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第二話 街の中の騒乱

「ほ〜……ここが街か。あんまり俺の知ってる街と代わりないな」


大きなコロッセオを囲むように民家や商店が広がっている。

どいつもこいつも血の気の多そうな奴らで、街全体は熱気で溢れかえっていた。


「まぁ街なんてどうでもいい。ここの名物はあのコロッセオだ」

「まぁ街の中心にデカデカとあるしな」

「あのコロッセオは歴史が深くてな……私が生まれた時には既にあの形だったぞ」

「そうか」


全く興味のない話を続けるセンプウちゃんを軽く流し、周囲の人間達の目利きを始める。

獣人、魔物、人間、ドワーフ。いろんな種族がいるがどいつもこいつも一般的な見た目で、あからさまな強者はいなさそうだ。

だが一般的な見た目だからと油断してはいけない。

今俺の後ろでごちゃごちゃと昔話をしているエルフのセンプウちゃん、こいつですら俺と手合わせして生き残ったんだ。もしかしたらこの世界は、見た目と強さが繋がっていないのかもしれない。ならば俺の目利きで判断材料になるものは……


「些細な仕草と、突然の出来事への対応力……!」


大きく拳を突き上げ、しっかりと握り込む。

突然の出来事への対応力。それを見るためには至極簡単だ、俺自身が突然降って掛かるトラブルになればいいのだ。


「グランド・インパクト!」


地面に拳を振り下ろし、強大な衝撃波を放つ。地面は捲れ上がり、家屋は吹き飛び、人々はミンチになる。

そのはずだった。


「迷惑行為は止めください」


俺の拳は、大きな腕に受け止められていた。

巨大な赤い瞳が俺を見下ろす。


「おぉ。ゴルたん! 久しぶりだな!」

「わぁ、センプウちゃん! 何年振りだろ!」


俺の拳を受け止めた奴は俺を掴んだまま、大きく両腕を振り上げる。

そいつの体は全て岩石でできているようであり、動く度に岩の擦れる音がしている。

俺は子供に乱雑に扱われる人形のように、ダラリと片腕だけでぶら下がっていた。そんな俺を大きな岩石の指が指し示す。


「こいつはセンプウちゃんのツレですか?」

「あぁそうだ。そこら辺で拾った、名前はヴァルルだ」

「違う。俺はデス・ヴァルハラールだ。どうしてこいつは俺が触れても死なないんだ」

「ヴァルル、こいつはゴーレムのゴルデンドだ。ゴルたんって呼ばれてる」

「ゴーレムねぇ……」


俺の知るゴーレムは、簡単な命令を聞く事しかできない岩人形のはずだ。それに自我も発話機能もなかった。だがこのゴーレムは自我らしきものも存在し、自らの意思で会話している。

