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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還
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2 疑惑のデビュタントボール 上

いよいよ舞踏会の始まり



 遠く西の山脈に秋の日が沈み東の海から大きな月が昇ってきた頃、ディアーナは父とともに煌々と光に照らされた帝都の中心にそびえ立つサラセナ宮殿の城門を潜る。


 盾に大海蛇(シーサーペント)と剣のマルティオス家の家紋のついた重厚な馬車から父のエスコートで降り立ったディアーナは、初めて訪れた壮麗な宮殿のエントランスホールを見回した。

 正面にはこの国の創世神話を題材にした大きな絵画が掛かっている。

この大陸の多くの国で信仰されているケスニア教の女神アルテーアが、(いかずち)の槍を右手に持ち、翼のある金色(こんじき)の獅子を従え邪悪なモノを撃ち滅ぼし、跪く白百合の乙女に左手に持った聖なる薔薇を差し出している場面を描いた絵だった。

 他にもローゼンシア皇家特有の黄金色の髪と青い瞳を持つ現皇帝、ユーレヒト フォン ローゼンシア帝と今は亡き皇妃の堂々とした肖像画や歴代の王族達の肖像画も飾られていてギャラリーのようだ。

 そして他にも同じように白いドレスを着たデビュタントの令嬢や黒いタキシードに胸に白い薔薇をつけた令息の姿、パーティーに参加する着飾った貴族達でごった返していた。

そんな人々がディアーナの姿を見とめヒソヒソと言葉を交わしている。


「あの令嬢がマルティオスの戦姫(いくさひめ)か。」


「ああ、ポイズンテンタクルス(毒巨大イカ)を一撃で倒したとかいう…。」


「まぁ、恐ろしいこと…。」


と、あまり令嬢としては嬉しくない噂話が聞こえ、ディアーナは撫然とする。

それを見た父、ジェラールは


「大丈夫。強さこそ正義だ!」


と、囁きキラリと笑った。


安定の父の脳筋っぷりにかえって落ち着いたディアーナは、気を取り直しホールへと入った。

 

 広く煌びやかなホールの一段高くなった正面には王冠を頂いた翼のある金獅子と薔薇のローゼンシア皇家の紋章の入った豪華なタペストリーの前に玉座が置かれていた。

たくさんの人がいるが、何となく雰囲気が重い。

そこに帝国の北の領地を治めるコルネリゼ辺境伯が奥方とともに挨拶にやって来た。


「やぁ、マルティオス殿、こちらがご自慢のご令嬢か。美しいな。」


父よりもいくつか年上に見えるがっしりとした体格の男性だ。


「これはコルネリゼ辺境伯殿と令夫人、次女のディアーナだ。」


「コルネリゼ閣下に初めてご挨拶申し上げます。

ディアーナと申します。」


と、ディアーナは優雅なカーテシーをした。


「ほう、さすがにアマリア夫人の娘だけあるな。

剣の腕も相当なものだとか。

これからが楽しみだな。マルティオス殿。」


父と結婚する前、亡き皇妃殿下の筆頭侍女をしていたという母を褒められたディアーナは気を良くする。

 続けてコルネリゼ伯は声をひそめて、


「今夜のパーティーに陛下はご出席できないそうだ。」


「えっ、そんなにお悪いのか…。」


 このローゼンシア帝国を長年に渡って治めている皇帝はここ十年ほど前から病を患い、病状は一進一退のままであったが今年に入ってからは起き上がることも困難なようだと密かに噂されていた。


「そうらしいな。代わりに今夜は皇太子殿下がお見えになるそうだ。」


「何⁈ 成人の時に立太子して以来、初めて公式の場にいらっしゃるのか。

こちらも体調の方は大丈夫なのか?」


 皇太子の名はアレクサンダー フォン ローゼンシア。

皇妃が産褥のため亡くなり、その後何人かの側妃を迎えるが誰にも子ができなかったため皇帝の唯一の御子である。


御歳二十一歳になるが、幼少の頃より病弱で皆の前に姿を現すのは十六歳で皇太子になった時以来となる。

国内の不安を少しでも払拭するために自身の体調を押して代理で出席されるのであろう。

この会場の重い空気も人々がヒソヒソと言葉を交わしているのもそのためだろう。

 そんな父達の会話を聞きながら、ディアーナは兄と同じ歳の病弱な皇太子様に少し興味が湧いた。


 そうしているうちに高らかにファンファーレが鳴り響き皇太子が入場される。

そこに集う全ての男性はボウアンドスクレープ、女性はカーテシーのお辞儀をして頭を下げたまま息をつめる。

やがて玉座に座った皇太子が声を上げる。


「皆の者、楽にせよ。」


「「帝国の若き太陽 アレクサンダー皇太子殿下にご挨拶申し上げます。」」


と、一斉に声を揃え、頭を上げた。

皆にとっては五年ぶり、ディアーナをはじめデビュタント達にとっては初めてとなる皇太子に注目する。


(えっ…⁈)


ディアーナは驚きと衝撃のため、日頃鍛えている体幹がぐらついてしまった。

でも声を上げなかったことは母の淑女教育の賜物か。


(ど、どうして⁈ なぜ⁈ リオン兄様…?)


 皇太子殿下は本日のデビュタントへの祝いと帝国の変わらぬ繁栄を願うといった挨拶を続けているが、ディアーナの耳には全く入ってこなかった。

何と皇太子の顔は兄のリオンハルトにそっくりだったのである。

いや、よく見ると兄とは全く違う。

皇家の特徴である黄金色の髪に青い瞳、顔立ちは整っているが頬はこけ青白く、背は高いがひょろりと痩せた身体、兄の茶色の髪と榛色の瞳、日に焼けた逞しい身体つきとは全く違うが、顔だけは瓜二つと言っていいほど似ていた。

 いつの間にか皇太子の挨拶は終わっていて、侍従の


「今年デビューする方々は御前へとお進み下さい。」


という言葉にハッとして、ディアーナは動揺を隠せず父を見上げる。

父も同じように思うことがありそうだが、緊張したような眼差しで、今は何も言うな、とばかりにディアーナに無言で小さく首を横に振り微かに頷いた。







皇帝の病を患った時期を後の物語の都合上7年から10年に変更しました。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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