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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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53/59

53 ビエナブルクの海戦 上

敵、襲来




 夏の暑い太陽が水平線を金色に染め昇ってくる夜明け、ビエナブルク港を目指す黒い船団があった。


 マストの先に漆黒の鷹に似た魔獣ステュムバロスと剣をかたどった紋章の旗を高々と掲げた禍々しい船団を発見した第四騎士団の沿岸警備隊は、すぐさま緊急の知らせを本部に伝える。

 その知らせはすぐさまサラセナ宮殿に皇帝と元帥のリオンハルト皇太子へと伝えられた。


「第四騎士団より火急の知らせです。

ビエナブルクの北、ホーン岬の沖合をドニエーブル帝国の旗を掲げた船団が南下中。

その数およそ50隻以上、船の形状からドニエーブル帝国海軍と思われます。

後、約二時間でビエナブルク港に達する見込みです。」


 突然の知らせに朝議に集まっていた宰相以下大臣達が右往左往する中、皇帝の一声が混乱を鎮めた。


「皆の者、静まれ!

我が祖国、ローゼンシア帝国に(あだ)なす者どもに正義の鉄槌を下すのだ。

皇太子リオンハルト、すぐさま第四騎士団を率いて迎撃を命ずる。

女神アルテーアの加護と共に征け!」


 その言葉に皇帝の前に進み出たリオンハルトと大臣達が一斉に右腕を胸の前に当て拳を握り跪いた。


「皇帝陛下の御意に。

女神の加護のもと、我がローゼンシア帝国に勝利を!」

 

 リオンハルト皇太子の力強い返答と共に、後の歴史でいう「ビエナブルクの海戦」の幕が上がった。




 ジリジリとした夏の強い陽射しを受け、ビエナブルク港の沖合に水平線を埋め尽くすように真っ黒な軍艦が並んでいる。

 その異形を近くに見たビエナブルクの人々は恐怖を口にし、突然の異国の艦隊の襲来に混乱に陥った。

 たくさんの砲門を持つ大型の戦列艦二、三十隻を中心に、小型のフリゲート艦や商船にも使用可能なガレオン船、まるで海賊船のようなキャラベル船など、全ての船が高々とドニエーブル帝国の紋章のついた旗を掲げている。

 実際、北の海には無法な海賊が出没して各地や行き交う船に多大な被害を与えていて、第四騎士団やマルティオス騎士団もその排除に悩まされていた。

 対するローゼンシア帝国海軍はリオンハルト皇太子の指揮の下、緊急事態を告げる号鐘の音を響かせた船団がローゼンシア帝国の紋章の旗を掲げ、詰めかけた人々の歓声を受けビエナブルク港を出航した。

 ローゼンシア帝国海軍は、74門の砲門を持つ戦列艦十隻と44門の砲門を持つフリゲート艦数隻を有する。

 この大国の規模からしてこの軍備は少なすぎるきらいはあるが、それだけこのローゼンシア帝国が長い間大きな戦がなかったことによる。

 平和ボケといわれれば反論もできないが、ディアーナの父、ジェラール ディ マルティオス提督が仕込んだだけあって艦は最新で団員は少数精鋭とよく訓練されていた。


 そしてその日の午後、いよいよドニエーブル帝国との海戦の火蓋が切って落とされた。

 横一列に艦の舷側を向け合って並んだ艦隊は、たくさんの砲門をお互いに照準を合わせて号令を待ち、夏の陽を受け黒々と輝いている。

 射程距離の外ギリギリまで近づき睨み合う艦の上、長い金色の髪を後ろで一つに括り黒い海軍の制服をまとったリオンハルトは、同じ金色のたてがみを風に靡かせた聖獣レグルスと並んで旗艦の船首に立ち敵の艦隊を睨んでいた。

 すると敵の旗艦の中央の大きな艦の舳先に総指揮官らしい真っ黒な鎧を着けマントを靡かせた大柄な女が現れた。

 ウェーブのかかった黒い長い髪が海風に靡いている。

 そして望遠鏡越しにリオンハルトの姿を見つけ紅を引いた赤い唇の端を上げ、まるで獲物を狙う獣のような目を向けて不敵に微笑んだ。


(これが烈女との噂のドニエーブル帝国の皇太女か…。)


 リオンハルトは何故かゾクリと背筋が寒くなった。

 一方ヴェローニカは敵の総指揮官の立太子したばかりだというリオンハルト皇太子の姿を認めうっそりと微笑む。


()い。あのチェザーレ(オモチャ)とは大違いじゃ。

必ず(わらわ)のモノにしてやろう。

リオンハルト皇太子よ、まずはお手並み拝見といこう。)


「全軍一斉に放て!!」


二人の号令とともに一斉放射が始まった。

 海からの追い風を受けて、風上に位置したドニエーブル海軍はぐんぐんと距離を詰めて大型のカノン砲やカルヴァリン砲、小型のミニオン砲から放たれた大小の弾丸が雨のようにローゼンシア帝国の艦に降り注ぐ。

その弾丸を防護結界で防ぎ着弾する前に火魔法やリオンハルトが雷魔法で破壊する。

 リオンハルトの指揮の下、横一列に並ぶ単縦戦法を駆使してこちらも発砲し、ローゼンシア海軍は圧倒的な戦力の少なさにも関わらず、どの艦もきびきびと統率の取れた動きで連携して戦いを進めている。

 ドニエーブル海軍はまたもや「海の悪魔」と呼ばれているポイズンデンタクルスや鯨に似た巨大なデビルウェールも数体隷属させて連れてきていて、巨大化したレグルスが空より激しく応戦していた。

 三倍はある数を配したドニエーブル帝国海軍だったが、艦の型は大きいものの旧式で砲門の数は少なく多くの艦は統率されておらずバラバラに動いていて戦い方は訓練を積んだようには見えなかった。

 小型のキャラベル船に至ってはどの船も傷みが目立ち、海軍というより海賊の寄せ集めのような粗野な戦い方だった。

 そうして少数ながらもローゼンシア海軍は敵側に多くの損害を与え、幾つもの艦を沈めた。

 風下の不利な位置であったが、連携して敵の進路を阻み、機動力を生かして旋回する敵の大型艦の横腹を狙い発砲して敵の砲門を破壊する。

 リオンハルトの的確な指揮もあってローゼンシア海軍はなかなか善戦を続けていたが夕刻になりピタリと風が止んだ。

その夕凪に乗じてドニエーブル海軍は一気に距離を詰め接舷し、まるで地獄の獄卒のような兵が鬼気迫る勢いでローゼンシアの艦に乗り移って切り込み(アボルダージュ)をかけてきた。

 そして両軍の兵達が入り乱れての大変な接戦に陥った。

 リオンハルトの乗る旗艦は特に狙われて混戦の中、次々に乗組員の騎士達はたおされ、敵の圧倒的な多さに戦況は追い込まれていった。


(クソッ、数が多すぎる。

皆、どうか持ち堪えてくれ!!)


 祈るような気持ちでリオンハルトも手にした炎をまとったロングソードを血で染め応戦している。


 その時、水平線に黒く船団の影が見えた。

敵か味方か分からないその船団は帆を膨らませ全速力でこちらに向かって来た。










ローゼンシア帝国の危機


お読みいただきありがとうございます。

家の事情もやっと落ち着きこれからも不定期ですが投稿頻度も上げれると思います。

よろしくお付き合いください。


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