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第六話 VSゴルたん

「ウォォォォォォォォォォ!!」


ゴルたんが雄叫びをあげ、右手を構える。


「ロケットパンチ!」

「ろ、ロケットパンチだとぉ!?」


ゴルたんの岩石で出来た右腕が射出され、その場にゴトリと落ちる。

それをゴルたんは拾い上げ、大きく振りかぶる。


「ファイア!」

「クッソ物理じゃねぇか!」


投げられた右腕は唸りを上げ、空気を切り裂きながら飛んでくる。

スレスレで躱すが、巻き起こる衝撃波に吹き飛ばされコロッセオの壁に激突する。

投げられた右腕はコロッセオの壁に深々と突き刺さり停止している。


「恐ろしい威力だが……一度きりなら怖くはないな」

「ロケットパンチは連射可能ですよ」

「な、なんだと……?」


あの威力が連続は、流石に厳しい。避けたとしても衝撃波で飛ばされる。本体に対する有効打も思いつかない。

俺は窮地に立たされていた。

立たされておきながらも、心の底では熱いものが込み上げるのを感じていた。


「次弾装填!」

「クソ! 二発目がくる……!」


ゴルたんは自分の足の岩石を取り外し、手に持って大きく振りかぶった。


「ファイア!」

「力技すぎるだろうがぁ!」


あまりの行動に反応しきれず、岩石を肩に食らう。


「ぐ、ぐぅ……ッ!」

「センプウちゃんから、聞きました」


ゴルたんはもう片方の足の岩石を外し、また手に持った。


「ヴァルルさんは、戦いに飢えているって」

「あぁ……?」

「強すぎる即死の力を持っているから、誰も対等に戦ってあげられていないって!」


ゴルたんは岩石を投げつける。しかし微動だにしない俺の真横を通り過ぎ、コロッセオの壁を破壊した。


「戦いが好きなのに、満足に戦えない。だから、だからゴルたんの全部で戦ってあげてほしいって……!」

「そうかよ……! 余計な事しやがって、おかげで今は最高の気分だよ……!」

「次弾装填! 私の全部をぶつけます、必ず……勝ってください!」


ゴルたんはそう言うと、自分の頭をもぎ取る。


「これ痛いんですから! 絶対受け止めてくださいね!」

「痛いならするなよ!」

「ファイア!」


轟音。

ゴルたんの腕が軋む音や、投げられた頭が風を切る音。観客の息を呑む音全てを飲み込むその音。

それは、俺の腕の中から発された。

抱き止める様な姿勢でゴルたんの頭を受け止める。恐ろしい程の衝撃、全身の骨は軋み、胸は潰れ、押される様に後退する。

地面に足を立て、コロッセオの中央から壁まで二本線が引かれた。それでも勢いは止まらず、翼を広げさらにブレーキをかける。

壁とゴルたんの頭に潰されそうになりながら、俺は歓喜の雄叫びをあげた。


「……止めたぜ、ゴルたん」


俺は膝から崩れ落ちる。胸に抱きとめたゴルたんの目に、もう光は宿っていなかった。




「いや〜本当に止めるんですね。すごいです!」

「幻聴が聞こえるなんて……俺も随分歳をとったな」

「あ、その頭あとで回収するんで置いといてください!」


顔を上げると、頭のないゴルたんがひとりでに動いている。


「……亡霊?」

「生きてます! ちょっと待っててくださいね……」


頭のないゴルたんはまるで服を脱ぐかの様に岩石を取り外していき、ついに見た事のあるサイズのゴルたんになってしまった。


「ふぅ。やっぱり重いですね」

「……この頭はなんだ?」

「それは……簡単に言うとパワードスーツの様なものです!」


俺は抱き抱えていたゴルたんの頭を、壁に叩きつけて粉砕した。


「それ高いんですよ!?!?」

「だまらっしゃい! テメェゴルたんさっきの俺の感情を返しやがれ!!!」

「感情ってなんですか! ワタシはただ全力で戦っただけですよ!」

「うるせー!!! 第二ラウンドだこの野郎! とっととゴング鳴らせ実況!」


俺の怒鳴りを合図に、実況が強くゴングを鳴らした。

第二ラウンドスタートだ。


「次はこっちから行くぞ!」


俺は大きく踏み込み、ゴルたんの側面を取る。大きく拳を引き、思いきり横っ腹を殴りつける。

