12 卒業舞踏会
ディアーナとラディアス
あの夜から新しい年が明け、幾日も経ったがリオンハルトの行方は分からないままだ。
まだ自室の寝台の上で着替えもせずにうだうだしているディアーナに侍女のミリアムが堪らず声を張り上げる。
「お嬢様、いつまでそんな格好を?お気持ちは分かりますが、今日はもうすぐ卒業舞踏会用のドレスの採寸に仕立屋が来ますよ。
しっかりして下さい。」
「分かってる。朝からうるさく言うな…。」
「お嬢、朝からって、昨日は午後の鍛錬でもつまずいて顔からダイブしてたじゃないですか。
あんなポンコツぶり見てられません!」
横からカイルも口を出す。
「だって、お兄様の成分が足りない…。」
二人同時にため息を漏らす。
確かに突然の母親の死と兄の失踪がショックだったのは分かるのだが、日に日に元気を失っていくディアーナを二人は心配していた。
そして帝国学園の卒業式の日を迎えた。
帝国内の貴族の子弟や裕福な商人の子、又は成績優秀な平民は十四歳からの三年間、国立の帝国学園に通うことが許される。
その前の十歳からの四年間、貴族平民を問わず無料で帝国初等学校に通うことができるが、魔力を持っている貴族のほとんどは子供が小さい頃から家庭教師を各家で雇い特別な勉強をしている。
ディアーナも三年間、バレッサにある帝国学園に通い、魔術科と騎士科で学んできた。
もっと勉強を続けたい者は母のように大学や父や兄のように士官学校に通う者もいるが、ディアーナは卒業後は騎士団で働きたいと思っている。
貴族のほとんどの令嬢は卒業後は花嫁修行や領地についての仕事を学ぶ者が多い。
ディアーナは朝から卒業証書と後輩達からたくさんの花束を受け取り、午後からは夜の卒業舞踏会のため侍女達に囲まれてほとんどもみくちゃにされながら洗われ、飾り付けられ、化粧され、先日受け取ったディアーナの瞳の色と同じエメラルドグリーンのドレスに着替えさせられた。
侍女達も満足のいく仕上がりのようで、じっとしていればただの可憐な美少女に見える。
そしてリオンハルトの代わりに快く引き受けてくれた従兄のラディアスにエスコートされ、馬車に乗り込んだ。
「なかなか綺麗だぞ。ディア。」
「ありがとう。ラディ兄様。」
じっと見てくるラディアスをディアーナは改めて見つめ返す。
ラディアス兄様は私より三つ上の十九歳。
今日はマルティオス騎士団の紺色の儀礼服に身を包み、鍛えられた大きな身体と私と同じ銀色の髪とお父様にも何処となく似た精悍な顔立ちのマッチョだ。
実は隠れファンも多い。
お父様の弟であるロンバルト叔父様は魔獣により左足を負傷し、今はもう実戦に出ることは無いが、騎士団の事務仕事や新人達の鬼教官として働いている。
父、叔父、ラディ兄様と、三人とも逞しいゴリラの譜系だ。
もちろん私はゴリラも嫌いではない。
ゴリラばかりの騎士団の中でリオン兄様のような細マッチョの王子様のような美形の方が珍しいのだ。
私とラディ兄様とが婚約するという噂も聞いたことはある。
貴族の娘として育った私はお父様が勧めるなら政略結婚でももちろんラディ兄様とも進んで結婚するつもりだ。
騎士として誠実で在りたいから将来の相手以外との恋愛は考えたことは無いが、でもやっぱり私も恋に対して年相応の憧れはある。
だから身近なリオン兄様を恋ではなく推しているのだ。
お兄様のカッコ良さを同志達と讃え、素晴らしさを日々布教している。
でもその推しがあの夜から供給出来なくて干からびそうになっている。
それにあの日の夜の額に触れた唇の感触を思い出してはベッドの上でゴロゴロと悶えたい気分になった。
ディアーナが一人内面で葛藤しているうちに馬車が止まった。
ラディアスにエスコートされながら帝国学園のホールに入ると、しばらくしてダンスが始まった。
銀髪の従兄妹ペアは目立つようだ。
二人は皆の注目を集めながらダンスをする。
意外にもゴリ兄はダンスが上手かった。
何だか安定感がある。
華麗なリフトを軽々と決めダンスを楽しんだ二人はグラスを片手にバルコニーに出た。
「ラディ兄様ってダンス上手かったんだ。遊んでなさそうなのにね。」
「うるさいっ。俺もダンスぐらいはする。
それよりお前こそまた痩せたんじゃないのか。
鶏ガラのように軽かったぞ。」
「はあっ⁈ 言い方!」
わざと怒った顔をしたディアーナに、ラディアスは
「悪かった。ディア、何か悩んでいることがあるんじゃないのか。
まぁ、伯母上のこともリオンのこともあったからない方がおかしいんだが…。」
と、急に真面目な顔で言うのでディアーナは胸がドキッとした。
そしてしばらく迷った後、口を開く。
「ラディ兄様。
私、ここを出ようと思うの…。」
「リオンを探しに行くのか?」
「ええ。リオン兄様はきっと自分と母様が狙われた理由を知っている。
そしてきっと犯人を探している…。
私も母様の仇を討ちたいし、兄様の手助けをしたい。」
「行くあては有るのか?」
「無い。
でも手掛かりなら掴んでいる。」
「だからお願い。ラディ兄様。
このことはお父様には内緒にして…。」
二人の間に重苦しい沈黙が流れる。
「分かった…。
お前は止めても聞かないからな。
ただし、一年だけだ。
一年で何があっても、まだ途中でも必ず帰って来い。
分かったな!」
「…分かった。
ありがとう。ラディ兄様。」
ディアーナは思わずこの優しい従兄に抱きついた。
ラディアスもその背を抱きながら、
「気をつけて行け。ディアーナ。
トリトーネの加護の共にあらんことを…。」
と、マルティオス騎士団の盟約の言葉をそっとディアーナにかけた。
ディアーナは同担歓迎。
お読みいただきありがとうございます。
不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。




