15 第一騎士団長
ディアーナの婚約?
メイド姿のディアーナとミリアムは掃除道具を手に第一騎士団の建物へと急ぐ。
団長室の重厚な扉をノックして、
「片付けに参りました。」
と、声を上げるとすぐに扉が開き補佐官室を通って執務室へと案内された。
中へ入ると紅茶で濡れてしまった書類を手にした補佐官が入れ違いに出て行く。
広い執務室には大きな机と豪華なソファがあり、男が二人何やら言い争いをしているような声が聞こえてきた。
奥に座っているのは大柄で頭の髪の毛が寂しい年配の男、手前には背を向けていて顔は見えないが、赤い近衛の制服を着ているのでこちらがチェザーレ ベルゼルク第一騎士団長だろう。
そしてどちらも皇家のみが持つという濃い金色の髪をしていた。(奥の男はかろうじて残っている髪だが…)
二人の男はディアーナとミリアムがモップとバケツを手に部屋に入ってきたのにも全く気にせず言い争いを続けている。
「ですから父上、そんな者との婚約などお断りです!」
(父上、という事はベルゼルク大公か…。)
ディアーナは思わぬ大物との遭遇に注意を向ける。
「だから先程からその重要性を何度も言っておるではないか!
お前もいつまでも遊び回っている訳にはいかんのだ。アレの持つ帝国最強の力をこちらの味方に取り込むのだ!
皇太子も目をつけたようだ。何とあの時の夜会でダンスなどしよって。
奴より先にお前の魅力でマルティオスの娘を落とせ。娘を人質がわりにする。
分かったな!」
突然マルティオスの名が出たことに、割れたカップと皿を拾い集めていたディアーナとミリアムがピクリと反応した。
「重要なのは分かりますが、あのマルティオス提督の娘でしょ、父上もデビューの夜会で初めて見て父親によく似ていたと仰っていた…。」
「ああ、似ていた。(髪と瞳の色が)」
「そんな女をこの私に押し付けるのですか!
マルティオスの戦姫だか何だか知らないが、あんな野蛮なゴリラに似たどうせ色気も無い小娘なんか私に相応しくありません!
私はもっと女らしくて美しくて抱き心地の良い女がいい!」
といって片付けをしていたディアーナ達の方を向いた。
まず、ディアーナの方をいかにもつまらなそうな目で見てから、ミリアムのボンキュッボンな身体をいやらしく舐め回すような目で見ている。
チェザーレは金色の髪こそ皇太子と同じだったが、似ているといわれる顔は確かに従兄弟としては多少似ているとは思うが、垂れたいやらしい目つきに細すぎる眉、それにあごが長くて皇太子殿下を劣化させたような感じだった。
着ている軍服も基本は近衛と同じだが、袖口と襟元のレースや金モール刺繍が多すぎてギラギラしている。
パーティーでもないのにこんな派手な服装で団長として戦えるのか心配になるレベルだ。
整えられた白くて細い指先には剣ダコはなく、腰に携えている剣も宝石がたくさんついていてただの飾りのようだ。
強くて凛々しい兄や先ほどゴリラ呼ばわりされた父とは同じく団長と呼ばれていても似ても似つかない軟弱そうな出立ちと噂とは違う軽薄そうな中身にディアーナはますます不快感を募らせる。
「まぁそう言うな。マルティオスの娘とは初夜だけ、一晩だけ我慢しろ。
何なら寝室の明かりを真っ暗にしても、顔に枕を押し付けてもいい。
ゴリラでも何でも女は女なんだから無理してでも抱け。
後はお前の好む豊満な女を好きなだけ愛人にしてもいいから。
分かったな。婚約を申し込んでおく。」
「はぁ…分かりました、父上。」
ミリアムが静かに落ちたティースプーンを逆方向に捻じ曲げている。
ディアーナも、
(誰が婚約なんかするか!ボケェ!)
と、二、三発殴りたい気分だったが、ぐっと我慢して冷気を漏れさせているミリアムを引っ張るように
「失礼致しました。」
と部屋を後にする。
中の二人は入ってきた時と同様にメイドには目もくれず何やら話し込んでいた。
ディアーナは腹いせにドアノブを力いっぱい回して捩じ切っておいた。
後に補佐官が壊れたドアノブに首を傾げることになるが、今は知ったこっちゃない。
夕刻、いつもの食料倉庫の裏に三人が集まった。
カイルは真っ黒なオーラを撒き散らしているディアーナとミリアムを見てその場で固まっている。
ディアーナは暗い目をして
「色気のないゴリラ娘… …。」
とブツブツ言っている。
ミリアムはどこから取り出したのか、暗器のフリスクナイフで手のひらをペチペチと叩きながら、
「ハゲ親父としゃくれアゴ男のどちらから殺ろうかしら…。」
と暗く笑っている。
そして今日の午後の第一騎士団団長室でのベルゼルク大公とチェザーレ団長との会話を聞かされたカイルは絶句する。
「お嬢が婚約…。」
「「するわけない!!」」
「ですよね…。」
父の元に申し込みが来たとしても、以前ディアーナの成人を祝う宴会で兄と父がディアーナの婿になる者は二人を倒せる者でないと、と言っていたのでたぶんあのしゃくれアゴ団長は弱そうだし、きっと断ってくれると願わずにはいられない。
いくら政略結婚とはいえ、あんな奴と…と考えるだけでディアーナは鳥肌が立った。
「それにしても親子揃ってクズですよね。」
「本当にそうだな。あんなやつがこの国の摂政なのか…。それに皇太子殿下のことを敵視していた。」
「調べればもっとゲスい事出てきそうっスね…。」
「お嬢様お任せを。クルトールの名にかけて裏の裏までほじくり返してやります!」
「ああ、ミリアムやっておしまいっ!」
(裏の裏は表じゃ…?)
と、カイルは思ったが今は黙っておいた。
怒りのミリアム。
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