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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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31/59

31 皇太子の葬送

久々のディアーナ

ここから第一章完結に向けて物語が展開します。




 明るい春の陽気に包まれたローゼンシア帝国の帝都ビエナブルク。

この大陸一の繁栄を誇る活気ある街は、今日はその陽気とは裏腹に暗く沈んでいる。

 本日、帝都ではサラセナ宮殿に次いでの壮麗さを誇るケスニア教の大神殿にて、先日二十一歳の若さで逝去されたアレクサンダー皇太子の葬儀が執り行われる。

 今まで病弱だといわれ、公式の行事なども民衆の前に姿を現すことの無かった皇太子だが、皇帝の唯一の継嗣であり、優秀だとの噂の美貌の皇子様の死は民の心にも暗く影を落とした。

 最近は病も快癒に向かっているという話と、なぜか街の店舗に儚げだが眉目秀麗な皇太子の絵姿が売られ始め、若い娘らを中心に大変な人気を博していたところだったから尚更だった。

 病の治癒も絵姿(ブロマイド)の事もディアーナが熱心に陰で動いていたためで、もちろん人々は知る由もなかったが。



 麗らかに晴れ渡った空に、紫色の雲のように静かにリラの花が咲き乱れている。

 サラセナ宮殿の後宮の裏庭の甘く香るリラの樹の下で、深緑のメイド服に黒髪のおさげ姿のディアーナが、黒縁の眼鏡が曇って見えなくなるほど声を上げて泣いていた。

 一週間前の突然の皇太子の死は、ディアーナにとっても目の前が真っ暗になるような衝撃を与えた。

 その時、大神殿の方角から弔鐘(ちょうしょう)の鐘の音が大きく鳴り響く。

 今頃大神殿では、帝国内の主だった貴族や外国からも多くの賓客が参列し、ケスニア教の総本山から教皇に次ぐ高位の枢機卿も派遣されてビエナブルク大神殿の大司教と共に皇太子の葬儀が執り行われているのだろう。


(どうして…! なぜ…!

近頃はまだまだ僅かな時間だが、ベッドを離れて執務を行うこともできるほどお元気になっていたのに。)


 そう、アレクサンダー殿下はディアーナの浄化と治癒の効果もあって、少しずつではあるが病は快方に向かっていたはずだった。


「皇太子になった以上、少しでもこの国が民にとって平穏に暮らせるような良い国にしたいんだ。

私は君達のように強くはなれなかったからね。」


 と言って、病床でも勉学を続け、講師を呼んで国内外などの見聞を広め、将来のために努力を重ねているお姿は、それを側で見ていたディアーナにとって五体投地して神々に感謝の祈りを捧げたくなるほど尊かった。

 一国を除いて近隣諸国との関係が安定している今、国を治めるのはかつてのように力のある強い(脳筋な)帝ではなく、アレクサンダー殿下のような内政を安定させ、他の国々と友好関係を維持していけるような穏健で賢い帝の方が良いのではないかとディアーナは考えている。

 武力についても自分では無理なら強い者に任せてくれればよいと常々思っていた。

 今は皇太子殿下の代わりに、ディアーナをゴリラ呼ばわりし、嫌々婚約を申し込んでいるチェザーレ ベルゼルグ第一騎士団長が元帥の代理を務めているが、あんな無駄なゴテゴテした装飾のついた軍服やお飾りの剣を腰に差しているしゃくれアゴ男より、キラキラ美形のアレクサンダー殿下が元帥になってくれる方がビジュアル的に断然人気も出るし、騎士団の(特に私の)士気も爆上がり間違いなしだと思う。

