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18.奪還


――――

―――――――――


 ヒュイスが攫われる前、まだ城でヒュイスとユキが二人でいた時だ。

 一応ヒュイスは泣いてたユキを立ち直らせた後、城の本部に向かっていた。


『そういえばさ、これ結局なんだったわけ?』


 そう言いながらヒュイスは、ユキから盗んだ玉を見せびらかすようにして説明を促した。しかしそれにユキは言いにくそうに少し口ごもらせ目を逸らした。


『……防犯道具だ』


『……』


 そう言うとヒュイスは驚いたように目を開きながら、手に持った玉とユキを何度も見返した。


 ――……その間一拍。


『…………へえ、なるほどね。君戦う相手にあらかじめ防犯道具なんて渡すんだ。逃げ道を作るなんて、お優しい事だね』


『なんでそうなる⁉ それは私専用だ!』


 目を吊り上げて怒鳴るユキに、逆にヒュイスが動揺した。もう一度手に持っている玉とユキを二度見する。

 

『え、え? 君、自分のことわかってる? 君を目の前にした相手の方が持つべきものでしょ。君にいる?』


『うるさいな! これは私を心配したメイドがもたせてくれたんだ!』


『へぇ。心配性なんだね。君には微塵も必要ないと思うけど』


 ユキはふんっと怒ったようにそっぽ向いた。それに訝し気な視線を向けながら、ヒュイスは手に持っていた玉の紐を引っ張る素振りをしながら、紐の隙間から中を覗いたり、遠目でその玉を観察した。


『なるほどね。これを引っ張ったら音が鳴る仕組みなんだ。拙い道具だけどいざってときは役に立つかもね。君以外には』


『そりゃどうも!』


『え、何怒ってるのさっきから』


 なぜか怒っている様子のユキにヒュイスはわけがわからず眉を潜めた。強いと褒めているつもりなのだが、何なのだ一体。

 ちょっと不審に思ったがヒュイスは玉を懐に入れながら歩を再度進めた。その後ろからまだ不機嫌そうなユキもついてくるのを、ちらりと確認した。


(……一応持っておこうかな。もしかしたら使うかもしれないし)


 ユキに返せとも言われなかったし、まあいいだろう。

 そう思いながらヒュイスはユキと共に仲間の兵士のいる本部に戻っていった。



――――

―――――――――



「まさかこんなことに役に立つとはねぇ……」


 過去の自分の行動を思い出しながら、その玉を空にかざした。

 あの時は自分がこんな状況になるだなんて夢にも思わなかった。まあせいぜいウェジットに悪戯するときにでも使おうかと思ってたぐらいだ。まさか本来の目的の意味で使われるとは。

 音も鳴らしたことだし、ユキかウェジット、どちらかが助けにきてくれることだろう。まあもしユキ達が来る前にタクミがヒュイスの嘘に気づいて戻ってこられたら終わりだが。それも今考えても仕方のないことだ。後は運を天に任せよう。


「あーあ! つっかれたぁあああああ‼」


 気が抜けると全身から疲れが一気に襲ってきた。気が抜けてヒュイスは大きなため息をつきながらだらーんと木にもたれかかった。

 すると、ヒュイスはじっと自分の手を見つめた。タクミに言われた、マメもできていない綺麗な手だと。確かに、今は少し泥と擦り傷なのはあるが、ウェジットや父のような武骨な戦士の手ではない。

 そりゃそうだ。好奇心でヒュイスの命を狙いに来た奴もいたが、たいていはウェジットが対処してくれていたし、ヒュイスも一時しのぎで盗みのようなマジックで一瞬相手を驚かせて隙をついたぐらいだ。ウェジットにあの言葉を言われてから稽古ももうしてなかったし、そんな奴が戦士の手になれるわけもない。


「……」


 戦う姿に憧れていた。自分もそうなれたらいいと思っていた。

 でも、本当に戦っている奴っていうのはこれよりもっときついこともやって、重い剣振り回して、命をかけて戦ってるのだろう。


「やっぱ僕には無理だな……」


 なんせ走って逃げるだけでもこの様だ。

 足はもう動かないくらいヘトヘトだし、右肩も太ももの傷も痛いし、もうこんなのはこりごりだ。


「ま、でも僕にしては頑張ったでしょ。最後は人任せっていうのはかっこ悪いけど」


 何もせずにただ守られてるだけなんて、もう御免だ。

 この様ではあるが、守られるだけじゃない。やるときはやるのだ。

 

 しかしこういう目にあってやっと自分の裁量が思い知らされた。自分には戦いの才能が全く持ってないことは理解していたが、ようやくそのことが実感できた。ある意味タクミには感謝しないといけないのかもしれないな。


 それと、あの女にも――……


 あの時恐怖で震えながらも、ヒュイスを助けようとここまで駆け付けてくれた少女。

 その様にヒュイスは確信できたことがある。


 強さは、決して力が強いだけではない。

 強い奴っていうのは、誰かのために立ち上がれる奴のことだろう。

 ウェジットやユキ、おそらくあのセンってやつも、スバルだって。

 ヒュイスだって、弱いくせにここまでやったのであれば、きっと強いのだ。

 なんて。あまりの自画自賛っぷりに自分で笑えてくる。

 強さがどんなものか自分の中で落とし込めただけでも、ヒュイスはもう力の強さなどに固執しなくてよくなった。気分がいい。

 