やはり異世界。どうやら俺の知らないトンデモ技術が存在しているようだ。


「ゴルたん。お前の製作者は誰だ?」

「製作者……? 両親の事でしょうか」

「両親……?」


俺とゴルたん二人が頭の上にはてなマークを浮かべていると、何かを察したようにセンプウちゃんが割って入ってきた。


「この世界ではゴーレムは一つの種族なんだ」

「……?」

「人間と同じように両親が愛し合い、母親のお腹から生まれるんだ」

「ゴーレムが!?!?!? この岩で構成された奴が母親から生まれるのか!?!?」

「ちなみに産声は『ウゴゴゴゴ』でしたと、お母さんから聞きました」

「しらねぇよ!!!」


俺は頭を抱えその場にうずくまる。

元の世界でもゴーレムに即死は効かなかった。だからこの世界のゴーレムにも即死が効かない。まだ理解ができる。

だがこの世界のゴーレムは胎生。つまり母親から生まれる生命体のはずだ。ならば即死が効くはず。

どうして効かないんだ。全くわからない。理解できない。


「ちなみにゴルたんは女性だぞ」

「いらない情報を増やすな!!! ……もういい、理解は後だ。今はとりあえず強い奴を」

「私も女性だぞ」

「センプウちゃん、俺の脳みそを情報量で破壊しようとするのをやめてくれ」

「強い奴……ヴァルルさんも闘技大会に出るのですか?」

「……()?」


ゴルたんは目を黄色に輝かせ、俺の手を取ってブンブンと上下に振り始めた。

俺は抵抗すらせず、布の様にただ振り回されている。


「ワタシゴルたん、何を隠しましょう。あの闘技大会に出る人を探していたんです!」

「お〜そうかそうか……」

「やっぱり一人で受付を通るのは怖いですから、みんなで行けば怖くないです!」

「よかったな、ゴルたん」

「はい!」


ゴルたんはしばらく俺を振り回した後、俺を地面に優しくおろした。

腕の関節を自力で治しながら、俺はゴルたんからそっと半歩離れた。


「それじゃあ早めに受付に行こうか」

「あ、待ってセンプウちゃん。実は一人もう誘っているんだけど……」


ゴルたんはキョロキョロと辺りを見回す。俺の三倍はある巨体だから、人探しなんてすぐに終わると思うのだが。


「誰だ? ドラグーン将軍か? それともハタノさん?」

「ううん。センプウちゃんも知らない人」

「そうか。受付に先に行っているかもな」

「そうだといいんだけど……」


ゴルたんの目が青く光りだし、大粒の水滴がドバドバと流れ出す。

俺はゴルたんを慰めるセンプウちゃん二人を放って、コロッセオへ一人で歩き出す。

早く強い奴と戦いたい、そんな思いからか自然と足が速くなる。


「あと五分で受付終了で〜す!」

「まずいモタモタしすぎたか!」


コロッセオの方から聞こえた声に、俺は焦り出す。群衆を肩で弾き飛ばしながら、俺はコロッセオに向かって走り出す。

俺が本気を出せば一瞬で着くだろうが、本気のスピードを出せばその余波でコロッセオが消滅しかねない。

群衆の隙間からコロッセオの入り口が見え始める。入り口ではひ弱そうな男が大きなプラカードを持って立っている。


「やい!」


急に背後から声をかけられる。振り返るが、俺に話しかける奴は誰もいない。

気のせいかと思い、先に進もうとする。

その瞬間背後に引っ張られる。俺はバランスを崩し尻餅をついた。


「いっでぇ!」

「やいテメェ! おいらのツレに何しやがったんだ!」


声はすれども姿は見えず、声の主は俺に罵倒を飛ばし続ける。


「テメェギッタンギッタンにして、ゴミみたいに丸めて豚のケツに詰め込んでやる!

「クソが! 誰だどこにいる!」

「テメェとことん舐めやがって! オイラの恐ろしさ思い知らせてやってもいいんだぞ雑魚虫野郎!」

「っ! やれるもんならやってみやがれ!」


俺はカッとして、地面に拳を叩きつける。生じた衝撃波は周囲の人間を吹き飛ばし、自然と円状のフィールドが出来上がった。


「テメェ先に手を出したのはそっちだからな!」


そう声が聞こえたのも束の間、俺の角が何者かに掴まれる。まるで巨大な何かに摘まれるかの様に、俺は宙に放り投げられる。

飛ばされながらも上空から周囲を見渡し相手を探すが、それらしい巨大な奴は見えない。かといって超能力や魔術魔法で浮かせている様にも思えない。

そこから俺が導き出した結論。


「相手は透明な巨人ってわけか! それなら……!」


俺は小さく身を縮め、魔力を針の様に練り上げる。


「食らえ! サウザンドニードルバズーカ!」

「うぉっ!」


全身から四方八方に針の様に尖った魔力が、弾幕となって放たれる。これは結晶ドラゴンの世界一硬い皮膚をも簡単に貫通するほどの威力、当たれば致命傷は避けられないだろう。

