表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

星の章2

   エピローグ


 薄暗いコンビニ倉庫。

 兼、事務所の、雑多に積まれた補充用・在庫品の山々に顔を埋め、ぼくはノートパソコンのキーを叩き続ける。

 ようやくアイナの長台詞が終了。

 まだ、説明は続くはずだけど…ぼくは顔を上げ眼鏡を下げる。

 眉根を軽く揉む。

 午後三時の休み以降、午後八時までブッ通しで小説を書き続けた。

 途中、二時間の仕事は、雷華が代打で入っている。

 退社時間はとっくに過ぎていた。

 いいかげん疲れてくる。

 いや、それより、なにより、

「どうした星図? 小説は、もう書き上がったのか?」

 雷華が店から事務所を覗きながら尋ねる。

 仕切りはカーテン一枚のみ。

 さっきから、チョクチョク覗いてくる。

「なんか、説明が足りない気もするけど。まあ、だいたい…こんなトコロかな? それより猿風さん…その…なんていうか」

「なんだ? 何か気になる事でもあるのか? 星図?」

「う~ん。気になるって言うか、何ていうか…」

 雷華が期待と不安の入り混じった不思議な表情を浮かべる。

「言ってみろ。話してくれなきゃ、何一つ、わからないからな」

 ぼくは雷華に向き直り、居住まいを正す。

 一語一語、言葉を気にしながら、雷華に語りかける。

「小説を書くっていうのはとても不思議な行為だよね。ただの文章、ただの文字で世界を表現する。この世以外の、ありえない事柄だって、自由自在だ」

 雷華が挑むように問う。

「それで? 書いていて、何か、発見でもしたのかな?」

「発見、と言うか、気がついた、とでも言うか。とにかく、書くっていうのは、不思議な行為で、思いもしない物語、考えもしない展開が、ぼくの意思とは関係なく進むんだ。そのわりには、まるで予定調和したかのように、それなりに、まとまってくる。不思議、不思議」

 雷華の目つきが鋭くなる。

「君は自分で『不思議、不思議』とか言ってるわりに、ちっとも不思議そうな顔つきをしていないな」

 ぼくは、おどけるように答える。

「いやいや、不思議だよ。書くって事は…そうだね。ぼくが、不思議そうな顔つきをしていないとしたら、それは…それが、もしかしたら、当たり前の事だからかもしれない」

 雷華が渋い顔をする。

「君が何を言いたいのか、だんだん、わからなくなってきた」

「書く…というより、書ける…という事は、不思議な事ではないって事。つまり、それは、本当に、どこかで体験した事かもしれない。それなら、あとは…思い出す、だけでいい…書く、という作業には、一種の魔術めいた力があるかもしれない。書いているうちに、自然に文章が、文字が、浮かんでくる。まるで記憶の封印を解く、かのように…ね」

 雷華が肩を竦める。

「やれやれ、他人が聞いたら、君の気が違っているんじゃないかと、絶対に疑う発言だぞ」

 ぼくは口許に笑みを浮かべる。

「それでも、ぼくは、雷華、蘭花、刀火、雷華三姉妹と、大冒険を繰り広げた…はずだよ。五時間も立ち読みしている、刀火。同じく、スイーツを選び続けている、蘭花…そうだよね!」

 コンビニ内を五時間もウロウロしている二人の少女に話を振る。

 刀火が真っ先に口を切る。

「雷華の予想が見事に当たったわね。あたしもホッシーの記憶は、いずれ蘇るって、ずっと信じてたけど!」

 蘭花が待ちくたびれた表情で、

「それでも随分と時間が掛かりました。やっぱり〈猴仙術〉の記憶操作は、強力なんですね…あの、勿論、それを破った星図さんも、凄いと思いますけど!」

 雷華がペロリと上唇を舐める。

「前から封印が不安定になっていたから、刀火と蘭花にも見張ってもらっていたが、結局、解けてしまったな…わたしに隠れて仙術の修行でもしたのかな? 星図?」

「実はね、〈猿仙界〉で蛾雅が、時たま様子を見に来ていたんで、雷華に内緒で仙術を、ちょっとばかり、教えてもらったんだ。その影響かな?」

 一同が納得すると同時に、ピカッ! ドドオオーンッ! 稲光と共に、轟音が鳴り響く。

 店内の照明、いや、近所の明かりも全て停電で消え去る。

 気がつくと、外には激しい雷雨が吹き荒れていた。

 そんな中、キラリと二つの双眸が光る。

 ずぶ濡れになりながら、頭頂部だけが黒い猫、黒帽が、何かを狙うように、コンビニの前を横切る。

 ぼくと雷華、遅れて刀火、蘭花も外に飛び出す。

 黒帽の得物が嵐の中、闇の中から徐々に姿を現す。

 肥大化した体は刃物と化した紙幣が何千枚も突き刺さり、まるで紙幣のハリネズミだ。

 痛々しい悲しげな声で、

「ゾ・ウ・ゼイ。ゾ・ウ・ゼイ」

 と、繰り返す。

 どうやら、増税の法案審議中に、志半ばで倒れた議員先生のようだ。

 胸に薄汚れた金バッチがピカピカと輝いている。

 雷華の全身が青白く輝く、

「ふふ。わたしの大・大・大好きな猫ちゃんに、指一本触れさせはしないぞ。昼寝ばかりしている、エセ・ユウレイ議員め!」

 雷華が術を発動する寸前、ぼくが割り込む。

「な? 何だ? 星図、邪魔をするな! わたしの大・大…」

「それは、わかったから。最後ぐらい、ぼくにも見せ場がないとね」

 攻撃魔法を瞬時に展開、ぼくの指先、両腕から、黒い霧が湧き上がる。

 エセ・ユウレイ議員の頭上には、紅い魔方陣が浮かびあがり…ぼくは、厳かに呪文を唱える…。

 死を呼ぶ暗黒の魔法…、

「〈獄殺(ごくさつ)〉!」


     ☆完☆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