異世界の住人
「お……お…い…
おい、しっかりしろ。大丈夫か?」
眩しいな。
それに誰だ?
私は深い眠りから覚めたかの様に重い瞼をゆっくりと開けた。
そこには私を揺すり起こした声の主が心配そうな顔で覗き込んでいた。
「おい、しっかりしろ。」
そう言うと男は自分の背負っていた鞄からタオルを取り出して私に渡してきた。
私はタオルを受け取り起き上がるとある異変に気付いた。
体が軽い。
隅々まで調べると身体が信じられない程若かったのだ。
私の九十歳を超えた身体は老体だった筈だ。
なのに今は青年の様な体をしていた。
確認しなければ。
私は立ち上がり走り出した。
「お、おい!どこ行くんだよ!?」
私を起こした男の声に振り向くこともなく今の自分の姿を確認する為、すぐ近くにあった川に向かった。
水面に映る自分の姿は正しく二十歳の頃の自分だったのだ。
「嘘だろ。あれは"妄想"じゃなかったのか?」
そういえばあの自称神が転移する時に二十歳まで戻すとか言っていた。
そんな事がほんとに出来るのか。
信じられない。
天才であるが故、今まで全ての事象は科学によって証明出来た私だが、実際自分の身に起きたこの異常事態。
馬鹿にしていた"妄想"から私が理解できない"現実"として受け入れるしか無いのだ。
全くどうして面白いな。
私は自分自身に起きた事が自分の理解を超え過ぎて笑うしかなかった。
「おーい、何やってんだお前。
いきなりそんな格好で走り出して何考えてんだ。」
男は少し怒っていた。
いきなり走り出した事に腹を立てているのか?
それは悪い事をした。
「すまない。
あまりにも自分に起きた事が不可解過ぎて少し気が動転した。」
私は素直に彼に謝ると男は一瞬驚くも何かを察したのか淡々と自己紹介を始めた。
男はマーカスと名乗った。近くの村、バルハル村に住んでおり主に木こりで生計を立てているらしい。
木を切りに行く途中、道端で倒れている私を見つけたのだとか。
「マーカス。
助けてくれて感謝する。
私は弓月理人。天才だ。」
「ユズキ?それが名前か?」
「いや名前は理人だ。弓月は姓名だな」
「珍しいな。普通名前は前にくるんだが。それに姓名を持ってるのは貴族や王族だけだ。」
そうか、私の世界では当たり前だが、この異世界では違うのか。
疑問は尽きぬが今後を考えるためにもマーカスの村に案内してもらおう。
何をするにしても先ずは情報がいる。
村に行けば少なからず手に入るだろう。
「マーカス。
助けてもらっておいて悪いんだが村まで案内を頼めないか?」
「あぁ、それは構わないがそれよりもその格好をどうにかしてくれ。
「格好?」
そう言われて身体を確認してみると私は生まれたままの姿だった。
恥ずかしいなまったく。