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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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42 行軍と布陣

リオンハルトの出陣と疑惑



 コルネリゼ辺境伯領へと向かう沿道で、民衆から声援を受けながら行軍は続く。

 帝都を出た辺りで魔獣討伐を主流に行っている第三騎士団の一軍も合流し、後方支援を受け持つ医療魔術師達や食料や野営のテントなどを運ぶ荷馬車を含め、総勢五百人を超える大軍となった。


 白馬に跨がり華々しく出陣式を出発し、沿道に詰めかけた人々に笑顔を振り撒いていたチェザーレ将軍は、ビエナブルクを出た途端お尻が痛くなったとか何とか言って早々に馬を降り、今は豪華な馬車に乗って移動している。

 その馬車を先導する形で軍隊の先頭をローゼンシア帝国の旗を掲げて騎乗して行くのはリオンハルト皇子であった。

 その半歩後には同じ黒の軍服を着た聖コンティス王国から一緒に来たという赤髪の騎士が馬を進めている。


 コルネリゼ領では小さな諍いが過去に何度かあるが、この国が外国からの侵略を受けたことはこの百数十年は無い。

国力があるために強いて攻め入ろうとする国は無く、はっきり言ってこの国の軍隊は規模も小さく平和ボケしているとディアーナは見ている。

しかしディアーナでさえ、マルティオス領に隣接するグルシア王国と、姉のアフロディテが望まれて嫁いだバーナウ公国ともに友好国であるため、戦闘といえば魔獣討伐か山賊や海賊の撃退のみだ。

 それでもディアーナから見てチェザーレ将軍とその取り巻きの近衛騎士達の態度は目に余るものだった。

 夜、ディアーナを含む普通の騎士達は、皇帝の直轄領ではその地を治める代官や、コルネリゼ領では町の統治を任されている子飼いの貴族が提供する簡易宿泊所か町の外で野営のテントを張って過ごしたが、チェザーレやリオンハルト達上層部や近衛騎士達は領主の館で豪華な接待を受けていた。

 それ自体は問題ないが、独身で皇位継承保持者であるリオンハルトとチェザーレの寝所には、あわよくばと縁を求めて領主の娘や縁者の娘が送られてきたことがあった。

 リオンハルトはそれ以来、接待は受けるが普通の騎士達と同じ場所で夜を過ごし、にわかに集められた軍隊に少しでも馴染めるようにと酒を酌み交わしながら気軽に話をして結束を固めているようにディアーナは好ましく見ていた。

 一方、チェザーレと近衛騎士達はそのまま接待を受け続けてまるで遠征に来たというよりも物見遊山に来たような有様だった。

そのため、急ぎの行軍のはずなのに朝の出発が遅れる日もあった。

 それと、チェザーレ将軍にはお気に入りの近衛騎士がいる。

ヴァイン伯爵家の三女であるルクレチアという名の女性騎士だ。

 女性の近衛騎士は珍しく、ブロンドの髪のボン、キュッ、ボンな豪華な美女で、チェザーレは馬車に同乗させ、夜も()()()()()一緒の寝室を使うという。

ディアーナは呆れているし、あんなに重そうなお胸が付いていて、剣を振う時ジャマになってしまわないのかと思ってしまう。

いや、決して羨ましいとかではない…たぶん…。



 コルネリゼ辺境伯領に入り、ドニエーブル帝国との国境近くの戦場になっている地に近づくにつれ、少しずつ緊張が増してきた。

 一つの村が壊滅し、街道沿いの村や町でも戦禍を逃れるように住人の避難が続いている。

 ドニエーブル帝国軍は峠越えの街道の検問所になっている大きな砦を落とし、そこを拠点として麓にある村を襲って占拠し、村から食料を調達して街道を南下するように進軍を始めた。

 今は、砦を奪われたが体勢を立て直したコルネリゼ騎士団が辛うじて食い止めている状態だ。

そんな中、チェザーレ率いる(?)一個大隊が応援に駆けつけた。


 大いに喜び士気が上がるコルネリゼ騎士団を交えて早速軍議が開かれる事となった。

 若き辺境伯、エーリッヒ コルネリゼ伯はディアーナの一つ上の十七歳。

濃いグレーの髪のまだまだ体の線は細いが、父の元辺境伯に似て、ゆくゆくは同じような偉丈夫になるだろう。

 そんなコルネリゼ伯の話によると、突然国境を越えて襲ってきた約六百人ほどのドニエーブル帝国軍は、砦とその麓の村を襲って手に入れた後、その勢いのまま南下してコルネリゼ領を蹂躙するかと思われ何とか食い止めたが、その後はあっさりと砦に立てこもり、向こうも今まだ援軍は無く、三日に一度ぐらいの割合で何か挑発するような小規模な戦いを仕掛けてきて、何のためにわざわざ国境を越えてまで攻め入ったのか、何か裏があるのかと辺境伯も理解が及ばす頭を悩ませていたとの事だった。

 そんな戦況を聞き真っ先に発言したのはチェザーレ将軍だ。


「我々が来たからもう心配はない。

私が上手くこの戦いを終わらせてみせる!」


と力強く宣言した。

 そして将軍補佐官から資料を受取り指示を出す。


「コルネリゼ騎士団は今と同じ街道を塞ぐ場所に陣を置き野営地としろ。

私の軍はその左手の丘陵の上に陣を張る。

そしてリオンハルト皇子には隠密に別動隊を率いて、街道をそれた砦の東側の森の中の川が合流する地点に陣を敷き、翌朝砦から出陣したドニエーブル帝国軍の左から奇襲をかけて足取りを乱して欲しい。

そうして慌てて混乱したドニエーブル軍を我が軍と辺境伯軍とで正面から叩く。」


 つまり密かにリオンハルトに別動隊を指揮させて森の中に隠し、ドニエーブル軍を横から奇襲せよということだ。


「よってリオンハルト皇子にはこの後すぐに、そうだな…ホーエン第一騎士団副団長とその元の分隊と、第三騎士団の一分隊を率いてすぐに野営地に発ってほしい。」


「了解した。」


 リオンハルトはこの作戦の有効性を認めながらも何となく微かな違和感を感じたが、すぐに出発準備にかかる。

 この別動隊に配属されたルドルフ ホーエン第一騎士団副団長とは何度か話をしたことがある。

子爵家の次男で、最近まで分隊長をしていて実力で第一騎士団の副団長になった偉丈夫の気骨のある男だ。

その元の分隊は平民や下級貴族の二男、三男ばかりの小隊だが、なかなか実力もあるようだ。

第三騎士団の分隊も、魔獣討伐を主にしていてほぼ平民ばかりだが、実戦に関しては日頃からこなしているため問題は無さそうだ。

 リオンハルトは今は皇子の専属の護衛となったエディとともに六十人程の小隊を連れて指定された野営地に向かった。


 指定された場所は、街道から逸れ森を抜けた所にあり、砦の建つ峠を西に望む、背後に二本の川が合流する崖の上の開けた場所だった。

もし敵に勘付かれて攻め込まれたら逃げ場の無い、背後の崖から川に落ちるしかない布陣するには最悪という場所であった。


(まさか、わざと追いやられたのか…?)


リオンハルトの胸に苦い疑惑が渦巻いていた。


 

やっぱりチェザーレは嫌い!(ディアーナ)


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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