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第五話 恐るべき逆シード

目を覚ますとそこは、見知らぬ天井だった。

痛む頭を押さえながら体を起こす。頭が少し凹んでいる。


「おぉ、目が覚めたか」

「……センプウちゃん」

「ここは医務室だ。全く、派手にやらかしたな」

「試合はどうなった……」


そう聞くと、センプウちゃんは困った様な顔をした。


「ヴァルルが起こした衝撃のせいで、第三試合の参加者のほとんどが気絶または戦闘不能。しかしヴァルルも気絶していたから、今は審議にかけられている」

「……ゴルたんには、勝てたのか?」

「ゴルたんは無傷だ。安心してくれ」


俺は被せられていた布団を引っ張り、頭まですっぽり包まった。


「どうしたんだ」

「つまりゴルたんは失格になっていない。俺は負けたんだ」

「……あぁ、勝者は各グループから四人ずつ出るぞ」

「そういうの早く言ってくれないかなぁ!? いっててて……」


大声を出すと頭に響く。

しかし考えてみれば当然か。人数的に数人勝者が出るのは当たり前だ。


「それで……第四試合は?」

「ヴァルルがコロッセオを半壊させたせいで、バトルロワイヤルが出来なくなってな。今代わりの競技として掃除野球が行われている」

「掃除野球?! 掃除野球って雑巾丸めてボールにしたり箒をバットにしたりするあれか?!」

「あぁ」

「掃除野球で勝敗が決まるのか!? というかアレに勝ち負けがあるのか!?」

「そういうものだ」

「ますますこの世界がわからん……頭痛くなってきた……」


俺は枕に頭を埋させ、耳を塞いだ。

全くもってこの世界は訳がわからない。徹夜してる時の頭ふわふわ状態の時の言動くらいわからん。

そんなことを考えていると、センプウちゃんが立ち上がった。


「そろそろ決着やら審議の結果が出た頃だろう。聞きに行ってくる」

「おぉ、そうか……」

「まぁこれは私の判断だが、あれだけ大量の失格者を出した実力者。そんな奴を失格にはさせないと思うぞ」


センプウちゃんはそう言って医務室を出ていった。

俺は心が軽くなった様な気がし、少しだけ笑顔になった。

周りでうめく怪我人達の苦しむ声が、何だか子守唄の様だ。心地いい。

その時、メガネをかけた係員が医務室の扉を開け放った。


「ヴァルル、失格です!」

「クソが!!!」


俺は枕を投げつけ、ベッドから起き上がった。

そして係員の頭を、片手ですっぽりと覆った。触れない様に気をつけながら。


「もっかい審議し直して来い。次はマトモな結果が出るだろうからな」

「うるせー!」

「諦め悪いぞ!」

「ザマァないぜ!」

「うるせぇ怪我人ども! もっぺんぶちのめすぞ!」

「ヴァルルさん、失格ですが条件があります」


メガネはそのまま俺の手を書類ではらいのけ、メガネのずれを直した。


「これ以降の試合に、シードとして出場いただけるのなら参加を認める。との判断が下されました」

「シードぉ?」


つまり一回戦う回数が減るという事だ。

なるほど。戦いたがりの俺には苦渋の決断というわけだ。

だが俺には目先の戦いよりも大事なものがある。


「いいだろう。シードでも何でもやってやろう」

「ほ、本当ですか!? すぐに上に伝えてきますね!」


メガネの係員は驚いた様子で走っていった。

俺には決勝でセンプウちゃん(メインディッシュ)と戦うという目標がある。そのためなら他の奴ら(前菜ども)との戦いが何回減ろうが気にならない。


「待っていろセンプウちゃん、シードだろうがなんだろうが必ず上り詰めてやるからな……! ハーッハッハッハッハ!!!」

「うるさい!」

「お情け!」

「怪我人ばっかなんだから静かにしろ!」

「ばーか!」

「うるせぇぞ負け犬ども! それとお情けって言った奴誰だ!」


俺が怒鳴りつけると、他のベッドに寝転ぶ怪我人達は知らん顔してそっぽを向いた。


「ヴァルルさん、今から出番なんですけど大丈夫ですか?」


さっきのメガネの係員が、息を切らせながら戻ってきた。


「ハハ! 早速シードの出番か! 血湧き肉躍るぞ!」

「こちらにどうぞ!」


また暗い廊下を歩き、またコロッセオの観客どもの前に躍り出る。

そこには、壁に謎の表がデカデカと貼り出されていた。


「なんだあれ? 右肩上がりに棒が伸びて……ちょくちょく下まで棒が分岐して伸びてるな……」


そんな謎の棒が書かれている表の一番下、斜め上がりの最初の部分に俺の名前が書かれていた。


「さぁさぁみなさま、大変お待たせいたしました! なんでもいいと言ったチャレンジャー! ならば禁じられたあの試合方式を復活させましょうとも! お待たせいたしました、第一回闘技大会以来の復活です!」


