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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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29 地下の迷宮

リオンハルト疲れる



 「リオンハルト、この扉の向こうには、きっとそなたにとっての運命があるはずだ。

そなたは女神に選ばれた者だが、この先何があるかわからないから気をつけて行くがいい。」


「そうですぞ。前へ進まんとする者に、神は身の丈に合った乗り越えられる試練をお与えになるといいます。

リオンハルト様は御身の力を信じて進まれるよう、ご武運をお祈りいたしております。」


「ありがとうございます。伯父上、モラーニュ師。

では、行ってまいります。」


 リオンハルトは二人に向かって頭を下げ、狭い場所での戦闘を想定した腰のダガーナイフと魔道具のランタンを確認して聖コンティスの紋章のある大きな石の扉をこじ開けるべく両手をついた。

 すると不思議なことに重い扉が大きな音と砂埃を立ててまるでリオンハルトを迎え入れるかのように軽々と開いた。

その中は真っ暗で岩が剥き出しのままの自然の洞窟が続いていた。


 リオンハルトは慎重に一歩を踏み出し中へと入った。

石の扉が再び勝手に大きな音を立てて閉じる。

洞窟の中は全くの暗闇で、ランタンの光だけを頼りにリオンハルトは靴音を響かせ進む。

自然の洞窟は広い空間もあれば人一人が辛うじて通れるような狭い場所や、背の高いリオンハルトでは這ってしか通れないような所、崖と言ってもよいような急勾配を下り、大岩をよじ登り、片方が深い谷で壁に沿うように足場を慎重に踏みながらひたすら進んだ。

 ここに入ってからゆうに二時間ぐらいは歩いたが、まだまだ先は続いていて目的の場所らしい所は見えない。

疲れてきたリオンハルトは一旦休憩することに決め、岩肌に背を預け腰を下し持参した水筒に口を付ける。

カンテラで先を照らすと黒々とした大きな岩山が壁のように浮き上がった。


(はぁ、次はこれをよじ登るのか…。)


と思った時、何か既視感があることに気付く。


(そういえば、一時間程前にも同じような岩を…あの左の窪みに足をかけて右の突起を掴んで…まさか…⁈)


リオンハルトはゾッとした。

もしかして自分は先へ進んでいるつもりが同じ場所を回っているのではないかと。

いくら地下洞窟が広くとも、二時間以上も進んでも辿り着かないというのは長すぎるような気がする。

念のため、今休憩している場所に目印として包帯代わりに持っていたガーゼの布を石を上に置いて岩の上に垂らしておき先を進むことにした。

次は途中に別の道や入口がないか慎重に見回しながら更に進むと、一時間ほど歩いた頃、ランタンの照らす先に上に石を置いた白いガーゼが置かれた岩が現れた。


(間違いない。俺はここを何度も回っている!)


 リオンハルトは今度は逆向きに、来た方向に戻るように歩き始めた。

しかし結果は同じだった。

また再びガーゼの置かれた場所に戻ってきた。


(また同じ所に! 一体どうなっている?

一本道だと思ったが入口も無くなっている。

まるで迷宮のようだ…。)


 しばらく呆然と座り込んでいたリオンハルトだったが、気を取り直し再び歩き始める。

今はこれしか方法がないからだ。

別の道への見落としがないか、迷宮を抜ける何か手掛かりがないかを探してひたすら前へ進む。

だが何も無くまた同じ場所に戻ってきてしまった。


(クソっ!!)


リオンハルトは乱暴にランタンをガーゼの横に置いた。

が、勢い余ってガチャンと音を立ててランタンの電球が割れてしまい辺りは漆黒の闇に包まれた。

 真っ暗闇の中、しんとして何も音のしない世界にリオンハルトは急に不安を覚える。

もうここに入ってから何時間経ったのか、もしかして丸一日になるのか、もう時間の感覚もあやふやになってきた。

 たった一人しか誰も居ないこの入口も出口も無い地下の迷宮で、どうする事も出来ず誰にも気づかれずこのまま朽ちていくのかもしれないと思うと初めてじわじわと足元から這い上がるような恐怖を感じた。

 いや、元々自分はこの世界には存在しない方がよい人間なのかもしれない。

自分がローゼンシア皇室の血を引く者だと知った時は、もちろん帝位を継ぎたいという気は更々無く、双子の禁忌は分かっていたが、せめて父帝と兄になる皇太子の治める国を陰ながら武を持って支えていけたらと思っていた。

しかしよく考えたら、母と思っていた人を殺され、自分も命を狙われ、他に自分の出生の秘密を知り生かしてはおけないと思う正体が分からない人間がいる国でこの先平穏に生きていけるはずがなく、自分の考えが甘かったと悟った。

 国を追われるように出奔し、姿を変え身分も捨てた自分は、もうこのまま一生、運命だとか選ばれた者だとか血統とかそんな重いものも何もかも捨ててもっと遠くの国で人知れず別人としてひっそりと一生を終える方がよいのかも知れない。

いや、もういっそこのままここで一人静かに死ぬ方が楽になるのかもと思い至り、リオンハルトは大の字に横たわり、何も見えない暗闇に目を向ける。

 もう何もかも疲れて考える気力も無く、長い時間闇を見つめていたが、何気なく右手を上げてその指先に魔力を込める。

するとポッと小さな緑色の火球が現れ周りの闇をわずかに照らした。

その小さな輝きを見つめてリオンハルトはぼんやりと思った。


(ディアーナの瞳と同じ色だ…。)


「はっ…!」


(そうだ、ディアーナ!

あの時、必ず帰ると約束した…!)


 そうだった。今、忘れそうになっていた。

全てを解決してディアーナの元へ、再びあの懐かしいマルティオスの地で皆で笑って暮らせるように、自分の事を守るために自らの命を懸けてくれた母達の為に、自分に課せられた運命を探すと…。

 リオンハルトはいつの間にか引き摺り込まれていた負の思考を振り払うように立ち上がった。

 そして強く輝く緑の炎をランタン代わりにして、もう何度目かの目の前の岩山を登った。

すると下りきった洞窟の前方に今まで無かった柔らかな白い光が見え思わず走り出した。


 何度も通っているはずなのに初めて入る場所は、高い天井に奥行きがよく分からないほど広く、壁から天井まで淡く光る水晶に覆われた美しい空間だった。

そしてその光を反射して輝く透明な水を湛えた地底湖が広がっていた。

湖の真ん中あたりに小さな島があり、人の背丈ほどもある大きな白い石でできた(ゴブレット)があってそこから水が溢れて湖に流れ込んでいる。

それは聖コンティス王国の紋章の聖杯によく似ていた。

その横には大きな石の棺があり、ここが本当の聖コンティスの墓所なのかもしれないとリオンハルトは思った。

この空間には特に強い魔力が満ちていて、光る水晶に囲まれた不思議な場所だった。


 その時、静かな力強い声が洞窟内に響き渡った。


「よく来たな、リオンハルトよ。この深淵の泉まで。」


 突然、湖の真ん中に眩しい黄色い光が集まっていき、その大きな光が何かの形になっていった。

光が収まると、そこには人の倍ぐらいほどはある立派な金色のたてがみを持つ大きな獅子が金色の目でリオンハルトを見下ろしていた。

そしてその背中には真っ白な大きな翼があった。

 




やっと抜け出せました。

運命の出会い


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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