1-5 どうやら学校に通わないといけないらしい
「待ってください校長」
シンが顔を上げると1人の男が校長の前に立つ。見るからに体育系とわかる体の筋肉、高身長、イケメン、全て揃った男だ。
「なんだベリル。この私になにか意見か?」
「彼の相手を申し出ていいですか?」
「ダメだ。もう終わった」
「彼女の仇を取らせてください。これは同僚として、そして男として、私は彼と戦わなければならない」
「ダメだ。彼の合格は決まった。やりたいのなら入学後彼に決闘を申し込むといい。君だって例外ではないぞ?」
「それは……」
「理解したかな? 私が認めない限りダメだ。潔く引け」
「でも!!」
ベリルがそう声を荒らげると、メイギスはベリルに強烈な殺気を剥き出しにする。辺り一体その殺気に包まれ、全員が息を飲む。
「まだ何か言うのか? 彼女が勝手に相手を名乗り出たんだ。それを止めなかった時点でお前が悪いだろう? お前が代わりに出ることだって出来たはずだろ? 違うか?」
その校長の言葉にベリルは口篭る。正論を突かれてぐぅのねも出ない様子のベリルは、大人しく元の場所に戻る。
「よろしい。それではこれを見ている生徒の諸君、先生方、新しい生徒だ。仲良くしてあげてくれ」
そしてその場は解散となり、シンのその日のスケジュールも終える。明日から正式に登校する事になるが、シンは幸先が悪く少し明日がだるくなる。
「はぁ……この様子だと、俺はかなり悪い印象が強くなって厄介者になるんじゃないか?」
そんな独り言を呟きながらウェイドとレナの元へと戻る。すると、闘技場から戻る途中の狭い廊下で、ベリルがシンを呼び止めにやってくる。
「待て、新入生」
「ん? ……ああ、さっきの。何か?」
「私と戦え」
「はぁ……なんでそんなに突っかかる? 俺何か悪い事した?」
「年上の者に対して敬語を使えと習わなかったか?」
「質問してるんだけど、話そらすなよ」
シンは少し怒り気味に言う。
「あの女性は私の妻だ。妻をあんなにされて黙って見過ごす分けないだろ」
「なら、あんなボロボロになる前に止めるべきだったね。俺は悪くないでしょ」
「貴様もそういうか……生意気な奴が……」
「戦ってもいいけど、それは俺になんのメリットがあるの?」
「私に勝ったという名誉を得る」
「いらないよ別に。話にならないね、俺は帰るよ」
シンは振り向いてウェイド達の元へ向かおうとしたが、ベリルはシンが後ろを向いた瞬間魔法を発動させる。
「殺しやしない。苦痛を味わえガキ!」
ベリルが放った魔法はシンの顔面に飛んでいく。シンはそれを素手で受け止める。その光景にベリルは驚くが、すぐに正気に戻りさらに魔法を連発する。
「あんたあまり魔法得意じゃないだろ? あの女の人の方が強かったよ」
シンは魔法を握りつぶし、さらに飛んでくる魔法を逆算し消滅させる。ベリルは魔法がダメだと分かりながらもさらに打ち続ける。途中、目くらましの為に砂を発生させる魔法を発動する。
「目くらまし?」
シンはあえて逆算せず、その目眩しの魔法に乗じて気配を消す。ベリルはそれに気づかずシンがいたはずの場所へ近づく。
「なっ、どこいった!?」
ベリルはシンが居ないことに気づき辺りを見回す。
「自分が見失うんならその魔法使うのやめた方がいいよ」
シンはそうベリルの耳元で囁き、ベリルを睡眠魔法で眠らせる。砂は晴れ、狭い通路の視界が戻る。
「前世の魔法が上手く使えるか分からなかったが、上手くできた。だが、この学院大丈夫か? この程度の魔法で先生になれるのなら俺は校長にでもなれるんじゃないか?」
シンはそんな冗談を言いながら帰宅する。道中での出来事はウェイドとレナには話さなかった。だが、どうやらあの戦闘でウェイドとレナはシンに疑問を持ってしまったようだ。
新居に入るなり、ウェイドはシンに振り向き問いかける。
「シン、その実力はどこで手に入れた? 俺の知る限りでは教えたつもりは無かったが……」
「そうよ、シン。今日のはなんと言うか……別人に見えたわ」
レナも少し不気味がった顔で言う。シンは本当の事を打ち明けようか一瞬考えるが、それこそ頭のおかしい人間だと思われる。だが、ここに来る時の女神の言葉を思い出す。
「父さん、母さん。2人は異世界人って聞いたことある?」
「異世界人……? 聞いたことはあるけど、見たことは無い。それがどういう関係があるんだ?」
「俺は……」
シンはそこで言葉に詰まる。前世のことを言ったとして、もし魔王だと言ったら2人はなんて言うだろうか?
そうこう悩んでいると、ドアをノックする音が聞こえる。話はそこで中断され、ウェイドがドアを開けるとそこにはメイギスが立っていた。
「メイギス、どうしたんだ?」
シンは話が終わってホッとしたが、それも束の間だった。
「お前の息子に聞きたいことがある」
「シンに?」
「ああ。シン、お前異世界人だろう?」
思ってもなかった質問にシンは驚く。
「いや違うよ?」
元魔王として怯んだ姿を見せる訳にいかないという謎のプライドに、シンはポーカーフェイスでそう答える。だが、メイギスはずっとシンを睨み続ける。
「メイギス、シンはレナが産んだ正真正銘この世界の人間だ。そんなわけないだろ?」
「……そうか」
シンは少しホッとする。だが、また同じ質問が来たら次はもう逃げられないだろう。