34 皇子の帰還 下
リオンハルトの証明の続き。
突然目の前に現れた黄金色の髪に紫紺の瞳を持つ若者の顔を見たユーレヒト皇帝は呻くように呟く。
「ア、アレクサンダー⁈ まさか…。」
あまりにも亡きアレクサンダー皇太子にそっくりな顔にベルゼルク大公もワイマール宰相も驚きに目を見開く。
それを見たフェルディナンド国王が静かに口を開く。
「改めて紹介する。
この者の名はリオンハルト ライエン。
エリーザベトの産んだもう一人の子。
ローゼンシア帝室の禁忌を愁い、エリーザベトが密かに侍女だったアマリア ライエンに託し、何も知らされず今までマルティオスの地で育ったのです。
昨年の秋、養母が襲われて亡くなる直前、この指輪と自身の出生の秘密を知らされ出奔し、それを確かめるため聖コンティス王国までたどり着きました。
そこで我が国で災害級の被害をもたらしていたキマイラを討伐して聖騎士の称号を与えられたほどの実力を持っています。
この姿がリオンハルトの本当の姿。
エリーザベトの聖コンティスの血とユーレヒト陛下のローゼンシアの血を受け継ぐ皇子。
そして女神の神託により導かれし運命を持つ者で
す。」
声高らかに告げるフェルディナンド王の姿は神々しい預言者の様だった。
驚きすぎて皇帝と宰相が言葉を発することが出来ないでいる中、憎々しげに大公が呻く。
「まさか、そんなはずはない…。」
そしてハッとして叫ぶ。
「そうだ、騙されてはいけない!!
フェルディナンド王はきっと身内の者に魔法をかけて姿を変えさせ我々を騙そうとしているのだ。
そしてこの機に乗じて我が国を乗っ取るつもりに違いない。
そんな指輪いくらでもそっくりに作れるはずだ。
そいつもリオンハルト ライエンだという証拠も無い!」
ユーレヒト帝は目の前の思っても見なかった事態に混乱を極める。
フェルディナンド王の予想外の話とあの日以来なくしたと思っていたエリーザベトの指輪、アレクサンダーが自分の誕生時の事に疑問を持ち、リオンハルト ライエンを探させていたという宰相の証言、もちろんその話が本当だとの証拠がないと言う弟の反論にも一理はある。
しかしこのアレクサンダーと瓜二つの容姿を持つ若者は一体何者なのか…?
大公の暴言ともいえる否定の言にも動じることなくフェルディナンド王は続ける。
「昨年秋、我が血統の預言者が女神からの神託を授かりました。
東の獅子の旗印を戴く国より争いが起こり、やがて大陸の多くの国をも巻き込む動乱となろうと。
しかしその混乱を収める為、女神の寵愛を受けし者が現れる。
そう、この国の500年前の史実のように。」
「それは「暗黒の五十年」を収めたリオネル帝の事でしょうか?」
と、宰相が問う。
「そう。リオンハルトはリオネル帝と同じく我が国にある「深淵の泉」の試練を受け、見事女神の加護を授かりました。
帝よ、エリーザベトも預言者であったことをお忘れか。
リオンハルトはエリーザベトが自分の命をかけて遺した子だ。」
「そうだ。エリーザベトは正しく聖コンティス王国の宝ともいうべき預言の力を持つ姫だった。
エリーザベトが最後に望んだのはその者の命を繋ぐ事だったのか。その時の為に…。」
ユーレヒト帝がしみじみと呟く。
「リオンハルトよ。今こそ自身が授かりし力を示すのだ。
契約の腕輪を。」
フェルディナンド王に促されてリオンハルトが頷く。
そして右手で左手首に嵌った金の腕輪を握ると途端に眩しい光が溢れてそれらが集まり一つの形を作る。
収まった光は輝く黄金の豊かなたてがみと白い翼を持つ大きな獅子となった。
一体何が起こったのか理解出来ないという顔つきの皇帝と大公と宰相をゆっくりと睥睨した獅子はリオンハルトに向かって親しげに言葉を発した。
「我を呼んだか?リオンハルト。」
「はい。突然のお呼びたて申し訳ありません。レグルス様。」
「良いぞ。なんせあっちは退屈だからな。して、ここは?」
「ご機嫌麗しゅう。レグルス様。
ここはローゼンシア帝国のサラセナ宮殿でございます。」
フェルディナンド王が神官らしく両手の指を組み合わせる祈りの姿勢で礼をする。
「フェルディナンド王か。そう硬くならずともよい。
我はローゼンシアに帰って来たのか。
ふむ、あれから500年近く経ったのかの。
リオネルの造った国は賑やかになったものよ。」
獅子は会議室の大きな窓から眼下に広がるビエナブルクの街並みを眺めた。
「フェルディナンド殿、このお方はまさか…。」
ユーレヒト帝が戸惑いながら尋ねる。
それに気付いた獅子が代わりに答えた。
「ん?我が名はレグルス。
女神アルテーアの加護を受けし預言の子、リオンハルトを助けるために遣わされた守護者である。
聖獣と呼ばれておるがな。
リオネル帝とヴァレリア妃の子孫達よ、500年前と同じく再びこの国に災いと混乱が起ころうとしておる。
それを収める為、女神はこの国の正統なる皇子、リオンハルトを選ばれた。
これは神託である。」
金色の神々しい獅子の姿は、その後ろの壁に天井から吊るされたタペストリーのこの国の紋章の翼のある獅子と同じ、創世神話そのままの姿だった。
皇帝は驚きと畏敬の念に心を打たれ、その御前に思わず片膝をついて従順の姿勢を取った。
皇帝に遅れ、一歩下がって宰相も同じ姿勢て首を垂れる。
二人の様子を見て大公も慌てて膝をつくが、その目は烈しくリオンハルトを睨んでいたことに気付く者はいなかった。
リオンハルトの新たな運命の始まり。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




