33 皇子の帰還 上
明かされる真実。
アレクサンダー皇太子の追悼の夜会の次の日、ほとんどの外国からの賓客や帝都から離れた領地を持つ国内の貴族が帰途につく中、聖コンティス王国のフェルディナンド国王は特別にユーレヒト皇帝に謁見の申し入れを許された。
豪華な会議室の長テーブルを前に席についているのは皇帝と右にアウグスト大公、左に宰相であるカール ワイマールだ。
そこに護衛の聖騎士を一人連れたフェルディナンド国王が入ってきた。
「ご無沙汰しております、皇帝陛下。
お忙しい中、お時間を頂き恐悦に存じます。」
お互い立ち上がり握手をしながら笑みを交わす。
「いや、こちらこそわざわざのお越し嬉しく存じます、義兄上。」
年齢はフェルディナンド国王の方が一つ上で、元々ユーレヒト皇帝とエリーザベト皇妃は政略結婚だったが、二人は長い婚約期間を経るうちにお互いを理解し愛し合う仲睦まじい夫婦であり、よって国同士も個人としての関係も良好だった。
「だからどうか気楽にお話下さい。」
「では、お言葉に甘えて。」
と、挨拶が済み、ユーレヒト帝は両脇に座る二人を紹介した。
二人の王達は息子と甥のあまりにも早い死を嘆き合い、ひとしきり悲嘆にくれた後、フェルディナンド国王は本題を切り出した。
「さて本日は、皇帝陛下にこの国の後継について至急内密にお伝えしたい事があり場を設けていただきました。
念の為、この部屋に防音魔法を施してもよいだろうか。」
許可を得たフェルディナンド王が見事な魔法を展開する。
思ってもみなかった話に怪訝な顔で皇帝が口を開く。
「後継についてとは、いったいどういう事でしようか?
アレクサンダー亡き今、後継についてはここにいる公爵位を持つ弟のアウグスト ベルゼルクとその息子のチェザーレが継承権を有しておりますが。」
ローゼンシア帝国の皇位継承権は男子のみと決まっていて、現在、権利を持っているのは三人、皇帝の異母弟であるアウグスト大公と甥のチェザーレ、皇帝の従兄弟になるクラレンス公爵の三人だけだった。
「分かっております。
でも、亡き妹、エリーザベト皇妃のアレクサンダー殿下の出産の時の様子を改めてお尋ね致したい。
もし、エリーザベトがアレクサンダー殿下の他にもう一人子を産んでいたとしたら?」
「まさかそんな!!
私はエリーザベトの出産には立ち会ってはいませんでしたが、そんな事実は一切無かったと…。」
すると横から、
「フェルディナンド王よ、そのような戯言をっ!
まさか皇妃が我が国では忌み子とされる双子を産んだと申されるのか!
他国の事に余計な口出しをして我らを愚弄するおつもりか!」
激昂するベルゼルク大公がテーブルを叩きガチャンとティーカップが音をたてる。
重苦しい沈黙が流れ、それを破るようにワイマール宰相が口を開いた。
「しばらく前、息子のテレンスが不可解な話を聞き、極秘で調査を行っておりました。
アレクサンダー皇太子殿下と目と髪の毛の色は違うがお顔が瓜二つな若者がいると。」
「そんな顔が似ている者など国内だけでも何人もおろう!
ただの噂話だけで動くとは、宰相も息子もまともではないぞっ。」
ますます激昂する大公が立ち上がり、ティーカップが倒れて紅茶が溢れる。
「アウグスト、とりあえず落ち着け。」
と、皇帝が口を挟む。
そんな大公の様子にも動じることなくワイマール宰相が続ける。
「皇太子殿下の将来の侍従であった息子は、皇太子直々の命を受け、内務省の保管庫に残されていた皇妃殿下のご出産の記録を調べました。
そしてその出産に携わった、記録に残されていた五名の医師と治癒師、女官からその時の状況を詳しく聞き出すため行方を探しましたが、その五名全員がすでに亡くなっていました。
数年前に高齢で亡くなった二名を除き、三名の者が昨年の10月から二か月の内に何らかの事件と事故で死亡していました。
それともう一人、殿下に似ていると言われた若者も同時期に何者かに襲われ行方不明となっています。
果たしてこれは偶然なのでしょうか?
息子が調べたのと同じ記録を、昨年の9月に大公閣下のケプラー秘書官が保管庫より借り出したとの記録が残っていますが、大公閣下、これについてお心あたりはございますか?」
宰相が眼鏡の奥から鋭く大公を伺う。
「知らん!
そんな事、私は全く聞いていない!
ケプラーの奴が勝手にやった事だ。」
「どういう事だ、これは…。」
宰相の思いもよらない話に皆戸惑っている。
「皇太子殿下がお探しになられ、今、行方不明になっている若者の名は、リオンハルト ライエン。
その者は陛下もよくご存知かと思います、元近衛騎士で陛下をお守りして殉職した、レティウス ライエンの遺児です。」
「何⁈ レティウスの?
と、いうことは、その者の母はアマリア夫人か!
エリーザベトの筆頭侍女だった。
確か、出産に立ち会って、エリーザベトが亡くなったことにショックを受けて自身も早産し退職した。その時の子か!」
「左様でございます。
そしてそのアマリア夫人は今は、昨年10月に何者かに襲撃されて亡くなったマルティオス辺境伯夫人です。陛下も葬儀の折には献花なされた。」
「何と、そんなことがあるのか…。そしてアレクサンダーと同じ日に生まれた子が、顔が似ていると…?」
「兄上、だとしても、アマリア夫人の子でしょう?
顔が似ているというだけで双子とは何ともおかしな事ではありませんか。
第一に、出産に係わった者全員が亡くなっているのですから何も証拠はありません。
何を根拠に、フェルディナンド王も宰相もくだらぬ噂に惑わされて、我が国を貶めしているのやら。
それにそのリオンハルトとかいうライエンの子の行方も分からずでは、全く言い掛かりも甚だしい!」
怒りで顔を真っ赤にして怒鳴っているベルゼルク大公を冷ややかに見たフェルディナンド国王は、困惑顔のユーレヒト皇帝に向き直り、静かに懐から何かを取り出し皇帝に差し出した。
「皇帝陛下、これが何かお分かりになりますか?」
じっと王の差し出した物を見つめた皇帝の顔色が変わった。
「こっ、これはエリーザベトの指輪⁈
ずっと左の指にあったものが、あの亡くなった日よりいつの間にか消えていた。
これがなぜここに…。」
「そう、これは我が父が嫁ぐエリーザベトに与えた物。
魔道具でもありカレルギー王家の血を引く者しか嵌めることは出来ません。
そしてこの指輪はエリーザベトが亡くなる時、ローゼンシア帝国の禁忌を危惧し、子の無事を願って侍女に託した物。
エリーザベトの祈りの魔力が込められています。
我が甥、リオンハルトの為に。」
「!!」
「リオンハルト、来なさい。」
フェルディナンド王の後ろに影のように控えていた長い茶色の髪のスラリとした聖騎士が近付く。
「そなたの指輪を返そう。嵌めてみなさい。」
「はい。伯父上。」
リオンハルトと呼ばれた聖騎士は、皆が驚きで固まる中、王より指輪を受け取り左の中指に嵌める。
小さな指輪がなぜかピッタリと指に嵌った瞬間、白い光が辺りを包んだ。
光が収まった時、そこには黄金色に輝く髪に紫紺の瞳を持つアレクサンダー皇太子によく似た整った顔立ちの青年が立っていた。
とうとうフラグ回収
長くなるので話を分けます。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




