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運命の皇子と伝説の乙女  作者: ふう
第一章 皇子の帰還
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1プロローグ

新連載始めます。よろしくお願いいたします。

展開はゆっくりですが最後はハッピーエンドを目指します。




 秋の初めの大きな太陽が、大陸一の繁栄を誇るローゼンシア帝国の帝都、ビエナブルクの街を茜色に染めながら遠く西の山脈の上に傾く。



 帝都の中心、壮麗なサラセナ宮殿のすぐ近く、マルティオス大辺境伯邸の緑青に覆われた大屋根の上に少女が一人で立っていた。

 思いもよらぬ場所に白く輝くようなその姿を見た人は、女神か天使が降臨したかと思うかも知れない。


 少女は銀色の長い髪と白いドレスの裾を夕暮れの風に靡かせ、沈みゆく太陽の方向、西の空を見つめて立っていた。

 よく見ると、深い海の色を思わせるエメラルドグリーンの瞳に珊瑚色の小さな唇、薄く紅を刷いた白い頬、プラチナ色に輝く先だけ緩くカールした髪は片方だけ綺麗に編み込まれている。

デコルテの広く開いた真っ白のシンプルなドレスの裾には銀糸と真珠の細かなレース刺繍がなされ、ドレスとお揃いの真珠と銀のネックレスとピアスをつけ、腕には白いオペラグローブを嵌めている。

 

 少女の名はディアーナ マルティオス。

このローゼンシア帝国の西の端、広大な領地を治めるマルティオス辺境伯家の次女である。

 先々月十六才を迎え、今日はデビュタントとして初めて皇宮で行われる舞踏会に出席するのだ。


 その美しい少女は兄のいる領地の方向の西の空を見つめてため息を吐くように呟いた。


「リオン兄様…。私の初めての正装(ドレスアップ)姿を見てもらいたかったな。

そしてファーストダンスを共に…。」


 少女は優雅にドレスの裾を両手でつまみ、軽く膝を曲げ、昔、女家庭教師(カヴァネス)をしていたという母に厳しく躾けられた完璧なお辞儀(カーテシー)をして、いつも練習相手になってくれた兄を思いながらワルツを口ずさみ、大屋根の上一人でダンスを踊り始めた。

 マルティオス騎士団の濃紺の軍服に白い儀礼マントをつけ、白い手袋を嵌めた凛々しく麗しい王子様のような兄の姿を想像して、ディアーナは淑女らしからぬ緩んだ顔をしていたに違いないとハッとして少し顔を引き締めた。


 先月、領地の屋敷にその年に十六歳の成人を迎えた貴族の子女に送られるデビュタントとして舞踏会への招待状が届いた。

その招待状を見たディアーナは、真っ先に兄、リオンハルトに


「お兄様、私のデビューの時のエスコートをして欲しいんだけど…。」


と、モジモジしながらお願いをした。

 その時、


「ぐうっ…。」


と後ろから変な声がしたので振り返って見ると、

そこにはローゼンシア帝国最強といわれるマルティオス騎士団の団長で、「マルティオスの守護神」と畏怖されている父、ジェラールが青い顔をして項垂れていた。


「ディアーナ…エスコートは父様では嫌かい…?」


大きな身体を丸め、ディアーナと同じ銀色の髪とエメラルドグリーンの瞳を不安げに揺らしている姿は、まるでペタンと垂れた耳と尻尾が見えるようだ。


「えっと…。も、もちろん、お父様がエスコートしてくれるなら嬉しい…。」


「そっ、そうか!」


さっきまでの様子と打って変わってパァーッと顔を綻ばせ、


「なら、さっそく帝国一可愛いウチのお姫様に似合う最高の衣装を作らせるぞ!」


と、機嫌良く去っていった。


(あぁ…せっかくの妹特権が!)