しかしゴルたんはびくともせず、俺を捕まえようと大きく腕を開く。

素早く距離を取り、ゴルたんの射程から逃れる。


「捕まってください!」

「いやだね!」

「なら捕まえるまでです!」

「やれるもんならやってみろ!」


ゴルたんは地面を蹴り、俺の元に飛び込んでくる。

俺の三倍もの巨体。それが俺を押し潰そうと、空を飛んでいる。


「隙あり!」


俺は素早くゴルたんの関節に蹴りを打ち込む。


「首、足首、肘、腋、股関節、膝の裏……全身が岩で出来ていても、必ず脆い部分は存在する!」

「な……なんですって!?」

「バラバラに砕け散れ!」


俺はトドメと言わんばかりに、ゴルたんの顔を殴打する。

ゴルたんの顔にヒビが入り、俺の背後にその巨体は落ちた。


「人を……人なのか? ……知り合いを全力で殴ったのはこれが初めてだが、案外心地がいいな」

「知り合い全員殴るマンみたいな発言ですね……サイコパスですか?」

「ちげぇよ。というかだいぶ余裕だな」

「えぇ……でも視界はボヤけていますけどね」

「な……その顔は!」


起き上がったゴルたんがこちらに顔を向ける。

岩の顔が割れ、中からは青い瞳をした人間の女の顔が覗いていた。

会場がざわつく。


「ゴルたん……中身は、人間だったのか」

「いいえ、ゴーレムですよ」


毅然とした態度を取り続けるゴルたんを前に、俺は一つの疑問が解消された。


「やっと理解できたぜ。どうしてゴルたんに即死が効かなかったがな」

「そりゃあ効かない体質だったからでしょう?」

「いいや。服くらいなら貫通するが、何か物質を挟めば即死は効かなくなる。つまり、岩に阻まれて触れていなかったんだ」

「だからワタシはゴーレムなので、この岩こそが体なんです!」

「くくく……タネが分かれば簡単だ!」


俺は飛び上がり、ゴルたんの顔面目掛けて手を振り下ろす。


「本体に直接触れちまえばいいんだからなぁ!」


俺の手が岩の割れ目に差し込まれ、女の顔面を覆い尽くす。

次の瞬間、その顔がずるりと剥けた。

まるで皮だけが取れたかの様に、顔の表面だけが手に吸い付いたのだ。

その皮の下。ゴルたんの顔には、大砲の様な砲門がこちらを向いていた。


「引っかかり、ましたね!」

「しまった罠か!」

「大・噴・火!」


ゴルたんの体が赤く光ったかと思った瞬間、灼熱の炎がゴルたんの顔から撃ち出される。

俺はガードする事もできず、真正面からその炎を食らった。

炎と共に押し出され、ゴルたんから距離を取る。皮膚は焼けこげあちこちから激痛が走り、オキニの黒装束はチリ一つ残さず消え去った。


「騙し討ちとは、驚いた……! ゴルたん、俺が思ったより悪女だったんだな!」

「いえ……センプウちゃんがこれを貼れば、必ず顔を狙ってくる。だからそこを狙えって」

「センプウちゃんが……?」


センプウちゃんがこんな卑劣な戦法を使うだろうか。

しかし戦いにおいて、卑怯も卑劣も無い。それを俺はよく知っている。

結局は、勝たなければならないのだ。


「なら俺も少し、汚い手を使わせてもらうぜ」


俺は翼を目一杯伸ばし、羽ばたかせ風を起こす。

台風よりも強力な風は竜巻となり、コロッセオ全体を襲う。

土埃や観客の所持品、周囲の木々や石ころなどが巻き上げられていく。視界もまともに確保できなくなり、立っているのがやっとだろう。


「ゴルたん! 礼を言う、楽しかったぞ!」

「何言ってるんですか!」

「あぁ……?」

「ワタクシがなんでこの大会に参加しているか、知っていますか!?」


そういえば知らない。俺の様に強い奴と戦いたがっているわけでもない。


「ワタクシはね、優勝したいから参加してるんですよ!」

「……それはそうだろうな」

「違う!」


巻き上がる竜巻の中で、ゴルたんの目だけが俺を捉えている。赤い赤い目が、突き刺さる様に。


「ヴァルルさんを楽しませる為にここにいるってわけじゃあ、無いんですよ!」


竜巻の向こう側から何かが俺の元に飛んでくる。

それは竜巻で巻き上がらず、俺の目の前にまで飛んできた。


「っ! さっき脱いだ岩……!?」


