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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還
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7 突然のスタンピード

ディアーナ暴走する。



 その日の夜遅く、領主館グランマスターズ城に帰ってきたディアーナは、先程の神殿での信じられない体験に気持ちが昂ぶりなかなか寝付けないでいた。

 あの不思議な光に触れた瞬間、身体の中に暖かい風が吹き抜けたような感じがした。

あれが何だったのかは分からないが、心が満たされるような心地よいものだった。

 そう考えているうちに疲れのせいかいつの間にか眠っていたようだ。

 そして明け方、ミリアムの控えめなノックの音に目を覚ました。


「お嬢様、お館様が急ぎお呼びです。お支度を。」


「ああ分かった。すぐに行く。」


 何かを感じたディアーナは、まだ半分覚めやらぬ意識を振り払うようにいつもの騎士服に着替えて父の元に向かった。



 広い父の執務室の長い卓には、リオンハルト他何人かが集まっていてディアーナを待っていたようだ。


「父上、遅くなりました。」


「いや、疲れているところ悪いな。」


「いえ、何かあったのですか。」


「昨夜未明に魔獣の暴走があった。

西のナミール山脈の麓の村が襲われた。」


「団長!それは! それで被害はどれ程ですか。」


「魔獣の規模は!」


「どうしてこの時期に…。」


男達が次々と質問する。


「先程、村に一番近いトレンタの町に駐在する騎士団の者が早馬を飛ばして連絡して来た。

エビルベアとフェンリル、アクリスの大型魔獣数体と、アルミラージやキラーボアなどの小型魔獣が村を襲い、家畜とそれを守ろうとした村人五人が怪我を負った。

通報を受けた騎士団が駆けつけて全て倒したが、その後も次々と森の方から魔獣が現れて今なお交戦中で援軍を求めてきた。

討伐しきれなかった魔獣がトレンタの町へ迫っている。

よってマルティオス騎士団、第一、第二部隊に出撃を命じる。

ディアーナは第一を、ラディアスには第二を任せる。

リオンは第三を率いて(フェスタ)の警備とバレッサを守れ。

以上、三十分後に出撃する。

トリトーネの加護が共に在らんことを!」


「「了解(イエスサー)!」」


男達が握りこぶしを胸の前にあて、了承の意を示した。

 第二部隊を任されたのはラディアス マルティオス、ディアーナの三才年上の従兄だ。

マルティオス一族に多い銀色の髪を持つ偉丈夫な青年だ。

魔力量も剣の腕前もディアーナについで強く、ディアーナの婿候補だと噂されている。

小さい頃からリオンハルトも入れて三人でよく遊んだ。

ラディアスには一つ上の姉、エレナがいるが、ディアーナはエレナと遊ぶより外で男の子と遊ぶ方が好きだったようで、いつも二人の後を一生懸命ついてきた。

そんな、今は強く美しく成長した従妹を見るラディアスの目は優しい。



 この世界には魔獣と呼ばれる生き物が生息している。

自然界に発生する有害な瘴気が濃く集まった「瘴気溜まり」に長時間触れていた野生の動植物が魔獣と化すのだ。

魔獣となった動物は、元はおとなしい草食動物であっても凶暴化し攻撃性を持つ。

自ら強い瘴気を放ち、毒を持つものもいる。

人間でさえ瘴気に蝕まれると、凶悪化したり体調を崩して最悪死に至ることもあるという恐ろしいものであった。

 瘴気を浄化できる者は聖人や聖女と呼ばれ、神殿の保護下に置かれるが、今現在、大陸には両手に満たない数の者がいるのみでその力もあまり強くはないと囁かれている。

 よってディアーナ達、騎士団が魔獣を討伐した後は聖人が浄化の力をこめた聖水といわれる水を用いて瘴気を浄化している。

死んだ魔獣からは濃い瘴気が放たれていて新たな魔獣を引き寄せるからだ。

 そして死した魔獣からは魔力が結晶化した魔石が取れる。

これは魔力を蓄積できるもので、これを使うと魔力が少ない人でも魔力を使うことができ、生活を便利にするためそれを狙った冒険者もたくさん活躍している。


 しかし、魔獣が凶暴化して人家を襲うのは山に食料が少なくなる冬や繁殖期の春が多い。

この時期にこれだけの数が村を襲うことは珍しい。