俺の周囲に火が付けられ、会場全体の注目が集まる。


()()()()の開幕です!」

「逆……シード?」

「第一回戦で勝ち残った全ての選手と戦ってもらいます!」

「逆シードォ!?!?」


会場は熱気に包まれ、今までにないくらいの歓声が上がった。


「待て待て! そんなのアリか!?」

「何でもいいって言った、と聞きましたよ?」

「いや……言ってない、がぁ?」


あのメガネ野郎。余計な事をしやがった。

だが証人はいない。このままシラを切り通せばきっと。


「ではここで医務室に繋がっております! 医務室〜!」

『は〜い! こちら医務室です!』


実況が持つ水晶からさっきのメガネの声が聞こえてくる。


「そこの方達が発言を聞いていたとの事ですが、本当なのでしょうか〜?」

『では、聞いてみましょう! そこの方、どうでしたか?』

『言ってました! 間違い無いです! くたばれ!』

『なるほど。ではこちらの方はどうでしょうか!』

『絶対言ってました! このお情け野郎! 負けろ!』

『なるほどなるほど。では最後にこちらのエルフの女性にも聞いてみましょう!』

『え……う〜ん。まぁ戦えるならよかったな、ヴァルル』

『ありがとうございます! との事でした。現場からは以上で〜す!』


俺は握り込んだ拳の落とし所を探していた。

とりあえず時間ができたら、あのメガネの係員を探し出してやる。探し出したらとりあえず、ヤブレカブレの木に縛り付けてやる。


「いや〜医務室の皆さんから熱い声援を送られていましたね〜。我々もお前のせいで会場の修繕費どれだけかかったと思ってるんだ、と声援を送りたいですね〜!」


あの実況席の奴らも、俺の事を嫌っている様だ。

絶対私怨で逆シードを仕組んだんだろ。わかるぞ。


「では本戦第一試合! 早速始めていきましょう!」


俺のいる場所と反対。コロッセオの中から誰かが出てくる。


「逆シードの最初を飾るのはこの選手! 伝説のサムライにして、今大会の優勝候補! 数々の強者を倒し続けて三十年! この者に切れぬものなど存在しない! 九刀流のサムライ、ムサビエル・ツキカゲ!」


頭にちょんまげを生やし、ごちゃごちゃとした刀を腰にぶら下げた中年の男が出てくる。

周囲の観客に手を振り、ガッツポーズなどを見せている。


「貴様が第三試合を破壊した男だな? 名をなんと申すか」

「……あ?」


サムライ男は俺に抜き身の刀を一本向けながら、なんともめんどくさそうにそう言った。


「失敬。拙者はムサビエル・ツキカゲ。ムサシと呼ばれておる」

「……俺の名前はデス・ヴァルハラール。不本意ながらヴァルルとか呼ばれてる」

「そうかそうか。ヴァルル殿。……ところで第三試合には拙者の弟子も出場していてな、貴様の卑怯な手で酷い怪我を負ったそうだ」

「それで?」

「謝罪、それとこの大会を棄権せよ。そうすれば見逃してやろう」


サムライ男はそう言って、抜いた刀をまた腰に戻した。


「なんで?」

「せっかくチャンスをやったと言うのにな……」


サムライ男が深くため息をつき、実況席に視線を送る。その瞬間、ゴングが鳴らされた。


「拙者の九刀流、受けたもので生き残った者はいない! 死ねい!」


そう言って刀を次々と抜きながら、サムライ男はそれらを投げつけてくる。

俺は適当にそれを躱し、サムライ男の顔面を掴む。


「くだらん。こんな者が優勝候補か」


あくびをしながらサムライ男から手を離す。サムライ男は既に事切れていた。

会場は静寂に包まれる。


「俺が弱いわけねぇだろうが」


静まり返った会場内で、静かにそう呟く。

これからの展開は決まりきっている。悲鳴、絶叫、憤怒、そして敵意を向けられる。ある者は俺を恐れ戦いを放棄し逃げ惑い、ある者は俺に媚びへつらい命だけはと戦いを止め、またある者は勝ち目もないのに挑んでくる。

何百回と経験した、いつもの光景だ。


『うるせーばーか!』

『お前一回勝ったくらいで調子乗るな!』

『お情け!』


実況席の水晶から声が聞こえてくる。

次の瞬間、観客達からも同じような罵声が飛んでくる。


「なんだ……こいつら……死んだんだぞ?」

「それがどうしたと言うのだ!」


俺の問いに実況の男が答える。


「戦いで死んだのだ! 普通の事だろう!」


さも平然と答えられる。

そうだ。戦いとは、闘争とは死がつきものだ。

だが普通、死を目の当たりにすれば動揺する。しかしこの世界は違う。


「戦いによる死は、当たり前の事なのか……」

「さぁ! 次の試合だ!」


またコロッセオの奥から、誰かがゆっくりと歩いてくる。

大きな岩が擦れ、軋む音が聞こえる。


「滅多に姿を見せないゴーレム族の、その神秘のベールが剥がされた! その体、いかなる刃も通さず。その体、いかなる拳すら砕き折る! ゴーレム族、ゴルデンド!」

「ゴ、ゴルたんと呼ばれています! よろしくお願いします!」


観客に向かって頭を下げる。その岩石の体は磨き上げられ、金属光沢の様な輝きを放っていた。

体の大きさも俺の三倍程度だったのが、低く見積もっても五倍はある。


「……大きくなったか?」

「成長期です! 本気でやり合えます!」

「嘘つけ! ゴーレムが成長……いや、この世界ならありえるかも……」

「成長期は嘘です!」


目を黄色く輝かせ、ゴルたんは構える。


「でも、本気でやり合えるって言うのは本当です!」

「そりゃあ……楽しめそうだ」

「試合開始ィ!」


俺が構えると同時に、試合開始のゴングが鳴った。

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