心の中で涙するディアーナとポカンとする兄に、その様子を見ていた母、アマリアがコロコロと笑いながら告げる。


「本当にお父様はあなたが可愛くて仕方ないのねぇ。

リオンハルト、二人が帝都に行く間(わたくし)と領地でお留守番よ。

ディアーナ、あなたなら大丈夫。

初めてのパーティーを楽しんでいらっしゃい。」


 先日のそんな領地での会話を思い出しながら、ディアーナは優雅に一人ワルツを踊る。

 その時、下から大きな声が聞こえた。


「ディアーナー!」


「お嬢様ーどちらにおいでですかー!」


父と専属の侍女兼護衛のミリアムの声だ。


(いけない!そろそろ行かなくては)


ディアーナはダンスを止め、急いで屋根の上から飛び降りた。

誰にも見られていないと思うが、身体強化の魔法と念の為風の魔法を操りトンと軽く二階のバルコニーに降り立った。

淑女(レディー)はドレスの裾が捲れ上がって下着(ドロワーズ)を見られる訳にはいかないからだ。

そして何事も無かったかのように、


「お父様こちらです。」


と声を上げると、ドアが開き、


「ここにいたのかディア。

ああ、なんて美しいんだ!まるで女神様のようだ!」


と、満面の笑みを浮べた父が入ってきた。

 精悍な顔立ちにディアーナと同じエメラルドの瞳と銀色の髪を後ろへ流し、胸にはたくさんの勲章のついた濃紺の軍服の礼装姿の偉丈夫な父が戯けた様子で、


「それでは参りましょうか、レディ?」


と白い手袋をはめた手を差し出した。


「ええ、喜んで。」


とディアーナもオペラグローブをはめた手をそっと乗せた。




 同じ頃、帝都ビエナブルクの遥か西、ローゼンシア帝国最大の領地を有するマルティオス大辺境伯領の領都バレッサの白い石造りの建物と紺碧の海を茜色に染めながら大きな太陽が水平線に沈もうとしていた。


 その港には大小様々な船が停泊していて、その中にひときわ大きな黒いガレオン船が異彩を放っている。

帆を畳んだメインマストの上には縦長の五角形の盾の中に海神の使いである大海蛇(シーサーペント)と剣が描かれたマルティオス家の紋章の旗を掲げた巨大な船の船首のスプリットの上、青年が一人立っていた。

 小麦色に焼けた肌にスラリと伸びた鍛えられた身体、茶色の長いストレートの髪を後ろで束ね、榛色の瞳はこの国ではよくある色だが、高い鼻梁に切れ長の目、神話の男神のような逞しく美しい青年が夕日に背を向け、東の空を見つめていた。

 青年の名はリオンハルト ライエン。

ディアーナの五つ違いの兄であり、母、アマリアがマルティオス辺境伯と再婚したため母の希望でそのまま旧姓のライエンを名乗っている。

「マルティオスの閃光」との二つ名を持ち、実力主義の騎士団の中で副団長を担っている。

 その精悍な青年が沈んでいく夕日に照らされた海を見つめて呟く。


「ディアーナは無事にデビュー出来たんだろうか…。」


 いつもは自分と同じ、シャツにズボン、ブーツに騎士団の紺色の制服姿で団員達に混じって剣を振るっている勝気な妹が、今日初めてデビュタントの白いドレスを纏い父のエスコートで皇宮へ向かうという。

 普段の少年のような、長い髪を一つに括り、エメラルド色の瞳を輝やかせながら流れるように剣を振るう姿でも美しいと思ってはいるが、着飾った姿はもっと美しいのだろうな。と、リオンハルトは歳の離れた妹の姿を少しの痛みにも似た思いを持って東の空を見上げた。



 

 この夜、遠く隔てた場所からお互いを思う兄妹の、のちにローゼンシア帝国を揺るがすことになる運命の歯車が回り始めたことを二人はまだ知らなかった。


お読みいただきありがとうございます。

不定期投稿になりますがよろしくお付き合いくださいませ。


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