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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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32/59

32 追悼の夜会で

分かりやすい悪役登場。



 アレクサンダー皇太子の葬儀から二日後の夜、サラセナ宮殿では葬儀に参列してくれた外国からの賓客のもてなしも兼ねて亡き皇太子を偲ぶ夜会が開かれることとなった。


 シャンデリアの煌めく大ホールの正面には大きな皇太子の肖像画が飾られ、白い花輪が置かれている。

 正装姿の招待客らがグラスを片手に思い思いの会話や食事を静かに楽しんでいる中、まるで今夜の主役といった風情でケバケバしく着飾りあちらこちらで大声で笑談している三人の人物の姿があった。

 この夜会を主催した皇帝はまだまだ息子を亡くした心労と病状の悪化のため、最初に簡単に開会の挨拶をしただけで早々に退場してしまった。

 そうした訳で、この国で皇太子亡き今は皇位継承の第二位と三位の皇帝の弟であるアウグスト ベルゼルク大公と息子のチェザーレが立場の上ではホストということになる。

 この夜会の性質上、哀悼の意を表する思いも込めて参加している貴族達は皆、黒やもしくは落ち着いた色のジュストコールや儀礼服で、女性も同じで装飾は少なめの控えめなドレスとトーク帽やベールなどのヘッドドレスの者も多い中、大公とその息子の二人だけが場違いな金銀の刺繍の入ったテカテカした派手な色合いの服を着て笑みを湛えて愛想を振り撒いていた。

 そしてもう一人、大公の横にはベッタリと()側妃のアマンダ パルマンが自慢のストロベリーブロンドの髪に合わせたかのような赤地に金の刺繍の豪華な胸元の大きく開いたドレスと大ぶりのルビーのネックレスにその豊満な身体を包んでエスコートを受けていた。 


 そんな夜会の出席者の様子をメイドとしてディアーナとミリアムと会場の警備を担当する第一騎士団の軍服を着たカイルの三人がホールの角から眺めていた。

 ディアーナは客達の使ったグラスや皿を片付けながら、大勢の人の中に父、ジェラールと従兄のラディアスの変わらない姿を見つけ、たった四ヶ月ぶりなのに懐かしさに胸が痛むが見つかってしまったら大変なので三人はホールのもっと端の柱の影へと移動する。

 濃紺のマルティオス騎士団の儀礼服を着た二人の偉丈夫はたくさんの人の中でも目立っていた。

 そしてもう一組、会場で目を引いたのは高位神官の銀の刺繍のある真っ白なローブを着て癖のない長い淡い金髪をゆるく束ね、夜空のような紫紺の瞳の優美な顔立ちの男性とそれに付き従う白い騎士服の二人の聖騎士の姿である。

 その壮年の男性は、一つ国を隔てた聖コンティス王国の国王陛下で、亡き皇妃様の兄君だそうだ。

それならば、亡くなったアレクサンダー皇太子殿下の伯父上様ということになる。

 ディアーナはそのお顔をそっと覗き見た。

目と髪の色は違うが皇太子殿下によく似た面影がある。

殿下は皇帝陛下よりも母の皇妃様に似ていらしたのかと納得した。

途端に、行方のわからない兄のリオンハルトにも似ている気がしてハッと息を呑む。

 そんな時、大きな笑い声がして、派手な装いのベルゼルク大公とチェザーレ団長が父、ジェラールに近付いて行った。


「おお、マルティオス伯、わざわざの参列感謝する。遠い所よく参られた。」

 

「これはベルゼルク大公閣下。

この度のこと、誠に遺憾の意を表します。」


「ああすまないな。

でもそのように畏まらなくてもよい。

我々は近々親族になるのだからな。」


神妙な態度で接していたジェラールの顔がヒクリと動く。

 そんな父達の様子を少し離れた所から目で追っていたディアーナが小声でカイルとミリアムに指示を出す。


「カイルは集音魔法。ミリアムは認識障害の結界を。」


頷いた二人は言われた通りに父達の会話を盗聴し、三人だけに聞こえるようにして、他の者から姿を見えなくなる結界を張った。


「や、大公閣下、誠に有り難き婚約のお申し出ですが、すでに書面にてご辞退申し上げております通り、我が娘ディアーナはただ今病を患い別所にて療養中でありまして、とてもとてもご令息様のお相手が務まるような者ではございません。

何とぞお考え直しの程を…。」


「何と!我らの申し出を断るおつもりか。

このチェザーレはゆくゆくは尊き御位に就く者と心得ておろう?

