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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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48 兄と妹

再会そして決別



 ドニエーブル帝国軍が去り、広範囲の戦火を免れたコルネリゼ辺境伯領で、リオンハルトはエーリッヒ コルネリゼ辺境伯と共に荒らされた砦や街道と村の復興に力を注いでいた。

 ディアーナも負傷した騎士達の治療をし、食事や洗濯などの下働きをこなし、二人とも忙しく働いている。

そうして日々を送っていた時、帝都にいるテレンスからリオンハルトへ急ぎ帰還の要請が、魔力を目印に目的地まで最速で届く鳥による手紙がもたらされた。

 その手紙には、カイル達の働きによりベルゼルク大公の数々の疑惑を立証できる証拠を手に入れ、大公を拘束することができた。

それによりディアーナ達と追ってきた今までの事件の全貌が明らかにできる確証を得たので立会いを求めるとあった。

 それを読んだリオンハルトは、後の処理をエーリッヒ伯とエディに頼み、ルドルフ副団長に全てが片付いたら全軍を率いて帝都に帰還するよう命令を下して自分はディアーナとレグルスと三人で先に帰ることを伝える。

 ルドルフ副団長からは三人のみで帰る事に警備上の不安を訴えられたが、リオンハルトはこの三人なら何者にも負ける事はないと笑って伝える。

ルドルフにはディアーナが女だとバレていたが、黒髪の少年騎士のような出たちは皆にはちょうどリオンハルトの身の回りの世話をする従騎士(スクワイヤ)に見えるだろう。

 事情を聞いたエーリッヒ伯が、コルネリゼ辺境伯家が所有する河川舟運用の小型で速度の出る舟と操舵師を貸してくれることとなり、三人は帝都までレーヌ川を下ることにした。

 

 夏の雨の多いこの時期、レーヌ川の水流は豊かで吃水の浅い細長い川船は流れに乗りぐんぐんと速度を上げゆったりと進んで行く。

これなら馬で街道を駆ける半分の日数で帝都へ着くことができるだろう。


 夜になりディアーナは身体は疲れているが暑さで寝付けず、キャビンを出てデッキに上がった。

 涼しい川風と、頭上には満天の星空が広がっていてディアーナは思わずデッキに手足を広げて寝転がった。

 そこに軽い靴音をを響かせてリオンハルトが現れた。


「リオン兄様!」


 以前の名で気安く呼んでしまったディアーナは上体を起こし控えようとするが、リオンハルトがそれを止め、自分もディアーナの隣に同じように寝転んだ。

顔を横に向けたディアーナにリオンハルトは、


「前もよく、南の海の上でガレオン船のデッキに寝転んてこうやって星空を見上げたな。ディア。」


と、空を見上げる。

 そう、以前マルティオス騎士団の所有する軍艦で海賊や海に棲息する魔獣討伐の航海をしていた時、夜、マストに掲げた夜間の識別灯火の下、ディアーナはリオンハルトから夜の航海の指標になる北極星(ポーラリス)の見つけ方や星空に広がる星座を探しながら、二人でたくさんの話をした。

 今、すぐ隣で同じ空を見上げているのはあの時と変わらない声、ディアーナが慕って止まない優しくて強い兄だ。

風に乗っていつもと同じ爽やかなマリンノートの香りがした。


 ドニエーブル軍の包囲を突破して戦いが終わった夜、密かにディアーナとカイルがリオンハルトのテントに呼ばれ、レグルスとエディを含めて五人が集まった。

そしてリオンハルトとディアーナはあの夜、国境へと向かう街道で別れてからの改めて久々の再会を果たした。

 そこでリオンハルトは母、アマリアの死の間際に自分の出生の秘密を聞かされ、冒険者として聖コンティス王国へ行きそこで実の母の兄である伯父に会い、自分に課せられた宿命を知りレグルスと契約した長い長い話を皆に語った。

 ディアーナもリオンハルトがマルティオス領を去ってから、自分も母の仇とリオンハルトを探すためラディアスにだけ伝えてカイルとミリアムの三人で家を出たこと。

そして変装してメイドとして帝宮で働きながら皇太子アレクサンダー殿下と出会いその死に接してテレンスと共に真相を探っていたことを話した。


 そのテレンスからの知らせを受けて、二人は帝都へと向かっている。

怪しいと思っていた通り、ベルゼルク大公が拘束された今、犯人と断定され罪が明らかになれば母とアレクサンダー殿下の仇を取ることができるだろう。

 再び会いたいと願って帝都まで来て、行方が分からずずっと安否を心配していた兄のリオンハルトが、実はアレクサンダー殿下の双子の兄弟で、聖獣様の加護を受け、もう直ぐこの国の新たな皇太子となる。

ディアーナは自分の目的が達成できる日が近いことを感じた。

 まだラディアスと約束した期限の一年にはもう少し時間はあるが、それ以上リオンハルトの側にいる理由は無かった。

 寧ろ、皇太子になられ、「ロートシルトの妖精姫」と婚約して幸せそうなリオンハルトを見ているのはなんだか嫌だと思ってしまった。

大好きなリオン兄様が幸せになるのは嬉しいはずなのに。


「殿下、私はお母様とアレクサンダー殿下の仇討ちを見届けたらマルティオス領へ帰ろうと思います。

探していた殿下にも再び会うことができましたし。」


ディアーナは精一杯の笑顔を浮かべた。

 驚いた顔をこちらに向けるリオンハルトの黄金色の髪とタンザナイトのような紫紺色の瞳はディアーナの知らない色だった。

まるで別人のようで胸の奥が微かに痛い。


「…ここにはいられないのか?」


「はい。ラディ兄様との約束もありますから…。」


「約束…そうか…。」


 リオンハルトはディアーナとラディアスが婚約するという噂を思い出し、なぜか心の中に黒い澱が滲むような思いに戸惑う。

可愛い妹がラディアスのような良い(おとこ)と幸せになるのは嬉しいはずなのに。


 二人はそれからは無言で夜空を見上げる。

進行方向の南の空には大きな釣り針の形をした蠍座の星々が輝いていた。

 ディアーナはその中の一きわ赤く輝くアンターレスの涙で滲む光を見つめ自分に言い聞かせる。


(大丈夫。きっと大丈夫…。

兄様と進む道は別れても、同じ星を眺めながら、私はマルティオスの地から兄様の作るこの国を支えていく。)


 微かな星の光に照らされた二人の()兄妹から少し離れた船室(キャビン)の屋根の上、夏の夜風に吹かれて金色の獅子が静かに眠っている。

でもその尻尾はパタンパタンと不機嫌そうに揺れていた。

 




 


対決前夜すれ違う二人


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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