アールスローン戦記0後半
【 軍曹の家 】
メタルミュージックと共にエレキギターが激しく鳴り響く 軍曹がロックンローラーしながら叫ぶ
「ぬあぁあああ!!何が国防軍だ!?何が国防軍上層部だぁ!?何も知らない馬鹿どもめー!少佐を追放しおってーーっ!!俺が居りたいのは こんなレギストなどではなぁーーい!」
エレキギターがキュイーンと歪を鳴らす 軍曹が叫ぶ
「俺はぁあーー!さっさと少佐の居られるレギストに戻りたいのだぁあ!!そして少佐と共にー!少佐と共にーー!!」
軍曹がエレキギターを激しく鳴り響かせて叫ぶ
「くそぉおお!!何もかもが気に入らーーん 俺に少佐になれだとーーっ!?我らレギストの少佐は 少佐以外に務まるはずが無いのだーー!!だというのに だというのにーーー!!」
軍曹が出入り口方向へ背を向け 決めポーズでエレキギターを鳴らして叫ぶ
「ぬあぁああ!!少佐ぁあーー!自分は!少佐が!少佐がぁああ!!」
エレキギターと共に音楽が終了する 軍曹が間を置いて 軍曹の後方出入り口付近を見る しかし 誰も居ない 軍曹が表情を落とし間を置いて俯く
軍曹がソファに乱暴に腰を下ろして言う
「少佐… 自分は… やはり少佐が分からないであります あの日初めて少佐を目にしたときから 俺はずっと 少佐に憧れて… いや 少佐と共に」
軍曹が手を開くと ハイケルのブローチがある 軍曹がそれを見つめて思い出して思う
(あの日俺は… 本当なら 国防軍上層本部への入部処理をする予定だった レギスト部隊の駐屯地へ行ったのは たまたま… 上層本部の連中が 駐屯地を経由して本部へ戻る予定だったから さっさと挨拶だけ済ませてしまおうと 祖父上と一緒に向かった …その時っ)
軍曹がブローチを握り締める 軍曹が思い出して思う
(俺は… 俺はあの演習所で 初めて少佐を目にした そして、一目見て思った この人は凄いと この人は… きっと きっと 何か大きな事を 起こそうとしているとっ 俺にはそう思えて仕方なかった)
軍曹の脳裏に 演習所で部下たちを見ているハイケルの姿が思い出される 当時の軍曹が目を見開き呆気に取られている 軍曹と一緒に居る祖父ラゼルが振り返る
軍曹が立ち上がり ハイケルのネクタイが置かれている棚へ近付いて思う
(だから俺は 無理を言って レギストの軍曹として 入隊させてもらったんだ …あの少佐と共に その何かを成し遂げたかった …それなのに)
軍曹がハイケルのネクタイの横に 少佐のブローチを置く 軍曹が言う
「少佐… 貴方は今… どちらに居られるのでありますか?俺は… 俺は…っ」
軍曹がエレキギターを掻き鳴らして言う
「俺はぁああ!少佐の御自宅のご住所を知らないんだぁああーーーっ!」
エレキギターが空しく響き渡る
翌昼
軍曹がソファでだらしなく寝ている サイドテーブルにおいてあるノートPCにメール受信を知らせるマークが出ている 軍曹が寝言を言う
「むにゅ… 少佐ぁ~… 自分は 少佐が…」
軍曹の携帯が鳴り響く 軍曹が寝苦しそうにする 携帯が鳴り続ける軍曹が嫌々目を覚まし 手探りで携帯を探してソファから落ちる 軍曹が頭を掻きつつ携帯に出ながら言う
「ん?こんな早くに 誰であろうか…?」
携帯から軍曹兄の声が届く
『何だ まだ寝ていたのか アーヴィン?もう昼過ぎだぞ?』
軍曹が言う
「兄貴か… 何か用なのか…?」
軍曹兄が言う
『何か用かとは…っ 酷い言われ様だな?こちらは久しぶりの弟からのお願いに わざわざレギストのデータセキュリティを解析してまで メールを送ってやったのだが?ちゃんと確認はしたのか?』
軍曹が寝ぼけた状態からハッとして言う
「お願い…?メール?―のわっ!少佐のっ!少佐のご住所が 分かったのかっ!?」
軍曹兄が呆れて言う
『分かるに決まってるだろ?こちらは国防軍の全情報を扱ってるんだ』
軍曹が慌ててメールをチェックして喜んで言う
「助かったのだ!兄貴!」
軍曹兄が苦笑して言う
『それ位素直に 上層と話をしたらどうなんだ?まぁ 言葉遣いの方は 相変わらずの様だがな?』
軍曹が住所を見て言う
「ウェスト通り210ストリートW1か… よし!すぐに向かってみるのだ!兄貴!感謝する!」
軍曹が支度する 携帯から軍曹兄の声が聞える
『うん?調査命令でも出てるのか?その部屋の主である ハイケル元少佐なら 先程こちらの本部に来たぞ?』
軍曹が驚いて叫び携帯を掴む
「なにぃいーーっ!」
【 国防軍本部 】
軍曹兄アースがうるさそうに受話器から耳を離す 受話器から軍曹の声が聞える
『何故それを先に言ってくれないのかっ!?兄貴っ!?』
アースが呆れて言う
「そちらを伝えてやろうと思って電話してやったんだ 優しいお兄様に もう一度感謝の言葉を言っても良いのだぞ?アーヴィン?」
軍曹が言う
『少佐は何用で国防軍本部へ!?とにかく 俺もすぐに向かう!』
アースが言う
「今朝 ハイケル元少佐に 国防軍本部から出頭命令が出たんだ …当然だな?少佐にまでなった奴が おいそれと軍を辞められる訳が無いだろう それに…」
アースが言い掛けたところで 緊急サイレンが鳴り響く アースが驚き立ち上がる
【 軍曹の家 】
軍曹が携帯から聞える騒ぎに疑問して言う
「ぬ?兄貴 その警報は どうかしたのか?」
携帯からアースの声が聞える
『アーヴィン 大変だぞ!そのハイケル元少佐が 本部の総会議室で―!』
軍曹が驚き呆気に取られる
【 国防軍 総会議室 】
国防軍上層の役人が苦笑して言う
「おやおや… それは何の真似かね?」
ハイケルが拳銃を構えた状態で言う
「何の真似なのかは 自分の胸に聞いてみる事だ」
【 軍曹の家 】
軍曹が車に乗り込むとアクセルを踏み込んで 車を飛ばす
