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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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22/59

22 冒険者リオ

聖コンティス王国編スタート



 大陸のほぼ中央に位置し、山々に囲まれた聖コンティス王国の王都である古都ツェルン。

 その中心にそびえ建つ白亜の王城の天文台の上、この国の宮廷占星術師のエグシオ モラーニュはその頭上に広がる広大な星空を眺めていた。

 

 ケスニア教の聖人で魔術師の祖と云われる聖コンティスの名を冠したこの国では、天文学と結びついた占星術師は暦を作り、人の運命を占い、政治をも左右する重要な地位を持つ。

 その長を務めるモラーニュはほとんど白くなった長い髪と眉毛をひそめ秋の星座の広がる一点を見つめる。


「師よ、いかがなされました?」


若い弟子の一人が声をかける。

無言で手元の天体観測器(アストロラーべ)の金の針を動かし、苦い声で呟く。


「やはりな。水星(マーキュリウス)の逆行が始まったようじゃ。」


「えっ⁈ それは不吉では…。」


「ああ、とてつもなく不吉じゃ。

しかも獅子宮に凶星(マレフィック)である火星(マールス)天王星(ウーラノス)も入っておる。

心せよ。近い内に戦乱と混乱がこの大陸を支配するやも知れぬ…。

東の大国獅子の旗印を戴く国(ローゼンシア帝国)に。」


「そ、それは…。」


「すぐに国王陛下に奏上を!」


「この国はどうなってしまうのでしょう。」


と、騒ぎ立てる弟子達に、


「待て! (いたずら)に不安を煽るでない。

我らの勤めを何と心得る。

天体の動きから災いを避け、より良い未来を示すことではないのか。

諦めるな。必ず良き道はあるはず。

観測を続けるのじゃ!」


「はい。モラーニュ師長様!」


 占星術師達が夜を徹して星の動きを観る。

しかし東の空が白み始めた暁、さすがに疲労困憊で皆が諦めかけた頃に東の地平線から王権を象徴するといわれる星座、獅子座が昇ってきた。

もうまもなく夜明けの朝の太陽の明るい光が星々のささやかな光を消していくその時、獅子座の一等星レグルスが一瞬白く強い輝きを放ち朝の光に消えていった。


「おおおっ…!

(まさ)しくあれこそが我等の希望。

混乱を統べる者が現れるであろう。」


 昇り始めた太陽に、その場にいた占星術師達は一縷の希望を見ていた。



 

 鬱蒼と繁る森の中、草を掻き分け獣道しかないようなぬかるんだ道を二人の冒険者風の男達が歩いている。

靄がかかり時折何か鳥なのか、けたたましい鳴き声が聞こえる。


「うっ、近い。瘴気だ。気をつけろよ、エディ。」


「分かった。お前もな、リオ。」


 エディと呼ばれた男は腕をクロスさせて右手にロングソード、左手に短めの剣、マンゴーシュを引き抜く。

リオと呼ばれた男もロングソードを構え慎重に前へ進むと、前方の開けた沼の中に大人の二人分の背丈はあろうかという翼のある(ドラゴン)、リントヴルムが鹿の頭を食いちぎっていた。

