1-1 どうやら学校に通わないといけないらしい
「ここはどこだ? 眩しい。それに何だか動きにくい……声も出しにくい。状況が掴めん」
シンは、思考するも周りの状況が把握出来ず混乱する。思うように動かせない体というのはとてめストレスが溜まるものだ。
何とか動こうと藻掻くも上手くできず。すると突然視界が暗くなり、ぼやぼやと声が聞こえる。だが上手くは聞き取れない。
「何かおかしい。何故こんなにも身動きが取れない? もしかして俺は……赤ん坊なのか!?」
ようやく気づいたシンは、自分が赤ん坊に生まれ変わっていたことを知る。前の転生では身体そのままを異世界に送られたため不自由なく動けたが、今回は違う。まさかの赤ん坊からのスタートとなる。
「これはまずいな……自由に生きていいとは言われたものの、普通の家庭に生まれるなんて思いもしなかった」
「おお、元気な男の子ですよ奥さん!」
「良かった……ハァ……ハァ……私の可愛い息子」
「良かったなぁ、レナ! 俺たちの息子だ! 将来が楽しみだなぁ!」
「ええそうね!」
「さぁ奥さん。一旦赤ん坊をこちらへ」
「お願いします」
シンは生まれた直後だった為、家に着くまでは何日かかかった。母の様態も良くなり、シンが初めて家に訪れる頃にはピンピンしていた。
「レナ、この子の名前は何にする?」
「そうね……できれば男らしい名前がいいのだけれど……」
「じゃあ俺の名前を取ってウェイドJrってのはどうだ!?」
「貴方の名前を付けるとロクな男にならなそうだから却下」
「酷いよレナ! そんな事言わなくても……」
「メソメソしないこの軟弱者!」
「うぅ……」
シンはそれを見て思う。このウェイドとか言う男は尻に敷かれているのだと。
「そうね……シンなんてどうかしら?」
シンはその名前を聞いて奇跡なのかと驚愕する。まさか同名になるとは思わなかった。これは仕組まれているのかとも思ったが、そういう訳でもないらしい。
「シンか……いいなぁ! かっこよくて男らしい!」
「でしょ? それに……ね?」
「ああ、わかってる。俺ら2人の恩人の名前からも取っているんだろ? わかるさ」
シンと名付けられ、それからの生活はとても楽しい日々だった。田舎に住んでいたこともあり、人の出入りが物凄く少なかった。その為世界のことなど何もわからず、また知ることも出来なかった。
この村はどうやら住人が100人もいないらしい。それに、平均年齢は70歳を超える。だが生活にはなんら困らないほどの物は揃っている。
そして年月は過ぎ、シンは15になった。その日は誕生日パーティーをしており、乾杯の音頭が鳴り響いた後、ウェイドがシンに真面目な顔で話し始める。
「シン、お前はもう15だ。世間から離れたこの村では何も世の中を知ることは出来なかっただろう。正直俺はこの話をしたくはない。だが、お前がそれでも聞きたいというのなら話す。どうだ?」
そこまで話させてこちらに拒否権を渡すのはずるいと思いながらも、シンは「聞きたい」と答える。ウェイドはレナの方を向き、レナはこくりと頷き承諾を得る。
「シン、この世界には冒険者という職業がある。俺と母さんの2人は元々冒険者だったんだが、ある事をきっかけに辞めた。お前はその冒険者になれる素質がある」
それは初めて狩りに出かけた時の事。うさぎの狩りにでかけたシンとウェイドは、小さな森の中で息を潜めて獲物を狙っていた。
「ウェイドいいか? あそこにうさぎがいるだろう? 今から父さんが仕留めてみせるからよく見とけ」
そういうとウェイドは、背負ってきた弓を構えうさぎに矢を放つ。その矢はうさぎに命中し、絶命した。
「どうだ? 弓の扱いはまだ難しいだろうから、お前はこの剣で後ろから刺す方法でやる。いいな?」
「わかった」
シンは、元々魔王としてのステータスがあったが、それは隠していた。今の生活にその情報は必要ないし、もしバレたら面倒なことになると思っていた。
だが、長年培った経験がシンの体に染み付いており、それを隠すことを忘れていた。
うさぎの背後に回り込んだ時、殺気をゼロにして音もなく近寄りうさぎに死を気づかせないほどの剣さばきでうさぎを仕留めたのだ。
それが当たり前に出来てしまったため、ウェイドはそれに驚いた。シンも、それを終えて隠しきれていると思い込んでいた。
「実はあのうさぎ狩りの時から思ってはいたんだが、最近になってそれは確信に変わった。時々お前の背中を見ていると背筋が凍るんだ。静かな殺気というかなんというか」
「そ、そんなことは無いと思うけどね〜」
誤魔化すように笑って見せたが、何百年とそうした行動が今にも現れており、上手くは隠しきれていなかった。
「で、だ。シン、ここから何百キロか離れた所にこの世界で1番大きいと言われている都市がある。そこに行ってお前は、冒険者育成学校に入るんだ。そして冒険者となり、この世界を脅かす魔物達を倒し、世界を救う為の1人となるんだ」
「冒険者……」
「そう。俺達もそこの卒業生で、今の校長とも仲がいい。だから、お前を簡単に入学させる事が可能だ。どうだ? お前も行ってみるか?」
「……」
実を言うと、その話は知っていた。ある日寝ていたが目が覚めてしまい台所に水を飲みに行こうとすると、扉の向こうからこの話が聞こえてきていた。
だが、2人の話し方はあまりシンを入学させたくはない口ぶりだった。だが、この事は話さなければならないし、決断はシンにさせると2人の中で決まったのだ。
行かないといえば2人は喜ぶのだろう。だが、シンは決めていた。この世界をもっと知ろうと。この世界は前の世界と比べてどうなのかを。そして何より、自分の力はどこまで通用するのかを。
「……父さん、母さん。俺は行くよ、その学校に。そして俺が働いて稼いで、父さんと母さんを自由に生活できるよう頑張るよ」
自分ながら恥ずかしいセリフを言った。確実に長い間生きているのはシンだ。魔王時代でもそんなセリフは吐かなかった。
そしてそのセリフを聞いた2人は涙した。
「おおぉ! 俺の立派な息子よぉぉ! なんでいい子なんだぁ!」
「私もこんな風に育ってくれて嬉しいわ!! 愛してるわ愛しの息子!」
「「うわぁぁん!」」
子供みたいになく2人は見ていて微笑ましい。シンは、久々のこの感情に少し感動した。