30 聖獣
リオンハルト金色の獅子と契約する
(翼のある金色の獅子⁈ ま、まさか…。)
リオンハルトは突然目の前に現れた美しい獣に驚き声も出ない。
その金色の獅子は湖に静かに降り立ち、まるで氷の上を歩くように湖面を真っ直ぐリオンハルトに向かって歩いてきた。
思わず後退りするリオンハルトに獅子は、
「恐れずともよい。リオンハルトよ。
我が名はレグルス。女神アルテーアにより遣わされた者。
お前達には聖獣と呼ばれているがな。」
そう言って獅子はパチンとウインクした。
「せっ、聖獣様と…。もしやローゼンシアの創世神話に出てくる聖獣様なのですか…?」
思わずひざまづき見上げるリオンハルトを見下ろし、
「ああ、そうだ。今回も女神が守る世界にインネンつけてこようとする神が居て、女神の愛し子であるそなたの力になってやって欲しいと我が頼まれた。
うーん、下界は久しぶり、500年ぶりかの?
いろいろ変わっておるのだろうな。
と、言う訳で、我と契約せい。リオンハルト。」
いきなり因縁とか愛し子とか契約とか言われて混乱するリオンハルトに、レグルスと名乗った聖獣は金の腕輪を差し出した。
「これは?」
「我との契約の証だ。嵌めてみろ。」
リオンハルトはレグルスの差し出すローゼンシア帝国の紋章によく似た模様と古代の文字の魔法陣のような文様が刻まれた金の細い腕輪を左の手首に嵌める。
それは母の金の指輪と同様にぴったりとリオンハルトの腕に収まり一瞬フワリと光を放った。
「これで我とそなたの契約は成った。
我の力が必要な時はいつでも呼べ。」
「ありがとうございます。聖獣様との契約を謹んでお受け致します。」
と、ひざまづき騎士の礼をとるリオンハルトに、嬉しそうにレグルスは続ける。
「あーリオンハルト、必要のない時もぜひ我を呼べ。
何せ500年ぶりの下界を楽しみたいからのぉ。
神の世界は美しいが退屈だ!」
「もしかして、その前というのはローゼンシア帝国の歴史で「暗黒の五十年」と呼ばれている、双子の皇子の継承権争いから国が侵略を受けた時の事でしょうか?」
「よく分かったな。
あの時は、第三皇子だったリオネルが神託を受けて我と共に戦乱を収めた。
長じてからはリオネル帝と呼ばれておったな。
年の離れた双子の兄達が周辺の国をも巻き込んで帝位を争ったがためにいくつもの国が荒廃し、リオネルは三歳の時に母の側妃と共にマルティオス公国へと逃れ、人生のほとんどを戦場で生きた。
あっ、双子だからダメということでは無いぞ、リオンハルト。
それに乗じて己の野心や欲望を満たさんと醜い行動をした者達や国が引き起こした事だ。
女神の恩恵を忘れ、驕慢に驕った人々は争いの末に全てを失い、民は傷つき国土は荒廃してやがて滅んでいった。
それを愁えた女神アルテーアが我を加護を与えたリオネルの元へと遣わした。
懐かしいな。リオネルの妃となったマルティオス公国の公女のヴァレリアも女神の伴侶、トリトーネの巫女として加護を得てリオネルに付き従い、戦場で子を生み育て、生涯リオネルを支えた。
銀髪の美しい気丈な女だったのぉ。」
「私も三歳の時に養母に連れられてマルティオス領で育ちました。」
「そうか、今はマルティオス領だったな。
後継がいなくなったマルティオス公国に、リオネルとヴァレリアの子の内でヴァレリアと同じ銀髪で緑の瞳を持つ第二皇子が入った。
後にマルティオス公国は平和的に合併されたのだ。
そして周辺の荒廃した国も併合してその後、ローゼンシア帝国は女神の加護を受けて益々の繁栄を続けておるだろう。」
「そんな歴史があったのですね。
それで今もマルティオス一族には銀髪、緑眼が多いのですね。
私の養父のマルティオス辺境伯ジェラールと義妹のディアーナもそうです。」
「ふむ、リオネルはそなたと同じ黄金色の髪と紫紺の瞳だったぞ。
母も同じくコンティスの血を引く者だった。
女神の加護を受けてローゼンシア帝国を起こした初代皇帝も同じだったな。
歴史は繰り返すのか…。」
「黄金色の…ではローゼンシア帝国の初代様は神話の通りレグルス様の血を引くお方なのですか?」
「いや、我は人と子をなすことはできぬ。
黄金色の髪は我との契約の時に女神が与えた加護の証だ。
あやつと神の巫女の白百合の乙女とよばれた娘との子孫がローゼンシア帝室の祖となった。
リオンハルト、そなたも確かにその血を受け継いでおる。
それから我ら聖獣には雌雄は無い。
我が雄の形をとるのは、ズバリ女の子にモテたいからだ。
こっちの方がカッコいいだろう?」
「はぁ…。」
キリリと笑うレグルスにリオンハルトは生暖かい返事を返した。
「さあ、そろそろ行くか。外で待っている者等が心配しておるだろう。」
そう言って聖獣は歩き出した。
ここまで辿り着くのにあんなに時間かけ困難だったのに帰り道は目の先に出口の扉が見えていた。
石の扉を開くと、心配顔のフェルディナンド王とモラーニュ師長が待っていた。
「おお!リオンハルト。無事だったか!
えっ、そのお方は…?」
翼のある金色の獅子の威厳のある姿を見た二人は思わず拝跪する。
リオンハルトの話を聞いた二人はますます畏敬の念を持ってリオンハルトと聖獣と女神アルテーアを讃えた。
そして不思議なことにリオンハルトが深淵の泉への扉の中へ入ってから、実際はまだ二時間ほどしか経っていなかった。
見事に試練を潜り抜けたリオンハルトに、もう迷いは無かった。
麗らかな春の陽気に包まれた王都ツェルンの白亜の王宮の庭の、黄色い雲のように咲き誇るミモザの樹の下で、その花の色に似た金色の獅子を囲んで女達が華やかな声を上げている。
「レグルス様、とっても良い匂い!」
王女グレースにミモザの花冠を捧げられてた聖獣は満足そうな笑い声を上げている。
「いや、若くて美しいそなた達の方がもっと良い香りがするぞ。
マリールイーズ膝の上も寝心地最高じゃ!」
レグルスは少しふくよかな王妃に膝枕してもらい、王女や侍女達に金のたてがみや尾をブラッシングされてご満悦のようだ。
そんな獅子のハーレムのような様子を少し離れた植え込みの陰からのぞいている三人の男の姿がある。
「おい、聖獣はスケベオヤジか?」
と、呆れ顔のエディ。
「うーん、聖獣には雌雄は無いと言っていたんだが…。」
と、困り顔のリオンハルトが答える。
「羨ましい…ウッ、ううん!」
と、変な咳払いをするフェルディナンド王がいた。
その時、その三人にそっと近づく人影があった。
宰相のエンリケ フーゴーである。
「陛下、至急お伝えしたい事が…。」
フーゴー宰相は後の二人をチラリと見る。
「構わぬ。話せ。」
「はっ。先程早馬にてシャリオル大使よりローゼンシア帝国のアレクサンダー皇太子殿下が昨日ご逝去なされたとの知らせが届きました。」
「何と!!」
女達に囲まれてふやけていた獅子の耳がピクリと動いた。
「いよいよ運命が動き出したか…。」
聖獣との対話
次からいよいよ舞台はローゼンシアへ
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