【 国防軍 総会議室 】
役人1が苦笑して言う
「理由はさておき 昇格辞令を出した事を そこまで恨まれる筈は無いな?となれば… 君を可愛がっていたと言う あのレーベット大佐の仇討ちとでも?」
ハイケルが撃鉄を上げて言う
「後の回答が正解だ 分かっているなら尚更… ―お前から始末してやるっ」
銃声
役人1が倒れる 他の役人たちが驚き戸惑い 役人2が慌てて言う
「おいっ!警備兵は何をしている!」
役人3がテーブルの下のスイッチを押す 緊急サイレンが鳴り響く ハイケルが役人2へ銃を向ける 役人2が怯えて言う
「ま、待てっ や…っ やめろぉーっ!」
銃声
【 国防軍本部前 】
国防軍本部入り口に 軍曹の車両が突っ込んで来る 軍人たちが止めようとしていた状態から慌てて逃げる 軍曹の車両が鉄格子をなぎ倒して乱入して行く
【 国防軍 総会議室 】
兵士たちが集まって銃を向ける ハイケルが国防軍総司令官に拳銃を向けていて言う
「動くな!…今俺を撃てば 俺は 死んでも この引き金を引くぞ?」
ハイケルの後方出入り口に集まった兵士たちが銃を構えたまま止まる 総司令官が言う
「落ち着きたまえ ハイケル少佐 …お前たちもだ」
兵士たちが総司令官を見る 周囲には役人たちのが倒れている ハイケルが言う
「俺は落ち着いているつもりだ 総司令官 答えろ レーベット大佐の話だ」
総司令官がにやりと口角を上げて言う
「何故 大佐を殺したか?かな?ハイケル少佐」
ハイケルが沈黙する 総司令官が言う
「理由は簡単だ 彼は最後まで レギストの国防軍への併合を反対し 尚且つ 黒の楽団とのコンタクトを止めるようにと 私に意見して来た」
ハイケルが沈黙する 総司令官が言う
「君は賢い男だ ハイケル少佐 我々が… 大佐の軍階から上の者へ 黒の楽団から提供される助手を付けてやる事を 知っていた… そして、その助手らの真の目的も… それで君は 大佐への昇格を 頑なに拒んでいた …違うかな?」
ハイケルが言う
「俺は質問に答えろと言っただけで 俺が答えるとは言っていない」
総司令官が苦笑して言う
「ふっふっふ そうか まぁ良い 君が今しがた始末した彼らは そんな君へ 少佐であっても黒の楽団からの助手を付けてやろう 等と言っていたのだ 馬鹿な連中だ だが そんな彼らを君は始末してくれた 私は感謝しているよ」
ハイケルが言う
「…その 黒の楽団からの助手 そいつが レーベット大佐を操り 大佐の財産を提供させ …大佐の奥様を撃たせ …大佐ご自身さえもっ!」
ハイケルが怒りに震える 総司令官が言う
「そうだ その通りだ ハイケル少佐 音楽で人を操るなど 常人が聞いて納得する筈が無い しかし、君はその事実を認識し そして 全ての経緯を調べ上げた 大した者だ それでこそ …私の作る 新しい国防軍に相応しい」
ハイケルが怒り唇を噛み締める 総司令官が握手の手を差し出して言う
「ハイケル少佐 私と共に 新たな国防軍を造ろうではないか?この国を守るだけでなく この国を… 支配する事だって出来る!黒の楽団の 彼らと共に!」
ハイケルが叫ぶ
「ふざけるなぁあ!」
兵士たちが構える 軍曹が駆け込んで来て叫ぶ
「少佐ぁーっ!」
ハイケルが横目に声の方を見る 総司令官が兵士たちへ静止の手を向け 苦笑して言う
「…そうか もっとも 君の答えは 分かっていたとも …だからこそ 私の助手を ここへ連れて来ていた ハイケル少佐 君も… 大佐と同様に 自らの銃で逝くが良い」
総司令官が微笑して目配せを行う 総司令官の後方に控えていたヴァイオリニストが現れヴァイオリンを奏で始める ハイケルが持っていた荷物を軍曹へ投げ渡して叫ぶ
「弾けっ!軍曹っ!」
軍曹がハイケルから投げ渡された物をキャッチして驚く ヴァイオリンの音が部屋中に鳴り響く ハイケルが頭を抑え表情を顰めて叫ぶ
「急げ 軍曹っ!」
軍曹が呆気に取られた状態から笑んで言う
「はっ!了解!少佐ぁー!」
軍曹がエレキギターを掻き鳴らす 国防軍総司令館全館のスピーカーから メタルミュージックと共に軍曹のエレキギターが鳴り響く 軍曹がロックンロールしながらエレキギターを弾き続ける 兵士たちが一度驚いて軍曹を見た後 ハッとして総司令官を見る 総司令官が呆気に取られて言う
「ば、馬鹿なっ 何故… っ!」
総司令官の頭に拳銃が突き付けられる 総司令官が息を飲んで見上げる ハイケルが拳銃を構えていて言う
「人を操る事が出来る 黒の楽団の音楽… 音楽はある種の周波数と同じだ だったら 同じ周波数の別の音楽を流してやれば その作用は相殺される」
総司令官が目を見開いて言う
「ま… 待ってくれっ ハイケル少佐っ わ、私はっ 私はまだっ 死にたくないっ!」
ハイケルが言う
「残念だったな 今 そのお前の目の前に居る男は 冷徹な隊長 人の血が通っていない男 レギスト1残忍な少佐 …そんな別名が付けられていた奴だ そして 何より俺は お前のような 裏切り者が 大嫌いなんだっ!」
総司令官が目を見開く 軍曹が派手なアクションと共に曲を終了させて言う
「センキューッ!」
総司令官が倒れる
【 レーベットの屋敷 】
部屋の中に レーベット大佐の絵が掛けられている ヴァイオリンの優しい曲が流れている 曲が終わると出入り口から軍曹が拍手をして言う
「お見事でありますっ!少佐ぁ!」
ヴァイオリンを弾いていたハイケルが振り返り苦笑する 軍曹がハイケルの近くへ来る ハイケルが言う
「…やはり 似合う か?」
軍曹が笑顔で言う
「はっ!とっても お似合いでありますっ!」
ハイケルがヴァイオリンを見下ろしながら言う
