47 急転直下
テレンス怒涛の二日間(続く)
それからのワイマール宰相の決断は早かった。
深夜だったが皇帝への拝謁を強引に取り付け全権の許可をもらい、明け方皇帝直属の近衛騎士達がベルゼルク大公邸を取り囲んだ。
寝込みを突然の騎士達に取り囲まれた大公は、寝汚く喚き散らしていたが皇帝陛下直筆の命令書を見せられ、不満顔で身柄を拘束されて行った。
それと同時に特任調査官としてテレンス達が容赦なく邸に居た者達を拘束し、大公の書斎などにある書類や帳簿、手紙、ゴミ箱に捨てられていた紙屑までかなりの数を証拠として押収した。
大公は皇帝陛下の摂政として実質的にはこの国を動かしていたのだ。
今まで明らかになっていない悪事と陰謀を暴くため、テレンスは部下達に檄を飛ばした。
次の日の早朝、裏帳簿より出金先に金を積めばどんな事でも依頼を受けると噂のある闇ギルドの名を見つけ、急ぎ第二騎士団にギルドの摘発命令が下された。
今はまだ逮捕できる確たる証拠がある訳ではなかったが、大公が捕まった情報が何処からか漏れると雲隠れされる可能性があったためだ。
そして影の情報により闇ギルドのアジトが特定され、港近くの何の変哲もない倉庫の地下でギルドマスターを始め何人かのメンバーが拘束され、第二騎士団の牢屋に収監された。
そしてテレンスも立ち合いの元、取り調べが行われ、第二騎士団の厳しい尋問と大口の顧客である大公が捕まったことを伝えると、元々お金だけで使われていた者どもだ、自分の犯した罪の軽減を求めて今まで大公の依頼で行ってきた数々の裏の仕事を簡単に吐いた。
ここで初めて大公が指示してやらせていた悪事が顕になったのである。
まずは最も古い依頼は現在取引が禁止されている瘴気に汚染されている魔石を不正に購入していた事に始まる。
10年ほど前から二、三年に一度調達していて、半年ほど前にはその倍以上の量の注文があり、闇ギルドの者達はそれについての使い道は聞かされていなかった。
テレンスにとっては長年アレクサンダー殿下を苦しめ亡くなる原因と皇帝陛下の病状を悪化させた瘴気に汚染された井戸を発見した時の犯行の証拠となる証言だった。
(これでアレクサンダー殿下の敵討ちができる!)
と、証言を記録する書記官を見つめながら思わず武者震いが出た。
それからも次々と昨年の秋から大公からの暗殺の依頼を受けた事を証言した。
まず初めは医師であるモーリス ワグナーを殺害、強盗に見せかけるため実際にその場にあった金や宝飾品を盗んだ事。
次に治癒師のヨハン ユニスと酒場で親しくなり強い酒を飲ませて酔わせ、ビエナブルク港に沈めて殺害した。
そして次にマルティオス辺境伯領でマルティオス辺境伯夫人アマリアとリオンハルト ライエン辺境伯騎士団副団長の殺害を依頼され、ギルドでも腕利とされる暗殺者を二人送ったが、アマリア夫人は殺れたがリオンハルト ライエンの殺害を失敗し、二人とも返り討ちにあって戻って来なかった事。
よって依頼の一つを失敗と見なされ、いつも大公からの依頼と金を持ってくるケプラー秘書官から約束していた報酬を減額されて揉めていたが、しばらく後、そのケプラー秘書官も殺害するよう依頼がきてその通り仕事をこなした事を語った。
またその際、ターゲットとなった人達がなぜ狙われたのかという理由は一切教えられなかったとの事だった。
もちろん、テレンスにはその理由はすぐ理解できた。
昨年秋の亡き皇妃様に関わる一連の殺人事件はやはり大公が仕組んだ事だったのだ。
あの時期になぜリオンハルト殿下の出生の秘密に大公が気づいたかはまだ謎のままだったが。
全てを打ち明けて減刑を期待している闇ギルドの者どもには悪いが罪は罪だ。更々応じてやる気はない。
きっちり処刑なり重労働刑なり正式な刑を受けるがいいとテレンスは無言で立ち上がった。
あれから大公はサラセナ宮殿の端にある塔の中の貴族牢に収監され、
「儂は何も知らん!何もやってない!冤罪だ!」
と、叫んだきり調べに対して無言を貫いている。
闇ギルドの者達の証言を聞かされても、下賤の者の言を信じるのか!と、取り合わないであろう。
でもこちらにはカイルとミリアムが手に入れてくれた動かぬ証拠がある。
あの呪いのような魔法が掛けられていたため、証拠となる手紙は全て燃えてしまったと思っているのだろう。
あとは押収した書類を調べ上げ、不正や悪事を洗い出し罪を積み上げてこちらもきっちり落とし前をつけさせてやる。
アレクサンダーとリオンハルト両殿下の、ディアーナの恨みと仇は取ってやる!
と、この二日間一睡もしていないテレンスは、その秀麗な顔に何か凄みを感じさせる微笑みを浮かべ、部下達を怯えさせている事には気付いてはいなかった。
ローゼンシア帝国の帝都ビエナブルクから遥か隔てた北の地、ドニエーブル帝国の帝都セルゲルスクにある黒の宮殿の一室に低い男の怒号が響く。
「何だと⁈ どういう事だそれはっ!
大公が捕らわれただと?」
カーキ色の豪華な軍服を着た大柄の男が大きなテーブルを叩いて立ち上がる。
睨まれて体をすくませるこちらも大柄の男が、
「ですから皇帝陛下、こちらに向かっていた使者が死に書簡が奪われ、それにより大公が拘束されたということでございます。」
「と、いう事はヤツとの密約がバレたのか。手紙は燃えたんだろうな?
あの約束も全てが無駄になったのか!
あれだけ兵も魔獣も失い、我々は何も得るものが無かったというのか!」
「はい。おそらく燃えた書簡には息子の、人質の返還の代償として新たな条件の提示もあったはずですが、それももう…。」
「お、おのれローゼンシアめ、報復を!!
まずはもう価値の無くなったあの人質を牢から出せ。首を刎ねてしまえっ!」
「偉大なる父上。お待ち下さい。」
皇帝の後ろで控えていた、黒髪で黒地に金の豪華な刺繍をしたドレスを纏った大柄な若い女が声を上げた。
「何だ、ヴェローニカ。」
実力主義のドニエーブル帝国で何人もの兄弟をあらゆる手段を使って排除し、次期皇帝の座についたヴェローニカ皇太女が薄い唇を開く。
「チェザーレを我が情人に頂きとうございます。」
「ふん、では好きにしろ。」
「では、ありがたく。
ローゼンシア帝国への報復の一環といたしましょう。」
そう言って赤い瞳に冷たい微笑を浮かべた。
いよいよディアーナの本願達成か?
チェザーレの末路
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