 あとで礼でも言ってやろう。もちろん皮肉気に。

 ヒュイスはそんなことを思い笑いながら目を閉じた。


 だから、スバルに裏切られたと泣いていた彼女が、死に恐怖して動けなかった彼女が、ここに来ている時点で『強い』ことには変わりはないのだ。



@@@@@@@@@



 そのころ。

 タクミは紐のついた鉤爪を使いながら、木々の間を渡っていた。


「……今の音、なんだ?」

 

 後ろから変哲な音が聞こえて、タクミは飛び移った枝に一度止まりその音の方向に振り返った。例えるならフライパンをお玉で叩いたような気の抜ける音だった。仲間を呼ぶような口笛や犬笛ではなさそうだが、なんだったんだ。


「いや、そんなことより早く逃げ切らないと。あいつの毒煙が来る前に……」


 そこまで口に出して、タクミはぴたりと動きを止めた。

 

 待て。何かがおかしい。


 あいつは毒煙の入った玉を持っていた。それを引いてタクミを倒そうとしていたから、解毒剤など持っていないタクミはあの場から離れるしかなかった。けれどよく考えてみれば、あの白銀の女とウェジットがあの王子を探しにすぐ近くまで来ていたはずだ。それなのに、毒煙なんて撒いてしまえば巻き添えを食らってしまう。自分が助かりたい一心でその二人を見捨てたか。


 いや、待て。

 あの王子がヒュイスから抜け出したのはなぜだ。あの二人が助けに来る前に脱出しようと思ったからではないのか。タクミの目的があの二人と闘うことなのはヒュイスに話している。そして二人が来てしまえば用済みのヒュイス自身が危ない事も気づいていたはずだ。だからヒュイスはタクミから逃げ出したのではないのか。

 そんな奴が、自分の命欲しさに周りを巻き込むようなことをするのか?

 いや、その前にもっと最初にその毒煙さえ使っていれば、こんな回りくどいことをしなくて済んだはずだったのだ。本当に毒煙を持っていたのであればだ。


 そう考えた瞬間、はっと目を開いた。


「あんのクソ王子ッ‼ この俺を騙しやがった……ッ‼」


 毒煙があるとあの王子にタクミは騙されたのだ。気づいた瞬間、タクミは怒りで震えた。

 いや違う。騙されたことに腹が立っているのではない。何より許せないのが、自分があの弱いヒュイスに騙されて、のこのこ背中を向けて逃げてしまったことだ。弱い奴相手に逃げ出してしまったようでタクミのプライドが許さない。


『僕は弱いから、こういうやり方でしか君に勝てない。だから……』


 あの王子が言っていたことは、タクミを騙す方法でしか勝てることはないと言っていたのだ。

 タクミはヒュイスにコケにされたのだ。

 

 タクミはあまりの馬鹿にされっぷりに木を思いっきり殴りつけた。その際ひらひらと上から葉っぱが舞い落ちる。弱いくせにそれよりはるかに強い自分を馬鹿にしやがった。


「ブッ殺してやるッ‼ いや、ただでは殺さない。悲鳴も出せないぐらい喉を潰して、皮を剥いで内臓引きづり出して、その後四肢を引きちぎって殺してや……ッ」


 そうヒュイスのいる方向に叫んだ瞬間、後ろから殺気を感じた。


「ッ!」


 タクミは反射的に振り返る。するとそれを何かを確認する前に剣のようなものが振り下ろされタクミは思わず身体を倒すことでその攻撃を避けた。しかしその際バランスを崩して地面へと落ちていく。タクミは高い木の枝に乗っていた。このままでは背中から地面に激突してしまう。タクミはなんと身体をひねらせ受け身を取ろうと思ったが、その時腹に鋭い痛みが走った。


「ぐぅッ‼」


 その痛みが走った瞬間、自分の腹に足がめり込まれているのが目に入った。誰かに蹴られたのだ。そしてヒュイスは防御もできず、その攻撃の衝撃のまま地面に叩きつけられた。


「ゴホゴホッ! アァン⁉ なんなんだよッ⁉」


 そう言いながら腹を押さえて起き上がる。すると昨夜ユキに傷つけられた腹の傷が少し開きそこから血が滲み出る。痛みで舌打ちをし、目の前に視線を向けると、そこには木から飛び降りるウェジットと、足から華麗に着地しているユキの姿があった。ヒュイスはその光景に青筋を立てた。木からの攻撃はウェジットで、腹の蹴りはユキか。


「ウェジット! 先にヒュイスのところに行け!」


「了解した!」


 ユキがそう言うとウェジットは一度頷いて一目散にヒュイスのいる方向に走っていった。その姿を見てタクミはまたはっと気づいた。

 あの変哲な音、おそらく音の元凶であるあの玉、あれはタクミを騙すだけでなく、ウェジット達にヒュイスの居場所を知らせるためのものでもあったのだ。つまりヒュイスを追いかけていたタクミの居場所もわかるというまさに一石二鳥の手だ。