「そうか… だがな、軍曹?」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが軍曹へ向き苦笑して言う
「私は… ヴァイオリンが嫌いなんだ」
軍曹が衝撃を受けて言う
「はっ!…はえっ!?」
ハイケルが絵を見上げて言う
「私の恩師 レーベット大佐だ」
軍曹が呆気に取られたまま絵を見上げて言う
「は… おおっ!こちらが 少佐のご恩師様!レーベット大佐… レ… レーベット?」
軍曹が考える ハイケルが絵を見上げたまま言う
「大佐は高位富裕層のお方だ 私は その大佐に ご支援を頂いていた そして… 大佐は 私がヴァイオリンを弾くと とても喜んで下された だから 私はヴァイオリンを学び 大佐にお褒めの言葉を頂きたくて 弾いていた」
ハイケルが軍曹へ向いて苦笑して言う
「…それだけだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「それだけ…」
ハイケルが言う
「ああ、それだけだ」
ハイケルがヴァイオリンをテーブルへ置き時計を見る 軍曹が考えている ハイケルが軍曹へ向いて言う
「軍曹」
軍曹がハッとして 慌てて敬礼をして言う
「はっ はっ!少佐!」
ハイケルが出入り口の方へ歩いてから言う
「この後 暇か?」
軍曹が一瞬呆気に取られた後 敬礼して言う
「は、はいっ!大いに暇でありますっ!」
ハイケルが軽く笑った後 軽く振り向いて言う
「…なら 食事にでも行かないか?」
軍曹が衝撃を受けて叫ぶ
「え!?えぇえーーっ!?」
ハイケルが言う
「嫌なら無理にとは言わないが…」
軍曹が慌てて言う
「い!?いいいいいいっ!いえいえいえいえいえっ!め、滅相も御座いませんっ!少佐から 食事のお誘いを頂けますとはっ!ヴォール・アーヴァイン軍曹 これ以上に無い 光栄に御座いますっ!!」
ハイケルが言う
「そうか では…」
軍曹がハイケルに駆け寄って来る ハイケルが言う
「…と、すまないが 一度着替えて来て貰えるか?制服では 少々 行き辛い場所なんだ」
軍曹が一瞬呆気に取られた後 笑顔で敬礼して言う
「はっ!了解いたしましたっ!」
ハイケルが言う
「では、18時頃に レイメスト駅の外で」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!了解でありますっ!少佐っ!」
ハイケルが微笑する
【 レイメスト駅 外 】
ハイケルが駅を出て周囲を見渡し軽く驚いてから微笑して歩く ハイケルが軍曹の前に来て言う
「すまない 待たせたか?」
軍曹が喜んで言う
「いえっ!大丈夫であります!」
ハイケルが軍曹の服に積もった雪を見て苦笑して言う
「だが 大分待っていたんだろう?私は18時頃と伝えなかっただろうか?」
軍曹が笑顔で言う
「はっ 18時頃と伺いましたのでっ!自分は 少々早めに到着しておりました!」
ハイケルが苦笑して言う
「…そうか 君は部隊での集合でも 20分前に集合する奴だったな… 分かった、これからは 私的な事で君を呼ぶ時には 20分後の時間を伝えよう」
ハイケルが歩き出す 軍曹が笑顔で続きながら言う
「はっ!では 自分は!その時間より40分前に 集合するでありますっ!」
ハイケルが衝撃を受け 慌てて言う
「それでは 意味が無いだろっ!?」
軍曹が疑問する
ハイケルと軍曹が歩いている ハイケルが言う
「それにしても… 随分と正装をしてきたな?これから行く店は… そんなに大した店ではないぞ?」
軍曹が一瞬疑問して自分の服装を確認してから言う
「正装… ですか?自分としては 少々カジュアルかとも 思ったのですが?」
ハイケルが苦笑して言う
「そうか… まぁ 以前 君の見舞いに行った時には 凄い格好をしていたからな あれではなくて安心したが」
軍曹がハッとして恥ずかしがりながら慌てて言う
「あっ!あれはっ!その…っ!自分の私服と言いますより… 衣装で ありましてっ」
ハイケルが軽く笑う 軍曹がハイケルの表情に安堵してから 改めて言う
「と、所で 少佐」
ハイケルが言う
「なんだ」
軍曹が言う
「これから向かいます店は 少佐の… 行きつけの店 と言う事でありましょうか?」
ハイケルが少し考えてから言う
「行きつけ… とは 少し違うな… 知り合いの店だ」
軍曹が一瞬呆気に取られてから言う
「知り合い… 少佐のお知り合いの方が?」
ハイケルが言う
「ああ、私の… うん?ああ そうだったな?軍曹」
軍曹が敬礼して言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが立ち止まって言う
「とりあえず 店内では ”少佐”は無しだ 無論 敬礼も」
ハイケルが軍曹の敬礼している手を退かす 軍曹が呆気に取られて言う
「は… はえ…っ!?で、では…?」
ハイケルが言う
「そうだな 私の事は ハイケルで良い 分かったな?軍曹」
軍曹が衝撃を受けて言う
「えっ!?い、いえっ 少佐を お名前で呼ぶなどっ 自分はっ そのっ!」
ハイケルが気付き 苦笑して言う
「ああ… そうか 私も 軍曹と呼んではいけなかったな では 行くぞ ヴォール」
ハイケルが店の扉を開く 軍曹が慌てて言う
「あっ お、お待ち下さいっ しょ… あっ えっとっ そのっ ハ…ハ…ハイケ」
軍曹がハイケルに続いて店に入ると マスターが言う
「おっ!ハイケル!やっと来たかー!」
軍曹が驚いてマスターを見る ハイケルが微笑して言う
「ああ 待たせたな」
ハイケルが店の中へ入って行く 軍曹がハッとして 慌ててハイケルを追う
ハイケルがコーヒーを飲む 一口飲んで軽く息を吐く マスターが微笑して言う
「どうだ?久しぶりの俺の淹れたコーヒーは?」
