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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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35 ディアーナの新たな決意

久々の探偵テレンス

今度はディアーナと組みます。



 皇太子アレクサンダー殿下の葬儀や一連の行事が済み、参列に訪れた貴族達や国外からの賓客も皆、帰途につき、最後に残っていた聖コンティス王国の一団もエリーザベト皇妃殿下の墓に詣でた後、帰国した。

 やっと平常に戻った帝都ビエナブルクとサラセナ宮殿であったが、慌しかった故に殊更ひっそりとした感があり、人の心まではまだまだ元には戻らなかった。


 皇太子付きのメイドだったディアーナとミリアムは、最後の仕事として殿下の私室と寝室の片付けと掃除を命じられた。

 後宮の一角、久々に踏み入れる殿下の寝室の大きな窓を開け放つと、初夏を思わせるような陽気と爽やかな風が吹き抜け、主の居なくなったベッドの天蓋(キャノピー)の薄いカーテンを揺らす。

 その空っぽの空間にただ風が吹き抜ける様はまるで私の心のようだとディアーナは思う。

この半年ちょっとの間に母の死、兄の出奔、皇太子殿下の逝去と、立て続けに起こった不幸な出来事にどれだけ涙を流したのだろう。

泣きすぎて心の中の潤いが全部流れて空っぽのカサカサになってしまったような気がする。

 思わず感傷に浸ってモップを持つ手が止まっていたディアーナの様子をミリアムが心配そうにじっと見ていた。

ハッとしたディアーナに、


「ごちゃごちゃ考える前に身体を動かせ!」


と、大声を上げる父の声が飛んできそうで少し気持ちが軽くなる。 


 再び掃除を始めたディアーナはベッドの反対側の床を拭いていると、ふとサイドテーブルの上に水が入ったままの水差しとコップが置いてあるのに気がついた。

もしモップがぶつかってしまってガラスの水差しが割れたら大変だと思い、移動しようと手を伸ばしてハッとする。


(瘴気だ!)


細い注ぎ口から微かに感じるこの禍々しい気配。

上の蓋を開けると中からなお一層濃い瘴気が漏れ出て慌てて蓋を閉めた。


「ミリアム、今すぐここへテレンス様を呼んできて!」


「お嬢様、何かありましたか。」


「説明は後で、今すぐお願い。」


「分かりました!」


ミリアムが部屋を飛び出し、しばらくしてテレンスと共に息を切らして戻ってきた。


「アンナ、どうした。何かあったのか?」


「テレンス様、見つけました!

この水差しです。この中の水は瘴気に汚染されています。」


「えっ⁈ 瘴気だと…? この水差しの中か。

やはりアレクサンダーの死は瘴気が原因だったのか!」


「この水は殿下が朝晩の薬を飲む時のものです。」


「そんな…。薬で病を治すどころか知らずに悪化させていただと!」


テレンスは厳しい顔で悔しそうに唇を噛んだ。


「アンナ、よくやった。

これはアレクサンダーが誰かに命を狙われていたという重要な証拠になる。

これをこのままの状態で残せるように防護結界を張っておこう。」


テレンスが手をかざして魔法を展開する。

そしてディアーナに向き直り、


「手を止めてすまないが、アンナ、いやディアーナ嬢に話をしたいがいいか。」


と、厳しい顔のままソファの方へ誘う。


「はい、何でしょうテレンス様。

ディアーナで構いません。」


と、向かいに座ったディアーナが後ろに控えるミリアムに目配せすると、ミリアムが察して防音魔法を展開する。


「では、ディアーナ。

私は今回のアレクサンダー殿下の事、君の母上や兄上の事、殿下の出生時に関わった者達の事件を含めて全て同じ人間達が画策したと考えている。

とても残忍で狡猾だ。

だからこそ私はそいつを、犯人を捕まえたい。

我が友、アレクサンダーの無念を晴らすためにも。

ディアーナ、協力してもらえるか?」


「もちろんです!テレンス様。

そのために家出して身を偽ってメイドをしているのですから。

私も母と殿下の仇を討ちたいです!」


握り拳を固めるディアーナに、


「ありがとうディアーナ。

私はこの一連の事件は、この国の皇位継承が絡んでいると思う。

その場合、一番得をするのはベルゼルク大公だ。

私は動機もあり、かなり容疑は濃いと思うのだが、決定的な証拠が無く、王族でもあり手が出せないんだ。」


「私もそうだと思います。

私達が調べたところ、大公はアマンダ妃と通じていて、()()()()が邪魔というようなかなり際どい話をしていたのも掴んでいますが、それだけではどうしようもできなくて。」


「そうだな。だからこの水差しの件は重要な証拠となるんだが、私は魔力量は多い方だが瘴気を見ることはできないんだ。」


「そうなんですね。これは魔力の性質にもよりますし、私と父と兄、従兄は分かるんですが、分かる人は数少ないかと思います。」


「もしかすると血族の特性かも知れないな。

一度神殿に相談するか。神官なら分かる者がいるだろう。正式な立場の者の判断がいる。

それに皇帝陛下の方も念の為調べてもらう方がいいだろうな。」


 テレンスは一旦、ミリアムが入れてくれたお茶で喉を潤す。

そして真剣な目をディアーナに向けた。


「実は、父の宰相から極秘に伝えられた事がある。

君になら伝えてもいいだろう。

君が探していた、リオンハルト ライエンが見つかった。」


「えっ⁈ 兄様が…。」


「聖コンティス王国で、国王フェルディナンド陛下の庇護の下にいた。甥として。」


「甥?そ、それは一体どういう事でしょうか…?」


ディアーナの身体が大きく前へ揺れる。


「君の言った通りだったようだ。

アレクサンダーとは双子の兄弟ということが証明された。

今後、喪が明けた時期を見て正式に発表する。

それまで何があるか分からないからこの事は一切秘密だ。」


「ぐっ、ぐふぅ…。」


思わずヘンな声出たディアーナは、混乱と安心と寂しさと何やらよく分からない状況に涙が溢れ出す。


(兄様!リオン兄様が見つかった!

でももう兄様では無いのか?

とにかく無事で良かった…!)


 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった令嬢らしからぬディアーナにテレンスは苦笑を湛えて静かにハンカチを差し出した。

いつもは伶俐な面差しで淡々としているように見えるが、気遣いの出来る人のようだ。

 ディアーナはテレンスと共にきっと犯人を捕まえて悪事を暴いてやると決意を新たにした。



 二日後、テレンスの依頼通りビエナブルク大神殿から瘴気を見ることが出来るという聖騎士がサラセナ宮殿に派遣されて来た。

白い聖騎士の制服に身を包み、銀色の使い込んだ剣を腰に差した背の高い立派な騎士は、後ろで一つにまとめた長い茶色の髪を揺らし壮麗な宮殿の正面の入り口に馬より降り立った。

 


ディアーナ安心する。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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