 あの弱い王子はどこまでもタクミを馬鹿にしてくる。

 弱い、戦えもしない王子のくせに――……。

 

 あぁイライラする。どいつもこいつも邪魔ばかりだ。

 タクミは頭にきたあまり歯ぎしりをして、目の前に立ちはだかったユキを睨みつけた。


「邪魔すんなよッ‼ 今はお前に構ってる暇ねェんだよォ⁉」


 今の状況はタクミの願ったり叶ったりの状況だが、今はあのクソ王子をブチのめしたくて仕方がない。

 タクミは剣を怒り任せに振り回しながら吠えるように叫ぶと、ユキは冷めた目をすっと細めた。


「どうした? 昨日まであった余裕がなさそうだな」


「うッさいなァ⁉ お前と遊ぶのは後だつってんだよ‼」


 そう叫ぶタクミに、ユキはちらりとヒュイスのいる方向へと目を向け笑った。


「……お前を見るに、ヒュイスにしてやられたみたいだな」


「ッ‼ あぁあもう、どいつもこいつも鬱陶しいなァ⁉ どれだけこの俺を馬鹿にすれば気が済むんだよ⁉ アァ⁉」


 ユキの馬鹿にしたような笑いについにタクミの怒りは頂点に達した。そしてその感情のままユキに向かって走り剣を振り下ろした。それにユキは身軽に避けつつ、タクミに話しかけた。


「お前、なんでこのゲームに参加してるんだ?」


 唐突に、戦闘をしながらも平然と話しかけてくるユキにタクミはイラついた。


「はあ? ゲーム? そんなもんに興味ないよ。俺はただ強い奴と闘いたいだけ。戦って戦って、そんでもし王になっても国のことなんか興味ないね。誰かが勝手にやってればいいさッ‼」


 そう言いながらタクミは両剣を抜きユキに向かって走り、一方の剣を振り下ろし、もう一方の剣で横斬った。それにユキは剣を素早く抜いて振り下ろした剣を弾き、横からくる剣を受け止めた。


 もともと王選も王選のルール変えのゲームなんぞタクミは興味ないのだ。

 ただ強い奴と闘えればそれでいい。この王選のルール変えに王を見つける必要があるというのなら、その王を見つけて戦って、殺し合いたいだけなのだ。王と会える機会なんか公式戦以外に場がない。しかしこの王選のルール変えなら王に会える。会えるということは戦える機会があるということだ。

 だってこの国の王は一番強いのだ。その王と闘えばきっと楽しいに違いない。本当にただそれだけだといのに、なぜ誰もが邪魔しようとするのだ。

 そう思いながらまた腹が立ってきて、ユキと鍔迫り合いになりながら足に力を入れて押し切った。ユキは押し切られたその勢いのまま後方に飛び、タクミと距離を取って再度構えた。


「お前のやってることはめちゃくちゃだ。王になる気がないのに、その強さを極める気なのか? ゲームに参加しているセンの邪魔までして。なんのために……」


 そう冷静に問いかけるユキの態度にすらタクミは苛つき、剣を横に振って否定した。


「うッさいなァ‼ 強くなんのに理由なんてないんだよ‼ 弱かったら意味ねェんだよォ‼」


 そうだ。強くなければ、弱かったら意味がないのだ。


 昔、タクミは親を殺してやった。

 それがタクミが親に教えられたことだからだ。『弱い奴に価値はない』と。

 だから殺した。教え通りにしただけで、何も悪いことなどない。

 だから弱ければ生きる価値などないのだ。

 だからタクミは強くなる、ならなければならないのだ。なぜならタクミにとって強くなるということは生きる事同然なのだから。

 

「生きるためにしてんだ‼ それが正しかったから、俺が強いからここにいるんだ‼ お前なんかに俺の生き方をとやかく言われる覚えはねェよ‼」


 そう吠えるように叫ぶタクミの姿を見て、ユキは一瞬驚いたように目を開いたもののその後すっと目を閉じた。


「……そうか。よくわかった」


 その態度に再度イラついたものの、タクミは溜息をついて自分を落ち着かせつつ、持っていた双剣をくるっと回して持ち直した。


「お前を殺したら、次はウェジットだ」

 

 そう言葉に出しながらだんだんと冷静になっていつも通りのタクミに戻ってきた。これから起こるであろうことを想像しタクミはにやりと笑いながら舌なめずりをした。それにユキは目を眇めた。