そなたの娘にとっても過分な話だと思わぬのか!」


 大公に詰め寄られ、必死でジェラールが言い訳している。


「いえ、大変な名誉と心得ますが、何分、娘にとっては荷が重すぎるといいますか、その、」


「無礼だろう、マルティオス伯!!」


 横からチェザーレが口を挟む。


「そんな不出来なゴリラのような娘でも仕方なくもらってやると言っているのが分からないのか!

ありがたく思うのが筋だろう!」


 父の話を遮るようにチェザーレが割り込んで自分の悪口を言っているのを聞いたディアーナと二人からドス黒い殺気が立ち昇る。

 その時、ラディアスが口を開く。


「ベルゼルク騎士団長殿、しばしお待ちを。

我が従姉ディアーナは常々、自分より強い者との婚姻を望んでおりました。

ディアーナは私と互角かそれ以上に強い。

ならばどうかこの私と勝負を。

私を打ち負かすことができましたなら、ディアーナは喜んであなた様に嫁ぎましょう。」


 と、言いながらラディアスは腰の剣に手を掛ける。

そしてずいっとチェザーレに近付き、頭一つ分低いチェザーレをギロリと見下ろした。


「ひっ、待て!

そ、そのような野蛮なこと…私の靴が汚れるではないか!

そんな事をしなくても、娘は私のことを見れば惚れるかもしれないし…。」


と言いながら目を泳がせる。

ラディアスはチェザーレのピカピカのエナメルの白い靴を見下ろす。


「そう、私は娘の意向を一番に考えておりますので、このお話についてはご期待に沿い兼ねます。

まぁ、直接娘との勝負を受けて頂けますのなら考えますが。」


ずいっとジェラールもラディアスの横に並び、大公親子を見下ろした。


「まっ、まあ今日のところは…。

ではまた、近いうちに。マルティオス伯。」


と、言って二人は足早に去っていった。


去りながら二人はコソコソと話している。


「くそっ、忌々しいマルティオスの脳筋どもめ!

チェザーレ、こうなったら娘を探し出してお前の魅力で惚れさせろ!

何なら無理矢理でも組み敷いて既成事実を作ってもよい!」


「父上、あんなゴリラより強い娘を組み敷くなど無理です!

もう諦めましょう。」


「ダメだ。帝国最強の力を取り込まないと。

人質代りに娘を手に入れろ。分かったな!」


 そんな会話を盗聴していたディアーナは怒りでブルブル震えながら、


「はあっ⁈ 何言ってんだ!気持ち悪すぎるだろ!

蕁麻疹出てきたぞっ。

アイツらには階段降りる時に三段踏み外す呪いと箪笥の角に足の小指をぶつける呪いを掛けてやる!」

(※できません)


 目が笑っていない微笑みを浮かべたミリアムが、


「いえ、お嬢様。私があの腹につかえてズボンのベルトが裏返っているハゲ親父と8センチのシークレットシューズを履いているしゃくれアゴ男を全く証拠を残さず()ってきます。」


 カイルは、


(おいっ、ベルトとシークレットシューズの事、何で知ってる…?)


と思ったが、今は黙っておいた。



 同じく先程の大公とマルティオス伯達の会話を近くで聞いていた男がいた。

聖コンティス王国の白い聖騎士の儀礼服を着たスラリとした茶髪の騎士は、なぜかとてつもない冷気を漏れさせて、同僚の赤毛の騎士を凍り付かせていた。

悲しみの癒えぬディアーナはますます暴走する。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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