世界の修復を終え、新たな異世界へ。
「ここまでだな、魔王」
「これが痛みなのだな……お前の名は?」
「魔王なんかに答える名はない!」
「はぁ……1人くらいは仲良くできる人間がいると思ったがな。だめだったか……」
「まだ喋れるだけの余裕があるのか!? クソッ! 仲間の仇ぃぃ!!」
魔王は目を瞑り、その攻撃を甘んじてうける。そして視界が真っ暗になり思考が停止する。
『よく世界を修復してくれました、魔王サヘル……いえ、本来の名前はシンでしたね』
暗くなった世界で突然女性の声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。確か……思い出した。ここに来た時に1度聞いた声だ。
シンの視力が回復し、その視界に映ったのは綺麗な白い羽の生えた天使のような女性だ。
「女神……何の用だ? 俺はもう死んだ。役目は終わったろ?」
『いえ、そうなんですがね? 上層部の神達は貴方の働きに大変喜んでおられ、どうやらもう一度転生させる権利を与えると言っているのですが、どうされます?』
「そんな事が可能なのか?」
『本来なら絶対無理ですよ? でも今回の貴方の働きは誰の目から見ても完璧でした。あの世界が修復されたのは奇跡としか言い様がありません』
少し軽い態度のその女神は、今までの過去を振り返るようにため息をついた。
『この世界を修復すれば好きな望みを何でも叶えるという条件に、皆それを目指して転生します。ですが、どの人間も欲望に負けて堕落し怠惰を貪り、挙句の果てには死んでいく。まるで意味が無い』
「仕方がない。あの世界を見たのではな」
『腐り果てて治すことなど不可能。あの世界の住人は皆家畜以下。そんな世界を普通にただそうなんて誰もしなかったですね〜。あなたを除いては』
「仕方ない。俺もあの世界にはウンザリしていた。一度人類の8割りを殲滅したのは正解だったと今でも思っているよ」
『本当その行動には肝を冷やしましたよ!! 勇者を目指して転生させたのに半年後には魔王になってるんですよ!? どれだけ私が上層部に頭を下げたと思ってるんですか!?』
「仕方あるまい。あんな腐りきった世界は1度滅んでも良かった。でもそうしなかったのはその残した2割がまともだったからだ。それに、上手くいったではないか」
『いやいやいや、時間かかりすぎだし!! 元の人口に戻るまで何百年もかかったんですよ!? 痺れを切らした上層部があの世界を壊しかけたの知ってます!?』
「ああ、知ってるよ。俺が組み上げた術式にちょっかいを掛けられていた。あれを壊されていたらもっと時間がかかっていたよ」
シンはやれやれと首を左右に振る。
『まぁいいです……それで、シンは二度目の転生を望みますか?』
「また修復しろというのか?」
『違います。今回は自由に生きていただいて構いません。それに、他の転生した人間の方たちも大勢いますよ!』
「ほう? それは俺と同じ条件をクリアした人間達なのか?」
『いいえ違います。貴方があの世界を修復している間に、突如として現れた世界です。本来なら、異世界は神々が作りだすのですが、今回は違います。突然現れて、瞬く間に成長していったのです』
「そんな世界に俺はいけるのか?」
『人間界で死ねば絶対行けるみたいですよ? ココ最近あちらの異世界に人間を取られて困ってるんですけどね……』
「死ねばって、また死ぬ思いをするのか?」
『そこは安心してください。痛みを感じず死ねますよ!』
「そういう問題ではない……」
『まぁそう言わず、ね? 行ってみませんか?』
その異世界に行かなかったとしたら、きっと自分の人生はここまでなのだろう。だがもし、まだ楽しく生きられるのならその異世界にいってもいいのではないだろうか?
「……わかった。行ってみよう」
『了解しました〜! では、さっそく始めますね!』
「頼む」
女神が聞き取り不能な声を出し魔法を発動させる。女神の目の前に大きな光が出現し、それは瞬く間に膨れ上がっていく。
『あ、言い忘れてましたけど、貴方のステータスはそのままで転生されるみたいなので、下手に動くと悪目立ちするかもしれないので気をつけてくださいね!』
「このステータスのまま!? それはかなりまずいのでは!?」
『んー、でも1度取得したステータスは絶対に消せませんので、それはもう仕方ありません!』
「なっ!?」
『それでは、行ってらっしゃい!』
大きな光は消え去り、それと共にシンも消える。
『はぁ疲れた……誤魔化すのにも一苦労ね〜。無理矢理感あったけどバレなければよし! ……あの異世界は狂ってる。だからシン、何とか頑張って』
女神はそんか独り言を言い姿を消す。