「もう次の話か? 余裕だな」


「だってお前、俺より弱いもん」


 そう聞くとユキは眉を潜めて剣をタクミに向けた。


「私は、お前より強いよ」


「相手を殺せない奴が、なにイキがってんだよバーカ」


「……」


 そう言われユキがむっとしたように睨みつけた瞬間、タクミは一瞬の間もなく合図もなく、ユキに双剣を投げつけた。



――――

―――――――――


 ユキに催促され、ウェジットは音のした方へ、ヒュイスのいる方向に走っていった。

 走っている間にも様々な想像が浮かぶ。


 音を鳴らせたならとりあえずは無事なはずだ。しかし怪我はしていないだろうか。四肢は無事だろうか。もしかして最後の力を振り絞って音を出したのだろうか。

 それならもうヒュイスは――……。


 嫌な想像ばかりが浮かぶ。心配で怖くて身体が震える。足よ。もっと動け。

 誰よりも命に替えても守らなければならない、大切な人なのだ。

 早く、早く、ヒュイスの下へ。どうか無事でいてくれ。

 

 そうして走っていると、木にもたれているヒュイスの姿を見つけた。


「王子!」


 目を瞑った状態で木にもたれていたものだから、ウェジットは焦った。もしかしたら死んでいるのではないかと思って、ウェジットはヒュイスの下にすぐさま駆け付けた。

 

「王子! ご無事ですか⁉」


 そう声をかけながら身体を揺する。すると身じろぎをしながらヒュイスは憂鬱そうに目を開けた。


「ん?……あーウェジットか。これが無事に見えるわけ? 何見てんのさ」


 目を開きちゃんと話すヒュイスに生きていることを実感し、ほっと息を吐いた。しかしヒュイスの状態を確認するように目を向けた時、その安心感もなくなった。

 身体中についた無数の傷。肩からは大きな傷を負ったのか血が服ににじみ、太ももには矢が深々と突き刺さっていた。

 その痛々しい姿にウェジットは見ていられなくなって目をぐっとつぶった。

 この方は、こんな目にあうような人ではなかったのに。こんな傷を負う必要のなかった人なのに。

 危険な目に合わないように、ウェジットが守って、幸せになる人だったのに。


「も、申し訳ありません! 私が遅かったばかりに……ッ!」


 ウェジットが頭を地面につくほど下げ謝罪をした。その様子を見てヒュイスは呆れたような目を向けた。


「ほんとにね。早く来てればこんな無駄な傷も体力も使わずに済んだのにさ」


「……ッ」


 ウェジットはその容赦ないヒュイスの言葉に悔し気に唇を噛んだ。

 怒られて当然だ。

 守り切れなかった。守りたかったのに。守るはずだったのに。守れたのに。

 なぜあの時、残れと言われて素直に残ってしまったのか。意地でもヒュイスについて行ってればこんなことにはならなかったはずなのだ。あの時、あの場にウェジットさえいれば。だってヒュイスは戦えないのだ。弱いヒュイスを守ってやらればならなかったのに。

 後悔と自己嫌悪でいっぱいだ。なんて謝ればいいのか。何を言っても言い訳にしかならない。

 しかしそんな様子のウェジットを見てヒュイスは呆れたように溜息をついた。


「ま、けどさ。……どう? ウェジット」


「……?」


 ヒュイスは木にもたれながら自慢げに手を広げた。しかし困惑したようにウェジットは首を傾げた。


「僕はあの男から逃げ回って、君たちが到着する時間を稼いだよ。ついでにあのムカつくタクミの野郎を騙して一泡ふかしてやった! すっごいいい気分だ!」


「あ、あの、王子?」


 機嫌良さそうに話すヒュイスに、とうとう何が言いたいのかわからず、ウェジットはヒュイスに声をかけた。それにヒュイスは少し笑った後、静かに自分の胸に手をあてた。


「僕は、君に守られるだけの存在じゃないよ。僕はしっかり立って、あいつと対峙して、ここまでやり切った。……まあ生憎倒すまではできなかったけど」


 そう言ってヒュイスは少し気まずそうに目を逸らした。しかしウェジットはヒュイスから紡ぎ出された言葉に目を開いた。


 ――……守られるだけの存在じゃない。


 だってヒュイスは守らなければならない。

 それはウェジットがヒュイスが生まれたその時、誓ったことだからだ。守り抜こうと、幸せにさせてあげたいと。そう願って今までウェジットは動いていた。ウェジットの後ろを小さいヒュイスがトコトコとついてきて、何度も特訓をせがむヒュイスをまるで自分の息子のように思っていたのだ。

 だから何もしなくていい。危険な目に合わなくていい。だってそれがヒュイスの幸せのはずだ。そのはずなのだ。

 けれど、なぜだろう。

 いっぱいの傷を負って、痛みだってあるはずなのに。

 タクミに追いかけられて怖い目にあって、身体は悲鳴を上げているはずだ。


「どう? 僕も結構やるでしょ?」


 なのに、そんな目に合っても目の前のヒュイスは誇らしげな顔でウェジットの瞳に映っている。


 ウェジットは不意にヒュイスの全身を見つめた。

 昔より大きくなった背。背だけじゃない、腕も足も昔より伸びた。見た目はかつて愛した女性とは全く似ていない父親譲りの顔だが、そのクルクルした癖毛と頑固な性格は母親にそっくりだ。

 あの幼かったヒュイスとは、まるで変わっていた。


 もう、あの頃とは違うのだ。


 そう気づいたとき、身体中から抑えきれない感情があふれ出し、ウェジットは震えた。

 