このスタンピードは何か違う原因が有るのか…と、騎士団を率いるジェラールは嫌な予感がした。



 トレンタの町を抜け、魔獣に襲われている村まであと少しという所で、前方に牧場の柵を壊し羊に襲い掛かろうとしているフェンリルの群れが見えた。

 その時、先頭を走っていたジェラールの馬を追い越していく黒い駁毛(ぶちげ)のある白馬が見えた。

ディアーナだ。

馬を走らせながら右手を伸ばし、羊に飛び掛かろうとしていたフェンリルの一匹に氷の槍を放った。

そのまま馬から飛び降り、ロングソードを真横に構え、水平に大きく振るう。

剣先から風の刃が放たれ、次に襲い掛かろうとしていた三匹が血飛沫を上げ倒れた。

 それを合図に騎士達が魔獣に切り掛かり、ジェラールは両掌を胸の前で組み合わせ、巨大な氷でできた障壁を作り出して魔獣の進行を防ぎ、ラディアスは両手剣(ツヴァイヘンダー)に炎を纏わせて次々と魔獣を倒していく。

ディアーナの従者であるカイルもディアーナを守りながら槍斧(ハルバード)を振るっている。

 帝国で最大の戦艦を持つマルティオス騎士団は海上戦を得意とするが、広い領地と国境を守るため、もちろん地上戦でも他を凌ぐ強さを誇る。


 その勢いのまま村まで進み、村で戦っていた仲間達と合流して昼過ぎには全ての魔獣を殲滅するに至った。

後に残ったのは大小合わせてたくさんの魔獣の屍骸の山だった。

ディアーナ達は血と泥に汚れながらも死骸から魔石を取り出し、道具の素材として使える角や毛皮などを集め、まとめて焼却しその跡を聖水で浄める。

 残念ながら元は牛や羊であっても魔獣化してしまうと肉には瘴気があって食用は出来ない。


 その一方で、このスタンピードには何か原因があると考えたジェラールはディアーナとラディアス他、数人を連れて最初に魔獣が発生したという森を探索することにした。

 他の者達は魔獣の後始末や荒らされた村の復旧に当たる。


「なぁディア、今日は特に大暴れしてたけど、何かあったのか?」


時々魔獣を倒しながら森の中を進むラディアスがディアーナに話しかける。


「ラディ兄様、だって今日は秋の(フェスタ)の最終日なのに…。

せっかくリオン兄様と屋台巡りをしようと楽しみにしていたのにこんな事になって!

だから巫女役も頑張ったのに!」


悔しそうに鼻息を荒くするディアーナに、


「そうか…。ブレないな、お前…。」


ラディアスとカイルが乾いた笑みを浮かべていた。


 その時、


「団長、あれは…!」


と、一人が指さす方を見ると、そこには目に見えるほどどす黒く瘴気が立ち昇っている泉が見えた。

 本来、澄んでいるはずの泉の水が赤黒く濁り、ボコボコと瘴気を生み出している。

あまりにも濃い瘴気のため近付くことが出来ない。


「父上、あれが原因で…。」


「多分そうだ。あの泉から流れ出た水を飲んだ獣が魔獣化したようだな。」


「団長、あのままにしておくとまた新たな魔獣が生まれてしまいます!」


「でも近付くことさえ出来ないな。

あれ程の大きさの泉だと、今ある聖水を全部使ったとしても浄化は無理だ。」


「ではどうすれば…。」


皆が絶望する中、ディアーナはふと思った。


(昨夜の海の神殿での不思議な体験で感じた暖かい風は聖水で浄化した時の感じにとても似ていた。

そして今も私の体の中にその感覚は消えずに残っている感じがする…。)


 そしてディアーナは泉に一歩近付き、あの時と同じようにひざまづき両手を組み合わせて祈り始めた。

その瞬間、辺りが白い光に包まれ、星屑のような銀色の光が降り注いだ。

 そして光が消えた後には元のように透明な水を湛えた泉に戻っていた。


「こ、これは…。」


「ディア、何をした…⁈」


 驚き戸惑っている父達と、本当に浄化出来てしまって父以上に驚いているディアーナがいた。


 そして泉の底に沈んでいるただの石になった大きな魔石を発見し、突然のスタンピードに強い疑念が心の中に湧き上がっていた。









魔獣について

エビルベア 熊型魔獣

フェンリル 狼型

アクリス ヘラジカ型

アルミラージ ウサギ型

キラーボア イノシシ型


創作ですのでふわっとした感じでお願いします。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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