力が必要なら、帝国最強の我がマルティオス騎士団が、私が全力で将来殿下が治るこの国をお守りするのに…と、考えていた。


 そんな未来の明るい展望が見えかけた矢先、急に殿下の容態が悪化した。

毒による暗殺が疑われ、陛下と医師と身の回りのお世話をする侍従以外の者が殿下に一切近付くことが出来なくなった。

殿下の側近であるテレンス補佐官でさえ例外でなかった。

 急きょ後宮の料理人や料理を運んだ侍従達が厳しく調べられたが毒に関わる証拠は出て来ず、元々の病が悪化した可能性も考えられた。

 ディアーナは瘴気の影響の疑いを持っていたのでテレンスからお父上のワイマール宰相に殿下にお会いすることができるように頼み込んでもらったが、返答を待っている間にとうとう殿下は昏睡状態に陥ってしまった。

 そして一週間前、皆の祈りも虚しくアレクサンダー皇太子殿下は静かに眠るように女神の御許へ旅立ってしまわれた。



 大神殿から最後の葬送の鐘の音が聞こえてきた。

その哀悼に満ちた響きを聞きながら、ディアーナは満開のリラの花の下に寝転ぶ。

 花の隙間から覗く空は光に満ち、今の状況に不釣り合いなほど青く澄んでいる。

 ディアーナの心は尽きぬ後悔と深い悲しみに震えていた。

自分の治癒力や浄化の力がもっと強かったなら…。

いや、身を偽らず正直に病状を説明して、もっと力のある治癒師やケスニア教の本山に居る浄化の力を持つ聖女や聖人を呼んでもらっていればこんな事にならなかったかも知れなかった。

自分の力が至らなかったばかりに、あの優しい皇太子殿下にもう二度と会うことができないのか…。


(元気になったら色んな所へ行って、たくさん学んで、皆が幸せに暮らせる国を創りたいって言っていたのに!

また夜会で私とダンスを踊りたいって笑ってくれたのに…。)


「胸が痛い…。」


 眼鏡を外したディアーナは流れる涙もそのままに空を見上げる。


「アレクサンダー様。

私の初恋を一緒に持って行って下さい。」


痛みも苦しみも無い、自由な女神様の御許へ…。




 荘厳な大神殿の中、高いドーム型の天井の天窓から明るい日差しがその下にある白い花に埋もれるような棺の上に差し込んでいる。

 超大国であるローゼンシア帝国の唯一の継嗣者であるアレクサンダー フォン ローゼンシア、若き皇太子の死は帝国内はもちろん、他の国々にも多くの衝撃を与えた。

 内外の沢山の参列者が注目する中、白い重厚なローブをまとった神官達が祈りの(ことば)を紡ぐ。

 その一番前で声も憚らず一人息子を亡くし泣き崩れているのは父であるユーレヒト フォン ローゼンシア皇帝であった。

 かつて精悍な美貌をうたわれた偉丈夫な皇帝の、今は病にやつれ車椅子に座り悲嘆に暮れる姿は余りにも痛々しく、参列者達は悲痛な思いに胸を突かれた。

一部の人間を除いて。

 その皇帝の近くで、喪を表す黒の軍服に身を包んだジェラール ディ マルティオス辺境伯と、ラディアス マルティオスの姿もあり、二人は沈痛な面持ちで前を見つめている。

 そこから少し離れた他国からの参列の貴賓席には、急遽妹の忘形見の甥の葬儀に駆けつけた聖コンティス国王、フェルディナンド ドゥ カレルギーの姿もあった。

神官によく似た白いローブをまとったケスニア教の大司教でもある美貌の王は、白皙の顔を歪めて祈りの詞を呟いている。

 その王の後ろには護衛として聖コンティス王国の白い軍服の聖騎士が二人立っていた。

一人は赤に近い茶色の髪の偉丈夫で、もう一人は長い茶髪を後ろで一つに括り、前髪で目元が見えないスラリと背の高い男だ。

その男の左手首にはローゼンシア帝国の紋章に似た模様の入った細い金の腕輪が光っていた。


ディアーナ初恋に気づくもすぐに失恋してしまったようです。(涙…)


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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