「……はい、王子」


 守らなければと思っていた。この弱いヒュイスを。

 しかしどうだろう。実際にヒュイスは自分で考え動き、ヒュイスなりに戦っていたのだ。


 幼いころ、剣を必死に振るって特訓をし、強くなれないと泣いていた。

 それでも父に認められようと、眠る時間を削ってまで必死に努力をしていた。

 ウェジットにどうやったら剣が強くなれるのかと、恥ずかしそうに相談をしていた。


 努力を怠らず、頑張っていたヒュイスをウェジットが誰よりも知っていたはずなのに。

 侮っていたのはウェジットの方だった。


 そうだ。この人はもう守られるだけの存在ではないのだ。

 あの幼く、強くなれないと泣いていた、あのヒュイスとはもう違うのだ。


 ウェジットは溢れ出る感情に我慢できず涙が零れた。


「ご立派に、なられましたな……」


「ぶっは! 何泣いてんの? 気持ち悪いんだけど、ははッ」


 涙を流したのは、ヒュイスが生まれて以来だ。十四年も前のことだ。そんなにも年月が経っていたことにやっと自覚をした。

 ヒュイスは立派に成長し、本当はウェジットがいずとも身を守れるのだ。


 しかし、気持ち悪いだって?

 こっちは自分の息子のように思っていた子どもの成長ぶりに感極まっているというのに。


 ――……全くこの人は。人の気も知らないで。

 いつもウェジットは心配させて、勝手で、頑固で、ウェジットを振り回す。


 呑気に笑っているヒュイスを見て、ウェジットも涙を流しながら笑った。



@@@@@@@@@



 スバルは一人、山の中を歩いていた。というのも何か音がした気がするので気になってここら辺を探索しているのだが、何か変化があるようなことはなかった。


「気のせい、だったか?」


 聞いたことのある音だった。たしかユキがメイドが持たせてくれた防犯道具とかで、一度誤って鳴らしたあの音にとてもよく似ていた気がしていて、気になったのだが。

 あたりを見渡しながら歩いていくと、足元にある物があるのに気づいた。


「おっと」


 スバルはひょいっと踏み出そうとしていた足を避けた。

 罠だ。

 危ないところだった。まだところどころ罠が残っているとセンも言っていた。足元には特に注意しないといけない。スバルの足元には枯れ葉で隠れているが輪っかになった網が敷かれていた。そしてその近くの木の上の枝にその網の紐が伸び、その先の木に丸太がその紐で引っ掛けられている。輪っかのところに獲物が乗れば、網の中に入ったものが網に囲まれ吊るされる仕組みだ。今はただでさえ一人なのにこんなところで無様に吊るし上げられれば、あとでセンに笑い物にされること間違いなしだ。想像するだけでも腹が立つ。

 するとふと、金属同士がぶつかるような音が聞こえてきた。スバルはその音を確認するべく音のする方向に歩き出した。


「ユキ?」


 山は高低差があり、スバルのいる位置から少し下の方から聞こえた。スバルはそこから見下ろす形で下を見ると、そこには剣を抜いて戦っているユキの姿があった。



@@@@@@@@@



 タクミとユキは金属音を鳴らしながら剣を交え戦っていた。


「なになに? 防戦一方じゃんか!」


「……」


 タクミは持っていた双剣をブーメランのように投げた。

 この木の多さではこのブーメランの攻撃を見極めることが一気に難しくなる。障害物が多い上に動きにくくなる。その上タクミのその攻撃は速い。本来であれば認識する前に相手の身体は真っ二つにされているだろう。

 しかしそれはタクミが武器を手放しているといこと。つまりタクミ自身が丸腰になることを意味する。そこでユキは投げられた攻撃を無視しタクミとの距離を詰めて一気に勝負をつけようとする。しかしタクミもそのことはわかっている。タクミは近づいてきたユキに矢を打ちこんで攻撃をする。距離を詰めながら矢を斬り落としていくユキだったが両横からヒュンっと風を切るような音がして目を向ける。するとそこには無視したはずの双剣がクルクルと勢いよく回転しながらユキに向かってきていた。


「……ッこれも計算の内か!」


 タクミは攻撃をしたときにすでにユキがタクミ自身を攻撃してくることをわかっていたのだろう。だからこそ元々ユキのいた場所にではなく、近づくであろう距離の場所に双剣が来るように計算して投げていたのだ。

 ユキは立ち止まり、向かってきた双剣の攻撃に咄嗟にしゃがみ込みその攻撃を避けた。その間にもウェジットの攻撃は緩まずに矢を射てくる。ユキは舌打ちをしながらその矢を剣ではじき、再度後方に跳んだ。しかしユキはそのまま後方に跳びながら懐に潜めていた暗器を取り出し、タクミに向かって投げつけ牽制する。タクミはそれを避ける際に双剣が返ってくる位置がずれ剣が戻らず、そのまま木に勢いのまま刺さった。それにタクミは舌打ちをするが、その表情はとても楽し気で目の前で剣を構えるユキに嬉しそうに目を細めた。