ハイケルが苦笑して言う
「にがい」
マスターが衝撃を受ける ハイケルが言う
「冗談だ」
マスターが苦笑して言う
「ったく 相変わらずだなぁ?」
ハイケルが遠く微笑して言う
「…大佐が好きだった味だ」
マスターが微笑して言う
「いんや、大佐には もう少し濃い目だ… お子様なお前さんには ちょっと薄めにしてやらんと」
ハイケルが顔を背けて言う
「…余計なお世話だ」
マスターが笑んで言う
「無理しちゃって 可愛くないね?」
ハイケルが言う
「悪かったな」
マスターが微笑する 軍曹が呆気に取られて二人のやり取りを見てる マスターが軍曹を見て言う
「君も大変だな?可愛くない上官の下で」
ハイケルがムッとして言う
「上官が可愛くてどうするっ」
マスターが言う
「こいつ 何も教えてくれないだろ?何かあればいつも ”良いんだ” ”それだけだ” だろ?」
軍曹が驚き呆気に取られる ハイケルが頬を染めて怒って言う
「うるさいっ!”良いんだ”!」
ハイケルが衝撃を受ける マスターがくっくっくと笑う ハイケルが顔を逸らす 軍曹がハイケルを見てからマスターを見て言う
「あ、あなたは…?」
ハイケルがムッとしてテーブルを叩き立ち上がって言う
「帰るっ!来るんじゃなかった…っ」
軍曹が驚き慌てて言う
「ぬあっ!?しょ、しょう…っ ハ、ハ…っ」
マスターが言う
「ハイケル?」
ハイケルが椅子を1歩離れた状態で止まる マスターが微笑して言う
「この間の 貸しを 返してくれるんだろ?」
ハイケルが間を置いて言う
「情報部に戻る気は 無い んじゃなかったのか?」
マスターが苦笑して言う
「今更 あそこへ戻るつもりは無いね?」
ハイケルがマスターへ向いて言う
「なら…」
マスターが微笑して言う
「可愛いハープの演奏者を雇ってたんだが 誰かさんが大暴れする前に 居なくなっちまったんだ 町も落ち着いて 折角お客も戻って来たってのに 店内が寂しくてな?お前 今もヴァイオリンは弾けるんだろ?大佐のお墨付きだ… そいつで貸しはチャラって事で …どうだ?」
ハイケルが演奏台を見る 1脚の椅子があり そこにヴァイオリンが置かれている ハイケルが一度目を閉じてから マスターを見て苦笑して言う
「チップは渡さないからな?」
マスターが笑んで言う
「貰えるのかぁ?」
ハイケルが微笑して言う
「見ていろ」
ハイケルが言い捨てて演奏台へ向かい ヴァイオリンを手にすると 客たちへ一礼する 客たちが顔を向ける ハイケルがヴァイオリンを奏で始める 軍曹が感心して言う
「おぉー…」
マスターがコーヒーのお替りを入れながら言う
「うまいだろ?」
マスターが軍曹の前にコーヒーカップを戻す 軍曹がハッとして慌ててマスターへ向き直って言う
「あっ は、はいっ!とっても美味しいでありますっ」
マスターが苦笑して言う
「ははっ そうじゃない あいつのヴァイオリンだよ」
軍曹がハッとして慌てて言う
「あっ は、はいっ!とても!」
マスターが苦笑して言う
「あいつは いつもそうなんだよ… 何でも出来て 何をやっても うまくって…」
軍曹が呆気にとられてから 微笑して言う
「は、はいっ!とてもっ 素晴らしいお方だとっ!」
マスターが遠くを見て言う
「でもなー… そう言う奴って ムカつかないか?」
軍曹が衝撃を受けて言う
「は、はぇっ!?」
マスターが悪笑んで言う
「少なくとも 俺はそうだったね」
軍曹が困って言う
「は… はぁ…?」
マスターが言う
「俺の他にも 孤児院の子供たちは 皆そんな感じだった だから… いっつもあいつは 1人で居たんだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「え?孤児院…?」
マスターが軍曹を見て言う
「うん… ああ?知らなかったか?俺もあいつも 孤児院の出身だ それで、俺とあいつは歳が近くて 俺は16の時 レーベット大佐に援助を受けて 国防軍に入隊した その時 前々から大佐が目を付けていた あいつも …本当は16歳からなんだけどな?大佐の一押しがあって 一緒に入隊したんだ」
軍曹が反応して言う
「レーベット…」
マスターが言う
「なんだ?レギストの癖に レーベット大佐を知らないのか?」
軍曹がハッとして慌てて言う
「あっ いえっ その… も、申し訳ありませんっ しかしながら 先ほどお姿の方は…」
軍曹が視線を落として もごもご言っていると マスターが後方の1枚の写真を示して言う
「ほら、こちらのお方だ 今でも駐屯地に 写真位はあるだろう?」
軍曹がマスターの示した写真を見て衝撃を受け驚いて言う
「ぬあっ!あ、あの娘はっ!!」
写真には アリシアとアリシア母、アリシア父 ハイケル マスター の5人が写っている マスターが苦笑して言う
「アリシアを見つけた時には 本当にびっくりしたね~?一目で分かった この子が… ハイケルの言ってた 成長した あのアリシアお嬢様だってな?慌ててこの写真を隠したっけ?」
軍曹が驚いたままマスターを見る 後方でハイケルの演奏が終わり 拍手が鳴る ハイケルが礼をして チップを受け取ってカウンター席へ戻って来る マスターが微笑して言う
「お見事」
ハイケルが椅子に座りながら言う
「聞いていなかっただろ?」
マスターが笑って言う
「聞いてたさ ちゃんと バックミュージックとしてな?」
ハイケルが軍曹を見る 軍曹が石化している ハイケルがそれを確認してからマスターへ言う
「お前 何か余計な事を言ったな?」
マスターが笑顔で言う
「言ってねーよ?…それより 飯を食べに来たんだろ?何にする?とは言え ここは喫茶店だからな?軽食しかないぜ?」
ハイケルが言う
