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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還
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6 秋の祭と聖なる乙女

不思議な光



 あの夜からしばらく経った秋も深まるよく晴れた日、マルティオス領都のバレッサの街は明るい喧騒に包まれていた。


 青い海と空に映える白い石造りの家々は色とりどりの花やリボンで飾りつけられ、街の中心の広場には露店や屋台が立ち並び、旅回りの小楽団が楽器を奏で街の人々や観光客らで賑わっている。

 今日から三日間、海の守り神で女神アルテーアの伴侶であるトリトーネの守護と秋の収穫に感謝する(フェスタ)が盛大に行われるためだ。


 マルティオス領では、春にはこの大陸のほとんどの国で信仰されているケスニア教の女神アルテーアと春の訪れを感謝する春の(フェスタ)とこの秋の(フェスタ)の二つが行われている。


 秋の祭の最大のイベントは二日目の夜、海に面した神殿で行われる「聖なる乙女」による海神トリトーネへの祈祷だ。

 この祭の主役である巫女は、領主マルティオス家の血縁の成人を迎えた女性の中から選ばれ、以前にはディアーナの姉のアフロディテやディアーナの侍女兼護衛を務める分家のクルトール家のミリアムも選ばれたことがあった。

 今年の巫女は先々月成人となったディアーナが初めて選ばれた。

 その儀式のため、ディアーナはミリアムと、同じく護衛のミリアムの兄のカイルとともに神殿へと向かう。


 長い銀色の髪を高い位置で一つにくくり、紺の騎士団の軍服を着たディアーナと、同じ格好をしたカイルとミリアムを連れて馬で賑わう街に入るとあちらこちらから声がかかる。


「姫様ーっ、聖なる乙女役頑張って下さいねー!」


「ディアーナ様!楽しみにしておりますよー。」


街の人達に笑顔で軽く手を振るディアーナに、


「お嬢、相変わらずの人気ですねー。」


と、のんびりとカイルが辺りを見回す。

ミリアムも、


「お嬢様、どうか失敗しないように落ち着いて務めて下さいね。

まぁ、お嬢様は若様のことになるとポンコツですが、それ以外のことなら大丈夫でしょうが。」


何か散々な言われようだが、ディアーナも自覚はあるので今は黙っておいた。


 あの日の帝宮でのことは、父から


「色々思うことはあるだろうが、今は口外するな。

然るべき時期がきたら、アマリアが明らかにすると言っているから。」


と、だけ伝えられた。


 もちろん、皇太子殿下と兄がそっくりだとはあまりにも不穏で気軽に口にしてはいけないことだと分かる。。

それに二人を近くで見たディアーナと父だからそう思えることで、パッと見た限りでは二人の見かけは髪や目の色が違うためそう似ているとは思わないだろう。

五年前、神殿での立太子の儀式で遠くからお姿を拝見したことのある父も気付かなかったぐらいだ。

 そして魔力の形が似ていると気づいたのは二人に触れたことのあるディアーナだけだ。

魔力の形までわかる人は魔力量が多いとされる貴族の中でもほんの一握りだろう。

 だからディアーナさえ黙っていればこの事は秘密にできると考えた。


 そんな事を考えながら馬を進めていると、遠くの方から若い女達の黄色い歓声が聞こえてきた。


「キャーッ、副団長様ー!」


「こっち向いてー!」


「マルティオスの若様ー!」


 向こうから同じ紺の軍服に左肩だけのマント、ペリースを羽織ったリオンハルトが副官のジオルドとともに馬で近づいて来た。

青い海と美しく飾り付けられた街を背に馬を進める兄はディアーナも街の娘達に混じって歓声をあげたくなるほど格好良かった。


「リオン兄様ー。祭りの見回りですか?」


「ああそうだ。ディアはこれから神殿に向かうのか?

初めての聖なる乙女役、頑張れよ。

俺も後から見に行くから。」


「はい!お任せください。

兄様に応援してもらえるならめちゃくちゃ頑張れます!」


「ははっ、そうか。じゃ、楽しみにしているぞ。」


と、眩しい笑顔を残して去って行った。


 リオンハルトが去った後の爽やかで少し甘いマリンノートの残り香をまるで犬のようにスンスンと堪能しているディアーナを見て、ミリアムは


(やっぱりお嬢様って残念…。)


と、密かに思った。



 赤い大きな夕日が西の水平線に沈み、東の大地から金色の満月が昇ってきた。


 港を見下ろす岬の上に建つ海神トリトーネを祀る神殿には、ランタンを手にした大勢の人が詰めかけていた。

 やがて月が中天にかかり、夜の海のさざ波を金色に照らす頃、海に突き出した大きなテラスに今夜の主役である聖なる乙女が姿を現す。


 身を清め、袖の無い白いシンプルな巫女の衣装に着替えたディアーナは、長い髪を解き、頭には白い百合の花冠をつけ、長い時間ひたすらに祭壇の前でひざまづき海の安全と海の恵を祈る。

 そして潮が満ちた頃、テラスに現れた乙女の姿を見た人々は輝くようなあまりの神々しさに息を飲んだ。

 長いトレーンを引いた純白の衣装に風に靡くプラチナ色の髪、清らかな乙女の象徴である白百合の冠、腕には銀の腕輪に海神トリトーネに捧げる緑のオリーブの枝を捧げている。

 神官の祈祷の後、しずしずとテラスの先端まで進んだ聖なる乙女は伸びやかな声で、


「全ての祈りが聞き届けられ、豊穣と安寧をもたらさんことを。

偉大なる海神トリトーネに我が願いをここに捧げる。」


と、オリーブの枝を暗い海へと投げ落とした。


 ウワーッという歓声と祈りの声の中、月の光を浴びながらオリーブの枝がゆらゆらと波間に漂う。

祭りのクライマックスだ。

 そしてオリーブの枝が波に呑まれ、暗い海面より沈んでいった瞬間、パァーッと海が青白い光を放った。

 人々のどよめきの中、眩しい光があたり一面を覆いやがて銀色の星屑のような光がキラキラと降り注ぎ、聖なる乙女を包み込んだ。

 まるでディアーナを優しく守るように漂っていた光はやがて消えていき、辺りは月の光に照らされた暗い海と篝火に浮かび上がる神殿に戻った。


 一番前でその信じられない光景を見たリオンハルトや神官達、大勢の人々も一瞬の沈黙の後、それぞれが祈りの言葉や歓声を上げ、口々に


「海神様がお応えになった!」


「聖なる乙女に海神様が守護をお与えになった。」


と熱狂と興奮の内にその日の夜の奇跡を讃えた。








お兄様って香りまでイケメンよね♡



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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