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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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17 後宮の闇

ディアーナの聖女疑惑



 「やっぱりおかしい。」


 夕刻、いつもの場所に集まったカイルとミリアムに、難しい顔をしてディアーナは呟いた。


「お嬢、何かあったんですか?」


とカイルが話しかけると、


「今日、皇太子殿下の寝室に忍び込んでからずっとああなの。」


とミリアムが答える。

 ディアーナは今日の皇太子殿下の痛々しいご様子を見て衝撃を受けていた。

秋の夜会でワルツを踊った時より更に体の状態が悪くなっていて、あの時は感じられなかったが微かに体から立ち昇る黒い瘴気が見えた。

殿下の数々の体の不調の原因は瘴気によるものだろう。

あまり時間がなくて十分に治癒出来なかったし、殿下の魔力の量が尽きかけていたのを感じた。

 普通は、瘴気とは魔獣によって傷を負わされたり汚染されたりする事で影響を受けるものだ。

この安全な帝都でガッチリ護衛されているはずの皇太子が魔獣の被害に遭うことがあるのだろうか?

 それに体調を崩されたのは10年ほど前からだと聞く。

それも瘴気のせいなのか。

まさか誰かが故意に…。

 そしてディアーナは今日見たことを心配そうに見ている二人に告げた。


「皇太子殿下は瘴気に犯されているようだ。」


「そんなことが!」


「まさか…。」


二人の考えもディアーナと同じだろう。

防音魔法を張っているとはいえ、二人が大声を出したためディアーナは慌てて辺りを見回す。


「ああ、確かに見えた。

それにどうやら私はそれを浄化できるみたいだ。」


それを聞いて二人はますます混乱する。


「と、いうことは誰かが殿下に瘴気を触れさせたって事ですよね。」


「それでご病気に? でもどうして…。」


これは一国の皇太子が誰かに命を狙われているということだ。


「分からない。でも確かに瘴気に汚染されているのが見えた。」


魔力の多い人で稀に瘴気を感じたり見える人もいる。


「で、お嬢はその瘴気を浄化できると。」


「お嬢様、いつから聖女になったのですか…?」


「あの魔獣の暴走の時もナミール山脈の麓の森の中の泉を浄化しましたよねぇ。

マルティオスの戦姫改めマルティオスの聖女ですか?」


「ふざけるな。そんなに強いものではないから。このことは秘密だ。」


「「もちろんです!」」


 瘴気を浄化し、聖水を作ることが出来る聖女や聖人と呼ばれる人はこの大陸の中でも10人に満たない。

その身柄はローゼンシア帝国から一つ国を隔てた小国、グレナード公国にあるケスニア教の総本山の神殿で保護されている。

聖女とか呼ばれてそんな事になれば大変だ。

ディアーナはもちろんここを離れるつもりも聖女になるつもりも無い。


「まさか皇帝陛下も…。」


とミリアムが呟くと、


「それも分からないが今は滅多なことは言わない方がいい。

メイド長や古い使用人達からは、以前から陛下はこの病になってもおかしくはない生活をされていたとは聞いたが…。」


「ま、殿下のことも含めて色々探る必要がありますね。

相当おかしいっよ。サラセナ宮殿(ここ)は。」


「そうだな…。」


ディアーナはぐったりとベッドに伏せる皇太子殿下の姿を思い出し暗い顔で頷いた。



 

 夜遅くひっそりとした後宮の奥、人目を憚るように大きな扉に滑り込む男の黒い影があった。

 この部屋の主は皇帝の側妃の一人であったアマンダ妃である。

アマンダ妃はパルマン子爵家の娘で、10年前十七歳で皇帝の側妃となったが、陛下が贅沢病の症状が進み、わずか半年でその任を解かれた。

 そうして何人かいた側妃は後宮を出て、ある者は屋敷を賜り貴族女性のための淑女教育の施設を作ったり、ある者は神殿に入り奉仕活動に力を入れたり、若かった者は他の者と結婚して子を儲けたという。

 そんな中、一番歳下だったアマンダ妃だけが後宮を去らずに残った。

すでに側妃としての務めは無いが、今なおその身分を捨てる事なく後宮の女主人として君臨している。

 噂によると、より権力を望む父親のパルマン子爵の命により様々な権力者に近づき、後宮に存在するあだ花と化していた。

二十七歳となった今では元々の美貌に更に磨きがかかり、豊満な体にますますの色気を漂わせている。


「まあ、ずっとお待ちしてましたわ。大公様。

どうぞこちらへ。」


「ああ、久々だな。近頃は仕事がますます忙しくてな。でも今夜はゆっくり出来そうだ。」


ゆったりとソファに腰掛けた大公の隣にアマンダ妃がべったりと寄り添い、酒が運ばれて来た。


()()()()がもう使いモノにならないから忙しいのも仕方がないんだが。

全く、それにしてもしぶとい奴らだ。早くくたばればよいものを…。」


「まぁ、怖いお方だこと。そうなったらもっと忙しくなりましょうに。」


フフッとアマンダ妃は妖艶に笑った。


「そうだが、早く手に入れたいものよ。

お前もそうであろう?いつまでもこのままの立場でいたいはずがない。」


「そうですわねぇ。でもこれもなかなか悪くはありませんわ。」


「そうだろうな。俺の息子ともできてるそうだな。他にも色々と…。」


「あら、やきもちを焼いて下さるの?

浮気ではなくただの遊びですのに。」


「ま、そういう事にしておいてやろう。」


そう言いながら二人は寝室へと消えていった。



 その側妃の部屋の扉の前、薄暗い廊下にそこを守る衛兵が一人無表情に立っていた。

 中の二人が寝室に消えた後、一瞬


「チッ。」


と、舌打ちをして眉をひそめ、そして密かに集音魔法を解く。


 再び何事も無かったかのように立っていたのはカイルであった。


悪女登場


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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