26 血族
導かれる運命
指輪から放たれたまばゆい光が収まったが、人々は突然のことに声も出ない。
フェルディナンド王が震える声で呟く。
「そなたはまさか…エリーザベトの?
そんなはずは無い…。」
その指輪は「聖コンティスの宝石姫」と呼ばれて皆に愛されていた私の美しい妹が、ローゼンシア帝国の皇太子に嫁ぐ時、亡き父王より贈られたものだった。
聖コンティスの王家の紋章と王家の者のみに現れる瞳の色と同じタンザナイトが入った金の指輪は魔道具でもあり、カレルギー王家の血を引く者しかその指に嵌めることが出来ないようになっている。
それをこの青年が…?
私は信じられない思いで青年の手に触れた。
青年の魔力の形を感じる。
(あぁ、間違い無い。)
温かくて清廉な魔力の形は懐かしいエリーザベトによく似ている。
そして目の前に立つ青年の顔は亡き妹の面影を濃く宿していた。
そして私にも…。
フェルディナンド王の目から涙が落ちる。
リオンハルトは王の突然の行動に身を固くするが、触れられた手から流れてきた魔力に目を見開く。
(似ている!)
血縁のある者の魔力の形が似ているというのはこういうことか。
今まで感じたことのなかった、言葉では上手く言い表せないが、とても親近感というか初めて会うはずなのに何故か懐かしさを感じる。
リオンハルトは目の前で静かに涙を流す王に、自分と同じ思いを持っていることを感じた。
その場にいた王妃を始め他の者達は、美しい面差しのよく似た二人のこの異様な光景を見て皆同じ疑問を持つ。
一体この冒険者の青年は何者か?
でもその疑問の答えを口にするにはあまりにも畏れ多かった。
しかしその問いに答えを出したのは王だった。
「よくぞ来られた。我が血縁の者よ。」
ホールの中に静かな衝撃が広がる。
「しかし今、その真実を明らかにすることはあまりにも不穏だ。
残念ながら今は雌伏の時と思い、その運命に導かれる機宜をここで待つがよい。
皆も分かっておろう。この事は口外無用である。」
フェルディナンド王はそう言ってスッと右手を上げる。
微かな波動が伝わり、その場にいた者達は皆、制約の魔法がかけられたことを感じた。
そうしてリオンハルトとエディはそのまま王宮に留まることとなった。
エディは聖騎士団に客将として対魔獣戦について指導を行い、騎士団の寮に部屋を与えられた。
リオンハルトも表向きは聖騎士団に指導を行いつつ、14歳になるフィリップ王太子の剣術の指南役として王宮の中に一室を賜った。
そしてリオンハルトにはもう一つ、内密の下知が下された。
将来の為に、王族としての知識を身につけることである。
そのため夜、密かにあの謁見の場にいた宰相と国務大臣を王の執務室へ呼び、講師として政務や様々な国の状勢や施政について、時には王自らリオンハルトに教示した。
リオンハルトはなかなか呑み込みが早く良い生徒だった。
そして今夜は、同じくあの場にいた宮廷占星術師長、エグシオ モラーニュが呼ばれてフェルディナンド王とリオンハルトと共に席に着いていた。
この長い白髪に濃い紫色のローブをまとった老占星術師は、先代の王より仕えている正しく賢者のような風貌の人物だった。
そんなモラーニュ師が若いリオンハルトに諭すように語りかける。
「四月ほど前、私は今後この世界に起こるであろう不吉な啓示を得ました。
水星の逆行と、獅子宮へ入る凶星である火星と天王星の動きは、この大陸の東の端の大国の異変に端を発し、大陸全土を巻き込む戦乱と混沌を示しております。
近い将来、禍いがこの大陸を支配するやも知れませぬ。」
リオンハルトはその不吉な予言を聞き、真っ先に浮かんだのは祖国にいるディアーナの事だった。
そして、養父ジェラール、従兄弟ラディアス、副官だったジオルド、マルティオス騎士団の仲間達、そんな人々がもし戦乱に巻き込まれたら…。
もちろん彼らはマルティオス騎士団の誇りにかけて勇敢に戦うだろう。
でも、もしかしたら自分がいない場所で傷つくかもしれないと思うとリオンハルトの顔が曇る。
再びモラーニュ師が語り始める。
「しかしながら、全能なる運命の女神は僕たる我々に一縷の希望を残されました。
王を表す獅子座の一等星に導かれし者が現れてその混乱を治めると。」
ハッと顔を上げるリオンハルトにフェルディナンド王が語りかける。
「我が甥、リオンハルトよ。
ローゼンシア皇家にとって双子は禁忌であることは理解している。
それでもエリーザベトは自分の命と引き換えにしてもそなたを産み、侍女であった育ての母に託しそなたを守った。
今なおその指輪には強い守りが込められている。
そしてそなたは二十一年間それを知らず平穏に過ごしてきたのに、昨年の秋の予言と時期を同じくして、そなたの義妹がアレクサンダー皇太子に出会ったことに始まり、養母の暗殺から出奔して今、こうしてこの国で我らと相見えたこと、これは偶然だと思うか?」
フェルディナンド王は静かにリオンハルトを見つめる。
「そなたの他を凌駕する強さと、身に纏う守護の強さ、数奇な生まれを考えると、そなたこそがやがて起こる混乱を治める運命を持った預言の者ではないかと私は思う。」
「私が…?」
戸惑いを浮かべるリオンハルトの肩にフェルディナンド王はそっと手を乗せる。
「二つの尊き王家の血を引き、リオンハルトの名を持つ貴方様こそ、我々の唯一の希望となることを運命の星は示しております。
陛下、今こそ「深淵の泉」の扉が開かれる時かと。
このお方にはその資格が備わっておられます。」
老師長の真剣な眼差しがフェルディナンド王に注がれる。
「深淵の泉か…。
まさか我の代で開くことになるとはな。
これも運命か…。」
リオンハルト、何かえらいことになりました。
RPG風展開続きます。
※ 予言(未来を予測すること) 預言(宗教的な未来の神託)という意味で使い分けしています。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