しかし放たれた魔力は全て空の彼方へと飛んでいった。


「避けたって言うのか! この虫ケラ一匹逃がさんこの技を……!」

「またおいらの逆鱗に触れやがったなぁ!? 生かして返さねぇ!」


何者かに足を掴まれる。そのまま空中で足を軸に一回転し、俺は地上に向かって投げつけられる。

翼を展開し、地面にぶつかる寸前で止まる。


「まだまだぁ!」


まるで大きな拳の拳骨を喰らったかの様な衝撃が、俺の頭を襲う。

頭を押さえ姿勢を低くした俺の腹を強く殴りつけ、見えない何者かは高らかに笑う。



「口だけの雑魚が!」

「ぐ……!」


見えない何者かのラッシュが、俺を襲う。

蹴り、頭突き、拳、膝、肘、食らった感触で理解できる。コイツ(見えない何者か)はリズム良く、自分の体の部位全てを使って攻撃を仕掛けてきている。

そして攻撃を食らう時は全て点で攻撃されている。面での攻撃が一切行われない。

つまり反撃のタイミングは、攻撃の瞬間。食らいながら打ち返すだけだ。

俺は頭の中で相手の攻撃リズムを反唱し、攻撃の瞬間大振りの蹴りを打ち出した。


「ってぇなチクショウ!」

「よし当たった! 全く俺には当たった感触が無かったが、多分当たった!」

「ふざけやがって!」


また見えない何者かは攻撃を繰り出すが、俺はそれに合わせて反撃を繰り出す。

今まで透明な奴と言えば、たいてい姑息な手を使って勝とうとする者ばかりだった。だが、コイツは正真正銘、真っ向から戦っても強い透明な奴。

初めて叩く部類の強者。俺の口は自然と裂ける様に笑みを浮かべ、喉からは歓喜の笑い声が漏れ出ていた。


「はははははは!! 楽しい! 楽しいぞ!」


その時、俺の視線の先に一組の親子が写った。


「ままー! あのひと、くうきとたたかいながらわらってるー!」

「しっ! 見ちゃダメよ!」


俺は反撃の手をピタリと止めた。

側から見れば、俺は空気と戦う変な奴だったんだ。そう思うと、何もかもがどうでも良くなってきた。

もうなんだか雲の形とかの方が気になってきた。今日はいい天気だな。


「あと一分で締め切りでーす!」

「あ! 闘技大会の受付行く途中だった!!」


俺は自分の目的を思い出し、透明な何者かを放置して走り出した。


「無視してんじゃねぇぞ!」


急に足を掴まれ、地面に顔から倒れる。

しかしどこを見ても俺の足を掴んだ者はいない。


「放せ! 俺はお前に用事なんてなかったんだ! もっと強い奴と戦う為にこの世界にわざわざ来たんだよ!」

「黙れ! テメェの目的が受付することだって言うんなら、ぜってぇ行かせねぇ! ここで足引っ張り続けてやる!」


俺は見えない何者かに引き摺られ、受付からゆっくりと遠のいていく。

蹴りを繰り出しても、当たるどころか掠りもしない。

俺は地面に指を立てて、まるで垂直の壁を登るかの様に自分の体を受付へと近づける。


「おいそこの男! 俺の闘技大会の受付をしろ! どうせ手続きとかあるんだろう!」

「うわ、なんで地面を這い回っているんですか……」

「事情があるんだ! 早くしろ!」

「ここでは出来ません。受付は奥のカウンターで名前を書くだけです。ゼッケンがもらえるので、それをもらったら係員の指示に従って出番までお待ちください」

「このマニュアル野郎が! もういい!」


俺は非協力的な男を無視し、受付のあるコロッセオの中に進む。しかし見えない何者かはこれでもかと俺を受付から遠ざけようとする。


「ままー、あのひとじめんでずりずりじょうげしてるー。なんでー?」

「見ちゃダメ、変質者よ!」


要らぬ誹謗中傷や誤解を背負いながら、俺は必死に受付へと進む。


「テメェどれだけ闘技大会に出たいんだよ!」

「俺は……! もっと強い奴と……! それと……!」


受付のカウンターの足元までやってくる。カウンターは少し高くなっている様で、子供の為に小さな花柄の台が置かれている。ただの地面が見えない何者かのせいで垂直の壁となっている俺にとって、この障害物はまさしく反りたつ壁にも等しい苦難となっていた。

側から見ればなぜか地面を這って移動する、変な奴にしか見えないだろう。

だが俺は、絶対にこの闘技大会に出たいという思いがあった。


「俺はセンプウちゃんにリベンジする……! 次は本気と、本気のぶつかり合いで……!」


反りたつ壁を越え、カウンターに手が掛かる。


「絶対に……勝つ!」


体を持ち上げ、カウンターに顔を出す。

そこでは人間の女が笑顔で待っていた。


「売店にようこそ〜! オレンジジュースが今の人気商品です!」

「……闘技大会の受付は?」

「もう少し奥となりま〜す!」


少し考えれば分かった。

闘技大会なんて物騒な催しの受付に、子供用の台なんて置かない。

置かないのである。


「受付終了で〜す! 闘技大会の受付終了しました〜!」


どこかからかそんな声が聞こえ、俺はその場に倒れ込む。

何もかもがどうでも良くなった。


「もういい……全部壊せばみんな俺に挑んでくる。文明も命も総動員して……草の根すら残らなくても、どうでもいい。全部ぶっ壊してやる……」

「あぁ、いたいた。ヴァルル」


センプウちゃんが走って俺の方にやってくる。

俺はゆっくりと手を伸ばし、センプウちゃんを触ろうとする。

命の危機に陥れば、どんな奴でも戦ってくれる。そうだろう。

しかしセンプウちゃんは、俺の手の上に布製の何かを置いた。


「これはヴァルルの分だ」

「……これは、ゼッケン?」

「あぁ。どうせヴァルルは受付済ませてないだろうと思って、代わりに受付済ませておいたぞ」

「センプウちゃん……!!! お前って奴はなんていい奴なんだ……!!!」

「困った時はお互い様、だろ」


俺はゼッケンを握り、その温かみを噛み締める。


「ちょっと……私の体温を感じるのは気持ち悪いかな……」

「あぁ、悪い」

「それとどうして地面に寝転がっているんだ……?」


もう俺の足を引っ張る透明な何者かはいなくなっていた

俺は素早く立ち上がり、黒装束に付いた汚れを手で払った。

まださっきの親子は俺の事を変質者を見る目で見ていた。

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