗則殿、おめでとうございます。あなたの陰陽師としての能力は、認められました」



賀茂美玖は、宗則に、笑顔で言った。



「…ありがとうございます…賀茂様…」



宗則は、美玖の言葉に、心から感謝した。



しかし、彼は、昌隆の敵意と、陰陽寮の保守的な雰囲気に、不安を覚えた。



(私は…この場所で…やっていけるのだろうか…?)



宗則は、自らの未来に、不安を感じながら、陰陽寮を後にした。



(続く)


数ある作品の中から今話も閲覧してくださり、ありがとうございました。


気が向きましたらブックマークやイイネ、気に入って頂けましたら

高評価宜しくお願い致します。

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