3-1 上級生に目をつけられたらしい
翌日、玉座で仮眠程度にと思い目を瞑りながら時を過ごしていると、いつのまにか時間は日の出前になっていた。元魔王という性質上睡眠を必要としないため、とくに寝る意味もないが、何となくで目を瞑って瞑想していたらこんな時間になっていた。
「少し瞑想しすぎたな。まだ日の出前か……少し散歩でもするかな」
魔王城にいた頃、勇者を殺した年は暇で特にすることも無く、玉座にただ鎮座するだけではつまらないと日課にした散歩。時々レアな物を見つけたりした為、これが毎日のルーティーンとなった。
この世界ではまだ散歩などろくにしたことがなかった為、新鮮な気持ちで外へ向かう。だが、寮の入口には先生が仁王立ちで突っ立っていた。
シンはその横を何も無く通ろうとするが、腰に構えていた剣で行き先を阻む。
「待て、新入生。どこに行く気だ?」
「散歩」
「こんな時間にだと? 1年が外に出ていいとは決まってない。ましてや先日入ったばかりのガキが……」
「別に殺されるわけでもない。どけてくれないか?」
「ならん。問題が起きたら俺のせいになる。それは困る」
「それが本音か……まぁいい。問題にしなければ問題にはならん。知らんぷりしていろ」
「ダメだ。規則は守れ新入生」
「なら先生も一緒に来ればいい。それで問題ないだろ?」
「大ありだマヌケ。ここは誰が見ていればいんだ?」
「マダムにでも立たせていろ。散歩などすぐ終わる」
「大バカが! あんな丸々した巨体のババァがここを守れるわけないだろ!!」
「お前は人を見る目がないのか? あのバアさんは強いぞ」
「何?」
「2人とも、私がなんだって?」
シンは咄嗟にその場から逃げ去り、門番の先生を置き去りにした。
「待て新入生!! ……っておいおいおい! マダム、その包丁を下ろせ!」
「丸々した巨体のババアが弱いかどうか、確かめてみる?」
門番の先生は汗をダラダラ流しながら土下座をする。マダムはそれを許さず、渾身の右ストレートをお見舞する。
「ふぅ。久々にあんなにドキッとしたな……アリスを怒らせた時いらいかな?」
アリスとは、前の世界の秘書だ。こいつも中々曲者で、仕事の前に1度絶対筋トレをしてパンプアップさせてから仕事を進める。そのせいで開始が毎回遅れるが
、決まっていい訳が『筋肉は裏切らないわ』だった。
そんな昔を思い出しながら外を歩いていると、同じ制服を着た生徒が木の影で素振りをしているのが見えた。寮からそこまで離れていない場所だが、どうやって寮から抜け出したのだろうか。
「……999……1000! はぁ、疲れた〜」
「中々いい構えだな」
「ひやぁ!? ビックリした〜、誰?」
「シンだ。ここに最近入学した」
「ああ、噂の新入生か! 君の話はうちの学年でも良く出るよ?」
「悪い噂じゃないといいがな」
「ふふ、悪い噂しかないよ?」
「はぁ……ここでも悪者扱いか」
「ここでも?」
「いや、こちらの話だ。それで、見たところ素振りをしてたようだがこれは毎日しているのか?」
「そうだよ、毎日の日課かな。君はどうやって寮を抜け出してきたの?」
「マダムに任せて来た」
「マダム? なにそれおもしろい」
意外な返答だったのか、彼女はとても大笑いしている。こうしてみると何処と無くアリスに似ている。
「あんた、名前は?」
「私はミゼ。ミゼ・ヤーナ。ヤーナ家って知らない?」
「知らん」
「嘘、割と有名だと思ってたんだけどな……」
「なんかあるのか?」
「なんかと言うか、まぁ自慢するわけでも無いんだけど……」
ミゼは何故かモジモジとしている。
「何だ、早く言わないか?」
「……私は、この学院のナンバー2だよ。因みに、ヤーナ家は世界的にも有名でね、冒険者界隈では知らない人はいないかな? ギアナ・ヤーナって知らない?」
「だから、知らんと言っているだろ?」
「え!? ギアナ兄知らない人いるんだ……ここの卒業生で、万年1位の最強生徒だったんだよ」
「ほぉ……面白い。気になる」
「そうかそうか、まぁ誰でも気になるよね〜! でもま、私はギアナ兄に負けたことないんだけどね〜」
「お前の方が強いのか?」
「強いよ〜? 戦ってみる?」
「面白い」