「ああ なら とりあえず 牛ヒレステーキのセットを 2人分 お前のおごりで」
マスターが衝撃を受けて言う
「ねぇよっ!軽食って言ってるだろっ!?大体 貸しを返しに来た奴に 何で俺がおごらなきゃならねーんだっ?」
ハイケルが軽く笑う マスターが苦笑しながら言う
「まったく エビフライ定食2人分な?しょうがねーから おごってやる」
ハイケルが言う
「年長者がおごるのが筋だ」
マスターが怒って言う
「2つしか 違わねーだろっ」
マスターが調理に向かうと 軍曹がハイケルへ向いて言う
「あ、あのっ 少佐…」
ハイケルが言う
「何だ?軍曹?」
軍曹がハッとして敬礼して言う
「は、はっ!その…」
マスターが軽く顔を向けて言う
「店内では 至って平和的に頼むぜ?」
軍曹がハッとして敬礼を隠して言う
「し、失礼しましたっ そ、その… レーベット大佐というのは もしや… あの…?」
軍曹が写真を見る ハイケルが軍曹の視線の先を見て言う
「ああ… あの アリシア・フランソワ・レーベットの父親だ」
軍曹が驚いてハイケルを見る ハイケルが視線を向けないまま冷えたコーヒーを飲んでから言う
「覚えているか?お前が… 我々の話を盗聴していた ウイリアム伯爵を射撃した時の事だ」
【 回想 】
軍曹がハッと気付き 瞬時に拳銃を抜いて ドアの隙間を撃ち ドアへ向かう 軍曹がドアを開き周囲を見て アリシアに気付き表情を怒らせて近づいて行く アリシアが怯えて後づ去り 逃げ出そうとすると 軍曹がアリシアを掴んで言う
『やはりお前かっ!』
アリシアが顔を左右に振って言う
『ち、違うわっ!私じゃっ!』
軍曹が言う
『昨日も今日も居て 違うだとっ!?』
アリシアが怯えて言う
『わ、私は…っ!』
軍曹がアリシアに拳銃を突きつける アリシアが目を見開き怯えて強く目を閉じる 軍曹がニヤリと笑む ハイケルの声が届く
『止めないかっ!軍曹!』
軍曹がはっとする アリシアが恐る恐る目を開く 軍曹が後ろを見て言う
『し、しかし 少佐』
【 回想終了 】
ハイケルが言う
「お前が銃を突き付けていた その少女を見た瞬間 私にはすぐに分かった 幼い頃のお嬢様… いや、その母親である レーベット大佐の奥様に 良く似ていたんだ」
軍曹が驚いて言う
「あの… 娘が…?」
ハイケルが苦笑して言う
「あの時は 咄嗟に君を誤魔化したが… ウイリアム伯爵の屋敷を襲撃した後になって 実はあの屋敷にお嬢様が居て 偶然にして 我々の目を逃れていた… と、知った時には 血の気が引く思いだった」
マスターが料理を持って来て言う
「きっと大佐が 2人を守ってくれたんだろ?お前と お嬢様を な…?ほら 人のおごりだ 旨いだろうぜ?」
マスターがハイケルと軍曹の前に料理を出す 軍曹が言う
「あっ いえっ 自分まで おごって頂くわけには…っ」
ハイケルが言う
「気にするなヴォール そんなスパイスでもなければ コイツの料理は食えたもんじゃない」
軍曹が衝撃を受ける マスターが怒って言う
「あっ!おいっ?こらっ?これでもちゃんと 店としてやってるんだぁっ」
ハイケルが食べながら言う
「そうだったな… なら悪かった」
マスターが不満そうに言う
「ちっ… とは言え 料理もお前の方が上手いだろうよ!俺がお前に勝てるのは コーヒーぐらいだ」
ハイケルが微笑して言う
「情報収集能力も だろ …折角 大佐が評価して下されていたのに お前は 喫茶店のマスターになりたい などと…っ」
マスターが微笑して言う
「大佐は俺に やりたい事をやって良いって 言ってくれたんだ 俺は 駐屯地の部屋の中で ひたすら人の秘密を探る あの作業が嫌いでね?そんな事よりも 悩みのある人や辛い事が有る人… どんな人でも その瞬間だけはホッとする事が出来る コーヒーを入れる事の方が 好きなんだよ」
ハイケルが顔を背けて言う
「…ふんっ」
マスターが微笑する お客が礼を言って店を出て行く マスターが返事をして 片付けへ向かう 軍曹がそれを見送りハイケルを見る ハイケルが食事を食べている 軍曹が微笑して言う
「お二人は… とても 仲が良いのでありますね!」
ハイケルが不満そうに言う
「出来損ないの上を持つと 下は苦労する」
軍曹が苦笑する マスターが片付け物を持ってきながら言う
「こらー?誰が出来損ないの上だって?」
ハイケルが言う
「相変わらず 耳だけは良いな」
マスターが得意げに言う
「耳の良さは ここに居て更に良くなったぜ?色んな客が 色んな情報をくれるからな?」
ハイケルが言う
「お前が居なくなって 情報部の質が酷く下がったんだ お陰で 大佐もご苦労をされていた」
軍曹が感心して言う
「ほぁ~ マスターは とても素晴らしい 情報処理能力をお持ちなのでありますね!うらやましい限りでありますっ」
マスターが片づけをしながら笑んで言う
「ああ、ガキの頃から こいつとつるんでたからな?無口な一言に隠された 裏の裏まで読み取ってやらねーと 話にならねーからよ?」
ハイケルが言う
「裏の裏なら 表だろう 可笑しな解釈をしているから 話が通じなくなる」
マスターが降参のポーズで言う
「これだー」
軍曹が笑う
ハイケルと軍曹が食事を終えコーヒーを飲んでいる マスターがコップを拭きながら軍曹を見て言う
「所で、今更だが 初めて君に会うな?君があの…」
軍曹がハッとして言う
「あっ ご挨拶が遅れましてっ 失礼をっ!自分はっ!」
マスターが言う
「ヴォール・アーヴァイン・ハブロス公爵 歴代国防軍長と言われる あの大富豪 ハブロス家の次男だって?大した御曹司様だ」
ハイケルが雷に打たれて言う
「なぁあっ!?」
軍曹が衝撃を受け慌てて言う