間一髪で弾くが、その瞬間。俺はゴルたんを見失った。


「この勝負、勝たせてもらいます!」


いつの間にか俺の背後にまわっていたゴルたんが、何かを大きく振りかぶる。

それは光沢を帯び、テカテカとひかる巨大な。


「コロッセオの壁に刺さった岩を引き抜いて……鈍器にッ!!!」

「チェストー!」


俺はゴルたんの持つ岩にぶん殴られ、大きく上空に吹き飛ばされる。

だが、これでいい。これでいいのだ。

実況席、観客、共に大きな驚愕の声が上がる。

竜巻は勢いを無くし、周囲の状況がわかる様になる。


「え……」


ゴルたんの驚愕の声が聞こえる。


「さっき竜巻で何も見えなくなっていた時、少し打ち上げさせてもらった。ようこそ、地上三千メートルの世界へ」


俺とゴルたんは打ち上げられたコロッセオの破片に乗って、上空三千メートルの場所にいた。


「し、視界を奪った一瞬の隙に……!?」

「あぁそうだ。そしてそろそろ慣性が消え、一瞬の無重力。そして……」


ふわりと、浮遊感が二人を襲う。

俺は素早くゴルたんの背中にしがみつき、乗っていたコロッセオの破片を粉々に破壊した。


「自由落下だ!」


重力に引っ張られ、ものすごい速度で加速していく。


「ちょ! ヴァルルが死にますよ!?」

「上等! 俺はこのくらいじゃ死なない!」

「わー! ヤダヤダまだ死にたくない!」

「ずっと考えてたんだ。ゴルたんの装甲をどうすれば破れるか……ってな!」

「その結果がこれなら絶対間違ってます!」

「やってみなけりゃ、わかんねぇだろ!!!」


ぐんぐんと加速し、豆粒ほどだったコロッセオは目前にまで迫っていた。


「ねぇヴァルルさん! 本当に離してくれないと死にますよ!?」

「いいや、どうせ離してもゴルたんは死ぬぜ!」

「いやそうじゃなくって……!」

「そうだ、言いたいことがあったんだった」


俺は咳払いをし、静かに深呼吸をした。


「なんだかんだ一緒にいれて、た……楽しかったぜ。友達って、こういう奴の事を言うのかもな……」

「わ〜! ワタシも楽しかったですし、もう友達ですよ!」

「本当か!? 嬉しいな〜! 俺の初めての友達だぜ!!!」

「やった〜! ワタシもあんまり友達いないから嬉し〜! ……じゃなくって! 離してください〜!!!」


ジタバタと暴れるゴルたんを押さえつけ、地面の方向に向ける。受け身すら絶対に取らせない。確実に地面にぶつけて見せる。


「離さない! 絶対にだ!」

「はぁ……じゃあもういいです」


ゴルたんは諦めたような声を出し、急にジタバタと動くのをやめた。

するとゴルたんの背中が開き、中から一メートルくらいの人型の岩石が出てきた。スラリとしていて、まるで人間の様だ。


「じゃ、お先に。とうっ」


中から出てきた人型岩石はそう言って、ゴルたんから飛び降りた。

そして背中に背負ったパラシュートを展開し、減速した。


「いやそれはズルだろ!?!?」


俺の絶叫虚しく、空のゴルたんと俺はコロッセオの中心に落ちた。




「だから離して欲しかったのに……」


コロッセオの中心には深い穴が空いており、中の様子は確認できない。

ため息をつきながら体を伸ばす。


「でも友達かぁ……嬉しいなぁ……」


指の一つ一つを動かし、確実に一歩一歩前に進む。


「また新しい体作らなきゃ……今度はもっと強い奴を」

「そりゃあ、楽しみだぜ」


やっと届いた地面に手を伸ばし、体を持ち上げる。

体に付いた土埃を払いながら、外れた関節を一つ一つ治していく。


「えぇ……気絶くらいはすると思ったんですけど……」

「もう慣れた。流石に二度目は効かない」


肩を回し、壊れた骨を無理やり動かす。まだ無事な骨と体の中で入れ替え、腕の使い心地を確かめる。


「それで、第三ラウンドと行くか?」


俺がそう言うと、ゴルたんは両手を大きく上げてみせた。


「降参。ワタシこの体で戦闘はできないんです」


その瞬間、試合終了のゴングが鳴らされる。

観客は大歓声をあげ、俺とゴルたんを祝福した。

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