「しなやかな動きだ。その細身の身体を活かしてるね。……けど俺よりかは弱い」


 そう言いながらタクミは弓を引いて目の前のユキに照準を合わせる。


「……確かにお前は強い。その弓の腕はもちろん、その双剣もブーメランにしてよく使いこなしている。早さも、動体視力も申し分ない。……だが、私の敵じゃない」


 ユキもタクミに応えるようにぐっと足に力を入れて構える。その姿にタクミは嬉しそうに声をあげた。


「怖い顔だ。もっと楽しもうよ! お前、あんとき笑ってたじゃん。俺と同類の戦闘好きの戦闘狂でしょ⁉」


 あのとき、あのセンのアジトで見せたユキとの戦闘のことだ。

 その時ユキは狂気的な笑みを浮かべながらタクミと闘っていたのだ。タクミと同じ戦闘を楽しむ部類であるのは間違いないのだ。

 嬉しそうに問いかけるタクミにどうやら気に障ったのか、ユキは睨むようにして目を細めた。しかしユキはそのまま落ち着かせるように息を吐いて一度剣を収めた。


「笑いっていうのは、自分を奮い立たせるものだ」


「は?」


 急に脈絡のない話をしだすユキにタクミは間の抜けた声をあげた。しかしそれを気にせず、というか急な話の展開に気づいていないのか、ユキは冷静に話を続けた。


「私の師からの教えだ。もし怖くなった時は笑ったらいいって。そう、教えてくれた」


「……あぁ、そう。で、それがなにさ」


「私はあの時怖かった。死ぬのが、怖かった。戦うのが怖かった。だから、奮い立たせるために笑っていた。ただそれだけだ。けど、今はそんなものには頼らない。やりたいことも、やらなければならないこともある。だから、もう怖くはない」


 そう言葉を紡ぎながら収めた剣の柄を握るユキに、タクミははっと鼻で笑った。


「馬鹿馬鹿しいね! 戦闘こそ楽しむものでしょ。恐怖なんて理解できないね」


 その答えにユキは諦めたように溜息をついて、今度こそ腰を低めて戦闘態勢に入った。


「お前とは一生合う気がしない」


「同感だねッ!」


 その言葉を合図にタクミは矢を放った。ユキは剣を抜かず矢を避け、その間タクミは一方に刺さった剣を取りに戻り、手に取ったままユキに斬りかかる。しかしユキはそのままタクミの刀身を軸にして手をつき攻撃を避け、ヒュイスの後ろに飛び移りユキはそのままタクミの頭を横蹴りを入れようとした。タクミも反射的に避けようとするが、ユキのヒールがかすかにあたりその頭に傷をつける。


「ッ‼ 殺さないようにとか思ってるかもだけど、そうしてる間に殺しちゃうよッ⁉」


 そう話している間にもタクミはユキに次々と攻撃をしかける。しかしそこまでされてもユキは未だに剣を抜かなかった。


「そんな速さじゃ、私には勝てないぞ」


「はッ! 言ってくれるじゃん! 速いだけが取り柄しかないお前の剣なんて怖くないっつーの‼」


 そう聞くとピタリとユキは動きをとめて、後方に下がりタクミと少し距離をとった。追撃をしようと再度近づくタクミだったが、タクミが近づく前にユキは体勢をさらに低くして剣を構え、鋭い瞳で目の前のタクミを見据えた。その冷たい瞳に、恐ろしいくらいの洗練された動きにタクミは攻撃を仕掛けながらも息を飲んだ。


「お前は忘れているのか?」


 なぜかユキの言葉だけが静かにタクミの耳に届いた。


 静寂。


 周りは風の木々のざわめきが聞こえてくるはずなのに、そのユキの言葉だけが鮮明に、重く、タクミの耳にぞくっと届いたのだ。


(な、なんだ――……?)


 近づく。近づいていく。

 タクミの足はユキに近付くため走っている、ばずなのに。

 なぜかその動きすらもスローモーションのように世界が動く。


「その剣筋の速さから何千本も打たれた矢を一瞬にして散りばめさせ、ある国の侵略を一日で退けた英雄がいることを」


 それなのにユキの言葉が、その動きだけがタクミの瞳を捉えて離さない。


「剣の速さは、人が剣を握る上では最も恐れなければならないものだ」


 タクミはユキの首を落とすためにその刃を首元目掛けて振り下ろす。

 しかしそれでもタクミの瞳に映るのは、未だに腰の剣を抜かないユキの姿だった。


――――

―――――――――


 タクミはユキの首を落とすためにその刃を首元目掛けて振り下ろした。


(とったッ!)


 このままいけば確実にユキの首をとれ殺せる。

 このまま首が飛び、その血を一身に浴びる快感を得られる未来を想像し、タクミはニヤリと口角が上がる。


 ――……これで俺の勝ちだ!