「なっ!何故っ その事をっ!?ハブロス家の名は 国防軍名簿にも記載されないようにと 処理がなされて居る筈ではっ!?」
マスターが笑んで言う
「ふっふ~ん 君の敬愛する ハイケル君がさっき言ってくれただろう?今 君の目の前に居る この俺は~?と~っても腕の良い 情報収集能力を持ってるって~?」
ハイケルがぎこちなく顔を軍曹へ向けて言う
「ど… どう言う… 事だ…っ!?軍曹っ!?」
軍曹が困り慌てて言う
「い、いえっ それはっ あの…っ!」
マスターが笑顔で言う
「何でも~?本来は 国防軍総司令本部の最上位から 2~3番目当たりの役職に就く予定だったのを?ここの駐屯地で ハイケルを一目見て ゾッコン!少佐であるコイツの下に就く為に わざわざ身分や本名を隠した上 軍階だって軍曹まで落としちまって… そこまでして ハイケルの部下に就いたんだってなぁ?いやぁ~ 流石に国防軍トリプルトップシークレットを探るのは 命がけだったわぁ~?」
ハイケルが表情を怒らせて小声で怒って言う
「どう言う事だっ!?」
ハイケルが密かに隠し持っている拳銃を軍曹の胸に突き付ける 軍曹が慌てて言う
「い、いやっ それはっ あの…っ!」
ハイケルが視線を険しくして言う
「クッ… さては俺を探る 国防軍の回し者だったかっ!?」
軍曹が表情を悲しませて言う
「ち、違うでありますっ 自分はっ!自分はただっ!」
マスターがコーヒーを注ぎながら言う
「ハ~イケル?落ち着けよ?…たく お前は 相手が富裕層だと 本っ当に冷静さに欠けるよなぁ?ヴォール君が回し者なら 俺はとっくに お前へ伝えている …とにかく そんな物騒な物は しまってくれ」
ハイケルが表情を落ち着けながらも 変わらない視線で軍曹を見続けて銃をしまう マスターが1つ溜息を付いてから コーヒーを客へ持って行く ハイケルが変わらず軍曹へ鋭い視線を向けて言う
「何故 隠していた?」
軍曹が辛そうに言う
「そ… それは…」
マスターが戻って来て言う
「そりゃ 隠すだろうさ?高位富裕層 しかも あのハブロス家の御曹司様が 軍曹だなんてなぁ?」
ハイケルが言う
「お前は黙っていろっ 俺は コイツに訊いているっ」
軍曹が言う
「ち、違うであります…」
マスターとハイケルが軍曹を見る 軍曹がマスターへ向いて言う
「自分は 例え 富裕層であろうともっ 下位の役職に就く事は 決して恥じでは無いと思うでありますっ …そんな事より 自分はっ!」
軍曹がハイケルを見る ハイケルが僅かに疑問する 軍曹が言う
「自分には 少佐の… 少佐の… 目に見えない 何か… 強い力が とても… とてもっ 魅力的で…」
マスターがハイケルを見る 軍曹が視線を落として言う
「自分も そんな力が 欲しいと… ソレは… 何なのか どうしたら手に入るのか… とにかく 全てを知りたくて その方法として思いついたのが…」
マスターが言う
「富裕層である事を隠して 普通の兵士として振舞い ”ソレ”を確認しようとしていた って事か…」
軍曹が言う
「は、はい… しかしっ 途中からは そのっ しょ… ハイケル様のっ お力になりたいと…!何を しようとしているのかは… 最後まで 分からなかった でありますが… とにかくっ 何でも良いので!お力に なりたいと…っ!その気持ちはっ 今でもっ 変わらないでありますっ!」
マスターが苦笑する ハイケルが沈黙する マスターがハイケルへ向いて言う
「良いんじゃないか?ハイケル こんな子供みたいに素直な奴 お前の嫌いな富裕層には 居ないって?」
ハイケルが不満そうに言う
「…信じられん」
軍曹が泣きそうな表情で言う
「しょ、少佐ぁ~」
ハイケルが冷たくなったコーヒーを飲み干してカップを叩き置いて言う
「こんな 馬鹿な高位富裕層が居るとはっ 思い付きもしなかったっ!」
軍曹が呆気に取られて言う
「は… はぇ?」
マスターが笑いを隠した後 客を見て ハイケルへ言う
「ハイケル あちらのお客様が 音楽を欲しがっていそうだ 何か~ そうだな?優しめの奴を 一曲頼む」
ハイケルが言う
「お前への借りは さっき返しただろ?」
マスターが言う
「今度のは さっきの食事分の貸しだ おごりだって 貸しの1つだろ?」
ハイケルが席を立ちながら言う
「チッ… 流石 情報処理部の元中佐だ …上手く騙された」
マスターが笑顔で見送りながら言う
「良いじゃねーか そっちは 減るもんじゃねーんだし~」
ハイケルが演奏台に立ち ヴァイオリンを持って礼をして ヴァイオリンを奏で始める マスターがそれを見て微笑してから 言う
「…それで?その 目に見えない何かの正体は 分かったのか?」
軍曹がハッとしてマスターを見る マスターはハイケルを見ている 軍曹がマスターの視線の先を見てから 視線を落として言う
「はっ そ… それが~ 分からないであります …先日までは 少佐がやろうとしていた 国防軍上層部の処理… だと思っていたのでありますが…」
マスターが言う
「俺はな ヴォール君?」
軍曹がマスターを見る マスターが言う
「君の言うソレが 何なのかが分かる気がする 俺が思うに ソイツは… ”意思の力” だったんじゃないかな?」
軍曹が疑問して言う
「意思?」
マスターが頷いて言う
「俺も あいつの力は感じてた それに あいつから事前に話を聞いていたから 何をしようとしているかも 知ってたからな?」
マスターが軍曹を見る 軍曹が考えてからマスターを見て言う
「国防軍の処理をする為の… 決意… の様な物でありますか?」
マスターがひらめいて言う
「うんっ!そうそう!決意ね?そいつだ!」
軍曹が納得するように言う
「は… はぁ…?」
マスターが言う
