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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還
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5 疑惑の夜

ますます深まる謎。



 宴が終わった深夜、ジェラールは夫婦の寝室でソファーに座り、ゆっくりと琥珀色の酒のグラスを傾ける。

そうしているうちに妻の私室のドアが開き、髪を解き寝支度を済ませたアマリアが入ってきて隣に座った。


「帝都はいかがでしたか? ディアーナは皇太子殿下とダンスをしたとか。」


「ああ…。デビューは上手くやれたと思う。」


お互い何となく探るような視線が絡まった。


ジェラールはアマリアをじっと見つめる。

今夜皇太子についての疑問を事情を知っているであろうアマリアに問うと決めていた。

 濃茶色の髪に灰色の瞳、派手さはないが年相応に落ち着いた美しい面立ちはリオンハルトの面影は無いが、目元にディアーナとよく似た聡明な輝きがある。

 元々アマリアは亡くなった最初の妻との長女、隣接する友好国であるバーナウ公国の公妃となったアフロディテの女家庭教師(カヴァネス)として帝都より呼んだ女性だった。

 元は皇妃の筆頭侍女として仕えていたが、皇妃が亡くなり騎士であった夫も殉職し、女手一つでリオンハルトを育てていたところを、こちらも男手一つで育てていたアフロディテがバーナウ公国の公子との婚約が決まったため三歳のリオンハルトを連れてマルティオス家に来てもらった。

 アマリアは帝都の大学(アカデミア)を優秀な成績で卒業しただけあって、優れた教師で、穏やかで芯の強い人柄に惹かれて求婚し、ディアーナを儲けた。

今では三人の子を育て上げ、立派に辺境伯夫人として俺を支えてくれている良き妻だ。

 ジェラールは意を決して妻に問う。


「アマリア、成人後初めてお目にかかった皇太子殿下のお顔は、目と髪の色は違うがリオンハルトと瓜二つだった。」


アマリアの美しい顔が何か苦痛に耐えるかのように歪んだ。


「なぜだ? リオンの父親は?

君は何を隠しているんだ…。」


アマリアは顔を伏せ、肩を震わせる。

長い沈黙が続いた。


「旦那様、申し訳ありません。

今はお答えすることは出来ません…。

きっと、マルティオス辺境伯家(ここ)にご迷惑をかけることになるでしょう。

でも誓って不貞を行った訳ではありません。

いつか必ずお話します。だから今はまだ…。

どうか許して…。」


静かに泣くアマリアをジェラールは強く抱き寄せた。


「分かった。今は何も聞くまい。

でもなにがあっても俺は君とリオンの味方だ。

二人を守ると誓おう。

マルティオスの名に懸けて。」


「ああ、ジェラール。 ごめんなさい…。」


静かに夜が更けていった。




 同じ頃、グランマスターズ城の見張り台の上、月の光を受けてラフな普段着姿で佇むリオンハルトの姿があった。


「お待たせしました。お兄様。」


こちらもラフなナイトドレス姿で現れたのはディアーナだ。

 月の光を浴び、リオンハルトのスラリとした立ち姿は神話の男神のようでディアーナの頭の中では記憶に留めようと忙しく働いている。

でも表情には出さず、ディアーナは話を続ける。


「お兄様、お話したい事があって…。」


「どうした?改まって。帝都で何かあったのか?」


 横に並んだ兄を見上げディアーナはますます混乱する。

 五つ離れた強く優しい兄はいつだってディアーナの憧れで目標だった。

小さな頃から少しでも兄の側に居たくてディアーナも剣を取った。

剣術や魔法が上達するたびに褒めてくれることが嬉しくて、一生懸命練習した。

いつしか「マルティオスの戦姫」との二つ名で呼ばれ、兄の次に強くなり、兄に背を預けて共に戦えることに喜びを感じていた。


 逆に兄に問いかけられ、ディアーナは息を吐く。


「初めて見たアレクサンダー皇太子殿下は、リオン兄様と髪の毛と瞳の色は違うけどそっくりの顔をしていた…。」


「えっ、俺とそっくりな顔…?」


「ええ。でも顔だけじゃない。 ダンスをしてみて分かった魔力の形もそっくりだった。

なぜ…どうして…?」


 魔力の形を感じ取れるのは、自身も膨大な魔力を持つ、一握りの者のみである。


「魔力の形が似ている…?」


 親子や兄弟、親族などの血縁関係がある者達が、顔や体型、髪や目の色が似るように魔力の形も似ることがある。

現に目の前のディアーナは少しきつめの美しい目元は母によく似ているし、髪と瞳の色は義父と同じだ。

魔力の形も義父によく似ている。

対して自分はどうかとリオンハルトは考える。

母とは顔も目と髪も魔力も全く似ているところは一つもない。

亡くなった父、伯爵家の三男で騎士をしていたというレティウス ライエンに似ていたのか?

母からは何も聞いてはいない。

母を同じくするディアーナとも何も似ているところはなかった。

 まさか父か母に皇族との血の繋がりが有るのか?

確かどちらの実家もよくある田舎の貴族で特に目覚ましいものではないと聞いていたが…。

 もしかして、以前、宮廷で侍女をしていたという母が…。

一瞬湧いた後ろ暗い疑惑にリオンハルトは首を振る。

まさか亡くなった父の事を思っていたあの母がそのようなことをするはずがない。

 ではどうして自分とは全く接点も無い皇太子が顔だけでなく魔力の形まで似ているのか…。


 心配そうに見つめる妹の問いに答えを持たないリオンハルトは力無く首を振り、困惑した表情で悲しそうに笑った。



ディアーナと父の目と髪の色はエメラルドグリーンと銀色

リオンハルトは榛色と茶色

母は灰色と焦茶色です。



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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