 

 しかし刃が首に触れるその瞬間、突然身体中に鋭い痛みが走り首に触れるその前に手から剣が零れ落ち、身体が崩れるようにタクミは地面に倒れた。

 タクミは倒れながら、何が起こったのかわからず混乱した。その中でも身体からズキズキとした痛みが走っていった。


「なッ、なにが、起こって……」

 

 自身の状態を確認しようと動かそうとするが、身体中から発する痛みで上手く身体を動かすことができなかった。しかしなんとか首を動かし自身の腕を見ると、いつのまにか細かい傷が無数に入っていることに気づいた。


「は? なんだよこれ……。いつのまに」


「……剣を抜いて、お前を斬った。それだけだ」


 混乱して思わず出た呟きに頭上から声が聞こえ痛みをこらえて見上げる。するとそこには先ほどまで首を斬り落とされそうになっていたユキがタクミを見下ろしていた。しかし目があったタクミは未だに現状を理解できずにいると、ユキの手に剣が握られているのが見えた。その姿にタクミは驚く。


 ――……一体いつ、ユキは剣を抜いたのか。


 ユキの剣は先ほど刃がユキの首に届く寸前のところまで抜いていなかった。タクミはその後に倒れたのだ。なら、ユキはいつ剣を抜いたのか。そんな素振りや音もしなかったはずだ。


 困惑している様子がわかったのか、ユキはタクミを冷たい瞳で見下ろした。


「抜剣術だ。抜いた剣が見えなかっただろう」


「抜いた……?」


 それはそうだ。ユキが剣を持っているということは剣を抜いたということなのだろう。それはわかっている。けど、まさか、抜いた剣が見えないほどの抜剣術など聞いたことがない。

 いや、抜いただけならともかく斬っただと?

 そんな、抜いた瞬間だけじゃなく斬ったその剣筋すら見えなかった。目にも追えぬスピードで剣を抜き、タクミを斬りこんだというか。信じられない。

 しかし、斬りこまれた無数の傷跡からそれが真実だということがまざまざと突きつけられる。


「くっそッ!」


 動かそうと身体に力を入れてみるが、全く思うように力が入らない。身体全体からビリビリと鋭い痛みが走り、悔しくなり呻いた。するとユキはタクミを見下ろしながら持っていた剣を腰の鞘に収めていた。


「やめておけ。動けないはずだ。身体のあちこちに、特に腕と足を中心に細かく切り込んだ。力を入れるたびに身体中に激痛が走る」


 そう忠告されタクミはユキを睨み上げながら悔し気に歯ぎしりをした。

 その見下ろされる目が気に入らない。

 さっきまでこっちが強者であったはずなのに、今は雑魚を見るような冷たい目で見下ろされているのが我慢ならない。

 見えない速さで剣を抜いた? それで斬った? あの一瞬で? 認識もできないほど?

 ありえない。そんな馬鹿は話あってたまるか。

 しかしそう思うのに、身体が思う通りに動かない。致命傷でも負わされたわけでもないのに。

 腕と足を中心に切り込んだと言っていた。腕も足も致命傷ではないが、敵と戦う上で必ず必要になってくる部位だ。その部位を立てないほど斬りこむことができると、相手を無力化することに繋がる。

 とことんこの女は馬鹿にしている。殺さないで相手を負かすなんて手法、誰が許してもタクミは許さない、認めない。こんな負け方、絶対にだ。タクミの戦いは生きるか死ぬかだ。


 そう思いタクミはニヤリと笑った。


「はッ! 見えないほどの剣捌きってわけか。すごいね。あーあ俺の負けかァ」


「……そこでずっと這いつくばっていろ」


 ユキはそう言って目を眇めた後、立ち去ろうとしたのかそのままタクミに背を向けた。


「……ッなんていうと思ったか!」


「ッ!」


 しかしタクミは最後の力を振り絞り思いっきり飛び上がり、ユキの背に剣を振り下ろした。それにユキも気づいて剣を抜こうとするが、気を緩めていたのか気づくのが一瞬遅くなり、剣を抜いても間に合わないだろう。驚いて目を開いている姿が目に入り今度こそタクミは勝利を確信した。





 しかし、その時突然後ろから一本の矢がタクミの肩を貫いた。






「ッ! なんだ⁉」


 突然の背後からの攻撃にタクミは振り上げる剣を落とし、射られた肩を抑えながら地面に膝をついた。その姿にユキも抜こうとしていた剣から手を離し驚いて周りを見渡した。


「矢? どこから……」


「クッソ‼ ざけんな‼ こんな矢……うわあああああああああ‼」


 タクミが背に刺さった矢を引き抜こうとしたその瞬間、木の葉に隠れていた地面から網のようなものが出てきてタクミを囲み、宙に浮かせた。


「な、なんなんだよこれ!」


 タクミは網に捕らわれた状態で木に吊り上げられていた。

 先ほどから予想外のことが起きすぎて混乱したようにタクミは網を揺らした。すると同じように驚いたままその様子を見上げたユキは、ああっと納得したような声をあげた。


「お前の仲間がはった罠だ。動かないほうがいいと思うぞ」


「はあ⁉ くっそあいつら余計なことしやがって!」


 タクミは網から抜け出そうと身体を身じろぎさせるが、網は針金でできており、内側に棘のようなものがあるせいで傷口をさらに傷つける。その痛みで身体がなかなか思う通りに動かない。それにタクミは苛立ち、声をあげた。