「実際 そんな強い意志… あぁ 決意がある様な奴は 喫茶店になんて来ないんだ …ここに来るのは その決意が持てなくてモヤモヤした時や …決意が終わって ホッと一息付きたい時 …だから あいつは 幼馴染の俺が店を始めたって言うのに 今まで一度だってここには来なかった」
軍曹が呆気に取られて言う
「そう… でありましたか…」
マスターが微笑して言う
「でな?喫茶店ってのは 面白い事が起きる所でもある」
軍曹が疑問して言う
「面白い事…?」
マスターが笑んで言う
「ああ、物事の 出発点になる事もあるんだ」
軍曹が驚き 話に聞き入る マスターがハイケルを見て言う
「決意が持てなくて モヤモヤして… ここで一服して 何かを閃いて帰る客… 新たに何かを決意して 旅立って行く客… そんな客たちを 俺は何度も見てきた… つい この間もな?割りと年寄りな艦長さんが 守りたい者を見付けて 決意を持って去って行った その時 その艦長さんからは やっぱり強い意志の力を感じたっけ… アリシアにも」
軍曹が反応して疑問して言う
「ア、アリシ…?」
マスターが軍曹を見て言う
「で、ヴォール君」
軍曹がハッとして言う
「は、はっ!」
マスターが言う
「そんな俺から見て… ハイケルは今 その力を持っていない」
軍曹が驚く マスターが苦笑して言う
「君の言う通り 君が最初にハイケルを見て感じた力は 国防軍上層部の殲滅で… 終わっちまったんじゃないかな?」
軍曹が心配げにマスターを見る マスターが軍曹を見て言う
「でも、君は 途中から ハイケルの決意がどうであろうと あいつの力になりたいって思ったんだろ?」
軍曹が慌てて言う
「は、はいっ!」
マスターが苦笑して言う
「なら これからも あいつを頼んでも良いか?」
軍曹が呆気にとられて言う
「…は はぇっ!?」
マスターがコーヒーを入れながら言う
「あいつは見ていて危なっかしい 本当に 何でも出来る… いや、何でも 1人でやらなけりゃならねーって 思い込んじまってるんだ… そんな事 ある訳ねーのに… まぁ、そんな訳だから あいつが ヘマしちまわねー様に これからも助けてやって欲しいんだ」
軍曹が呆気にとられて言う
「じ… 自分が?そ、その様なっ 重要な役をっ!?」
マスターが微笑して言う
「なーに そんなに難しく考えなくて良い 今まで通り 少佐少佐って 追いかけてくれてりゃ それで良いんだ それで あいつは 1人じゃなくて 君と2人でやる方法を考えられる …悪知恵だけは働くからな?それで十分なんだ 頼むよ ヴォール・アーヴァイン・ハブロス公?」
軍曹が衝撃を受けてから困って言う
「でっ!?…あ、ありますからっ それを…っ そちらをっ!少佐に知られてしまっては…っ!」
マスターが苦笑して言う
「大丈夫!あいつはもう あんたを信用している」
軍曹がマスターを見る マスターが頷いて言う
「その為に あんたの正体を あいつに教えてやったんだ いつまでも隠したまんまじゃ あんただって気分が悪いだろ?」
軍曹が不安そうにマスターを見る マスターが言う
「実はな?アンタのこの情報 俺はずっと以前に手に入れていたんだ」
軍曹が驚く マスターが言う
「けど あいつからアンタの話を聞いていて 思ったんだ あいつは… ハイケルは ヴォール君を信じたがってるってね?だから… 今までは そんな あいつの人を見る目を 俺は信じてみた」
軍曹が呆気に取られる マスターが微笑して言う
「で、やっぱり あいつの目は 間違ってなかった… よな?俺は今 そう信じてるぜ?」
軍曹が呆気に取られた状態から笑んで声高々に言う
「はっ!少佐の人を見る目は 素晴らしいでありますっ!いえっ 少佐はやっぱり 素晴らしいお方でありますっ!貴方様の様な… 素晴らしい ご友人がいらっしゃるのですから!」
マスターが呆気に取られる 軍曹がマスターを見て笑む マスターがニヤリと笑って声高々に言う
「だよなー!俺ほど頼れる 兄貴分が居るんだ!その弟分の あいつは 素晴らしいに決まってるよなー!?」
軍曹が喜んで言う
「はいっ!その通りでありますっ!」
ハイケルが怒り 顔を向けて怒る
「そこーっ!演奏中にうるさいぞっ!」
客が笑う
マスターが微笑んで言う
「有難う御座いましたー!」
客が微笑んで出て行く ハイケルが不満そうに席に着いて言う
「優しい曲を と お前が言うから 静かな曲を弾いていたのにっ そのお前らのせいで台無しだっ」
軍曹が慌てて言う
「も、申し訳ありませんでしたっ 少佐っ 思わず会話に力が入ってしまいましてっ!」
マスターが笑んで言う
「いや、あれで良いんだ」
ハイケルと軍曹がマスターを見て 軍曹が思わず言う
「はぇ…?」
マスターが客の出て行ったドアを見たまま言う
「あの客は 音楽じゃ癒せない痛みを持ってた… だから 他者の元気を分けてやったのさ 笑ってただろ?あの客さん」
軍曹が呆気に取られてドアを見る ハイケルが不満そうにコーヒーを飲んでから言う
「笑われていた の間違いだろう?お陰で俺へのチップも無かったぞ」
マスターが笑って言う
「そりゃ 演奏中に怒鳴る演奏者に チップは無いだろー?」
ハイケルが顔を逸らす 軍曹が微笑して言う
「しかし… 先ほどのお方は …とても良い笑顔をしていました!あちらが チップなのではないでしょうか?」
ハイケルが驚いて軍曹を見る マスターが微笑して言う
「おおっ!ヴォール君 流石!大人だねぇ?」
軍曹が呆気に取られる ハイケルが顔を背けて言う
「金持ちの余裕か」
軍曹が衝撃を受ける マスターが呆れて言う
「こら ハーイケル?」
ハイケルが言う
「ふんっ」
軍曹が呆気に取られた後 微笑する マスターが安堵の表情を見せる
ハイケルと軍曹が店を出る マスターの声が掛かる