A級以上の実力のある者のみがやっと倒せるという凶暴な魔獣である。

 リントヴルムが二人の姿を捉え、獲物を投げ出して牙を剥き唸り声をあげて襲いかかってきた。

すかさずエディが前へ出て、ロングソードでガッと牙を食い止めマンゴーシュで喉の辺りを切りつけた。

血を滴らせ暴れまくるその隙に、リオが氷魔法で沼の水ごと凍らせて動きを止め、真上に高く跳躍して

落下する重みでリントヴルムの硬い鱗に覆われた首を刺し抜いた。

ドウッと倒れたリントヴルムを見据え、二人は荒い呼吸を整える。

ありったけの火力でリントヴルムを一瞬で黒焦げにしたリオはその死骸から手のひら大の赤黒い魔石を取り出し、周囲を含めて聖水を振り撒き浄化していく。


「任務完了だな。しっかしお前、相変わらず何て早さと魔力だ。」


「そっちこそ何て馬鹿力だ、エディ。」


「フン、さすがにロングソードが刃こぼれしちまったけどな。」


「まぁ、これだけの魔石も手に入ったし、討伐の報酬だけでもお釣りがくるだろ。」


「まあな。じゃ、帰るか。早く風呂に入りたい。」


「そうだな。」


 二人はA級の資格(ライセンス)を持つ冒険者だ。

 リオンハルトはあの日の夜、国境近くの街道でディアーナと別れてから隣国のグルシア王国へ入り、そこのギルドで冒険者登録をした。

冒険者ギルドは国を越えた組織で、冒険者としてなら怪しまれずに国を移動することもできるし、依頼をこなせば報酬も出る。

リオンハルトは長い髪を三つ編みにし、名前をリオと変え平民としてギルドで依頼を受けながら一人旅を続けていた。

 旅の目的地はグルシア王国の西、聖コンティス王国。

今はネックレスとして身につけている指輪の紋章の亡き本当の母の生国である。

そこに何があるのかは分からないが、養母アマリアが最後に言った、自分の運命を探すために行かなければならないような気がした。

 そして旅の途中で立ち寄った街のギルドで出会ったのがエディだった。

赤に近い茶髪に紺色の瞳の双剣使いの偉丈夫の男は豪快な気質であるが、元はローゼンシア帝国の子爵家の庶子で、擦れたところがなく歳も近くすぐに意気投合し今ではコンビを組む仲になった。

 リオンハルトは自分のことは、同じく元ローゼンシア帝国の近衛騎士の遺児で領軍に所属していたが、母を亡くしいろいろあって国を出て、母の故郷の聖コンティス王国を目指して旅をしていると言ってある。

全くの嘘ではない。

 故郷を捨てたエディも特にこだわることなく、二人で依頼をこなしながら旅に付き合ってくれている。


 秋も終わりの静かな夜、二人は旅の途中の深い森の湖のほとりでテントを張る。

焚火を囲み先日のリントヴルム討伐で得た大金を元に買い込んだ食料と酒を傾ける。


「あーっ。大仕事の後の酒は美味いな。

なぁリオ、とうとう俺達もドラゴンスレイヤーか。S級も近いな!」


上機嫌のエディに付き合いリオンハルトも酒をあおる。


「そうだな。S級か…。」


「それにしてもお前、強すぎないか? 駆け出しの冒険者のクセに。

俺がここまでくるのに何年かかったと思っていやがる!」


「ははっ。まあ、今まで魔獣の討伐は何度もこなしてきたからな。」


「ふうん。と、いうことはお前、騎士団か何かに入っていたのか。」


「そうだ。俺を鍛えた養父が名のある騎士団長だった。」


「そうか。道理でリオは何だか育ちが良さそうだもんな。

俺なんか実家は騎士の家系の子爵家で十二才まで母親と平民として育ったが、跡継ぎがいないってんで引き取られて後一年で帝国学園を卒業って時に義弟(おとうと)が生まれたって家を追い出しやがった。

こっちも真面目にやってたのが馬鹿らしくなったんで縁が切れて清々したけどな。

お前は違うだろう。家に帰らなくても良いのか。

待っている人はいないのか?」


「ああ…5つ離れた妹がいる。

でも今は帰れない事情があるんだ。

やらなければならない事も…。」


そう苦しげに呟いてリオンハルトは星空を仰ぎ見た。

エディは何も聞かなかった。





注 秋なのに春の星座の獅子座?ですが、星座の季節とは夜9時頃に南の空に見えている星を指すので時間をずらせば多分違う季節の星も見えるはず?(物語の都合上、獅子座を出したかっただけです…)


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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