 

「クッソオォオオオオオ‼ 認めないからな‼ こんな負け方! 絶対お前を殺してやる‼」


 網の中でもがきながらもユキに殺意を向けるタクミだったが、ユキはそれをもろともせず肩をすくませた。


「残念だけど、明日にはこの国から出てるから」


「はああ⁉ お前この国のもんじゃないのかよ‼」


 あの古城で城の兵の指揮をしていたし実力者だったからてっきりこの国の上位の者だと勝手に思っていた。しかしこの国の人間じゃないならどこから来たというのだ。この国は貿易でも限られたところしかしていないはずだ。出入りだって制限している。戦争に駆り出せれた国だったとしても国を出入りするような真似は、国の王が許しているはずがない。

 グルグルと悩んでいるとその様子を見て、ユキはふっと笑みを浮かべた。


「紹介が遅れたな」


 ユキは笑みを浮かべながら腰に手をあてて、得意げな顔をタクミに向けた。


「私はユキ。コントラス王国の第二王子スバル・サラエル・ジ・コントラス殿下の唯一の護衛騎士であり、英雄キリエル・ヴァンモスの唯一の弟子だ」


 胸に手をあて丁寧に自己紹介をするユキに、一瞬タクミは理解できなかった。

 しかしある言葉だけが頭にこびりつき、茫然と呟く。


「……キリエルって……あの⁉」


 キリエル・ヴァンモス

 それは、かつてカグネ王国がコントラス王国を侵略しようとした頃、その剣の強さでカグネ王国の侵略から一日で追い返したという人物。その速さと鋭さから『コントラスの鷹』としてカグネ王国でも名高く伝わっている。

 そのキリエルの弟子。そう理解した途端、タクミは棘なんかを無視して、ユキに噛みつくように網に張り付いた。



「ふっざけんなァアアア‼ そんなの反則だろうがァアアアアアアアアアアア‼」



 その剣筋の速さから降ってきた矢をすべて斬り落とし、何百といたカグネ王国の兵を圧倒したのだ。そんなキリエルが鍛えた弟子ならば最早それは反則の域だ。さすがの戦闘好きのタクミも憤慨し、その悔しそうな声が山の中に響き渡った。



@@@@@@@@@



 悔し気に叫ぶタクミをユキは片目で満足そうに眺め、砂ぼこりを払うようにパンパンと自分の服を叩いた。

 少し危なかったが、大きな怪我も特にしていない。相手もなかなか手ごわかったが、上出来だろう。

 タクミには勝った。あとは屋敷の状況とヒュイスの安否だ。

 屋敷の様子はわからないが、ここに来る前屋敷内の敵はあらかた倒したし、タクミももう動けないみたいだし、外にいた敵もこのままいけば戦力差で制圧されるのも時間の問題だろう。

 すると遠くでうおおおおおっと勝鬨の声が聞こえ振り向く。そこはタクミのアジトがあった方向だ。きっと制圧に成功したのだろう。それにユキはふっと笑みをこぼした。


 すべて終わった――……。


 仲間の安否も心配だが、とりあえず安心だ。強張っていた身体からふっと力が抜ける感覚がした。あとは仲間を呼んで、まだ騒いでいるタクミを回収してもらおう。


 そして残るはヒュイスの無事の確認だ。

 ウェジットに先にヒュイスの下に行くように言ったが、果たして大丈夫だったのだろうか。

 するとユキは遠くから騒がしい声が聞こえて振り向いた。


「てか、なーにが『あなたを守るためには、そうするしかない』だよ! キメ顔でかっこつけて言っちゃってさ! 要はお前は弱いから余計なことするなって言ってるんでしょ⁉ 僕があの時どれだけ惨めだったと思ってんのさ! そこんとこわかってんの⁉ ねえ⁉ 聞いてる⁉」


「あの、そのぉ、はい……申し訳ございません……」


「もっとちゃんと反省して! あーあと思い出した! あの時もそうだ!」


「は、はあ。王子、あの、そのへんでご勘弁を……」


 するとヒュイスはなぜかウェジットに文句を垂れ流しながら、ウェジットに背負われ、こちらに向かって歩いてきていた。その姿を見てユキはほっと息を吐いて微笑んだ。


(よかった。無事だったんだ)


 あの時助けることができなかったヒュイスを、救い出すことができた。そう思い、心から安堵した。

 そして次いで、ユキは先ほど矢が飛んできた方向をじっと見つめた。


 するとその方向には、弓矢を背負いマントをひらりとなびかせ、その場から立ち去ろうとしている人物がいた。

 


 ――……全くあの人は。



 そう思い、その人物にユキは優し気な瞳を向けながら、呆れたように笑った。


 


戦闘終了!

てかめっちゃ質問に答えてくれるタクミって実は割と付き合いいいですよね

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かに! めっちゃ喋りますよね! あと、お久しぶりです! タブン… やっぱり、あの矢はスバル君ですか? とうといっす… 今回もたのしませていただき、ありがとうございました!
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