2-4 どうやら舐められてるらしい
その決闘から少し経ち、シンは校長室へ呼び出され、事の発端となる話と事情聴取が始まった。全てを話しても良かったが、少しの情けをかけてジェークはわるくないといい見繕った。
本当は退学ものらしいが、彼の立場やその家系でのトラブルになりかねないと踏んだハーリーは、シンに上手く誤魔化すよう言ったのだ。
少し面倒だと思いもしたが、前世で一番最初に獲得したスキルの『話術士』がこんな所で役に立つなど思いもしなかった。
それから上手く話は進み、午後の授業から出るように言われその場を去り、シンはやっと開放され背伸びをする。校長室の外ではマヤとエリーが待機しており、心配そうな眼差しを向けてくる。
「大丈夫なの?」
「俺は問題ない。だが彼は重症らしい」
「あれほどの魔力暴走を起こしたんだもん、それもその筈よ……」
「まぁそれは自己責任だ。ほら、午後の授業は出ないとならんだろ?」
「そうだけど、シンは本当に大丈夫なの?」
「問題ないと言ったろう。それに、初日からサボったと言われれば更に悪目立ちする。それは避けたい」
シンはやれやれと首を横に振る。それを見た2人はクスクスと笑いだし、心配した顔が元に戻る。
「そうだね、じゃあ戻ろっか!」
それから3人は午後の授業をこなしその日の課程は全て終了する。シンは、今日から新しく入る寮をまだ知らず、その部屋番号を聞く為に校内をうろうろするが、広すぎて道に迷う。
「しまった。元魔王ともあろう俺がこんな所で迷うなんて……魔王城より広いぞここ」
早く帰って横になりたいが、それもままならない。行き当たりばったりで行動しても埒が明かない為、シンは誰かいないかと声をかける。
「誰かいないかー。誰でもいいんだぞー」
そんな情けない声を出しても返事がない。かなりの生徒がいると聞いていたが、ここまで広いと生徒が通らない場所も存在するのだなとシンは学んだ。
とぼとぼ歩きながら声をかけていると、1人の気配に気づく。その気配はどうも殺気立っており、シンは少しだけ警戒しながら近づく。
「そこに誰かいるのかー?」
シンはすぐそこまで感じる気配を放つ者に声をかける。すると、その気配が少しだけ乱れこちらに攻撃を仕掛けてくる。
「ほう、やるな」
その攻撃は中々の強さで放たれたが、シンはそれを難なく防ぐ。
「気配が近くに感じるが中々見当たらないと思ったら、姿を消していたのか。中々やるじゃないか」
「嘘……絶対不意打ちだと思ったのに」
「まぁあれだけ殺気を放っていれば誰でも気づく」
「それはない。気配を完全に切っていたし、透明化の魔法もかけていたから」
「ん? ああ、そうか。俺は少し特殊でね。隠してても分かるんだよ、そういうの」
『魔眼』この世に存在するありとあらゆる物を感知する。常時発動型。この世に存在しないものは感知不可。
「へぇ、すごいね君。僕の名前はライア。……ちょっと聞きたいんだけど、もしかして転生者?」
シンはその言葉に警戒心を強める。その様子に驚くライアは慌てた様子で「違う違う! 僕も転生者なんだよ!」と言う。
「なぜ分かった? 俺が転生者だって」
「僕がここに転生した時、なんか持っていたスキルに鑑定ってものがあって、それで色々分かるんだ」
「……それはどこまで分かる?」
シンは警戒を緩めない。もし仮にそこで魔王だった事が分かれば、今後の為に彼を消さなければならないかもしれない。一応の保険もかけてはあったが、それを見破られた時が面倒だ。
「全てだよ。ありとあらゆる情報。そうだね……例えば君が元冒険者の転生者とか!」
シンはそれを聞き警戒を解く。念には念を入れて自分の情報を書き換えておいた。転生者がいるという話を聞いてからもしもの為の行動が幸をそうした。
「そうか。そこまでバレてしまっては仕方ないな。俺はシン、よろしく」
「よろしく、シン。にしても、君強いね? 前の世界ではかなりのベテランだった?」
「まぁな。お前は?」
「僕はまぁまぁって感じかな。魔王軍の幹部にやられちゃったんだよね〜。で、目が覚めたらここにいたんだよ」
「ほぉー、その元の世界の名前はわかるか?」
「分かるけど、それ言ってもシンが知ってるか分からないよ?」
「いや何、もしかしたら一緒の所にいたのかと思ったんだがな」
「そうだね! 前の世界の名前は……確かアンダレシアだったかな?」
「……今なんて言った?」
「ん? アンダレシア、元の世界の名前」
その世界の名前は、あろう事かシンが修復させた世界の名前であり、シンはそこの世界の魔王だ。シンは上手く動揺を隠し「知らないな、すまない」と言う。