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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還
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8 暗殺

賑やかな祭に忍び寄る影…。



 爽やかに晴れた秋の日、秋の(フェスタ)の三日目の最終日となり、バレッサの街は今夜の海上に上がる花火で最高潮を迎える。


 リオンハルトはナミール山脈の麓の村へと魔獣討伐へ向かった第一、第二部隊がトレンタの街の手前で魔獣の暴走を食い止め、村に残っていたものも全て殲滅したとの報告を受けて胸を撫で下ろした。

 その際、ディアーナの獅子奮迅の活躍により村への被害も最小限で、村人や騎士にも重傷者はいなかったということだった。


(全く、アイツは無茶ばかりするな…。)


 本来なら今日は午後からは休みをもらえたのでリオンハルトとディアーナは祭の最終日を一緒に楽しむはずだった。

 季節外れの魔獣の襲来に突然の出動を要請されて不機嫌に魔獣を蹴散らしているディアーナを想像して思わず苦笑いが出た。

 

 リオンハルトの目の前にはシーフードをオリーブオイルで揚げた名物料理やひき肉とトマトを詰めたパイ、ソーセージのグリル、アーモンドとハチミツをかけたドーナツなどを売る屋台が立ち並びたくさんの人で賑わっている。

 若い恋人達が手を繋ぎ仲睦まじく露天でアクセサリーを選んでいる。

そんな姿を見てリオンハルトはふと思う。

 今まで自分には婚約者や恋人もいないしそういう恋愛事に関しては無縁に過ごしてきた。

 十七歳から二年間通ったほぼ男ばかりの士官学校は別にして、その前の三年間の帝国学園ではそれなりに女生徒から声をかけられたりもしたが、何となくそういう気にならなかったため誰ともお付き合いしたことは無い。

卒業舞踏会(プロム)では仕方なく、義理の従妹になるラディアスの姉のエレナにパートナーを務めてもらった。

 ディアーナも同じようなものだ。

今のところ、兄として慕ってくれている間は今のままでもいいと思っている。

それに自分はディアーナと違い、継ぐべき家も爵位も持たない。

いずれディアーナはマルティオス家を継いで、女辺境伯として婿を迎えるだろう。

その時は自分は騎士団の団長として妹を支えてやりたい。

そのために義父が決めた者と婚約するつもりだ。

せめてディアーナの婿になる者が、可愛い妹を大切にしてくれることを願うばかりだ。


 そんな事を考えながら街を警邏していると、日は沈み港の上に大きな花火が上がった。

 その時、港に近い街の中から黒い煙が上がっているのが見えた。


「火事だーっ!」


 花火見物の人々と逃げる人とで騒然とする中、火元にたどり着いたリオンハルトは、大通りから少し入った路地で炎を上げている酒場らしい建物を見つけた。

すぐさま駆けつけた騎士団員達に建物の消火と人々の整理の指示を出す。


「怪我人の救助を!水魔法を使える者は消火と延焼を防げ!他の者は警備をしろ!」


そして自身も水魔法を使い、建物に向けて大量の水を放出していく。

 そうしていくうちにやっと炎は下火になり、とうとう半分程焼け落ちた建物に白い水蒸気が立ち昇り鎮火した。

 リオンハルトも大量の魔法を使い、軽い疲労感を感じながらもホッとしていたところ、突然副官のジオルドが


「リオン様!」


と、叫びながら強い風魔法を放った。

 人混みに紛れ、リオンハルトのすぐ後ろに近付いてきた旅人のようなマントにフードを深く被った男がジオルドの風魔法により弾き飛ばされ、店の隣に積んであった酒の空瓶の木箱に突っ込んだ。


「刺客だ!取り押さえろ!」


と叫ぶジオルドの声に何人かの騎士が男を取り押さえ、手にしていた短剣(ダガー)を遠くへと蹴った。


「剣は素手で触るな!毒が塗ってあるかもしれない。」


リオンハルトも叫ぶ。

 そして縄をかけようと騎士達が身を起こさせると、男は口から血を流しすでに事切れていた。

咄嗟に毒をあおったようだ。

プロの暗殺者が身元を探られないようによく使う手だ。

 リオンハルトは嫌な予感を覚えた。

こうした祭りなどに騒ぎを起こしてその隙に暗殺を行う。


「今すぐ城へ戻る。ジオルド付いてこい!

後の者は事後処理を頼む。」


「「はっ!」」


 花火が上がり人々の歓声の中、リオンハルトとジオルドはグランマスターズ城へと馬を飛ばす。


(間に合ってくれ…!)




 グランマスターズ城の海の見える南側のバルコニーでアマリアは侍女達とともに花火を眺めていた。

 急な魔獣の討伐と祭の警備でほとんどの騎士達が出払い、今城内にはわずかな騎士が守っているのみだ。

 無事に魔獣を鎮圧し、祭りの混乱の中、城下での火災も鎮火したとの連絡を受け、アマリアはジェラールとディアーナ、リオンハルトの無事を聞き一人胸を撫で下ろした。

 その時、二階のバルコニーに黒い影が音もなく降り立った。


「何者だ!」


護衛の騎士が声を上げると同時に白刃が襲い掛かり剣がぶつかる音が響く。

護衛と黒衣の男が揉み合っているが、水魔法をぶつけられ、護衛の騎士がバルコニーより転落した。

その間に部屋の中へ逃げようとアマリア達は急ぐが、侍女の一人がつまづき倒れてしまう。

助け起こそうとアマリアが立ち止まり振り返った瞬間、男が放ったダガーが深々と左胸に突き刺さった。

 リオンハルトは騎馬のままグランマスターズ城の城門を潜り前庭へと走った時、嫌な予感は確信へと変わった。

 南側のバルコニーで花火を見ていた母達の後ろに黒衣の男が近付くのが見えた。

そして護衛の騎士と揉み合い、騎士がバルコニーより吹き飛ばされた。

そして男が母に近づいたのが見え思わず叫ぶ。


「母上ーっ!」


リオンハルトは叫びながら火魔法を放つ。

ゴオッと音を立てて放たれた火球は母に襲い掛かろうとした男を吹き飛ばした。

そして馬を飛び降り身体強化の魔法を使ってその勢いのまま二階のバルコニーへと跳んだリオンハルトは、左胸にダガーを突き立てられ薄紫色のドレスを血で赤黒く染め倒れている母の姿を見た。


「うわあぁっー!母上っー!!」


 



リオンハルトの慟哭


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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