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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還

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10 運命の子

出産に関する記述があります。苦手な方はご注意下さい。




 そして御子様が侍従長に恭しく抱かれ、お披露目のため陛下と共に産室を出て行かれた。

 その後、ほっとするのも束の間、後産の処置が始まる。

 高齢の医師と治癒師は皇妃様に付きっきりでほぼ四日間仮眠のみで出産に当たられていて、かなりの疲労で魔力の減少も見られたため、休息することになり、代わりに若い医師と治癒師が後を任されることとなった。


「さあ、あとひと頑張りですよ。皇妃様。」


「ええ、あなたも疲れているでしょう。もう休みなさい。」


 声をかける私に皇妃様はおやつれになった美しいお顔に無事にやり遂げた充足感を滲ませながら力なく微笑まれた。


 後陣痛が始まり、あとは不要になった胎盤が排出されて出産は終わりとなるが、陣痛はますますひどくなり、いつまで経っても胎盤が出てこない。

 私は皇妃様のご出産に立ち会うため、座学で勉強をしていたが、さすがに普通ではないと感じ始めた頃、若い医師の顔色が変わった。


「ま、まさか、もう一人いる…。」


「そんな訳は!今までの検診でもずっとお一人と言われてましたし、どうして…⁈」


思わず叫んでしまったが、今の皇妃様の状態は先程と同じく出産が始まったようにしか見えなかった。


「間違いありません。双子のようです。

先程までは感じられなかったのに、今ははっきりと胎児の魔力を感じます。

これから分娩準備に入ります。」


若い医師のその言葉に皇妃様をはじめその場にいた全ての人が凍りついた。


「ま、まさか双子なの…?」


陣痛で顔を歪めた皇妃様が呟く。


「そんなことって…。」


私も膝から崩れ落ちそうになる不安を追い払うように震える手で皇妃様の背をさする。


(どうかせめて皇女様でありますように…。)


と、思わずにはいられなかった。


 この広大なローゼンシア帝国を治める皇家には一つの禁忌(タブー)がある。

それが皇位継承権を持つ男子の双子である。


 約五百年前、建国してから約二百年程がたち、国としても安定し、繁栄を続けていた頃、ローゼンシア皇家に皇位継承第一位を持つ双子の皇子が生まれた。

 その皇子達が成長し、父皇帝が亡くなった後、二人の間に皇位継承の争いが起こった。

 国内の貴族達がそれぞれを支持したため国を二分して争い、また対立する二つの国が別々の皇子を後押しした結果、内乱状態となり国は乱れ民は疲弊し、二人の皇子と多くの貴族達が戦いに倒れた。

最後は二つの国がローゼンシア帝国を二分し支配することとなり、実質上帝国が滅んだと言える。

 その混乱に乗じて幼い第三皇子が当時独立国だったマルティオス公国に亡命し、その子がマルティオス騎士団の助力と神話の聖獣、金色の獅子の力を得て、二つの国を蹴散らし帝位に就きローゼンシア帝国を復興させた。

 その間約五十年、帝国の歴史で「暗黒の五十年」

といわれ、その皇帝は「獅子帝」と呼ばれて英雄として名を残した。


 それより皇家で男の双子は禁忌とされ、「(わざわ)いの子」、「忌み子」との名を持って存在を否定されることになる。

 その後、皇家の長い歴史の中で皇位継承権の無い皇女の双子が産まれ、片方はすぐにしかるべき所に養女として出された例はあるが、それ以外の皇子の双子は今まで記録には無い。

いや、()()()()こととされている。

 このことはローゼンシア帝国の貴族の間では秘すべき常識となっている。

 もちろん他国から嫁してらっしゃった皇妃様も周知されていた。

だから双子と聞いて皆が凍りついたのだ。


 それから少し経ち、二度目の分娩が始まった。

皇妃様は息も絶え絶えで魔力の減少も激しく、止めれるものなら止めてもらいたい程衰弱されていた。

 双子と分かってもご自分の命の危険を感じていても産むという母としての強い意思を感じる。

 そして生まれた御子は残念なことに皇子であった。

 先程のお子よりずいぶんと小さく、産声も弱々しく、消えてしまいそうなお子だった。

 出血も多く、魔力のほとんどを使い果たし、意識を保っているのが信じられないような状態の皇妃様は、それでも震える手で、ローゼンシア皇家の濃い金の髪とご自分と同じ紫紺の瞳を持つ小さなお子を抱きしめて、


「ああ、かわいい子…。

この子は「禍いの子」ではなく、自分の存在を隠せるほどの強い加護を授かった「導かれし運命を持った子」よ…。

名はリオンハルト。

アマリア、どうか…どうかこの子を守って…。

お願い…。」


 そして皇妃様は最後の気力を振り絞るようにリオンハルト様の額にキスをして、ご自分の左手の薬指にしていた聖コンティス王国の紋章とタンザナイトのはまった金の指輪を引き抜き、震える手で私に渡して静かに目を閉じた。


 若い医師と治癒師も慌ててありったけの魔力を注ぐが、皇妃様のあの美しいタンザナイト色の目が再び開くことは無かった。


 私はあまりのショックで失神してしまったらしい。

下腹部の激痛に目を覚ますと、医師と治癒師が私の処置をしてくれていて、言われた言葉に再び気を失いそうになった。


「あなたも陣痛が始まったようです。先程破水しました。どうか気を確かに。」


 私は痛みと皇妃様を失った悲しみと七ヶ月で出産することになった混乱とで泣きながら出産した。

 それがいけなかったのか、私と亡きレティウスの忘形見の子は産声さえも上げることは無かった。

 ますます泣き取り乱す私に若い医師は言った。


「こちらがあなたの子です。

医師は命を助けることが仕事です。

奪うことは出来ません。」


と、言って差し出されたリオンハルト様の髪はよくある茶色に、目は榛色に変わっていて私を見て弱々しく泣いていた。

 私は胸が詰まった。

これが皇妃様がお子を守ろうとする力なのか。

私はリオンハルト様を抱きしめ、皇妃様に託された使命を果たすことを誓う。

この子を私の子と思い育てると。


 そしてその出産に立ち会った者全てに秘密を守るよう固く口止めし、私は皇妃様の死にショックを受けて早産したとしてこの子を引き取った。

 小さく生まれたためか、誰も私の子では無いと疑う者はいなかった。


 そしてこれを機に帝宮を去り、家庭教師(カヴァネス)をしていたが、リオンハルトと共にマルティオス領へと呼ばれ、頼もしくて優しいジェラールと再婚し、ディアーナも生まれ、アフロディテも無事に嫁ぎ幸せな日々を送ってきた。

 


禍いの子と運命の子。



お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合い下さいませ。

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