星の章1
☆1☆
プロローグ
「ありがとうございました――」
女子高生の一団が元気に店を出て行った。
午後三時。
コンビニの店内が空いてきた。
今日は一時からバイトのシフトで入ってる。
やっと、一息ついた感じだ。
残っている客は二人のみ。
一人は、雑誌を立ち読みしている、小豆色のセーラー服の少女。
髪の色がショッキング・ピンクで、超ロング・ツインテールだ。
もう一人は、ドリンクコーナーを物色している純白のセーラー服の少女。
腰まで伸びたプラチナ・ブロンドで、さらさらのストレート・ヘア。
ド派手な二人を見ていると、なんだか、モヤモヤとした変な妄想が浮かんでくる。
ぼくは小説家を目指しているので、きっと作家の本能に違いない。
決してHな妄想じゃない! と、思う。
「星図。そろそろ休憩の時間だろう。休んでいいぞ」
猿風 雷華がぼくに声をかける。
ぼくは、星図 郷太。
彼女は同じ高校の同学年。
コンビニでは雷華のほうがチョット先輩だ。
「う、うん! …わかった…猿風さん…」
ぼくが空返事を返すと、
「なんだ、星図? また、小説のネタでも考えていたのか? 仕事中にHな妄想は駄目だぞ」
「してないよ!」
「小説が書きたいなら、事務所のパソコンを使って勝手に書いても構わないぞ。そのかわり、休憩中だけ、かつ、暗号化しないと、ネットにネタがダダ漏れして、エライ事になるから、注意するように」
ぼくが小説家を目指している事は、雷華に話してある。
まだ一文字も記していない、頭の中だけの、夢の世界の話だけど。
「なんだ、書かないのか? それとも、書けないのか? 昔の偉大な作家は言っていたぞ。作家と読者の違いは、わずか、手の平に乗った砂糖が、有るか、無いか。その程度の違いでしかない、と。その砂糖を大切にしなければ、すぐに失われる、とな。しかも、その砂糖は、自分は偉い作家先生なのだ。などと、自惚れたら、すぐ失われる、と戒めていた。当然、その砂糖は例えで、つまり、砂糖とは…才能の事だ」
「『千里の道も一歩から』だよね。わかったよ、猿風さん。書いてみるよ、ぼくだけの小説を。書き始めれば、意外とドンドン書けるかもしれないしね。ことわざにも『一度始めれば、終わったも同然』なんていうのが、あるぐらいだし」
「小説という巨大な山に登るなら、決して振り返る事なく、上だけを見て登る事だ。一度でも下を見たら…あとは堕ちるだけ、だからな」
「なんだか、よくわかんないけど…一応、励ましの言葉と受け取っておくね」
ぼくは、事務所のパソコンの前に座ると、始めの一文を打ち始めた。