「また来いよー?」
ハイケルが店へ向かって言う
「入る前より気の立つ茶店になど来るかっ!」
マスターが笑う ハイケルが不満そうに歩き出す 軍曹が一瞬呆気に取られた後軽く笑いハイケルに続く マスターがそんな2人を見て微笑して言う
「さて… これで あいつも… ちっとは 丸くなるかねぇ?」
マスターが去る
ハイケルが歩いている 軍曹が続いている ハイケルが言う
「…すまなかったな 軍曹」
軍曹が疑問して言う
「…と 申されますと?」
ハイケルが顔を向けないまま言う
「…悪い店に 誘った」
軍曹が呆気に取られた後ぷっと吹き出す ハイケルが不満そうに疑問して立ち止まって振り返る 軍曹がはっと立ち止まり敬礼する ハイケルが不満そうに言う
「…何が可笑しい?」
軍曹が思わず かしこまって言おうとする
「はっ!いえっ!自分は…っ」
軍曹が気付き表情を緩めてから言う
「自分は楽しかったでありますっ!」
ハイケルが一瞬呆気に取られた後苦笑して言う
「ふん… そうか … …なら良いんだ」
ハイケルが再び歩き出す 軍曹がハイケルを見た後 微笑して続いて言う
「はっ!良いんだ でありますっ!」
映像にノイズが入る
デスが言う
「…なるほど 人を操る ”音楽”か」
デスが目を開く ジークライトが振り向いて言う
「何か分かったのか?デス?」
デスが立ち上がって言う
「ああ、やはり こちらを調べて正解だった このプラントにも 優秀な奴が居たものだ」
ジークライトがやって来てデスを見てから視線を下ろして言う
「それじゃ あの鎧が勝手に動いた理由が 分かったのか?」
ジークライトが見下ろした先 地上では ハイケルと軍曹が停止している デスが言う
「いや、残念ながら そちらは分からなかった …だが、人体を他者が操る その方法として 音楽などを使った周波数と言う力が 有効であると言う情報を得られた そして、それを打ち消す方法も」
ジークライトがデスを見て言う
「人体を他者が…?それは あの操りのプログラムとは違うのか?」
デスが周囲にプログラムを発生させながら言う
「私が今まで関わったそれらのものは 直接被験者へプログラムを実行するものだった それ故に必要とする情報が多く 対象も固定されてしまう物だった だが、この方法なら 対象も固定される事無く その場で瞬時に行う事が出来る… 実戦の上では こちらの方が有効と言えるだろう」
ジークライトが言う
「ふ~ん …あれ?けど デスが調べたがってたのは あの アリシアって女の子を助けた 神様の力の方 じゃなかったけ?」
デスが苦笑して言う
「ふっ… 確かにそうではあったが いつ、如何なる時でも 有効な情報と言うものは価値を持つ …お前が名付けた ”神様の力”は 今回その正体を掴む事が出来なかったが… そろそろ このプラントを離れた方が良さそうだ」
デスがブラックボックスを手に持ち プログラムを発生させる ジークライトが呆気に取られてから言う
「けど、まだ バーネット様に言われた ”神様の使い”の事は 何1つ分かってねーのに?」
デスが言う
「一度に全てを探る事は難しい 増して その者に関しては このプラントの管理者が関わっている可能性も示唆される …プラントの管理者に見つかる訳には行かない ここはひとまず」
ジークライトが言う
「そっか、分かった じゃ、こいつらには もう起きてもらったほうが良いよな?」
デスが言う
「ああ …雪の中で 風邪でも引かせては 申し訳ないからな 彼らには 良い情報をもらった」
ジークライトが微笑して ハイケルと軍曹を見る デスが言う
「ジーク」
ジークライトが地上へ降り言う
「あいよ!」
ジークライトが2人の首筋に手とうを与える
ハイケルがはっと目を覚まして言う
「っ!…うん?」
ハイケルが周囲を見る 軍曹が首筋を擦りながら言う
「う… う~ん…?」
ハイケルが軍曹へ振り返って目を瞬かせてから言う
「軍曹…?」
軍曹が一瞬ぼやっとしてから ハッとして敬礼して言う
「…はっ!少佐!」
ハイケルが呆気に取られてから疑問して言う
「私は… 何か長い夢を見ていたような…?」
軍曹が言う
「はっ!自分も… なにやら その様な気が…?」
ハイケルが考えた後一息吐いて言う
「うん…?まぁ良い 今日は 久しぶりにあいつの相手をしたせいで 疲れた」
軍曹が笑顔になる ハイケルが歩き出す 軍曹が続く ハイケルが言う
「…所で 軍曹」
軍曹が言う
「はっ!少佐!」
ハイケルが言う
「君は何処へ行くつもりだ?」
軍曹が言う
「はっ!少佐の向かう所でしたら どちらまでもっ!」
ハイケルが立ち止まって言う
「…私は 帰宅をするつもりだが?」
軍曹が言う
「はっ!それでしたら 少佐のご自宅まで お送り致しますっ!」
ハイケルが不満そうに言う
「…いや、良い」
軍曹が言う
「はっ!良い であります!」
ハイケルが振り返って言う
「そうじゃないっ 1人で帰るから 来なくて良いと言っているんだ …大体 君の自宅は逆方向だろうっ!?」
軍曹が言う
「はっ!しかし 良い のであります!」
ハイケルが言う
「何が良いんだっ!帰れっ!」
軍曹が言う
「はっ!しかし!”良いんだ” でありますっ!」
ハイケルが言う
「良くないっ!帰れっ!」
ハイケルが歩き出す 軍曹が1人で笑顔になり続く ハイケルと軍曹が歩いて行く
【 大和国 】
大和海軍の港に艦隊が入港する
船内の一室 ベッドの上でアリシアが目を覚まし 身を起こすと周囲を見てから不思議そうに言う
「私… なんだか 長い夢を見ていたみたい… あのレギストの人たちが…?それに あの人は 誰だったのかしら?… … デ…ス…?」
アリシアが窓の外を見る